ダンジョンに最強の老兵がいるのは間違っているだろうか 作:4級特定執筆呪霊
モジュロ虎杖のクロスオーバー全然ねぇじゃん!と思い書いてみた次第です。
楽しんでいただければ幸いです!
今年の春も変わらず東京には呪霊が蔓延っていた。上空を飛ぶ鳥擬きは動物を煮詰めたような異形で呪力の魂をフンのように撒き散らし、
地上を歩く二足歩行の人影は戯言を呟いきながらこちらを襲う。東京の呪霊の大半を占める動物のような異形は耳を劈く咆哮を上げる共に殺意を一直線に向けてくる。
「⋯⋯」
そんな魔境にいたたった一人の人間を感知し一斉に強襲を掛ける呪霊群。四方八方全てが敵という、正に四面楚歌なその男は白のパーカーに付いたフードを目深く被り、あまつさえ手はポケットに突っ込んだ脱力状態。
呪力もまるで感じない彼に呪霊が怖気付く訳もなく、全ての歯牙が男の命に掛けられようとした、その刹那。
「⋯⋯ったく」
鋭い風切り音が一面に響いたと同時、異形の群は身体をぶつ切りにされると紫紺の血液を撒き散らす。ボトボトと街中に振り落ちる肉の断面は、男の機嫌を表すように少し荒い。
街中に血飛沫が吹き荒れるという地獄絵図も束の間、ザフッという爆散音と共に切り裂かれた呪霊達は塵へと変わり霧散した。
「⋯⋯呪霊に悪態付く癖治さないとな、人前で出るかも」
呪霊の数にうんざりする度、こうして悪態を付いてしまう癖を男――虎杖悠仁は今後のため、治そうと意識を切り替えようと独りごちる、が。
「いや⋯⋯人とはほぼ喋んないか」
少し考えれば当たり前のことだと思い返し、不必要だと虎杖は結論付けた。本来なら死んでいるかヨボヨボになっている年齢だ。人とも、
「⋯⋯次」
しかし、過去作り上げてしまった
錆び付くことのない歯車のように、一定のペースで虎杖は次々と呪霊を祓っていく。自らの血と不可視の斬撃をもって、昔のように肉を抉る不快感もなく、ただただ単調に。
「⋯⋯ん?」
虎杖は大型の呪霊を両断し地面に伏す亡骸を見届けていると、ふとその足元に目がいった。
消失反応による塵が霧散し、改めて足元を見やると地下に続く闇、大穴が広がっていた。大の大人が広がって百人同時に入っても余るであろう大穴だ。
「何かの術式⋯⋯いや、気配も呪力の残穢すらないな。なら、深さは?」
いつから大穴があったと考察するのもここでは億劫だと思い、虎杖は検証へと行動を移す。手始めにその辺に転がっていた石ころを拾い、穴へ落とした。
――十秒、二十秒、三十秒、一分、十分。
「⋯⋯反響がねぇとか、どこに繋がってんだ?」
呪術の絡まない
発見した現在大穴からのアクションは何も無いが、これからことが起こらない確証はない。それなら、やるべき事は二つに一つだ。
「原因、突き止めに行くか」
虎杖は一歩大穴へと近付く。原因が未知であれなんであれ、自分なら何が起きようと戻って来れると、呪術界最高位である特級呪術師の自負を抱え、虎杖は深淵へと身を投げた。
▽
自由落下を続ける中、けたたましい風切り音が鼓膜を揺らす。肌をなぞる風は触覚を潰し、暗闇は視覚を奪うが、虎杖は微動だにしない。
もしも通常の人間が落ちていたならばこの時点で五感は機能しないだろう。当然、他の気配などもってのほかだ。
「お、おおぉオ。おやカ太〜ソラから――」
「呪霊⋯⋯ここにもいんのか」
獲物を待ち構える蜘蛛のように、縦穴の側面に張り付く呪霊達を虎杖は察知。落下する自身を追ってくる呪霊に、心底億劫そうにしながら、掌に圧縮した血玉を作り上げる。
そして、宙に放ると術の名を口にした。
「超新星」
異常な圧力から瞬時に開放された血液が文字通り、背後で血祭りを作り上げた。星の爆破のような途方もない衝撃波が縦穴を揺らし、全方位に散らばる血液の散弾が残る障害を取り除く。
呪霊の気配があらかた消えたと感知した虎杖は自由落下を続けながら思案に耽る。
呪霊がこれ程深い階層に居座っていた事にも驚きだが、この事実から考慮すべきは呪霊が更に奥まで進出しているという可能性だ。
もし、この縦穴の底に非術師がいたとしたらその被害は言うまでもないだろう。
