両義足隻腕隻眼金髪目隠れTS転生ロリ 作:名無しのTSスキー
一人密室に閉じ込められて、かれこれ三十分以上が経過していた。
「ひーまー……」
三次試験、トリックタワー。
試験内容は生きて下まで降りてくること。制限時間は七十二時間。
数百メートルはあろうという塔のてっぺんには何もなく、側面にも窓一つ無かった。
周囲には怪鳥が生息しており、ロッククライミングに自信のある男が側面を降りようとして餌食になっていた。
正規ルートは頂上の各所に用意されている隠し扉から進む事。
私はその一つに不用意に触ってしまい、確かめる間もなく落下した。
『君は中々優秀なようだが、少し無防備過ぎるね。ハンターを目指すのなら、もう少し警戒心や注意力を養った方が良い』
スピーカーからこちらを見張っているであろう試験官の声が響く。暇なんか。
不服はない。概ねその通りであると認識していた。
私が入ったルートは多数決の道。
案内板にはこうあった。
“君達五人はここからゴールまでの道のりを多数決で乗り越えなければならない”
下には〇と×のボタンのついたタイマーが五つ用意されており、先に進む道は煉瓦の壁に隠れて固く閉じられている。
つまり、あと四人誰かが入ってこなければ、私は先へ進めないのだった。
先の試験官の注意が身に沁みる。
おそらく、よく注意を向けていれば、近くに他の4つの扉もあった事だろう。安易に見つけたルートへ飛び込むのではなく、こういった場面での適切な選択をすることもハンターとして必要な資質ということだ。
トリックタワーのルートがいくつ用意されているかは分からないけれど、扉が受験者の数より少ない保障はない。下手したら誰も来ずにここで七十二時間終わる可能性もある。
先に進む道は開かず、上に戻る事も出来ない。八方塞がりだった。
にっちもさっちもいかず、最終的に暇を持て余して、床に転がっていると、天井の扉が4つ同時に動く音がした。
うち一つは真上。
「うぐえっぶっ」
――あ、やばい。
……と気付いたときにはもう遅く、私は開いた扉から落ちてきた4人のうち1人の下敷きになった。
中身がでるう……。
「うわっ、エヴリン!?」
「いつの間にか消えてると思ったら、一人で抜け駆けしてやがったのか」
「おい、大丈夫かよ。つぶれたカエルみてーな声出てたぞ」
抜け駆けなんて人聞きの悪い。建て付けの緩くなった扉を踏み抜いて落ちただけだが?
降りてきたのは見知った顔だった。
ゴンと、レオリオ、キルア……という事は私の上に落ちたのはクラピカか……。
「……っ、すまない。無事か?」
「はい……こちらこそ、すみませんでした……」
クラピカの手を借りて立ち上がる。
もの凄く申し訳なさそうな顔をしているけれど、これは完全に扉の真下で横になっていた私が悪い。
「何で寝っ転がってんだよ……」
「暇だったもので」
かれこれ四十分近くやる事もなく一人で居たのだ。暇も持て余すというもの。
「とりあえず皆さん、そこにタイマーがあるので着けてください」
「多数決の部屋か、なるほどな……」
各々、手首にタイマーを装着する。
口で咥えて左手首に嵌めた。
同時に壁が動き、先へ進む扉が見えた。
ふと見ると四人のうちゴン以外の視線がこちらを向いていた。
「……何か?」
「いや……」「なんでもねえ」
【このドアを〇➡開ける ×➡開けない】
さっそく多数決の問が表示される。
開けるに決まっているので実質一択だ。こんないちいち選択肢を出されるのだろうか。煩わしいこと……。
各々ボタンを押す。
……どうやって押そう。
タイマーを装着しなければ開かない扉。しかし装着すると今度はボタンが押せなくなってしまった。ハンター試験にバリアフリーなんて気の利いたもんは無かった。
少々考えた末に、私はタイマーに口を寄せ、歯を使ってボタンを押した。
