授業で出会った小さなドラゴンの模型は
自分が魔力のみで動き
飲み食い出来ない事を知らない
そんなドラゴンの模型のドラモのため
小さな魔女は魔力のおやつを作ろうとする
魔法学院では、生徒が実際に観察しながら学べるよう、ドラゴンの骨格や筋肉、習性まで完全に再現した手のひらサイズの教育用模型が配られる。模型とはいえ、歩き回り、羽ばたき、鳴き、眠り、本物のドラゴンと見分けがつかないほど精巧だ。ただし生き物ではなく、小さなゴーレムの一種であり、数日で内蔵された魔力が尽きると動かなくなる消耗品。授業が終われば、ほとんどの生徒は魔力切れのまま放置し、新しい模型と交換するだけだった。
しかし小さな魔女は、毎日少しずつ魔力を分け与えれば動き続けることを知り、何となく情が移ってしまう。寮の部屋へ持ち帰り、小さなドラゴンに名前を付け、世話を続けることにした。
小さな魔女の部屋には、ほかにも「捨てられるはずだった命」が集まっている。
枯れかけて処分寸前だった小さなマンドラゴラ。
試験管の中でしか生きられず、ポーションだけを栄養にするインスタントホムンクルス。
そして、使い魔のネズミ。
ネズミは優しく世話好きな性格で、親とはぐれた子や、魔力切れで廃棄される魔法生物を見つけるたび、「この子も助けたい」と小さな魔女の部屋へ連れてきてしまう。
そんなある日、小さなドラゴンが机の上のコップへよちよち歩いていき、夢中で水を飲み始める。
「えっ、待って!?」
慌てて抱き上げる小さな魔女。
教育用模型は、生き物そっくりの動きをするだけで、本当に生きているわけではない。消化器官もなく、水や食事を摂る設計ではないのだ。
口から入った水は体内に溜まり、魔力回路を狂わせて故障の原因になる。
一方で、使い魔のネズミは普通の動物だから餌を食べ、水も飲む。
マンドラゴラは植物だから水と日光が必要。
ホムンクルスはポーションさえあれば元気になる。
部屋の住人はそれぞれ必要なものがまったく違う。
ドラゴンだけは「生き物のように見えるのに、生き物ではない」。
食べさせても駄目。
水を飲ませても駄目。
必要なのは、小さな魔女が毎日少しずつ分け与える魔力だけ。
それでも小さな魔女に甘え、手のひらで眠り、嬉しいと翼を震わせる姿は、誰が見ても本物の小さなドラゴンそのものだった。
これは、学院では「教材」や「失敗作」としか扱われない小さな存在たちを、小さな魔女と世話好きなネズミが家族として迎え入れ、それぞれの命の在り方を学びながら、賑やかな共同生活を送る心温まるファンタジーである。
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ドラモが水を飲んでしまった事故は、大事には至らなかった。
小さな魔女がすぐに魔力回路を乾燥させ、内部を修復したおかげで機能に異常はない。
けれど、左目の上に小さな欠けが残った。
白い装甲のような鱗が少しだけ剥がれ、そこから魔力回路が細い筋となって覗いている。
「……ごめんね?、ドラモ。」
小さな魔女は申し訳なさそうに傷へ指を添える。
ドラモはというと、
「きゅる。」
どこか誇らしげだった。
鏡の前へ歩いていき、横顔を映しては翼をぱたぱた。
傷のある方の顔をわざわざ見せるように首を傾けている。
「……それ、気に入ったの?」
「きゅっ。」
得意げに胸を張る。
まるで歴戦の古竜に憧れる子どものようだった。
「いや、格好いいのかもしれないけど……傷はない方がいいんだよ?。」
そう言っても、ドラモは満足そうに鼻を鳴らすだけだった。
水だったから、この程度で済んだ。
もし砂糖や果汁、食べ物の油分でも入っていたら、内部の魔力回路はもっと深刻な故障を起こしていただろう。
小さな魔女は机に肘をつき、小さくため息をつく。
「……でもなあ。」
ドラモは悪くない。
ドラゴンとして作られているのだから、水を見れば飲もうとする。
肉を見れば食べようとする。
獲物を見れば追いかける。
全部、設計どおりの習性だ。
なのに。
「食べちゃダメ。」
「飲んじゃダメ。」
「噛んじゃダメ。」
そんなことばかり言われる。
「……ちょっと、かわいそうだよね?。」
それから小さな魔女は、誰にも内緒で研究を始めた。
目標は一つ。
ドラモが食べられる"食事"を作ること。
教材の模型は魔力だけを燃料として動く。
ならば、食べ物の形をした魔力ならどうだろう。
魔石を細かく砕き、
魔力回復ポーションを蒸留し、
不純物を沈殿させ、
結晶化した魔力だけを取り出そうと何度も試す。
「駄目……まだ薬液が残ってるわ。」
