Fate/BlackRod   作:雑草弁士

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第9話 言峰綺礼の失脚

 士郎たちは家に戻る。遠坂主従は桜の世話の事もあり、周辺住民には言ってはいないが衛宮邸に泊まり込んでいるし、イリヤ一行も衛宮邸に住み込んでいる様な物なので、味方陣営は全員が衛宮邸に集まっていた。

 

 

「葛木先生が……」

「ああ。キャスターのマスターだった。ただし魔術師の素養は無い人だったから、召喚した人では無い。マスターと離れて『はぐれ』になったキャスターを拾った、というのが正しいところだろ。

 もっとも、それが原因で第四次のアーチャー、ギルガメッシュに殺されてしまったけど」

「キャスターの魔力収奪については、葛木先生知ってたのかしら」

「わからないなあ」

 

 

 そして話題は、慎二や言峰神父の事になる。

 

 

「だけど、英雄王は慎二をあくまでも仮だが、マスターとしている。本当は魔力供給してるのはおそらく言峰神父だろうけど……。いや、本当か?」

「どうしたのよ」

「いや、言峰神父は他にランサーを抱えてるんだぞ」

「「「「「「あ」」」」」」

「……魔力的に、言峰1人じゃ無理じゃね?」

 

 

 その言葉で、また何かを思い出したのか、アーチャーの顔色が真っ青になった。凛が問いただす。

 

 

「アーチャー、また何か思い出したのね!?」

「ああ。あの冬木の大災害で生き残った孤児たち……。わたしであったかも知れない、切嗣に拾われなかった孤児たちだ。それは言峰教会が経営する孤児院、今は児童福祉施設と言うらしいが、それに収容された、という事になっている」

「! ま、まさか!?」

「そのまさか、だ。わたしの歴史では、言峰は彼らを眠らせて点滴だけでかろうじて生かし、その魂を食わせて英雄王を維持している」

 

 

 その言葉に、士郎は無表情になる。だが既に、イリヤあたりを含めた仲間たちの多数は、この顔の士郎が怒っている事を理解していた。

 

 

「シロウ、どうするの」

「……まずは確証を掴まないとならない。異世界間で、誤差が出る可能性は高いからさ。場所は」

「礼拝堂の、地下だ」

「……なあ、遠坂。もし証拠を掴めたら、こっちの魔術師的にかなりアウトだけど、黙っててくれるか?」

「え゛……。何を?」

黒杖特捜官(ブラックロッド)的にはよくある事だけど、公安的な手法」

 

 

 そして士郎は、準備に入った。

 

 

 

*

 

 

 

 言峰綺礼が外食先から言峰教会に帰って来た時、そこは警察が封鎖していた。そして綺礼の姿を見るや、警官が鬼の形相でやって来る。綺礼は平静を装って訊ねた。

 

 

「何かあったのかね」

「……言峰神父。貴方の留守に、我々警察に追われた拳銃強盗団が言峰教会に逃げ込んだのです。そして我々は已む無く突入し……。礼拝堂の地下に、瀕死の状態で少年らが意識不明状態で捕らわれているのを発見したのですよ。調査の結果、彼らは言峰教会付属の児童福祉施設に収容されている孤児であった『はず』の子供たちです」

「……そうかね」

「言峰神父、児童虐待と監禁、その他諸々の疑いがあります。任意同行を、願えますか」

「了解した」

 

 

 そして言峰綺礼は連行される。そして罪状が確定次第に逮捕状が出て、彼は逮捕された。

 

 

 

*

 

 

 

 士郎は溜息を吐いた。

 

 

「予想外だ」

「どうしたのよ」

「遠坂、すまん。あいつがまともに逮捕されるとは予想外だった。逃走すると思ってたんだが。……倒しづらくなった」

 

 

 とりあえず士郎は、相手先が何度も偵察した言峰教会であり、機械的な仕組みでの偵察はこれ以上難しい事から、多少の危険は覚悟の上で適当な浮遊霊を捕まえて使役し、言峰教会の礼拝堂地下を探らせた。幸いにも浮遊霊にはことかかない地所であった事もあり、礼拝堂の調査は簡単に進んだ。結果、アーチャーの記憶通りに子供たちが監禁されていた事を確認する。