【〇4 ×1】
押し間違えた。
「おい、誰だ×押したヤツ……って……」
「……私です」
言い訳を……させてください……。
レオリオの目線が右腕へ向いた。中身のない袖がひらひらと揺れる。
「……なんかスマン」
「いえ……」
扉を出てすぐ、再び設問。
【どっちに行く?〇➡右 ×➡左】
右を押した。
どっちでも良かったので、特に理由はなかった。
結果は【〇3 ×2】
「おいおい、普通こういう時は左だろ?オレは左じゃねーとなんか落ち着かねーんだよ」
「だからこそだ。人は無意識に左を選択するケースが多いらしい。故に、左に難易度の高い課題が設けられている可能性が高い」
「オレもそれ聞いたことある」
――という訳で、クラピカとキルアは右を選択したそうだ。
「そっちの二人はどっち押したんだよ」
「オレは左」
「右です。けど、言われてみると私は逆に右選びがちなんですよね……左利きだからですかね」
まぁ、右手はないんですけどねーと言おうとして呑み込んだ。
こういうジョークは場を和ますどころか逆に気まずくなるモノなのだと7年間で学んだ。私は賢い。
「利き腕関係あんのか?」
「――左回りの法則には右利きが多い事が関係していると言われている。しかし社会は大多数の右利きに合わせて作られていることから、結果的に左利きでも左回りの行動が見られる事が多いと言われているが……」
「そうなんですか?」
「……まぁ、君は何というか、浮世離れしていそうだしな」
「そんな人を社会不適合者みたいに」
「そんな風に言ったつもりはないが……」
道なりに進むと広い空間に出た。
足下には底の見えない巨大な穴、その穴の中央には闘技場のような舞台が設置されている。
道は舞台の向こうへ続いており、手錠を掛けられた五人組が立ち塞がっている。
そのうちの一人、筋肉質な体躯をした、傷痕のあるスキンヘッドの男が一歩前に出た。
「我々は審査委員会に雇われた試験官である!」
男が審査内容の説明を始めた。
先へ進むためには、ここであの五人と戦わなければならない。
勝負は一対一、各自一度しか戦えない。三勝すれば通過できる。
戦い方は自由、引き分けは無し。片方が負けを認めた場合において残された片方を勝者とする。
「勝負を受けるか否か!採決されよ!」
【〇4 ×1】
「ちゃうんすよ……」
「おま、また……いや、仕方ねえか」
「次から代わりに押そうか?」
ゴンの提案にちょっと考えて頷いた。
「……満場一致とはならなかったか」
「私の押し間違いです。決闘には出れますよね?」
これで不戦敗扱いになったりしたら泣ける。
「……ああ、構わない。こちらの一番手はオレだ!」
ミスなのは分かってもらえたとはいえ、なんとなく気まずいので一歩前に出た。
「お、おい!?」
「私が行きます」
オーラや立ち振る舞いを見るに、相手は結構強い。
念能力者でこそ無いけれど、向こうの4人と比べてもよく鍛えられているのが見て取れる。
軍人か、それに近い訓練を受けてきた人間だろう。
レオリオの静止を振り切って、展開された橋を渡る。
「お前が一番手……?自殺志願者か何かか?」
「さてどうでしょうね」
「……まぁいい。勝負の方法は、死ぬか降参のデスマッチを提案するつもりだったが、女子供を痛めつける趣味は無いのでな。他のルールの提案があるのなら聞こう。納得いくまで話し合おうじゃないか」
「……お優しいこと。けどこれでも私けっこう強いので。先のルールで構いませんよ」
制限時間があるのにルール決めなど悠長なことはやっていられない。最後の一言で彼の立場も意図も何となく察した。考えの通りなら尚更だ。
杖先を相手に向け構えた。
「……よかろう。それでは」
相手も構えた。
「勝負!!」
男は床を踏み抜き、一気に距離を詰めようと走り出した。
私の喉を狙うように両腕が迫る。