「これも魔力はあるけど、不純物が多すぎる。」
夜な夜な寮の部屋で、小さな実験が続いた。
もちろん学院に知られれば怒られる。
教材の改造は規則違反だからだ。
その間にもドラモは、何でも口に入れようとする。
本。
羽ペン。
机の角。
ネズミの尻尾。
「きゅっ。」
「それは食べ物じゃないよ。」
小さな魔女は考えた末、噛じるためのおもちゃを作った。
最初は木の枝。
でもドラモはすぐ飽きた。
次は表面を削って骨の質感に近づける。
さらに魔獣の角の粉を混ぜ、噛み心地を少し硬くする。
「……きゅ?」
ドラモは目を輝かせた。
カリ、カリ、カリ。
満足そうに噛んでいる。
「これならいいかな?。」
小さな魔女は少し安心した。
その後も改良は続き、
骨らしい形、
肉付きのよい脚の形、
噛むとほんのり魔力が染み出す素材――
ドラモが「狩った獲物を食べている気分」になれるよう、少しずつ工夫が重ねられていく。
まだ本物の食事ではない。
それでも小さな魔女は信じていた。
いつかドラモが、本当に安心して「食べる」という行為を楽しめる日が来ることを。
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骨付き肉のおもちゃに魔力を補充できるようになってから、ドラモは以前のように本や羽ペン、机の角を噛もうとはしなくなった。
魔力がじんわり染み出す骨を夢中で噛み、満足そうに喉を鳴らす。
「これで一安心かな。」
そう思ったのも束の間だった。
ある日、机を歩くクモを見つけたドラモは、目をまん丸にして低く身を伏せる。
尻尾が左右に揺れる。
「……きゅ。」
ぴょん。
飛びかかる。
もちろん捕まえられる前に小さな魔女が抱き上げた。
「だめだめ。」
その数日後には、部屋を走り回る使い魔のネズミ、テンに狙いを定めるようになる。
テンは十一匹兄弟の十番目だからテン。
「きゅるる……。」
ドラモは物陰からじっと見つめ、
タイミングを計って飛びかかる。
「また!?」
テンは慣れた様子でひょいっと避ける。
「ピィ。」
「きゅっ!?」
転がるドラモ。
テンは呆れたように鼻を鳴らすだけだった。
そんな様子を見ながら、小さな魔女は考える。
「もしかして……。」
ドラモが欲しかったのは、食べ物じゃない。
狩ること。
本物のドラゴンなら、獲物を追い、飛びつき、捕まえる。
食べることより、その一連の行動そのものが本能として組み込まれているのではないだろうか。
「食事は満たせても、本能は満たせないんだ。」
だから動くものを見ると追いかける。
テンに飛びかかる。
羽虫を目で追う。
揺れるカーテンにも反応する。
全部、本来あるべき狩猟本能。
小さな魔女は新しい課題をノートへ書き込んだ。
『目標その二 ドラモ用の安全な獲物を作ること』
だが、そこで手が止まる。
「……困ったな。」
彼女の専門は調合魔法と魔法生物学。
ポーションを作ること。
魔力結晶を精製すること。
植物や魔法生物の世話をすること。
それなら得意だ。
けれど、意思を持って逃げ回るような動くおもちゃを作るには、ゴーレム工学や魔導機械学の知識が必要になる。
専門外だった。
もちろん、一番簡単なのはドラモ自身を改造することなのかもしれない。
口から食べ物を取り込み、魔力へ変換できるようにする。
消化器官の代わりになる魔力変換器を作ればいい。
理屈だけなら考えられる。
でも──。
「……無理。」
小さな魔女は首を横に振った。
ドラモは学院では教材。
けれど、自分にとっては家族だ。
あまりにも精巧すぎる魔法ゴーレム。
筋肉の動き。
感情表現。
鳴き声。
眠る仕草。
喜ぶ顔。
怒る顔。
どれも本物の子竜と変わらない。
そんな存在の中身に、自分の知識だけで手を入れるなんて怖かった。
もし失敗したら。
ドラモがドラモではなくなってしまったら。
笑わなくなったら。
手のひらで眠らなくなったら。
自分を見ても嬉しそうに翼を震わせなくなったら。
「人格……ううん。」
小さな魔女は眠るドラモを見つめる。
「竜格が変わっちゃったら、どうしよう。」
だから彼女は決めた。
ドラモは変えない。
変えるのは、ドラモの周りの世界。
ドラモが安心して狩りをして、安心して噛んで、安心して満足できるような環境を、自分の手で少しずつ作っていこう、と。
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ドラモが本当に欲しかったのは、食べ物ではなく狩り。
そう考えた小さな魔女は、頭の中で「動く小さな獲物」を思い浮かべた。