 ここに至り、士郎は非常手段を採る事にした。幸いと言っては何だが、殺人を犯した拳銃強盗が発生していたので、その犯人たち複数名をこっそり拘束して暗示処置を施した。士郎に拘束された記憶を消し、『うっかりと』警察に発見されて言峰教会に逃げ込ませる。そして抵抗中に、『何故か』祭壇の下に隠された隠し通路を見つけて、地下へ下りさせる。……そこで大立ち回りを演じさせ、警察官は彼らを逮捕すると同時に、言峰綺礼の悪辣な所業を発見したのだ。

 

 士郎曰く、『社会奉仕に対する脅迫観念を殖え込まれて菩薩(ボサツ)として一生過ごすか、三重絶対精神拘束(アジモフ・ゲアス)掛けられて生きたままロボットにされるよか、マシじゃね』との事だ。士郎言う所の公安の恐ろしさに、凛はビビったものである。そして緊急避難だから目を瞑るが、今後やらない様に、と言い含めた。

 

 

「ほんとに済まん遠坂。奴が英雄王ギルガメッシュとツルんでるって事は、アレだろ。第四次聖杯戦争で、おまえの親父さん。言峰に裏切られたって言うか、殺された可能性すら浮かび上がって来るんだが」

「確かに直接確かめるのは難しくなったわ。でも、この場合被害者救出が最優先の前提でしょ」

「いい奴だなあ、お前」

「まあそれに。こうなれば綺礼の奴は背教者よ。たぶん代行者が聖堂教会から送り込まれて来るわ」

「前言撤回」

 

 

 そして凛は、肩を落とす。

 

 

「そんなわけで、綺礼の阿呆はわたしの後見人だったからね。警察から、わたしにも呼び出し来てるのよ。綺礼に騙されたかわいそうな被害者として、色々と聞き取り受けて来るわ。

 いえ、ほんとに被害者なんだけどね。遠坂家の財産、綺礼に繋がりのある買い手に二束三文で売り飛ばされた可能性高いのよ。弁護士雇って、いくらかでも取り戻さないと」

「あー。言峰に繋がりある弁護士じゃ、まずいだろ。これまで遠坂家の後見人やってたんだから、そっちの弁護士じゃ。俺が遠坂と間桐の関係性調べたときの探偵と弁護士に連絡取ってやるから、そこからソッチ方面に強い弁護士紹介してもらえ」

「助かるわ……」

 

 

 そうなると、しばらく凛とアーチャーからの助けが得られない。英雄王をどうにかするには、アーチャーである英霊エミヤの助けがあった方が断然お得である。なので、とりあえずランサー対策を優先して行動する事になった。

 

 

「シロウ、ランサー対策はいいんだけど。肝心の大聖杯をどうするかは決めてあるの」

義姉(ねえ)さん。幾つか案はあるんだが。色々この5年調べまくったんだけどさ。聖杯戦争が起きてない間は、多少汚染の原因であるあの汚泥、動きが鈍いんだ。場合によっては、動きをまったく潜めてる時期もある。

 だから、この第五次聖杯戦争の時期が過ぎたらソレを見計らって大聖杯を、遠坂の指揮下で解体するとか」

「なるほど」

「だけどさ。60年周期のはずだったのに、10年で第五次起きたろ? それが不安でさ。だから次の作戦なんだけど。10年前のキャスターがやった事の焼き直しなんだが。テロを装って、円蔵山を爆破する。そんで大聖杯を粉々に」

「うわぁ」

 

 

 そして士郎は続けて語る。

 

 

「だけど、大聖杯に関してもう少し情報が手に入ればな。もしもうちょっと、大聖杯の構造的に弱い部分とか判明すればなんだが。リモコンの機械とか、ヘリとかその他使って、もっと小威力の爆発物運ばせる。魔力的とか霊的とかそういう手段は、できるだけ避けたいけどさ。爆発物使って、大聖杯をどうにか崩壊させれば。

 問題はさあ、円蔵山吹っ飛ばすのでも、小威力の爆発物で精密に大聖杯壊すのでも。その結果、大聖杯に貯まってる魔力、暴走しないかなあって。可能性は、そこそこにあるんだ。解体でも同じこと言える。『この世全ての悪(アンリ・マユ)』っていう意思に、魔力が染まってるからなあ。電気エネルギーとかだったら、意思は乗らないんだが。魔力じゃなあ……。扱いが難しいよ」

「シロウ……」

「でも、やらんとヤバい。より一層ヤバい。仮に暴走しても、汚染聖杯が完成しちまうよりは確実にマシだ」

 

 

