ライダー・アンド・ザ・キヴォトス   作:J・イトー

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ちょっとタグや小説情報をいじりました。

代表格の「ルシファーズハンマー」をはじめ、ゲームだと「ディアボリック・シュート」「サタンクラッシャー」なんて名前を必殺技につけられたりするデルタ、あまりにもセンスが悪魔的すぎる。


その目は何を求めて

 表向きは温文爾雅なお嬢様学校──トリニティ総合学園。

 

 だが、ある程度顔が広い者には水面下での生徒間の陰謀が耳に入る。

 

 トリニティの生徒会にあたる「ティーパーティー」を運営する「パテル」「フィリウス」「サンクトゥス」の3会派に代表される数多くの派閥を有する校風のこと、陰謀の矛先も種々様々だ。首謀者にしても、3会派の首長近辺の名前が挙がることも珍しくない。

 

 そして今、パテル分派の長──聖園ミカを脅かさんと動いていたある生徒はしかし、人の形をした恐怖と相対していた。

 

 見慣れない機械然としたその異形は、オレンジのセンサー越しにすら顔も窺えない。

 

 相方としていたもうひとりの生徒は、少し前に異形に掌底打ちのていで浴びせられた風圧に昏倒させられたばかりだった。学園内で知られる正義実現委員会などの実働部隊とは明らかに異なる力を持っていた。

 

「わ、私はただ、思い知らせたかっただけなの!」

 

 じりじりと歩み寄ってくる異形に後ずさりながら、その生徒は命乞いをした。

 

「パテルの長で……責任のある立場で、あんなワガママを言いまくってからに……誰かがわからせてやらないといけないって思っただけなのよ!」

 

 事実上の生徒会長という肩書きを持ちながら、周囲を振り回す奔放さ──そんな標的の振る舞いに我慢ならなかったと吐露するものの、異形は微塵も振る舞いを変えなかった。そればかりか右膝の装甲にある、身体中のストリームラインと同じ色の長方形のレンズが、必殺を告げるように発光しているように見えて。

 

 やめて、と発音する気力も捻り出せないうちに、生徒の背を硬質な何かが叩く。壁に突き当たったに違いなかった。

 もたれかかるようにして座り込んだ直後に彼女が見たのは、わずかに腰を落とすと駆け出す異形の姿だ。

 

「待っ──」

 

 走馬灯駆け巡る中、生徒の眼前に迫る異形の右膝が、間もなく叩きつけられる音が聞こえた。

 

 反射的に瞑った目を開くと、生徒から見て左側に異形の膝があった。思えば先ほどの音が硬質なものであったことから、背にした壁を蹴ったのだと考えられた。

 

 意図的に外されたのだろうその蹴りは、顔面に受ければ間違いなく致命の一撃だった。後ろの壁からポロポロとカケラがこぼれ落ちてくる音が聞こえたことから、構造物を粉砕し得る威力が窺い知れたからだ。

 

「も、もう……こんなこと、しま、せ……」

 

 壁に叩き込んだ膝を引き戻した異形は、怯えるばかりの生徒へ興味を失くしたとばかりに背を向け去っていく。

 

 

 

 この刻を境に、パテルが飼う「悪魔」の存在が、まことしやかに囁かれるようになった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「こちら救護騎士団! 救援に来た!」

 

 トリニティ総合学園の紋章を刻むヘリの操縦桿を握りながら、インカム越しに地上へ向け呼びかける操縦士──巽(たつみ)ショウ。彼女の目的はトリニティ自治区で火事に見舞われた施設への人員派遣。急を要する患者がいるのであれば搬送も厭わない、救護騎士団の航空戦力を担う存在だった。

 

『こちらヴァルキューレ消防局、66号線付近は依然として炎上中! 上空より情報提供を求む!』

 

「なんだって!? そっちのヘリは!?」

 

 消火活動にあたっているらしいヴァルキューレ警察学校の生徒からの通信に、ショウが語気を強める。

 

『……離陸の許可が下りていない。当局のみでは航空戦力を確保できない状況にある』

 

