日本の平和を守る、対テロリスト特化ユニット『シャム猫』と、警視庁の警視『薬師寺涼子』。彼女は『ドラキュラもよけて通る』と言われる、通称『ドラよけお涼』。
 シャム猫とドラよけお涼。彼女たちの前に、新たな事件が幕を開ける!


 【あらすじ】

 治安維持に特化した日本の秘密組織『DA』。その最前線で対テロリストに特化した二人組『ジュン』と『ナオミ』、コードネーム『シャム猫』。
 
 ある夜、都内の倉庫に潜むテロリスト集団をあっという間に無力化した二人。だが、そのテロリストは、かつて壊滅したはずのアジア最大のテロ組織『アジアの虎』の存在を仄めかす。

 

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 本作品は『リクエスト作品』です。
 また、『シャム猫 First Mission』と『薬師寺涼子の怪奇事件簿』のクロスオーバー作品となっております。

 原作ファンはもちろん、原作を知らない方でも楽しめるよう、作中である程度のキャラや背景の説明も入っております。



シャム猫 First Mission ✕ 薬師寺涼子の怪奇事件簿【リクエスト作品】

 

  【コードネーム『シャム猫』】

 

 世界の安全度ランキングにおいて、日本の順位はおよそ10位付近を推移している。島国であり、銃規制が厳重なこの国が世界トップの座に君臨しきれない理由は、大きく分けて二つある。

 

 一つは、緊迫するアジア諸国の情勢だ。覇権を狙う中国やロシアといった大国の威圧に加え、根強い反日感情を抱える北朝鮮や韓国など、日本を取り巻く安全保障環境は常に一触即発の緊張感に包まれている。

 そして二つ目の理由は、国際水準から見れば圧倒的に割り安な防衛費にある。日本の防衛予算は長年にわたりGDP(国内総生産)比でおよそ1%前後という、先進国の中では極めて低い水準に抑え込まれてきた。低予算の防衛費が安全度ランキングを押し下げる要因となっている。

 

 だが、見方を変えればどうだろうか。

 これほど格安な防衛費でありながら、第二次世界大戦後の80年以上もの間、他国からの直接的な大規模侵略を受けず(正確には北方領土や竹島といった、一部地域の他国の実効支配という現実はあるが)、『国内の治安維持』という一点において、日本ほど夜道を一人で歩ける安全な国は世界中に他に存在しない。

 これほどの低コスパで達成された世界最高峰の平和。

 

 だが、世界から見れば奇跡のような平穏が、実は『彼女たち』の犠牲の上に成り立っている事実を、知る国民は極めて少ない。国内の治安維持と暗部処理に特化した秘密組織『DA』(Direct Attack)。そのDAの実行部隊員『リコリス』。リコリスたちは、時に女子高生、時に飲食店のウエイトレスなど、日常風景に溶け込みながら、治安を乱すならず者たちを、誰にも気付かれずに、密かに闇に葬っている。暗闇の中で引き金を引き続ける彼女たちの暗躍によって、この国の仮初めの平和は今日も守られている。

 

 その最前線で、凶悪なテロリストを狩るためだけに存在する対テロ特化ユニット――ジュンとナオミ。コードネームは『シャム猫』。

 直感的かつ野性的、並外れた身体能力と銃撃戦で正面から突破する派手な戦闘スタイルのジュン。

 常に冷静沈着、精密な遠距離狙撃と高度なIT機器の操作で戦況を支配するナオミ。

 

 動と静――対極とも言える才能を備えた彼女たち二人にしか遂行し得ない、あまりに高難度な極秘ミッションの数々によって、この国の平穏は今日まで危ういところで繋ぎ止められてきたのだ。そんなジュンとナオミに、今夜も新たな出撃命令が下る。

 

 

 

 【シャム猫出動!】

 

 ターゲットは、都内の港付近に佇むとある巨大な倉庫。そこにはおよそ20人程のテロリストが潜伏しているとの情報が入っていた。重く湿った夜風が吹き抜ける。二人はすでに倉庫の屋上へと忍び込み、天窓の隙間から内部の様子を静かに窺っていた。倉庫内では、無数の足音と不穏な火器の金属音が聞こえている。だが、潜入を完了したジュンは、手にした銃を軽く弄りながら面倒くさそうにため息をついた。

 

「それにしても、本番1時間前よ? 今夜のラジオ放送、流石にお休みね」

 

 スコープ越しに倉庫内の敵の配置を淡々と数えていたナオミが、呆れたように軽く笑う。

 

「何言ってるのよ。30分で片付けて戻れば十分間に合うでしょ」

 

「ちょっと、冗談じゃないわ。それじゃ台本の読み合わせだってできないじゃない」

 

「どうせあなた、いつもほとんどアドリブじゃないの」

 

「インスピレーションを優先してるだけよ!」

 

 これから重武装した数十人規模の凶悪なテロリストたちと死線を交えるというのに、二人のやり取りには一切の緊張感がない。深夜ラジオパーソナリティーと、命懸けの裏稼業。

 世間一般から見ればあまりに歪で異常な境界線も、彼女たち二人にとっては、息をするのと同じくらいありふれた『日常』に過ぎなかった。

 

「ミッション!」

 

「ゲッツ、スタート!」

 

