士郎の右前腕に装備された、簡易タイプの
彼は鋭く叫んだ。
「セイバー! アーチャーも! そして遠坂! 俺がバーサーカーの相手をする! その間、あんたらはランサーを袋叩きにして撤退させてくれ!」
「シロウ! ……いえ、了解しました」
「……なるほどな。任せろ、衛宮士郎」
「ちょ、2人とも! 衛宮君……」
慌てる凛に、アーチャーが説明をする。
「バーサーカー相手では、我々は武器を取って戦う以外無い。となると、殺し合いになる。我々の目的からして、サーヴァントを倒したり倒されたりしたなら、それだけで敗北になる。……聖杯の現出が、進む」
「あ、そ、そうね。だけど衛宮君を1人で」
「シロウには、『前回の』キャスターのチカラがあります。まあ素の能力はサーヴァントで無くなった以上、疑問符が付きますが。ですが彼ならば、十全な魔力さえあれば……!」
そこに士郎の声が被った。
「それに、勝利条件はバーサーカーを殺せとかじゃなく、膝を着かせろ、だろ? 殺し合いにしないためにも、これが最善手だ」
「やっちゃえ! バーサーカー!」
「■■■■■■■■■■■■■■ーーー!! ■■■■■■■■■■■■■ーーー!!」
それに応えたバーサーカーが咆えると、両者は中間点でがっぷり四つに組み合う。ギリギリギリと、両者の筋肉が軋んだ。
一方、セイバーとアーチャーの2騎に連携されて攻められたランサーは、セイバーの技前を確かめるどころではない。相応の技量を持つとは理解できたし、透明で見えない剣を使っている事も分かった。アーチャーとの即興の連携も、あまりにも息が合っており崩すところが見当たらない。
(いや……。こりゃアーチャーが合わせてる、のか? なんだってんだ、コイツ。本当に、どこの弓兵だ。
駄目だ、宝具使うために一時離脱できるか?どうにかせんと、いかん。……多少傷負っても、しゃーねえ。やるか!)
「何を企んでいる、ランサー!」
「ち、勘も良いんでやんの!」
必死でランサーは離脱後退を図る。威力の大きそうなセイバーの見えない剣は必死でその長さを予測して持ち手の角度などから
「逃げるのか!? ……いや、逃げてもらえるならその方がいいが。いや、何か嫌な予感が」
「む、更に距離を稼いだ……。!! いかん、セイバー、わたしの後ろに!」
「遅ぇ!」
ランサーは数歩の助走を取って、叫ぶ。
「くらいやがれ!
「ロー・ア……」
アーチャーが何か叫んだ様だが、その瞬間数千、数万に分身したランサーの槍先が、セイバーとアーチャーに向かい降り注ぐ。そして爆風が、爆音が、周囲を
「……おおー、やりやがったわ。アレ防ぐかよ、オイ」
ランサーは獰猛に笑った。そして
そして後に残されたのは、呆然とするセイバーと、ボロボロになり身体のあちこちから血を流しつつ、八枚の花弁にも似た強大な盾を支えているアーチャーであった。盾を消し、膝をついたアーチャーに思わず肩を貸し、支えるセイバー。アーチャーは苦笑した。
「ふ、奴がもう1つの槍の使い方をしていたら、逆にヤバかったかもしれない。先ほどの盾は、飛び道具に対する圧倒的な防御力を持つ物だからな」
「貴方は……。いえ、置いておきましょう」
「そうだな、衛宮士郎の様子は」
彼らが視線を士郎とバーサーカー、そしてイリヤスフィールに向けた時、彼ら3人はそれぞれがそれぞれで、防御姿勢を取っていた。まずイリヤスフィールは、体を小さく屈めて膝を抱え込む、まるでカリスマガードの様な姿勢を取っている。そしてバーサーカーは、その巨体でイリヤスフィールを庇い、
そして最後に士郎だが。彼は左掌の
「
「っ、だ、大丈夫! そんな無理に護らなくたって、バーサーカーはこの程度じゃあびくともしないんだから!」
「まあだけど、腕や足や背中で護るにせよ、隙間だらけだから間から爆風入って、
「むう。……わかったわよ、ありがとう! ふんだ!」
失笑して士郎は向き直る。
「パワー勝負はいい感じだったけど、余計な邪魔が入ったなあ。もっかいやるかぁ? なあ
「そ、そうね……。あ」
「ん? ……あ」
義姉弟の視線の先で、バーサーカーが所在無さげにしている。イリヤスフィールを護るために屈んで片膝を着き、両の手を広げたその姿勢のままで。そう、
「……なあ、もっかいやる、か? 俺はいいぞ?