 躊躇いがちに告げられたことには、自治権の都合で雁字搦めにされがちなヴァルキューレの弱みがここでも露わとなる格好になってしまったのだという。続けて火災現場を見やってみれば、消防局所有とみられる消防車の周りは野次馬であろう人々で賑わっており、非常時の対応を行うべき警備局の人員も動けていないらしいと悟ったショウは頭を掻いた。これでは要請を蹴って着陸を試みようにも、ヘリからのダウンウォッシュで野次馬を吹き飛ばしてしまう。

 

「こっちの陸上班は何て言ってる!?」

 

「えっと、間もなく到着できると団長さんが……」

 

 助手席の同級生に問いかければ思った通りの返答がなされたので、ショウはヴァルキューレの要請に応える腹を決めた。

 

「団長には救(・)護(・)が必要なヤツが大勢いるって言っとけ……本機は着陸スペースが確保されるまで空中で待機する!」

 

「ええ!? あ、はいっ!」

 

 助手席に陸上班への通達を急かし、着陸を遅延する建前を作ったショウは保留にしていたヴァルキューレとの通信を再開する。

 トリニティでも随一の武闘派と名高い団長──蒼森ミネに任せておけば、ヴァルキューレの警備局の到着を待つまでもなく、地上を空けてくれるだろうという打算のもとだ。尤も、それとダウンウォッシュで吹き飛ばすことに、どれほどの差があるのかは考慮の余地があるだろうが。

 

「待たせた! 今からいい画を送ってやる!」

 

『……感謝する』

 

 やり取りを終えるや否や、ショウはヘリのカメラ機能に手を入れた。これでヴァルキューレのもとにも映像が届けられるはずだ。それから間もなく高度を落とし、火元へ機首を振り向ける。

 

「わわっ、ちょっと先輩!」

 

 後部座席に搭乗していた後輩たちからの苦言を意に介さず、ショウは現場への接近を続ける。

 

「大丈夫、俺ならクリアできるぜ!」

 

 終いにはそう心配の声を退けつつ、火元からの上昇気流に煽られる機体の制御に勤しんでいた。

 

「おい、聞こえるか! ビルの6階、要救助者2名!」

 

 窓越しに見えた市民の姿を捉えると、ショウはすぐさま地上の消防局に報告した。

 

 了解、と応えたヴァルキューレの面々は、送信した映像の確認を挟んだのか若干のタイムラグののち、消防車のはしごを先述の階層へと伸ばし始める。だが、その動向を最後まで見届けるだけの猶予は与えてもらえなかった。

 

「あの、ショウさん。団長から救(・)護(・)を開始したと連絡が……」

 

 助手席からの報告に、ショウはタイムリミットを感じ取った。しかし、一度撮影を引き受けた以上、着陸までに現場を一周する程度はこなしておきたい。

 

「し、ショウさん!?」

 

 勢いよく傾いた機体に、助手席から今日一番の緊迫感で悲鳴が届く。だが、何も彼女とは今日限りの関係だった訳ではない。申し訳ないが、付き合ってもらうことにした。

 

「俺のテクを信じてよっ! いっくぜー!」

 

 その言葉とともに、横凪ぎに遠心力が乗員をもれなく襲った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 火災がある程度終息し、観衆の救(・)護(・)も進んできた頃──部員に指示を伝えているところだった救護騎士団の長たる生徒・蒼森ミネの付近に、着陸するヘリの姿が目に入った。やり取りをしていた部員共々ミネが振り向いてみれば、緻密に操られていたヘリが、数トンの重量を感じさせないほどふんわりとスキッドを接地させているところだった。

 

 プロペラなどの稼働を停止させると、コックピットから降りてきた操縦士に遅れて、這い出るようにヘリを降りるほかの乗員たち。その動きのギャップを見てため息をつくと、意気揚々とこちらへ手を振る操縦士・巽ショウが声をかけてきた。

 

「よぉ団長! 悪いな空けてもらって!」

 

 そう言って駆け寄る彼女に、どうも、と一応返しておくと、ミネは咳払いをしてみせた。

 

「無茶な運転は控えるように、とあれほど……」

 

「しょうがないだろ? すぐに降りられなくてヒマだったんだしさ」

 

 あまり悪びれていない様子のショウに再度ため息をついていると、ミネの視界の隅から、ヴァルキューレの制服を着た生徒が向かってきていた。

 

「……失礼、救護騎士団長殿。そちらのヘリの操縦士へお目通り願いたく」

 