 しかしながら、大聖杯を解体するにせよ破壊するにせよ、言峰の勢力が妨害して来る可能性は高い。言峰は逮捕され収監されているが、監房の中からサーヴァントに指示を出して、こちら側を妨害して来る事もできるのだ。

 

 

「あー、ある意味下手打った。素直にカチコミかけてりゃ良かったかも知れん」

「仕方ないよ。意識不明のやせ細った子供たち保護しても、今のシロウの設備規模じゃどうしようも無いよ。サクラ1人でどうしようもないじゃない」

「ありがとう義姉(ねえ)さん……」

 

 

 ちなみに士郎の地下工房で医療ポッドに突っ込まれている桜の面倒は、セラとリズに頼んである。さすがに野郎である士郎には、無理な事は多々あるのだ。

 

 

 

*

 

 

 

 そして数日後の深夜、士郎はランサーを発見した。言峰神父、いや罪を認めている事が公表された時点で、既に教会からは破門されているので神父では無いが、彼は冬木警察署に収監されているままである。近日中に拘置所に送られるはずであるのだが。ランサーは警察署の周辺を周回する様にうろついていたのである。

 

 

「……何やってんだランサー」

「!? てめえ、どうやって俺見つけた」

 

 

 ランサーがそう言うのも無理は無い。士郎に声を掛けられるまで、ランサーは霊体化していたのである。

 

 

「いや、霊体化してたって、()えるし」

「うっそだろ……」

「いやホント。……言峰の命令か?」

「ち。知ってやがったのか、あのクソマスターの事」

「他人からお前さんが奪われたってのも知ってる。誰から奪われたかまでは知らんけど」

「くそ」

 

 

 士郎はため息交じりに言う。

 

 

「ふう。俺たち、義姉(ねえ)さんと手分けしてお前探してたんだ。お前、言峰を脱走させるために近くに居るんじゃないかってな」

「残念だが違うぜ。奴はかえって周囲から警察が守ってくれそうだってんで、しばらくは動く気が無え。ただ、代行者の襲撃だけはヤバいって、俺に周辺警戒させてやがんだ」

「なるほど。たださ。霊体化してると、一部の代行者は霊体に対する攻撃力もあるらしいぞ? 詳しくは知らんけど」

「うげ」

 

 

 そして、士郎の後ろからセイバーが歩み出る。

 

 

「ランサー、さてどうします? こういう事象の際は逃げろ、とか『令呪で』無理に命令されたりしていますか?」

「……いや。流石にバゼットから奪った令呪の数は、もうそんなに無えはずだ」

「バゼット、それが」

「ああ、元のマスターだ。……そう言うからには、お付き合いいただけるんだよ、なっ!」

 

 

 そう言うと、ランサーは赤い魔槍を取り出して構える。セイバーも見えない大剣を構えた。

 

 

「わたしの方は、マスターと共に戦わせてもらいますが。卑怯とは言うまい、な」

「言わねえよ。ああ、これだこれ。こういうギリギリの戦いをするために、俺は召喚に応じたんだ!」

「……そっか。今まで不幸だったな、ランサー。んじゃ、行くぞ」

 

 

キュキュキュン!

 

 

 士郎の簡易型呪力増幅杖(ブースターロッド)が絶叫を上げた。次の瞬間、士郎の姿は変わる。黒い装甲革ブーツ。黒い装甲革手袋。黒い革ズボン。黒い革ジャン。黒い革コート。霊視眼(グラムサイト)付き黒い制帽。そしてフルサイズの長大な呪力増幅杖(ブースターロッド)。完全武装の黒杖特捜官(ブラックロッド)スタイル。

 ランサーと、セイバーに士郎は、双方とも必殺の念を込めて駆け出した。いや、士郎たちの側は殺したらまずいんだが。

 

 

 

*

 

 

 

 ランサーが繰り出した、突き穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)を、更に強力な因果逆転で抗呪詛(カウンターカース)効果を込めた呪文で無効化して阻止した士郎は、ランサーがセイバーに袈裟懸けに斬られて倒れるのを見た。ちなみにその無駄に強固な呪文は、当然ながら呪文編纂機(スペルコンパイラ)で創造した呪文である。普通持ってる呪文は、汎用性を大事にしているのが一般的で、こんなニッチな要素に満ち溢れた呪文は普段用意していない。

 

 