「その腕では受けられまい!!さぁどう対処する!!」
左右からの同時攻撃をバックステップで躱しながら、横薙ぎに杖を振るう。
杖先は男の顎先を掠め、男が床に崩れ落ちた。
慣性がかかって前のめりに滑ったせいで、顔面をすりむいているようだ。いたそう。
部屋全体がしんと静まり返る。
顎を掠める様に殴る事で脳を揺らし、脳震盪を起こす。上手く当てられれば大の大人でも気絶する。
今やったのはそれだ。
――さて。
「勝負は死ぬか降参、でしたよね」
彼の仲間に訊ねる。すると女が応えた。
「え、ええ……だからまだ決着はついていない。トドメを刺す?」
「いえ。起こします」
いったん杖を置き、左腕を揺らす。
遠心力をのせ、腕全体をしならせ、うつ伏せに眠る男の背中目掛けて、手の平を思いきり叩きつけた。
文字通り鞭のように。
スパァンと、音が部屋全体に鳴り響く。男が目を覚ました。
「~~~~~~~~~~~~ッッ!!!」
声にならない絶叫があがる。顔中から玉のような汗を吹き出し、目に涙を浮かべでいた。
――これは鞭打と呼ばれる技だ。
ビンタの原型――というかそのもの。
大きな傷を与える事は出来ない。当然、これで殺すことなど出来ない。しかし、ただ痛みを与えるだけならばこれ以上はない。
どんな屈強な肉体を持とうと、人間は皮膚を鍛える事は出来ないのだから。
――とはいえ念能力者が相手だとオーラを籠めなければオーラで防がれてしまうのだけど、ただの人間ならば効果は抜群だった。
「がっ……は……何が……」
混乱する男の背中、先ほど叩きつけた位置と全く同じ位置にもう一度、同じように手の平を叩きつける。
「うわっ……」「ひいっ……」
相手と味方側、両方から息をのむ声が聞こえてくる。
「……すっげぇ痛いぜ。あれ」
キルアのつぶやきが聞こえた。
今度は声は上がらなかった。
肺の中身を全て絞り出し、無音の絶叫をあげて、のたうち回っていた。
「ふぅっ、ふっ……ふぅっ、ぐぅ……うおあっ!!」
しかし、腐っても戦闘訓練を受けたプロ。痛みに堪える訓練も受けているのだろう。
すぐに復帰し蹴りを放つ。這いつくばった体勢からの闇雲な蹴りだ。位置は低い。
私はその蹴りを床に突き立てた杖の側面で受けた。
ボキリという音が鳴る。
杖は無傷、男の脛がくの字に曲がった。
「な……あ……!」
「この杖、少々特別な金属で出来てまして」
鉄より頑丈で、少々の事ではビクともしない。その上、伸縮性で中は中空だというのに、これ一本で20キロ近い重さがある。
折ろうとして全力で蹴りつけたりなどすれば、逆に骨の方が折れる。ご覧の通りに。
先の顎への一撃も、見た目以上に重かったことだろう。
足を抑えてのたうち回る男の背後に回り、さっきと同じ位置に三度目の鞭打。とうとう彼は口から泡を噴いた。
服の布が破れ、血がにじむ。手の平には男の背の表皮と血液がこびりついていた。ばっちい。
「……まだやりますか?」
目を合わせ、問う。
男は息を整えると、首を横に振った。
♦
彼らは超長期刑囚である。全員100年以上の罰で服役している。
彼らは刑期短縮を条件に試験官として雇われた。一時間につき一年、受験生を足止めする事で恩赦を得られる。
故に、四肢のうち三肢のない子供を相手に五分と経たずに降参し自陣へと戻った男、ベンドットを迎え入れた仲間たちの目は酷く冷淡だった。
「……元傭兵が聞いてあきれるわね。拷問の訓練とか受けてたんでしょう?それがたかが女の子のビンタに怯えちゃって」
「くくっ……好き勝手言ってくれる……お前たちも、あの目を向けられてみろ」
ベンドットが恐れたのは痛みだけではない。
確かにあの激痛は尋常ではなかったが、痛みを耐える訓練は受けていた。
絶叫をあげながらも、彼は耐えられると思っていた。しかし……。
――まだやりますか?