 やがて目の前という距離まで駆け寄ってくると、ミネにそう切り出したヴァルキューレの生徒。少しばかり言いたいことを飲み込んだミネは、ショウに前へ出るよう促した。こういった状況で彼女がヴァルキューレの面々とやり取りをすることは、ミネにとってはよくあることだった。

 

「航空支援、誠に感謝致します。そして、手間を取らせて申し訳ございませんでした」

 

「ああ、そんなの気にすんなって! 別にそっちが悪いわけじゃないしな」

 

 頭を下げるヴァルキューレの生徒に、ショウは気安い笑みを浮かべながら快活に応えた。

 

 しばらくやり取りをすると消火の指揮へ戻っていった相手へ向け手を振って送り出しているショウへ向け、ミネのそばにいた救護騎士団の部員がこう問いかけていた。

 

「し、ショウ先輩。また、ヴァルキューレへの支(・)援(・)を?」

 

 ひとつ間違えれば越権行為の幇助として自治権にまつわる問題に発展しかねない行動でもあるショウの振る舞いに、彼女はやや顔を青くしていたのだ。

 

「ん? あぁ、そりゃちょっとは上からやり取りもしてたけどさ」

 

「本当にそれだけですか? こないだ、一緒に乗ってた子が「カメラ映像を送ってるところを見た」って言ってましたし、今回も……」

 

 シラを切っているようにも聞こえるショウの言葉に、口論ばりの熱量を帯びかけるふたりのやり取り。ミネはそれを咳払いをして制すと、双方にこう語りかけた。

 

「我々は救護騎士団です。規則を重んじることは大切ですが、「救護」の手を届かせるために妥協してはならないこともまたあるはずです」

 

 そう口にした瞬間、言い争っていたふたりはばつが悪そうな表情を見せた。

 

「……はい。すみません団長」

 

「悪かった。俺ももう少し気をつけるよ」

 

 そうして矛を収め合うと、最初に問いかけた方の生徒は救護活動に戻っていった。

 残ったショウは少し気まずそうにしたあと、おずおずとこう切り出してきた。

 

「ありがとな、団長」

 

 先ほどまでとは打って変わった態度に、ミネは若干苦笑を浮かべる。気にすることではありません、と返しておいた。

 

「目の前で人が死んでいくなんて……俺はもう御免なんだ。ただ、それだけなんだ……」

 

 それは人命について踏み入った話題になったとき、大抵ショウが口にする言葉だった。こう言うときの彼女は、表情へ普段の調子に似合わぬ影が射すのだが、その理由をミネは知らない。

 すると、すぐに表情を真剣なものに戻したショウが、自分たちに向かって走る部員に視線をやっていた。

 

「ショウさん! あっちの車両の怪我人さん、ヘリで搬送を!」

 

「わかった!」

 

 すぐさま頷くと、ショウは呼びかけた部員のもとに駆け出す。また学校で、と断って離れていく彼女の背を、ミネは穏やかな表情で見つめていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 現場から戻り学校に着陸した少しあと、ヘリの影にもたれかかるショウの懐から待ち受けのメロディーが流れ出した。間もなく取り出したのはデルタフォンだ。

 

 デルタへの変身機能のほかに携帯電話としての機能も持ち合わせるそのツールは、単体で扱えば他者との通話が可能だ。ただし、発信には電話番号の音声入力が必要なことから、ショウは普段使い用には別の端末を所持しており、デルタフォンは専ら特定の人物からの受信用と割り切って使用している。

 

 デルタフォンのトリガー近くにあるボタンを押して通話を承諾したショウの耳に、ある女性からの声が届いた。

 

『首尾は如何ですか? リナ……いえ、巽ショウ?』

 

 マダムの声だった。呼び直された名に眉を顰めながらショウ、もとい三原リナは応答を示した。

 

「……ああ。言われた通り、聖園ミカにまとわりつくヤツらは追い払ってる」

 

 自身がトリニティに潜り込む理由である『不安分子の排除』について言及しながら、ここしばらくの動向についてリナは思い返す。

 

 連邦生徒会長の失踪から間もなく、リナの元母校であるアリウス分校に接触してきたというティーパーティーの一角・聖園ミカの敵対者を陰ながら誅すること──これがしばらく前のリナに下った命令だった。そのため、最近の「悪魔」騒ぎは、情報を得たリナがデルタとして標的に示威行為をして回っていたものというのが真相だ。

