薬師寺涼子の怪奇事件簿 ✕ シャム猫 First Mission【ドラよけお涼とシャム猫の怪奇事件簿】 作:クリリ☆
【全員集合!】
警視庁本庁舎の屋上ヘリポート。猛烈なローターの風圧が吹き荒れる中、ヘリの中から泉田の姿を確認する。
「警視! お待ちしておりました!」
「待たせたわね泉田くん! それじゃさっさと乗りなさい!」
涼子の容赦ない声に背中を押され、泉田は手負いの体に鞭打ってヘリに滑り込む。ハッチが閉ざされた瞬間、石動少佐の手によって操縦桿が倒され、強襲ヘリは東京湾上空へ向けて全速力で加速を開始した。
進路の前方、東京湾の海原では、すでに惨劇の幕が上がっていた。
上空を交錯する自衛隊の最新鋭戦闘機群。次々と放たれる対艦ミサイルや誘導爆弾が、海上の目標へ向けて炸裂する。しかし――爆煙の合間から現れたのは、傷一つ付いていない異形の影だった。
『……駄目です! 攻撃が一切通りません!』
無線から自衛隊機の悲痛な叫びが漏れ聞こえる。ミサイルが着弾する直前、空気そのものが歪むような光の波紋が広がり、あらゆる破壊威力を綺麗に中和・消滅させていた。
出発直前、金子博士が青ざめた顔で語っていた言葉が全員の脳裏をよぎる。
『アルテミスの絶対防御シールドは、受けた攻撃の破壊エネルギーを瞬時に情報解析し、それを完全に中和するエネルギーを発散させるのです。どれほど火力を叩き込もうと、すべて無意味に終わります。……はっきり言って、核兵器すら無効化してしまうでしょう』
物理的な破壊が不可能な以上、自衛隊にできるのは攻撃ではなく「時間稼ぎ」のみ。自衛隊機は距離を保ちながら牽制射撃を繰り返し、わずかでもその進軍速度を緩めようと死力を尽くしていた。
やがて、雲を抜けたヘリのフロントガラス越しに、その「絶望」の姿が露わになる。
海面を押し分け、静かな威圧感を放ちながら進む巨大な影。
それは単なる兵器という枠組みを超えた、直径100メートルをも超える銀色の球体要塞――『アルテミス』だった。
太陽の光を鈍く反射する滑らかな金属面と、底知れぬ死を秘めた不気味な造形。攻撃を一切寄せ付けない絶対の孤独を纏った巨大な球体は、東京という巨大な獲物を呑み込もうと、着実に、しかし確実にその圧倒的威容を接近させていた。
【その腕前はニュータイプの如し】
黒く巨大な影へと向け、石動少佐の強襲ヘリが限界を超えた速度で肉薄していく。
その瞬間、アルテミスの外装から目も眩むような閃光が走った。超高熱のビーム兵器が、大気を引き裂いて牙を剥く。しかし、発射直前の僅かなエネルギー充填を見抜いた石動は、間一髪で操縦桿を限界まで倒し込んだ。ヘリは急旋回し、間一髪で閃光を回避する。
そのあまりの際どさに、思わず泉田が「うわぁっ…」と声を漏らす。
「案ずるな、そうそう当たるものではない!」
その後も、まるで数瞬先の未来を見通しているかのような神業的な反応速度で、迫り来る幾重もの閃光を次々と回避していく。猛烈な遠心力が機内を襲い、警報音がけたたましく鳴り響いた。
「当たらなければどうということはない!」
どこかの赤い彗星を思わせる軽口を叩きながら、縦横無尽に空中を舞い、アルテミスに接近していく石動。だが、要塞のAIが繰り出した攻撃はそれほど甘くはなかった。
放たれたビーム攻撃――それは、最初から回避行動を計算に入れた巧妙な「囮」だったのだ。機体が退避したまさにその空間へ、時間差で置かれていた複数の対空ミサイルが牙を剥く。
「しまった……!」
石動の顔から余裕が消える。回避不可能な死角からの直撃――そう思われた瞬間、ヘリのハッチが勢いよく開いた。
身を乗り出したジュンが、間髪入れずにバズーカの照準を合わせ、引き金を引く。
放たれた砲弾が肉眼で見えるほどの至近距離でミサイルを捉え、大空に眩い大爆発が巻き起こった。直撃こそ免れたものの、猛烈な爆風と衝撃波が機体を叩きつけ、メインローターから凄まじい黒煙が吹き上がる。
