薄暗い廊下に、一瞬の光が差す。爆音が響き、魔導の防御システムが解呪されつつ粉みじんに吹き飛ぶ。安全になった通路を、ガン、ガン、と鋼の足音を立てて、漆黒の装甲ブーツが歩んで行く。
『これはこれは、無作法な客人じ』
キュン! ドガン!
老人の様な声が響いた瞬間、再度
「アーチャー、間桐家内部の間取りの知識は?」
「いや、わたしが守護者として桜と相対したのは、柳洞寺境内だ。間桐家は外部から叩き潰した」
「了解。しばらく防御を頼む」
士郎はアーチャーに確認を取ると、立ち止まって
キュキュンキュンキュキュン!!
周囲ではアーチャー、セイバーが飛び掛かって来る攻撃用の蟲を撃墜している。バーサーカーには少しこの廊下は狭すぎたので、肝心なところに行くまで霊体化していた。探査の結果はすぐに出る。
「あちらだ」
「え。こういう時って、攻撃密度が高い方が目的地なんじゃないの」
「欺瞞のつもりだったんだろな、遠坂。目的地方向は、若干攻撃密度が薄い。けどバレたから、すぐ厚くなるぞ」
その通り、すぐに目的地方向の攻撃密度は厚くなった。だが士郎と2騎のサーヴァントによる殲滅速度により、防御用に配置された攻撃型の蟲はおろか、防御設備も次々に粉砕されて行く。後衛の凛とイリヤ、セラ、リズには、かけらも攻撃が通らない。
やがて地下への階段が現れる。士郎たちは無慈悲な破壊行為を繰り返しながら、下って行った。そして再度家屋破壊用
……平常心ではある。平常心ではあるが、その奥で沸々と静かに、静かに怒ってはいたが。彼らの眼前には、無数の蟲、蟲、蟲。その中に埋もれる様にして、桜が居る。桜が、蟲に
臓硯は口を開く。
「のう遠坂の娘子よ、この様な乱暴狼」
キュキュン!
これは当初からの予定である。おそらく臓硯は、桜に対しその意思を無視して操るような方法を持っているのは、間違いない。であるならば、とりあえず
桜の周辺の蟲たちごと麻痺してひっくり返った桜は、すぐに凛によって自陣へと引きずり込まれる。アサシンはアーチャーが相対していた。セイバーが麻痺した蟲を桜の身体から払う間、周囲を護るのは出現したバーサーカー、リズ、セラだ。バーサーカーの破壊力は、この広い地下室……蟲蔵では、余す事なく発揮された。
『お、おのれおのれ! こわっぱども、貴様らすべて蟲の餌にしてくれるわ!』
ようやくの事で全文を言えた臓硯である。だが彼の中枢とでも言うべき蟲、脳蟲は桜の体内に寄生していた。更に言うならば、心臓に寄生していたのである。しかし桜を人質に取ろうにも、脳蟲だけでなく桜に寄生する全ての蟲は、
(く、じゃが思念までは縛れまい。最悪桜を殺すと脅すこともできんが、しかし外の蟲どもを操ってこわっぱどもを殲滅するぐらいは可能よ。たしかに個々の戦闘力は高いが、一気に蟲どもに総攻撃をさせれば、わずかでもマスターどもの肉体に蟲がたどりつけさえすれば、こちらの勝利よ。
……喰らい尽くしてくれるわ! アサシンは、蟲を辿り着かせるために支援せよ!)