目が合った瞬間、ベンドットは首を縦に振れば即座に殺されると確信した。
髪の下に隠れていた眼窩は暗く、深い空虚な孔は何も映していない。鳶色の左目も自分と目が合っていながら、やはり男を映してはいなかった。
目の前にいる男を見る目は、道端に落ちているゴミよりもどうでもいいモノを見る目だった。
あの時、ベンドットには初撃の脳震盪の影響がまだ残っていた。足も折れている。
子供相手と油断していたとはいえ、瞬く間に自身の意識を奪うほどの手練れ。現状のコンディションでは勝ち目はない。
「……あのまま続けていたら、ヤツはオレは殺す事に躊躇しなかっただろう」
――ああ、そう。そんなふうに言って再び意識を刈られ、あっさりと穴底へ捨てられる。ベンドットは少女の目からそんな未来を幻視した。
ベンドットに限らずだが、彼らが欲しいのは報酬の恩赦である。当然、死ぬ覚悟などない。
故に、彼は躊躇うことなく白旗を上げた。
「オレは死ぬのはごめんだ……」
「……どのみち、あの女の出番は終わりだ。あんなのがゴロゴロ居てたまるか。あの反応を見たところ、あとの連中は大したことないさ」
「……そうだといいがな。あんなのが居たんじゃ、見た目はあてにならん。念のためデスマッチはやめておけ。死にたくないのならな」
「どのみちボクは肉体派じゃないんでね。物騒なルールはごめんさ」
♦
「勝ちました」
イエーイ、ピースピース。
「いや、こえーよ……」
レオリオがドン引きして怯えていたので、怖くないよと笑顔でピースサインしてみせたら余計引いていた。選択を誤ったかもしれない。
「オメーは拷問官か何かか?」
「自他共に認める割とどこにでもいる一般人ですが」
私より凄い人などいくらでもいるので。師匠もそうだし、師匠の知り合いも凄い人ばかりだ。
プロハン基準でいったら私などどこにでもいる一般人でいいと思う。だからヒソカは私なんぞ無視して他行って、どうぞ。
「そのピースはアレか?お前の両目をつぶしてやろうっていう……」
「失礼な事言いますね?そんな事しませんよ。目潰しってめちゃくちゃ痛いんですよ?」
右目を指さしながら言ってみせる。
「……スマン、今のはオレが無神経だった」
「まぁ必要とあらば……」
チョキを保ったまま左手をぶらぶら揺らしてみる。ひぃっと喉を鳴らしながらレオリオは後ずさった。
「そういえば何でデスマッチで受けたの?気絶アリのルールに変えてもらってたらもっと早く決着してたんじゃない?」
「ああ、それは……」
「いや、それこそ彼の思うツボだったろう」
クラピカは彼らの会話に耳を傾けていたようで、彼の意図を察したらしい。
彼らはたぶん超長期刑囚だ。
囚人を雇うというのはハンターの間じゃよくある事だ。
私の師匠は特に必要が無いのでそういった事はしていなかったけれど、出来るというのは聞いていた。
恐らく、私たちの足止め時間に応じた刑期短縮を条件に、三次試験で試験官として雇われているのだろう。
「たぶん、私がルールを提案したら、何かと難癖をつけて延々時間稼ぎされていたでしょうね」
「な、なるほど……」
「もちろん女子供を甚振る趣味は無いというのも、完全に嘘では無かったと思いますけど、半分ぐらいは建前でしょうね」
実際、いざ始まったら真っ先に喉を狙ってきた。まいったと言えないようにして、生かさず殺さずのままいつまでも痛めつけるつもりだったのだろう。
しかし、私のようなぱっと見ひ弱な少女が相手となると、生かしたまま長く拷問するのは難しいと考えたのだろう。