「ほとんど魔力だけでできていて、自分で動くもの……。」
一つだけ、心当たりがある。
スライム。
世界中のどこにでもいる、ごく弱い魔物。
その正体は今も定説がない。
人工の魔物だという説。
特殊な植物が変化したものだという説。
古代生物の幼体だという説。
純粋な魔力生命体だという説。
学会でも意見が分かれ、今なお議論が続いている。
そして。
そのスライムによく似ていると言われる存在が、この部屋にもいた。
試験管の中でぷるりと揺れるインスタントホムンクルス。
通称、ホムくん。
どろりとした半透明の身体。
手足はあるようで曖昧。
顔もぼんやりしている。
まるで人型になったスライムだった。
「……やっぱり、似てる。」
ホムくんは人工生命。
スライムも人工生命ではないか。
そんな噂が流れるのも無理はない。
もちろん証拠はない。
人類が自然繁殖する生物を作り出したなんて話は、小さな魔女も聞いたことがなかった。
それでも。
「ホムくんを参考にすれば……。」
動く魔力生命を作れるかもしれない。
ドラモが追いかけられる、安全な獲物。
そこまで考えたところで、小さな魔女の手が止まった。
「……だめ。」
もし完成したとして。
その子は何のために生まれるのだろう。
ドラモに追いかけられ、
捕まって、
壊されるためだけの命。
そんな生き物を、自分は作りたいのだろうか。
答えは、すぐに出た。
「そんなことのために、生まれてきてほしくない。」
だから今、この部屋にはドラモがいる。
魔力が切れれば捨てられる教材だったから。
だからピャアちゃんがいる。
枯れかけて処分されそうだったから。
だからホムくんがいる。
使い捨てのインスタントホムンクルスだったから。
だからテンが、行き場を失った小さな命を連れてくるたび、追い返せなかった。
死ぬためだけの生き物なんて、作れない。
そのときだった。
「……ピャア。」
窓辺から、小さな鳴き声が聞こえる。
ピャアちゃんだった。
葉っぱを揺らしながら、気持ちよさそうに日光を浴びている。
植物。
その言葉を思い浮かべた瞬間、小さな魔女は顔を上げた。
「……植物なら。」
植物は実をつける。
その実は、自分で食べるためではない。
鳥や獣に食べてもらい、
種を遠くへ運んでもらうため。
ならば。
魔力でできた実をつける植物があってもいいのではないか。
実は魔力でできていて、
熟すとぴょこぴょこと逃げ回る。
捕まれば弾けて魔力へ戻る。
中には種だけが残り、
新しい株になる。
それは食べられるために生まれる命ではない。
種を運んでもらうために逃げ回る植物。
ドラモはその実を追いかける。
植物は種を運んでもらえる。
ドラモは狩りを楽しめる。
誰も傷つかない。
「これなら……。」
小さな魔女は思わず立ち上がった。
ちょうどその頃、研究も行き詰まっていた。
純度を高めた魔力は、結晶になる前に霧のように気化してしまう。
安定して留めておく方法が見つからない。
けれど植物なら、魔力を果実という「器」に閉じ込められるかもしれない。
そう考えた小さな魔女は、学院の図書館へ向かった。
魔力回復ポーションの原料。
インスタントホムンクルスの培養液。
魔力を蓄える植物。
魔法植物の果実。
古い薬草学の論文。
ページをめくるたび、新しい可能性が少しずつ見えてくる。
「もしかしたら……できるかもしれない。」
ドラモが安心して狩りを楽しめる、世界で初めての「魔力の実」。
その研究が、静かに始まろうとしていた。
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図書館の文献を読み漁っても、小さな魔女が探す植物は見つからなかった。
魔力だけでできた実をつける植物。
そんなものは、どの図鑑にも載っていない。
理由は単純だった。
「……必要ないから、か。」
植物の実は、動物に食べてもらい、種を運んでもらうためにある。
けれど実が純粋な魔力だけでできていたらどうだろう。
普通の鳥も獣も、一口噛んだ瞬間に種だけになる実など一度食べれば二度と口にしない。
生き残れない植物は、進化しない。
つまり存在しないのは当然だった。
「なら……。」
小さな魔女はノートに新しい仮説を書き込む。
植物のようなホムンクルスを作ればいい。
ホムくんのように、ほとんど魔力でできた存在。
植物として育ち、逃げ回る実をつける存在。
そこまで考えて、ペン先が止まった。
「……違う。」
自分で考え、自分で動き、自分の意思で逃げる。
それはもう命だった。