「⋯⋯光?」
思案する虎杖を思考の海から覚醒させたのは、視界の奥に映る光だった。本来地下にあるはずもない光源に疑問を挟む余地もなく、落下を続けていた虎杖は縦穴を抜ける。
「マージか⋯⋯」
目下に広がる光景は圧巻の一言だった。長閑に流れる川や不規則ながらも美しさを感じる森林。術師として68年間も生きている虎杖ですらこれ程異質な景色は見た事がなかった。
「⋯⋯っと」
虎杖は絶景に感嘆の息を漏らしながら、地面に着く手前で空気の
幾度と草を踏み鳴らしながら辺りを見て回るが、後にも先にも静謐で穏やかな空間が続く。そして意外にも空間には距離はなく、虎杖はものの数十分で壁に突き当たった。
「あんまり、広くないな」
縦と横の広さを見比べて虎杖は一人呟く。縦の長さで錯覚していたが、横は案外短いらしい。しかし特に思うところは無いため、虎杖は散策を続ける。
ゴツゴツとした岩盤の壁を、虎杖は壁面に沿って眺めているとある気配に気付いた。
「⋯⋯呪霊の残穢か。かなり多いな」
壁沿いに残る数多の残穢を追って行くと、数歩歩いた時点でパタリと残穢が途絶えた。が、そこで残穢の向かう角度が変わっている。
壁沿いだったものが、壁一直線へ向きを変えていた。呪霊のとある特性を考えれば取りうる行動だ。
68年の経験から推察した虎杖は拳を握り、壁を殴りつける。罅割れる暇もなく薄氷のようにボロボロと崩れていく壁に虎杖は吐息した。
「薄い壁なら透過できるもんな、あいつら。⋯⋯でもなんでこんな大量に――」
推測もかくや、破壊した壁面より地続きに繋がっていた空間から響く轟音に虎杖は表情を強張らせた。
反響する鯨波と剣戟音。現代ではあまり聴くことない二つの音を頼りに虎杖は疾風の如く地面を駆ける。
この先に待ち受ける事態に、一抹の胸騒ぎを覚えながら。
▽
「前線を下げろ!短文詠唱の魔導士は新種の足元を狙い、転落を狙え!」
一人の小人が陣の中心で声を上げる。彼の背丈に比類しない声高らかな伝令を聞いた数多の仲間は、しかし一切の疑念を抱くこともなく行動に移す。
伝令からたった数秒で陣形を整えた彼等は完璧な連携で新種――芋虫のような何か――の
混戦する戦場と放たれる爆炎に煽られ、ばさばさと彼等の背後で揺れるのは、一本の旗だ。刻まれているのは滑稽な笑みを浮かべる道化師のエンブレム。
一柱の『神』と契りを結んだ『眷属』の証。
数多の草木が生い茂る大地。大自然を彷彿とさせる大空間。だが、舞い上がる火の粉が向かう先は遥か上方にある
決して地上に届かない雄叫びを張り上げながら、人とモンスターが戦闘繰り広げる。
「ティオナ、ベート、アイズ!49階層までの連絡路を何としてもこじ開けろ!!」
この戦場の趨勢をいち早く見抜いた
「がっああ——ッ!!!」
「なんなんだよっ!この化け物ども!?」
地上の都市——オラリオ最大派閥の一角であり、更なる階層へと挑み、成した偉業から
拠点のある丘を這い登り、襲い来る芋虫とは違う。正に異物と言うべき幽鬼達によって。
「ダメーッ、フィン!このモンスター達、怯むけど攻撃が効いてない!」
「私の
「チッ⋯⋯!」
打破を試みた前衛等から届いたその報告に、フィンは顔を強張らせた。だが団長として平静を維持し、フィンは瞬時に情報を精査し打開への組み立てを行う最中。
「だ、団長ッ!団員の傷が
「⋯⋯⋯っ、リーネ、すぐ容態を見てくれ!」
治療に手を回していた団員が震えた声で凶報を口にした。傷が治らないという恐怖。それによる恐慌が起きないよう、フィンは治療師を呼び付ける。
すぐさま駆け付け、患部に手を当てた少女——リーネは目を見開いて驚愕した。
「——『
「うぅ⋯⋯」
団員が呻く度、妖しく蠢く傷にその場に居合わせた全員が愕然とする中でフィンの思考は冷静を保ち、そして冷徹なものへと変わり始める。
意を決して幽鬼共に穂先を向け、叫ぶ。
「アイズ!『スキル』を使えッ!!」
「フィン⋯⋯!?」
「フィン、お主。賭けが過ぎるぞ⋯!」
伝令を聞いたハイエルフが、前線の盾となっていたドワーフが、それぞれ訝しむ中使用許可を得た少女——アイズは眦を上げた小人を一瞥し、小さく頷いた。