自分で言うのもなんですけど、見るからにすぐ死にそうな外見してますからね。
……本気モードの師匠みたいにとは言わないけれど、もう少し立派に成長したい。
師匠の本気の姿は、まぁ男としては憧れるけれども……。
師匠は普段はロリロリしい見た目なので、同じ金髪なのも相まって並ぶと姉妹みたいになる。そういえばフリをした事もあったな。お姉ちゃんとお呼びと言われた。
「まぁ、何にせよよくやってくれた。まずは一勝だな」
その後はストレートに二勝して、あっさり決着した。
二戦目、ゴンと黒髪長髪の細身の男。
ロウソクが燃え尽きた方が負けというルールで、ロウの軸に細工を施し、ゴンの方だけ早く燃えるようにしていたようだ。しかしこれが裏目に出た。
火勢が強いという事は消えにくいという事であり、ロウソクを手放し一気に距離を詰めたゴンに自分のロウソクを吹き消され敗北した。
三戦目、クラピカと相対したのはマジタニと名乗る男。
19人を殺したなどとのたまい、背中に蜘蛛の刺青を入れ、幻影旅団の四天王を騙った。
しかしその割には立ち振る舞いは素人臭いし、筋肉は立派だが実戦的ではない見せ筋だ。
戦いのルールはデスマッチではなく、気絶もアリのルールだった。
慈悲をかけてやる、などと言っていたけれど、明らかに先の戦いを見て日和った様子で……。
勝負は一瞬でついた。背に入っていた蜘蛛の刺青を見て激昂したクラピカに顔面をぶん殴られ、あっさりと意識を手放した。
「これでオレ達の勝ちだな」
「……ああ、そうだな」
「ちぇーっ……殆ど時間稼げなかったわ。骨折り損のくたびれ損よ」
「アンタは何もしてないだろ……」
「ふん、さっさと行くといい」
スキンヘッドの男が道を譲る。
その先で囚人服を着たままの男がフードを脱いで立ち上がった。
「待ちな……」
拘束されたまま、私たちの行く手を阻むように立ち塞がる。
壁に手をかけ、握りしめると煉瓦の破片は粉となって散った。
「あ、あいつは……何てヤツを雇ってやがる……!」
「知ってるの?レオリオ」
彼の名は解体屋ジョネス。
ザバン市犯罪史上最悪の大量殺人犯。
老若男女わけへだてなく、素手で人体を50以上の部品に解体し、実に146人の被害者を出した男。
――だそうだ。
「お、おい、ここの試験は終わった筈だ。そこをどけよ」
「試験なんて関係ない。恩赦もオレには興味が無い。肉を掴みたい……それだけだ。残念だがキミたちはここで死ぬ……オレに殺されてな」
「だそうですけど、どうします?これ。ただじゃ動いてくれなさそうですけど」
「じゃあオレがやっていい?お前らがストレート勝ちしちゃったから、出番無くって物足りなかったんだよね」
そう軽く言って、キルアが前に出た。
まぁ、彼なら問題ないだろう。ジョネスも握力は大したものだと思うけれど、見た感じそれだけだ。
「じゃあお任せしますね」
「うん。ああ、そうだ。試験官の人さ、見てるんでしょ。アイツの手錠外していいよ」
「お、おいキルア!?良いのかよ!五対一でタコ殴りした方が……」
「大丈夫だよ。たぶん、キルアなら」
ゴンの言葉に頷いて、彼の邪魔にならないよう後ろへ下がる。
「他の囚人の方々はどうします?加勢します?」
杖を肩にかけて訊ねる。
もし介入するようならこちらも加勢する必要が出てくるので。
「……いや、やめておくさ。死にたくないのでな」
スキンヘッドの男が私を見ながら言う。
殺さないが??