そうして、蟲たちは一気に襲い掛かった。
*
周囲のアサシンと蟲たちへの対処を、アーチャー、セイバー、バーサーカー、セラの魔法、リズの
「
「うん!」
そしてイリヤは武器を構える。その身体を、その両手を、背中から手を回して士郎が支えた。イリヤの手にはあまる武器。あまりにも巨大で、あまりにも強圧的な兵器。トンプソン・センター・コンテンダー・カスタム……衛宮切嗣が
「キリツグ……。力を貸して」
「……」
そして、トンプソン・センター・コンテンダー・カスタムの銃口が火を噴く。イリヤの手が激しく痛んだ。無理も無い。小学生高学年にしか見えない彼女の細腕で、この化け物銃を、強化の魔術を施しているとは言えど撃つのは無理だ。かろうじて、士郎の手がイリヤの手を包み込むようにして支えてくれたおかげで、どうにか発砲はできたが。元より無理なのだ。
狙っていた正面から大きく外れ、発砲された弾丸は蟲の群体の大波、その端っこにかろうじて着弾する。普通なら、それはまったく意味の無い攻撃だった。そう、普通であれば。
唐突に、蟲の波が硬直した。そしてばらばらと、個々の蟲が崩れ落ちて来る。蟲の身体に通っていた間桐臓硯の魔術回路が、死んだ、のだ。……起源弾、である。
「済まないな、
「いいのよ。キリツグは正義の味方、なんでしょ? だったら、きっと喜んでるわ。残り10発も、使い道はよく考えて、だけどいざと言うときは躊躇せず使う。だから、そのときは」
「ああ、俺が背中を支える」
義姉弟が小さく笑い合った。五百年を生きた妖怪、間桐臓硯は今、死にかけている。彼の魔術的攻撃であり、彼の一部でもあった蟲の群れに起源弾の直撃を受けた事で、彼の脳蟲、そして魂に在った全ての魔術回路は破壊された。もはや臓硯は、死を待つばかりの存在であり、思考する事すら叶わなかったのである。
そして士郎が、カードを手から放った。それは主からの命令が完全に途絶え、そしてここでは判明していなかったが変則的な召喚による弊害で思考力に障害を得ていたアサシンの、その胸元に突き立つ。アサシンは、自身が行動不能に陥っているという認識も無いまま、カードに吸い込まれて封印された。
「……
「アサシンは基本、その一族のその名を預かった頭領クラスの者しか呼ばれないみたいね」
とりあえずの危機は去ったかに見えた。……だが。
「衛宮君! 桜が! 桜の容態が!」
「!」
士郎は凛の叫びに、急ぎそちらへ向かう。そして
キュキュキュキュキュン!
そして一気に
「寄生蟲だ。体内で行動不能もしくは死亡した寄生蟲が、間桐桜の生命活動に多大な悪影響を及ぼしている。特にまずいのが、心臓に巣食った大物。いや、待て。こいつは……。間桐臓硯の本体、だ」
「なんだと!?」
「悪趣味な……」
アーチャーとセイバーが激怒を露わにする。士郎は急ぎ、
「遠坂、俺の
「!! 待って。……サポートがあれば、なんとか」
「遠坂様、差し出がましいですがよろしければ、わたくしが」
「セラさん、お願い」
そして凛は、懐から大きなルビーを取り出した。これは遠坂家の家宝。長年に渡り、何代にも渡って魔力を蓄積して来た、正真正銘遠坂家にとって家宝と言えるルビーの首飾りだ。
「お父様、使わせていただきます」
そのルビーから供給された莫大な魔力を、凛は惜しみも無く自身とセラに回す。そして2人がかりで、士郎が為した
やがて士郎は、かなり長い呪文を
キュキュキュンキュキュキュキュ、キュキュキュキュン!
*
士郎は大量の書物、間桐家からパチって来た様々な魔導書、魔導の秘伝、その類と、
「ううん……。あー、肩凝った」
「どう、シロウ?」
「ああ
聖杯戦争に関わりの無い秘伝も、丸ごとパチって来たけどさ。こっちはこっちで、ヤバい感じだよ。外道の知識、オンパレードだぁな」
「そう……」
そして士郎はイリヤに顔を向ける。
「『そっち』は?」
「地下室のシロウの工房。そこの医療ポッドに桜をつっこんだでしょ。凛は、そっちの様子を見てるわ。アーチャーはシロウがそっちにかかり切りになってるから、買い物とか家事を主体に。セラとリズに任せてもいいのに。セイバーはアーチャーの手伝いして、買い物の荷物持ち」
「なるほど」
別な書類の山を、士郎は眺めやる。どちらかと言うと、彼にとっての収穫はこちらだったかも知れない。
「間桐臓硯が表でやってた事業。それ関係の書類とか。やつが持ってた株券とか、『間桐臓硯の命令で』全部いったん売り払って、値崩れしたところを全部買い取った。いつもの株式投機じゃなく、ちゃんと株主登録もした。……今後、かなりの儲けになるよ。
資金とか直接の資産は、間桐慎二とその父、間桐鶴野、そしてもちろん間桐桜に分配される様に、『間桐臓硯の遺言書』により指示されてる。でも今後、間桐家の人間は基本、間桐家がやってた事業には関われない」
「事業、やるの?」
「やる。と言うか、他にも新しい事業を始めるつもりだ。電力事業とか、水道事業とかも」
「なんで?」