ドラモに追いかけられ、食べられるためだけに生まれる命など、作りたくない。
その結論だけは変わらない。
普通なら、ここで研究は振り出しへ戻る。
動くおもちゃ。
食べられる魔力。
やはり両方合わせては作れない。
そう考えるはずだった。
けれど、小さな魔女はノートを見つめながら、小さく首を傾げた。
「……あれ?」
動くことと、魔力でできていること。
この二つは、本当に同時である必要があるのだろうか。
もし別々なら。
逃げ回る植物は植物の仕組みで動き、
ドラモが噛みつく部分だけ、魔力が固体になっている。
口の中でその他の成分が気化し、跡形もなく消える。
つまり、動力を持ったゴーレムを作る必要はない。
その瞬間、小さな魔女は勢いよく立ち上がった。
「そうか!」
今まで純度ばかり求めていた。
魔石を砕き、
ポーションを蒸留し、
不純物を取り除き続けてきた。
けれど。
魔力回復ポーションには、魔力を液体のまま安定させる成分がある。
魔石には、魔力を石のように固める成分がある。
今まで「不純物」として捨ててきたものの中に、欲しかった答えが眠っていたのだ。
残る課題は、逃げ回る植物。
その答えも、意外なほど近くにあった。
窓辺で葉を揺らすピャアちゃん。
「ピャア。」
その鳴き声を聞いた瞬間、小さな魔女は薬草学の本を開いた。
そこには、マンドラゴラの奇妙な性質が記されていた。
鳴くことと動くことは、同じ原理。
体内で発生させた振動を根や葉に伝え、それで移動しているらしい。
つまり極端に言えば、マンドラゴラは自分の声で自分を動かしている植物なのだ。
「……ということは。」
ピャアちゃんから自然に落ちた葉や根の欠片を素材にすれば。
ピャアちゃんの鳴き声だけに反応して跳ね回る、おもちゃを作れるかもしれない。
それは意思を持たない。
命でもない。
鳴き声という合図で動くだけのおもちゃ。
ドラモは夢中で追いかけ、
捕まえて噛みつく。
すると外側で固まっていた魔力は咀嚼と共に段々と口の中でほどけ、身体へ吸収される。
外側は成分が抜けきると霧のように消え、残るのはピャアちゃんの声に反応するおもちゃだけ
ちょうどホムくんが吸収できなかったポーションの残液からは、魔力を安定させる成分が。
そして魔石からは、魔力を一時的に固める成分が取り出せることも分かった。
必要な材料は、すべて揃いつつある。
「あと一歩……。」
小さな魔女は試験管を見つめ、小さく微笑んだ。
ドラモが安全に狩りをして、安全に食べられる。
そんな世界で初めての「おやつ兼おもちゃ」は、もうすぐ形になろうとしていた。
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小さな魔女考え方を変えた。
ドラモが食べるのは、動くおもちゃ全体ではない。
おもちゃには芯となる「骨」があり、その周りを「魔力の肉」が包んでいるだけでいい。
つまり、
中心……何度でも使える動く仕組み(骨)
外側……食べられる固形魔力(肉)
という二重構造にする。
ドラモは獲物を捕まえ、外側だけを噛みちぎって食べる。
芯だけになったおもちゃは回収して、新しい魔力の肉を付け直せばまた遊べる。
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「つまり……食べ終わる頃には、お肉は魔力に戻っていればいいんだ。」
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次の発見は、実験机の上にあった。
小さな魔女はある日、不思議なことに気付いた。
ホムくんへ与えたポーションは、いつも少しだけ底に残る。
最初は飲み残しだと思っていた。
けれど、その残りは数時間もすると、跡形もなく消えてしまう。
「……消えた?」
蒸留しただけのポーションの不純物なら、何日経っても試験管の底に沈殿したままだ。
なのに、ホムくんを通した残りだけは違う。
まるで空気へ溶けるように、静かに姿を消していく。
何度調べても同じだった。
ホムくんは栄養となる魔力や薬効だけを吸収し、残った成分を全く別の性質へ変えてしまっている。
「もしかして……代謝してる?」
ホムくんの体内で一度作り替えられたその成分は、時間が経つと自然に気化する性質へ変化していた。
それは、普通の調合では決して得られないものだった。
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一方で、魔石から取り出した成分は正反対だった。
こちらは魔力をしっかりと固体へ留める性質を持つ。