「いかんっ、コントロールが利かない……!」
制御を失い、錐揉み状態で落下していくヘリ。しかし、石動の執念の操縦によって、機体はそのまま磁力と防壁の隙間を縫い、奇跡的にアルテミスの外郭装甲の上へと滑り込む形で滑走し、不時着を果たした。
激しい衝撃とともに停止した機内から、ジュンとナオミが素早く立ち上がる。
「ありがとう少佐、ここまで運んでくれれば十分よ!」
煙の充満する機体から一瞬の躊躇もなく躍り出ると、二人はそのまま要塞の内部へと伸びる搬入口へと侵入を開始した。アルテミス内部へと繋がるメインハッチ。その脇に据え付けられた高精度スキャナへと、涼子は迷いなく顔を近づけ、右手の手のひらを押し当てた。
「さあ、私のデータを取り込みなさい!」
顔認証、指紋、そして虹彩。三重の厳重な生体データが、スキャナから放たれる青いレーザーによって瞬時に読み込まれていく。
モナミという『KEY』が内部で稼働している状態での、本物の『MASTER(涼子)』によるダイレクトアクセス。金子博士の理論が正しければ、これでアルテミスの制御システムはパニックを起こし、停止するはずだった。
静寂が訪れる。全員が息を飲み、数秒の沈黙を見守った。
――バチンッ!
鋭い放電音とともに、球体要塞の表面を覆っていた怪しい発光ラインと、無数の対空砲火を灯していた照明が一斉に掻き消えた。重低音を響かせていた推進機関の稼働音が嘘のように途絶え、巨大な鉄の塊が海上で静止する。
「やった、やりましたよ警視! アルテミスが完全に沈黙しています!」
泉田が歓声をあげる。涼子の存在が引き起こした『二重認証バグ』は、完全に見事な成果をあげたのだ。
「油断は禁物よ。中に海藤俊介がいるはずだわ。急いで乗り込んで奴を確保するわよ!」
ナオミの叱咤に全員が頷く。メインハッチの強力な電子ロックも無効化され、重厚な装甲扉が何の抵抗もなく滑らかに開き、内部へと続く通路が露わになった。
だが、勝利の予感に包まれたのも束の間――。
ブォン……ッ!
不気味な重低音とともに、要塞内部の赤い非常照明が一斉に点灯した。一度途絶えた動力が、禍々しい音を立てて再起動を果たす。
「なっ……何が起きたの!?」
「手動切り替え(マニュアルモード)よ! 制御AIを切り離して、手動操作に移行したのね……!」
ナオミの苦々しい叫びの通り、要塞は再び微かな振動とともに、お台場沿岸――東京に向けてゆっくりと侵軍を再開した。海藤もさるもの、AIのフリーズを見越して即座にシステムを強引に上書きしたのだ。
だが、すでに扉は開かれている。
「フッ、手動に切り替えようと関係ないわ。内部に入ってさえしまえば、もうこっちのものよ」
涼子は不敵な笑みを口元に浮かべ、愛用の拳銃を握り直した。
「私は出入口を確保しておく。中の方は頼んだぞ」
石動少佐は、機関銃を構えて出入口で待機する。
モナミの奪還、そしてこの最悪の陰謀に終止符を打つため――涼子とシャム猫、そして泉田たちは、怪しく赤く染まる要塞の内部へと足を踏み入れた。目指すはアルテミスの中心、コントロールルーム。
宿敵・海藤俊介との最終決着の時が、刻一刻と迫っていた――。
続く☆
【製作こぼれ話】
今回は「中の人ネタ」が含まれています。
石動少佐の声優は「池田秀一」さんで、ガンダムシリーズの「シャア・アズナブル」の声で有名です。そんな訳で、今回はシャアな台詞を加えてみました。
ちなみに私は池田秀一さん好きという事もあり、名探偵コナンの中で一番好きなキャラが「赤井秀一」です。赤井さんの声はマジでカッコいいですよね。映画館など、ほとんど行かない私ですが、劇場版コナンの「緋色の弾丸」は赤井さん目当てで映画館まで行ったものです。
安室徹さんの声(古谷徹さん)は変わってしまったんですが、赤井さんの声はいつまでも池田さんに続けて欲しいものです。