 いつものミッション開始のかけ声と共に、ナオミが手元の小型デバイスのボタンを押す。次の瞬間、パチンという鋭い電子音とともに倉庫内の照明が一斉に落ち、広い空間が完全な漆黒へと塗り替えられた。

 

「な、何事だ!? 停電か!?」

 

「敵襲だ! 各自警戒態勢を、ぐぇっ……!?」

 

 闇に紛れて天井から滑り降りた二人は、足音を一切立てず、まるで猫のように音もなくテロリストたちの足元へと肉薄していた。視界を奪われ動揺する男たちに対し、目にも留まらぬ体術の連撃が叩き込まれていく。本来、暗部に生きる彼女たちに与えられているのは、凶悪テロリストに対する無制限の発砲許可――すなわち『マーダーライセンス(射殺許可)』だ。だが、無駄な命を奪うことを良しとしない二人は、極力銃火器を使わず、打撃と関節技のみで的確に敵を無力化していく。

 

 闇の中で交錯する、鋭い打撃音と骨の折れる悲鳴。突入からわずか10分足らず。20数人いた重装備のテロリストたちは、一発の銃声すら鳴らせぬまま、全員が無惨に床へと転がされていた。

 ジュンが内側から正面入口の重い観音扉を滑らかに開け放つ。すると外で待機していた別動隊――政府直属の公認対テロ特殊部隊『マイティードッグ』の隊員たちが一斉に雪崩れ込んできた。

 

 彼らはメディアにも露出し、世間から「日本の平和を守るヒーロー」として認知されている。今回の一件も、表向きはすべて彼らの輝かしい手柄としてニュースを飾ることになるのだろう。群がる隊員たちを横目に、二人は軽やかに言葉を交わす。

 

「ミッション!」

 

「コンプリート!」

 

 暗がりの中で、パチンと小さなハイタッチの音が心地よく響いた。

 

 

 

  【アジアの虎と謎の少女】

 

 傍らではマイティードッグの隊員たちが手際よく、無力化されたテロリストたちを拘束していく。その整然とした作業風景を、マイティードッグの隊長・石動(いするぎ)少佐が腕を組みながら見つめていた。

 

「それにしても、相変わらず見事な手腕だな」「まあ、それほどでも……あるけどね!」

 

 ジュンが茶目っ気たっぷりに胸を張り、おどけて笑う。

 と、その足元で半死半生になって転がっていたテロリストの一人が、血の混じった唾を吐き捨て、息も絶え絶えに掠れた声を絞り出した。

 

「お、お前たち……これで勝ったと思うなよ……。俺たちのバックには……『アジアの虎』がいるんだ……! 必ず……報復してやる……!」

 

「……っ!? アジアの虎!?」

 

 思わぬ単語にジュンと石動少佐の表情が一変する。だが、男はそれだけを言い残すと、ガクリと頭を垂れて意識を失ってしまった。

 

 ――アジアの虎。

 かつて世界中を激震させ、この日本を絶望の淵に叩き落としたアジア最大の国際テロ組織。その首謀者である海藤俊介(かいどう しゅんすけ)は、日本の防衛システムにおける最終決戦兵器『アルテミス』の制御権を強奪。首都・東京を火の海にした、日本のテロリスト史において最も凶悪で最悪な事件を引き起こした男だ。

 だが、あの史上最悪のテロ事件も、シャム猫とマイティードッグの死力を尽くした連携によってアルテミスは破壊され、首謀者である海藤も爆煙の彼方へと消え去ったはずだった。

 

(まさか……あの海藤が生きていた……? それとも、奴の危険な意志を継ぐ何者かが、再び『アジアの虎』を復活させようとしているのか――?)

 

 不穏な暗雲が、静かに二人の頭上に垂れ込め始めていた。

 重苦しい沈黙を切り裂くように、倉庫の奥からナオミの切迫した声が響き渡った。

 

「ちょっと来てジュン、大変よ!」

 

「どうしたの、ナオミ!?」

 

 ただ事ではない気配を察し、ジュンと石動少佐がすぐさま声のした暗がりへと駆けつける。ナオミが懐中電灯で照らしていたのは、積み上げられたコンテナの陰――そこに、毛布にくるまれた一人の少女が静かに横たわっていた。

 年の頃は中学生くらいだろうか。暗がりの中でも目を引く、鮮やかなオレンジ色の髪が印象的な少女だ。

 

「女の子……!?」

 

「ええ。どうやら、あのテロリストたちに連れ去られていたみたいなの」

 

「怪我は!? 大丈夫なの!?」

 

「大丈夫。呼吸に脈拍、血圧も正常ね。どうやら、ただ眠っているだけみたい」

 

 手首と首筋に触れ、脈動を確認しながら答えるナオミの横で、後から追いついた石動が少女を見下ろし、重々しい口調で問いかける。

 

「どうする? 彼女の身柄はこちら(マイティードッグ)で保護するか?」

 

「いいえ、相手はまだ年若い女の子よ。目が覚めたときに、周りがゴツゴツした武骨な軍人ばかりじゃ怯えちゃうわ。この子は私たちが預かる」

 

 即答したジュンの言葉に、石動は少し考えると頷いた。

 

「……そうか。分かった、任せる」

 

 こうしてジュンとナオミは、いまだ深い眠りから覚めない謎の少女を引き取り、夜の街へと連れ帰ることにしたのだった。

 

 

 

  続く☆

 

 


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