 

『ならば結構です。彼女の手引きのおかげで、スクワッドの一員を送り込むことにも成功したことですし……利用価値はありますから』

 

 マダムが口にしたのは、ミカの護衛をリナが命じられた理由でもあった。アリウスきっての実働部隊である「アリウススクワッド」のメンバーを新たにトリニティへ送り込むことで、協力者のミカを除くティーパーティーのトップを壊滅させることが目下の目標であるそうだ。そしてそれは、標的の片割れである百合園セイアの抹殺に成功する程度には順調に進んでいるのだとか。

 

『送り込んだ人間の顔は知っているでしょう? 状況次第では撹乱や、彼女の援護に回っても問題ありません。あなたの情報によれば、すでに「裏切り者」探しは始まっているらしいですから』

 

「ああ。一応、ある程度の種は蒔いてる」

 

 行動方針の委任とも取れる言葉を受け取りながら、リナはそう返す。向こうが「裏切り者」の人数をどの程度の規模感で捉えているかは不明だが、いざとなれば自身が生贄になれるよう疑いの要素を散りばめてきていた。ヴァルキューレへ無断のヘリ映像共有を行う、といった些細なものの他にも、「悪魔」が目撃された近くに素顔で姿を現すといったヒントなどもしばしば見せてやることにしている。それも怪しまれすぎないギリギリの頻度を保ってだ。人は少しずつ小出しにした情報を辿らせるよう根回しをしてやれば、そう誘導されていることにはなかなか気づかないものであった。

 

『……成程。では、この後も励むように。宜しいですね?』

 

「……了解。マダム」

 

 そうリナが応えて間もなく通話は打ち切られた。デルタフォンを握る右腕を力なく垂らすと、半ば呆然とこう呟いた。

 

「やっぱり、やらなくちゃならないのか」

 

 ついに動き出したマダムの計画に、絶望感を滲ませるほかなかった。もう引き返せないところまで踏み入ったことはわかっていたが、心のどこかで希望を抱いてしまっていたのも事実だ。

 

「そうなれば、今の部活ともおさらばになるかな……」

 

 救護騎士団で共通の帽子を外すと、左手に預けたそれをしげしげと眺める。

 ここを選んだ理由として、実直な気質ゆえに「救護」への正義感を押し出せば比較的簡単に取り入ることができるだろうミネがトップを務めていたからという打算があったことは否定しない。だが、それを抜きにしても、救護騎士団とはリナにとって居心地のよい部活だったのだ。

 

「……こんなものさえなければな」

 

 リナは右腕を持ち上げるとデルタフォンを見つめる。

 これが粉々にしてしまえば、デルタとして戦うこともなくなるのだろうか。

 

 デルタフォンを地面に叩きつけようとして、右腕を振り上げそのまま──ぶら下げる。そこらの携帯電話とは異なるそれは、叩きつけた程度で壊れるものではなかった。リナが他に持つスマートフォンと比べれば携帯電話としての機能は最低限もいいところだが、耐久度は折り紙つきなところが却って、戦うためのツールであることを嫌でも意識させられる。

 

「ショウさーん! もう一回出動お願いしまーす!」

 

 ふと、やや遠くから救護騎士団の部員が呼びかける声が聞こえた。

 リナは「救護騎士団の巽ショウ」の仮面を被る。

 

「おうわかった! 乗れー!」

 

 デルタフォンを上着のポケットにしまい込み、ヘリの運転席に乗り込む。

 

 

 

 

 

 騒乱の引き金は、すでに引かれようとしていた。




ヴァルキューレの自治権やらのくだりは妄想です。そもそも原作で救護騎士団がヘリを保有しているかについても、筆者が確認する限り不明ですし……。

「巽ショウ」という偽名は三原修二(ファイズ)と役者繋がりのゴーグリーン(ゴーゴーファイブ)の変身者からまんまいただきました。下の名前だけ弄るか考えたけどゲヘナに「ショウコ」が現れたのでそのままで。ヘリ担当や所属や口調やらの設定も拝借しています。あれ、これってゴーゴーファイブの二次創作だったっけ……?
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