それが、治癒不可能な負傷者を地上へ生還させる唯一の方法だと知って。
「『
純白だった風に異色が混ざり、変色を始める。これまでにない少女の変化に大勢の団員が目を見張る中、最古参の幹部たちは力の行方に息を飲む。
刹那の静謐が空間を満したのも束の間、アイズはスキルを唱えた。
「『
刹那、漆黒の風が吹き荒れた。膨大な風、否、嵐が階層全域に吹き荒れ、嵐の中心である彼女の地点には荒削りされた土壌がギャリギャリと音を立てている。
「アイズ⋯⋯さん?」
山吹色の髪を揺らすエルフの少女が、手に持つ長杖を無自覚に震わせて、最前線に立つ少女の名を呟く。エルフは種族柄、魔法の機微に敏感。
神によって器の可能性を引き出す『
「⋯⋯フフ」
故に、エルフの少女——レフィーヤは思う。自分に向けられた本来なら安心感を与えてくれる
「っ⋯⋯!」
——恐いと。有り得ない感情を抱いてしまった。
「いくよ」
濁った視界に映る、
「⋯⋯ア?」
空間から姿を消した獲物に呪霊が戸惑いを見せる中、アイズは背後から袈裟斬りを見舞う。
「うそ!?アイズあのモンスター倒したの!?」
「バカティオナ!余所見してないで集中しなさい」
戦場においても溌剌さを発揮するアマゾネス——ティオナに対し、姉であるティオネが喝を掛ける。アイズの進撃により、戦局の立て直しに成功したロキファミリア。だが、重なる
「新手のモンスターはアイズに一任させる!ガレス含む前衛は毒液を吐く新種を食い止めろ!!魔導士は詠唱開始!」
矢継ぎ早に飛ぶフィンの指示に、各団員は示し合わせたように各々の役割を最速をもって実行する。
「散々汚ぇ唾吐いてくれたなゴミ共、くたばれ⋯⋯!」
「勢い余って爆散させるでないぞベート!儂らは食い止めるだけじゃ」
「はっ!その言葉そっくりそのまま返すぜジジイ!」
ドワーフのガレスの忠告に対しベートは挑発を掛けながら芋虫型のモンスターを蹴り飛ばす。衝撃を受けゴロゴロと転がるモンスターは同胞を巻き込み、丘から転げ落ちる。
「【——終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に風を巻け。閉ざされる光、凍てつく大地。吹雪け三度の厳冬】」
戦火には不釣り合いな程に玲瓏な歌声を発するは
「【——間もなく焔は放たれる】」
魔導士を象徴する
「全員戻れ!!」
「【我が名は、アールヴ!——レア・ラーヴァテイン】」
瞬間、突き立てられた剣を思わせる火嵐がモンスターを含め、広域を飲み込んだ。50
「すごい⋯⋯」
圧巻、圧倒。緋色が埋め尽くす視界の中でレフィーヤはそんな月並みの言葉を並べる。後衛の上、未熟な彼女は恐れからか、いつの間にか部隊の最後尾立っていた。
レフィーヤは遠くに見える
「--・ -- ・・- ・- -・-・・」
「⋯⋯ん?」
戦火の光によって全域に生まれた影をレフィーヤが茫然と見つめていた中、ふと聞き取れた奇怪の音に長い耳がピクリと反応した。
「・-・-- ・-・-・ ・-・・ ・-」
間やリズムから信号めいた音だとなんとなしに考えて、音のした背後を振り向く。何度か確認していた戦場には幽鬼と形容すべき、モンスターを彼女が蹂躙しているのが最後。
きっと、心配ないだろうと思い、憧れが戦う姿を目に焼き付けようとレフィーヤは正面を見据えた。
「⋯⋯っっ!!?」
小心者で臆病、そして最後まで敵が消し炭になるまで見届けず、気が抜けるのが早い。そんな彼女だからこそ気付いたのだろう。
剣姫——アイズ・ヴァレンシュタインが黒い結界に飲み込まれたことを。
ちょっとした設定についてですが。
拙作出できた疑問点として、非術師のロキファミリアに何故、呪霊が見えて殴れるのか。これがあると思いますが、
これはファルナによってフィジギフに近い身体機能を得ているから。
そんな感じの設定です。なので攻撃を受けた呪霊は怯みはするけど、ダメージはありません。真希の姉貴も呪霊殴れているので、多分大丈夫。
アイズが何故呪霊を斬れたかについては、次回描くと思います。