士郎は腕組みして答えた。
「某T○Y○TAと豊DA市みたいに、地方の都市を事実上の企業支配下に置く。と言うか、未開発の小規模な都市をまるごと買収、そして水道事業で上下水道を管理。上水道下水道を細工して、魔法陣状の配置にする。間桐の水属性魔術がここで役に立ちそうだな。更に電力網も細工して、魔法陣として動く様にする。
これで水と電気の魔法陣から、人間が生活する上で垂れ流す余剰の生命力を回収させてもらい、更に自然界の超自然のチカラも回収して、魔力として集める。無理に人間の生命力とか集めるわけじゃなしに、余剰分を貰うだけだから」
「凄いじゃない。魔力使い放題ね」
「まだ欲しい。
関心した目で見るイリヤの様子に笑みを浮かべつつ、士郎は語る。
「あと時計塔の現代魔術科とも交渉しなきゃな。電力を魔力に変換する方法や、熱エネルギーを魔力変換する手法は既に俺、確立してるからなあ。知的所有権を主張して、向こうに高いパテント料を吹っかけて……。
あとは核融合発電も考えないとなあ。実用型の炉は、設計できてるけども。立地も考えないと。ただ、国で研究してるやつらの面目、思い切り丸つぶれになるな? まあそのための資金も欲しいなあ。もっと金稼がないと」
「せちがらーい」
コロコロと笑う
*
士郎はイリヤと共に、街に出ていた。
「製菓材料って、いろいろあるのね」
「まあ、うん、まあ。酒類だけでも、黒リキュールとか白リキュールとかブランデーとか山の様にあるからなあ」
「今日は何作るの?」
「そうだな……。酒を例に出したから、サバランでも」
その時、2人の魔術師的感覚に、強烈な魔力の反応が感じ取れる。周囲を警戒する2人。
「どっち?」
「あちらの路地裏だ」
「行く?」
「放置もできないだろう。このまま街中で暴れるとは思わないが」
そして士郎とイリヤは、路地裏に走り入る。そして彼らは、眼を見張った。紫のローブに黒いマントを羽織った、いかにも魔術自然とした女性が、血だらけの男を抱えて地面に座り込んでいたのだ。その女性は、士郎とイリヤを見つけると叫ぶ様に言う。
「あ、貴方たちは……! い、いえ、もうそんな事はどうだって……」
「……サーヴァント、キャスター、か」
士郎はコートの下に、学校の制服を
そしてその
そして第五次のキャスターは、衛宮家や遠坂家にも蝶の使い魔を以てして偵察を出していた。当初、蝶が昆虫であった事から、間桐の偵察かと誤認したこともあったが、それがおそらくはキャスターの物であることは既に判明した。魔力の質が、まったく異なっていたからである。
そしてその魔力とほぼ等質のチカラを放つ存在が、今眼前に居る。いや、チカラを放っているというよりも、キャスターの外縁は薄煙の様な物を魔力として蒸散させ、消滅しかかっているのだ。
「宗一郎様、宗一郎様を助けて! なんだってするわ! あなた方が聖杯を欲するなら、その力にもなる! そちらの軍門にも下るわ!」
「キャスター……」
「キャスター、悪いがそれはできない」
「何故!」
キャスターが抱えている男は、葛木宗一郎と言う。穂群原学園2年A組の担任教師で、柳洞寺に居候の様な形で居住している。……そしてその男は、おそらくはキャスターのマスター『であった』のだろう。
「……葛木宗一郎、葛木先生は、もう。……死んでいる」
「ひぅ……。あ。あ……。あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
絶叫するキャスター。このままでは、人がやって来るかも知れない。その時、イリヤが手元からカードを放つ。それはキャスターの胸元に突き立つと、キャスターを吸収して行く。
「間に合った……。キャスターが『脱落』する前に、封印できたわ」
「ありがとう
「
「……」
士郎が携帯電話で電話すると、やがてしばらくして、パトカーのサイレンが聞こえて来た。おかげで菓子の材料も買えず、しかも学校が集団の病気で休校している中の外出という事で、かなり警察官に怒られる事となったが。
なお、葛木宗一郎氏の死因だが、複数の刃物でめった刺しにされたと言うもの。かつて市内で起こった一家三人虐殺事件と同じ犯人あるいは模倣犯と思われた。だがおそらくその犯人は、英雄王ギルガメッシュ。あの男の、宝具乱射によるものだった。
桜、救われました。でも下手すると、一年間病気で休学、留年ですね。場合によっては退学して、この時代だと大検、現在ですと高卒認定試験ですが、受けた方いいかもです。理由がどうあれ、留年生には厳しい時代でしたからねえ……。学歴偏重ってのも……。
そして非合法合法合わせて間桐の事業とか乗っ取ります。これで資金に目途が付き、色々な研究と魔力確保に希望が見えて来ました。
そうしたら、ギルガメッシュが葛木先生をプチ殺してます。ブチ殺すんじゃなく、プチっと殺してます。その前に、佐々木小次郎(偽)はライダー消されて困った間桐さんたちによって、ハサン召喚の触媒にされてしまいました。