「ヤバ! ランサー、まだ生きてるか!? 生きてるって言ってくれ!」

「ぐふっ、なんで俺の命の心配、して、やがるんだ手前(てめえ)のマスター、はよ」

「ああっ! すみませんシロウ! 強敵で手加減できませんでした!」

「い、いや、手加減なんてされたか無えし……。楽しか、ったぜ……」

「ああ!? まだ死なないでくださいランサー! 空気読んで! 戦闘続行スキルはどうしたんですか! し、シロウ!」

 

 

 士郎は慌ててカードを投げた。消えかけたランサーに突き立ったカードは、ランサーを吸い込んで行く。

 

 

「間に合った!」

「よかった!」

「何を、言って……」

 

 

 それがランサーの最期の言葉であった。いや、死んでないから、最期ではない。まあ最後ではあるかも知らんが。最期とは、死に際、という意味であるのだったりする。よく勘違いされているが。

 

 

槍騎士(ランサー)、クー・フーリン。きちんとカードに封印できたな。あー、ある程度弱らせないといけないって、自分で作っててダメだろ、このカードさ。いや、仕方ないんだけどさ。サーヴァントって、けっこう強力な存在だから」

「まあ、英霊の座からその存在の一部をコピーして降ろしてきた代物ですからね」

義姉(ねえ)さんに電話で連絡取らないとな。ランサー捕らえたって」

 

 

 そして士郎たちは帰途に就く。残すは英雄王ギルガメッシュ。不幸中の幸いか、ギルガメッシュは受肉しているらしい。つまりあの暴虐的な破壊力を示すには流石に魔力供給が必要だが、仮に言峰が代行者に殺されたとしても、おそらくは消えずに済むだろう。つまりは、『脱落』して『敗退』しないのだ、聖杯戦争的に。

 イリヤ達と合流した士郎たちは、夜の街を歩いて行ったのである。

 

 

 

*

 

 

 

 今、士郎はCADソフトを自作PCで起動して、大聖杯の構造を検証していた。これまでラジコンに積んだカメラで撮影した映像複数や、8mmカメラで撮影した物から、泥の合間から見えた構造物をCGに起こす。

 

 

「……多少は見えた、か。これから魔術的な意味合いを逆に演算して……。なあ義姉(ねえ)さん。これ見てくれ。姉さんの知識にある大聖杯と、コレ同じか?」

「え。わたしも全部知ってるとは言えないけど。……え゛。どうやったのコレ。知ってる部分はだいたい同じよ」

「計算した。パソコンで」

「かがくのちからって、すごい」

「いや、俺は魔術も科学の一部だと思ってるからな。前に説明したろ」

「そうだったわね」

 

 

 そして士郎は、マジな目になる。

 

 

「こうなれば、大聖杯にリモコンで爆発物を送り込んで、最小の威力で崩壊させられるかも知れない」

「今までは、大出力の荷電粒子砲呪文で円蔵山まるごと吹き飛ばすのが最有力だったものね」

「それで、上手くいけば聖杯の貯蔵魔力だけど。実数空間、この世界だけど、それに撒き散らされたらかなりの爆発力だ。だけど、爆破タイミングをこの様にコントロールすれば……。虚数空間にエネルギーが全部逃げる。

 それで義姉(ねえ)さんに聞きたいんだけどさ。アインツベルン形式の魔術で、虚数空間にエネルギー吹っ飛ばしたら、無事かなーって。俺も虚数空間に余剰エネルギー捨てるのはよくやるけど、小規模だけなんだよな」

「え゛。……ちょっとまってね。セラにも聞いてみる。……これは知ったかぶり、できないわよね。下手したら災害になるもの」

 

 

 彼らは綿密に意見交換をしつつ、汚染された大聖杯をどうにかする方法を考え、進めて行った。




ランサーが死んだ! (死んでません)ひとでなし!
と言うか、言峰はこうなった以上、警察に捕まったままの方が生存確率高そうだという事に、自分で気づいてます。まあ逃げる方法も色々考えてもいますし、でもなんか高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応するしかないかなとも思ってます。
そしてギル亀ッシュ。とりあえず黄金律で何故か集まった金で、慎二に贅沢させてますが、そろそろ慎二に飽きて来てます。まあ、うん、まあ。慎二もね。アレですし。

そして三重絶対精神拘束(アジモフ・ゲアス)
第一条:自分以外の人類に危害を加えてはならない。また危険を看過してもならない。
第二条:第一条に反しない限り、自分以外の人類の命令を聞かねばならない。
第三条:第一条、第二条に反しない限り、自分を護らねばならない。
こんなギアス組まれたら、つらたん。
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