「……。
…………。
………………いえ、いいわ。負けは負け。休戦、飲むわ」
「そ、そうか。感謝する
ちなみにバーサーカーの筋力ステータスはA+。第4次キャスター時代の
「この借りは全部、ぜーんぶランサーに回してやるんだからーーー!!」
それは流石に、やり過ぎじゃないかと思った士郎だが。懸命にも口出しは避けた。
*
イリヤスフィール……長いからイリヤと呼んでくれと、彼女はそう言った。そのイリヤは今現在、衛宮邸に居る。メイドのホムンクルス、リズとセラを伴って。あと霊体化したバーサーカーも。
「
「ありがとう。説明してもらえるかな。セラも聞いておいてくれる?」
「わかりました、お嬢様」
セラは全神経を聞くことと記憶することに集中する。そしてこの場にはイリヤ一行の他、遠坂凛とアーチャーである英霊エミヤ、セイバーが存在した。ちなみに衛宮士郎と遠坂凛は、已む無く本日、学校を休んでいる。
セイバーが参じているのは、衛宮切嗣の礼装について既に知識がある事と、士郎の護衛の意味で。遠坂主従が居るのは、切嗣の別世界での養子であるエミヤには聞く資格があると士郎が断じた事と、エミヤに知らせてしまえば夢などで遠坂に知られる場合があるからだ。士郎は話し始めた。
「
「「「「「「……」」」」」」
「今、11発残っているこの弾丸には、
皮膚組織も、毛細血管も、神経組織も、何もかも関係なく、ぐちゃぐちゃに嗣ぐ。だから撃たれた場所は、壊死した様になる。生物の身体を撃てば、そうなる」
士郎は1発の弾丸……起源弾を掲げ持つ。
「だがこの弾丸の本質は、違う。防御魔術、攻撃魔術、なんだっていい。魔術師が放った魔術に命中した時。霊的に魔術師と繋がっている魔術そのものが撃たれた時。魔力は、そして魔術回路は。ぐちゃぐちゃに『切られ』て、そしてぐちゃぐちゃに『嗣がれる』んだ。結果、術を撃たれた魔術師は、『終わる』。
この効果は、魔術師がめいっぱい術に力を込めていればいるほど、強くなる。だが、銃弾に
「ありがとう……」
そして士郎は、ケースに銃弾を戻すと全武装を丁寧に仕舞い込み、その全てをメイドのリズへ渡す。見る限り、彼女が力仕事担当だったからだ。
更に士郎は、遺産の書類や遺品類などを、次々に手渡して行く。大半はメイドのリズやセラ相手だが、小物類などでイリヤが気に入った物は、イリヤに直接手渡してやった。
「これが、最後の品、だ」
そう言って士郎が取り出したのは、全長10cmほどの水晶の六角柱である。中に細かな傷でもあるのか少々曇っており、しかして光があたると虹色に内部で光が乱反射した。
「
「……その様ね。ただ、充分な対価と交換でなら、その宝石に情報を集積する技術、教えてもらえるかしら?」
「構わんが、コンピューターの素子とかの知識があると、より一層理解が進むが、大丈夫か?」
「う゛、が、がんばる、わ」
イリヤはその水晶を受け取り、困った様に小首を傾げた。
「……どうやるの?」
「この魔導機器のカプセル部分にその水晶を封入する。そしてこのヘッドホンみたいな、ケーブルで本体と繋がってる装具を、頭に付けて、起動スイッチを押すんだ。記憶の転送が終われば、水晶は破棄されるように作ってある。俺だけは試験のために破棄しない仕掛けで見たけどさ。だからその記憶を読み終えたら、
「ありがとう」
そしてイリヤは、言われた通りに頭にヘッドホンもどきを装着して水晶をカプセルに入れ、スイッチを入れる。しばらくそのままで居たイリヤだったが、徐々にしくしくと泣き出した。その様子を見て、リズは慌て、セラは士郎に詰め寄る。
「衛宮士郎! まさか貴方、お嬢様に何か……」
「イリヤ、泣いてる……」
「シロウ! シロウから離れてくだ」
「セイバー、大丈夫だ。セラさんは、
カプセルの中で、水晶が砕けて散った。そしてイリヤはリズとセラを引っ張る。2人はあえて為すがままになった。イリヤは2人を無理やりに抱きしめて、そのまましくしく泣き続ける。
「キリツグ……。キリツグ……。信じなくて、ごめんなさい。こんな、こんな、ひどい。なんでキリツグがこんなに苦しむの。なんでお母さまを聖杯がなんでこんな」
「お嬢様……」
「イリヤ……」
凛が、セイバーに目配せする。セイバーも頷いて、部屋を出た。士郎とアーチャーも出ようとするが、凛とセイバーに押し戻される。
「「は?」」
「あんたらは、そっちの部屋。イリヤの、義弟なんでしょあんたら」