「そんなことをしてあたし達に何の得があるってのよ。こんな真似して、下手したら連帯責任であたしたちまで罰受けるんだからね」
「全くだね。恩赦が目的でここにいるのに、逆に刑期が延びたらどうしてくれる。むしろ、必要なら君達に加勢したいぐらいだ。おーい審査委員会。聞いているだろう、ぼく等は無関係だ。刑期を延ばすのは勘弁してくれ」
――という訳で、三人は不介入。
クラピカにぶん殴られたマジタニはまだ舞台の真ん中で寝ている。
程なくして、キルアの意を汲んでかジョネスの手錠が外れた。
ハンターって割とこういうとこイカレてるよネ。倫理観があぽかりぷす。
「う、嘘だろ……ほんとに解放しやがった……」
「ふふ、ありがたい……さぁ、これから行われるのは一方的な惨……」
言葉が止まる。
ジョネスの胸にじわりと赤い染みが広がった。
音も無く横をすり抜け、ジョネスの後ろに立ったキルアの手には、脈打つ心臓が握られていた。
振り向いたジョネスの目が見開かれ、汗があふれ出す。
「か……返……」
最後まで言う前に、心臓は目の前で握り潰され、ジョネスは事切れた。
「あいつ、一体何者なんだ……」
「暗殺一家のエリート坊ちゃんらしいですよ」
「坊ちゃんは余計だろ」
「あ、エヴリンも聞いたんだ」
「教えた」
「教えてもらいました。そういえば、ボール取れました?」
「あ、ううん。ボールは無理だった。でも右手は使わせたよ」
「へえ……」
あのじい様に多少なりとも本気を出させたという訳だ。中々やりますねぇ。
レオリオとクラピカはなんのこっちゃという顔をしていた。
「……この先はちょっとした休憩スペースになってるから、せっかくだし休んでいったら?」
本当なら、彼女が時間をチップにした賭けをして、負け分に応じた時間をそこで過ごさせる予定だったらしい。
こちらがストレートに三勝した為に計画はパー。
せめてちょっとでいいから休んで自分たちの報酬を増やしてくれと言う。
「恩赦の約束って勝敗ついてからも有効なんです?」
「どうかしらね」
女はくつくつと笑った。フードの隙間から見える顔は意外とかわいい顔をしている。こんな人が実質死ぬまでの懲役刑かぁ、何して捕まったんだろこの人。
無意味だとしてもダメ元で交渉してみるつもりだろうか。
他の二人も同調していた。
進んだ先の小部屋には、お茶と軽食、簡易な寝具が用意されており、本棚には暇潰し用の漫画や娯楽小説等が並んでいて、本当にちょっとした休憩スペースのようになっていた。
試験の結果次第では、ペナルティで数時間、或いは数十時間をここで過ごすことになっていたのだろう。
トリックタワーに入ってまだ数時間、休憩しなければならないほど体力の消耗はしていないけれど。
部屋を見回すとシャワールームがある。飛行船内では休む時間はたっぷりあれど、入浴はできなかった為、濡れタオルで身体を拭くに留めたけれど、せっかくなら浴びていきたい気持ちはある。
「……折角なんで休んどきます?」
「ふむ……そうだな。この先、休めるとも限らない。腰を据えて休めるのなら、休んでおいた方がいいだろう」
「茶葉に毒とか入ってねえよな」
「ははは、まさか」
……ありそう。言われるといかにも罠に見えてきた。
「心配ならオレが毒見するぜ」
「オレも。変な味したら判るもん」
キルアとゴンがそれぞれ手を上げた。
「ああ、それなら安心だな」
「安心?」
「一次試験の前にな……」
と、レオリオ曰く、トンパという男が毒入りらしきジュースを配っていたらしい。
それをゴンが一口飲んで看破したという……。
一方キルアは幼少からの訓練で毒に耐性があり、もらったジュースは美味しく頂いたらしい。
トンパという名前には聞き覚えがあった。あれ以来、顔をあわせてはいないけれど。
私は、あの時もらったジュースに手を付けなかったことを心底安堵した。
――君は少し無防備過ぎる。
改めて、先の試験官に言われた言葉が身に沁みる。
……さて。
「じゃあ、私ちょっとシャワー浴びてきますね」
タオルは備え付けられていた。
着替えは無いけれど、今着ている服で良い。幸い下着は手持ちの替えがある。
「んんっ」「お、おう」「あぁ……」「うん、いってらっしゃい」
反応が何やらおかしい気がする。
怪訝に思いながらも、身体を洗いたい欲には勝てなかったので、せめてさっさと済ませようとシャワー室へ入った。
欲を言うならバスタブに湯を張りたいけれど……。
シャワーから出た後もしばらくの間、どこか余所余所しかった。
みんなも浴びたかったのかと思い、入ってきたらどうかと聞いても誰も行かない。
何なんですか……。
別に不殺主義とかではないけど手が汚れるのは嫌だなぁと思っている。