石のように硬く、
魔力を逃がさず、
形を保ち続ける。
しかし、それだけではドラモの体内に残ってしまう。
そこで小さな魔女は二つの成分を見比べる。
「……そうか。」
魔石の成分は、魔力を固める
ホムくんが残した成分は、最後には気化して消える
もし二つを絶妙な割合で調合できれば——
噛んでいる間は肉の形を保ち、
咀嚼されるほど少しずつ崩れ、
飲み込む頃には固形を保つ力だけが空気へ抜けていく。
ドラモの体内には純粋な魔力しか残らない。
「……できる。」
小さな魔女は確信した。
今まで探していた材料は、新しい植物でも、新しい魔物でもなかった。
ホムくんが生きることで生まれる成分。
魔石が長い年月をかけて蓄えた成分。
その二つを組み合わせればいい。
あとは調合だけ。
ドラモが夢中で狩って、
夢中で噛んで、
最後には魔力だけをおいしく食べられる。
そんな世界初の「魔力の肉」が、もうすぐ完成する。
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調合に必要な材料は、あと一つ。
魔石から取り出せる、魔力を支える固める成分。
けれど、小さな魔女はその抽出に苦戦していた。
魔石は中々変化しない。
砕いても、削っても、思うような状態にはならない。
そんなとき、ふと植木鉢を見て思い出した。
「……そういえば。」
ピャアちゃんには、ときどき砕いた魔石を肥料代わりに与えていた。
マンドラゴラにも魔力は必要だ。
以前、ホムくんの研究で「生き物を通したものは性質が変わる」ことを知っていた小さな魔女は、そのまま埋めると回収できなくなるかもしれないと試しに砕いた魔石を小さな布袋へ入れ、そのまま植木鉢の土へ埋めていた。
そろそろ交換しよう。
そう思って掘り返してみる。
袋はちゃんと残っている。
けれど、中を開いて小さな魔女は目を丸くした。
「……え?」
そこにあったのは、魔石ではなかった。
さらさらとした、黒い土。
指でつまめば、ほろりと崩れる。
「どうして……。」
硬い鉱石だったはずなのに。
魔力を吸われ続けるうちに、魔石の成分だけが残り、それさえも柔らかな土のような質感へ変わっていた。
そういえば最近、不思議に思っていたことがある。
「ピャアちゃんにあげた魔石、全部なくなっちゃったな……。」
以前は、魔石は魔力を使い切ればそのまま消えるものだと思っていた。
だから気にも留めなかった。
けれど今は違う。
ホムくんの研究のおかげで知っている。
魔力がなくなっても、何かしらの"残り"はあるはずなのだ。
なのに、どうして今まで気づかなかったのだろう。
「……ずっと、見ていたのに。」
毎日世話をして。
毎日水をあげて。
毎日話しかけて。
毎日植木鉢をのぞいていたのに。
ピャアちゃんは、とっくに答えを教えてくれていた。
小さな魔女は静かに笑う。
「ありがとう、ピャアちゃん。」
そして。
ピャアちゃんが作った「魔石の土」。
ホムくんが残した「やがて空へ還るポーションの残り」。
その二つを試験管へ入れ、慎重に調合していく。
混ぜる。
温める。
魔力を流す。
淡く光った液体は、ゆっくりと透明なゼリーのような塊になった。
指で触れると、ほどよい弾力。
指でこねるにつれて、じわじわと魔力へ戻っていく。
「……できた。」
あまりにも、あっさりと。
何週間も悩み続けた答えが、目の前にあった。
新しい素材を探す必要もなかった。
難しい魔法陣もいらなかった。
必要だったのは、この部屋で一緒に暮らしている、小さな家族が毎日当たり前に見せてくれていた営みだった。
ドラモがいて。
テンがいて。
ホムくんがいて。
ピャアちゃんがいる。
その誰か一人でも欠けていたら、この答えには辿り着けなかった。
小さな魔女は試験管を胸に抱き、小さく微笑む。
「私、この子たちをかわいそうだから育てているんじゃない。」
誰かに捨てられそうだったから。
使い捨てにされる運命だったから。
もちろん、それも始まりではあった。
でも、今は違う。
「私は、この子たちを尊敬してる。」
生き物は、自分では思いもつかない答えを教えてくれる。
失敗だと思っていたものを、宝物に変えてしまう。
自然は、何気ない毎日の中で、何度も新しい発見をくれる。
だから。
「私も、もっと頑張らないと。」
この子たちに恥ずかしくない研究者になりたい。
そう思わせてくれるのも、また、この小さな家族だった。
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