「む」
「……了解」
「それにイリヤスフィールは大丈夫そうですが、セラとリズは万が一の暴走があります。アーチャーにはシロウを護っていただかないと」
「いやセイバーも昔、アインツベルンの城でイリヤと居た事あるんだよな!?」
「流石に……。あまり接触多くなかったですし、切嗣を結局はわたしは……」
そうして凛とセイバーに置いていかれた2人の野郎共は、なんとなく居心地が悪い中でそれでも暖かい瞳で、イリヤたちを見つめ続けた。
*
しばらくして泣き止んだイリヤが、礼を言う。
「ありがと、シロウ。そっちの黒いシロウもね。このキリツグの魔術刻印だけど、どうしようか……。わたし、全身に令呪の類が刻み込まれてるから、新たに加える余地が」
「なら
その言葉に、一瞬空気が凍る。
「シロウ……。気持ちは有難いけど……。たぶん……」
「お嬢様……」
「イリヤ……」
「寿命が短いとか言う話か? 1~2年頑張って長生きしてくれれば、俺が研究するよ。最悪の場合、
「「「「え゛」」」」
アーチャーが胡乱な目を向ける。
「衛宮士郎、そんな事ができるのか」
「脳ができると立派な人間の魂が宿っちゃうんで、脳の無い肉体だけのクローニングが面倒だけど、面倒なだけで難しくない。ただ、免疫の再構築とか、脊髄反射の再構築とか、小脳の身体各部の動作プログラミング再構築とか、本気でクッソきつい。それに脳の寿命が短い可能性もあるし。だから可能なら、
「本気、か? いや、正気なのだ、な? できるのだな?」
「できる」
それにセラとリズが食いつく。
「衛宮士郎ーーーーーーー!! 本当に、本当にお嬢様ぐわっ」
「イリヤ、たすかる? たすかる?」
「いたた、リズ、割り込まないでくださ、いたた」
そんな中、イリヤがふっと柔らかく笑った。
「シロウ、ありがとう……」
「どういたしまして……は、まだ早いな。そのお礼も、最終的になんとかなってから受けるよ」
「うん、でも遺品とかの事とか。これはいいでしょ。ありがとう」
「ああ、それはどういたしまして、だな」
そんなやり取りをしながら、士郎は研究に必要となる莫大な魔力の確保や、戦後にセイバーを現界させ続けるための莫大な魔力あるいは受肉の研究のために必要なこれも莫大な魔力の確保で、頭の中をフル回転させていた。無理が通れば道理は引っ込むが、道理を引っ込ませるだけの無理を通すには、文字通り莫大な対価が必須なのである。
(男が一回安請け合いしたんだ。何がどうあっても、このやせ我慢を貫き通さないと。ええと、今銀行の口座にある金がコレだけ、そして証券口座にある証券取引用の資金がアレだけ。だめだ、もっと稼いで置かないと。設備の刷新や新規増築費用にもならないぞ。中途半端に稼ぐと、税金でごっそり持っていかれるだけで返って減る。
あと、山奥に工房を別荘扱いで作らないと。そこから魔術的手段で地下のマグマ層までボーリングして、そこで熱エネルギーを魔力に変換する仕組みを。火山地帯に作れば、其処ら辺が震源の地震もエネルギー盗られて減るし、いい事だろ。けど金が。濡れ手に粟の儲けが何か、何かないか)
こんな感じで本心は非常に焦りまくっていたが、表向き平然と顔には出さない。まあそんなこんなで、なし崩しにバーサーカー陣営、アインツベルンとの和解まで成立したのだった。
まあ資金さえあれば、技術的にはなんとかなるんです。彼の場合。でも最大の問題は、資金。遠坂さんに払い込んだ、上納金が今更惜しくなって来たり。でも男の子なので、やせ我慢して言わない。
ちなみに遠坂さんに払い込んだ上納金は、5年の間に切嗣さんの遺産からの分け前を、株式投機で利殖して莫大に増やした中から余裕で払いました。証券業界では彼は業界に彗星のごとく現れた若年トレーダーとして有名です。でもまだ学生なので、名前の公表や取材はご勘弁くださいって言う建前で裏でいろいろやって情報拡散を封鎖してます。
……でも、今話の終わり付近で想定していた必要資金には、ぜんっぜん足りません。遠坂さん以上に、金欠になる事請け合いです。
ちなみに投稿者は、株式投機と株式投資を狭義でせこく分類する人です。投機は株を、高いときに売って安いときに買って差額で儲ける。投資は有望な会社の株を買って、しっかり会社を育てて、株式の配当を受け取ったり株主優待もらったり。そう思ってます。まあそう白黒はっきり付けられるもんじゃないみたいな話も聞きますが、自分じゃそう思ってます。