間桐慎二の葬儀が行われた。ひき逃げに遭ったらしいのだが、目撃者は居るものの、彼らはパニックになっており、更に全員酔っ払いで証言が一致しない。死体の状態はあまりにも酷いもので、胸板から上が千切れる様な形で消え失せている。その部分は何処にいったのか不明で、今も警察犬などを使って捜索が進められていた。
「誤魔化すの、大変だったなあ……」
「適当な事故現場、魔術で偽装して……」
「近くにいた、酔い潰れた酔っ払い探して暗示で目撃者に仕立てて……」
士郎、イリヤ、凛は間桐邸で葬儀の手伝いをしつつ、
ちなみに凛と士郎は仲が良かった(大嘘)同学年の友人として、イリヤは士郎の親類で間桐とも縁深いアインツベルンの人間として、葬儀の手伝いをしている。鶴野はかろうじて残されたまともな意識の中で、衛宮家をアインツベルンの係累と認識した様だ。
「間桐慎二、成仏しなくてもいいが成仏しろよ」
「酷いやつねー」
「だって、なんか嫌じゃん、あいつ」
士郎は身も蓋も無い事を言いつつ、葬儀の段取りを進めるのだった。
*
慎二の葬儀が終わり学校も再開された数日後の土曜日。今日は円蔵山の大聖杯を爆破解体する日だ。ラジコンヘリ、それも電波が遠くまで届く様に電波法違反の違法改造された機体で、秘密裏に裏ルートから購入したプラスチック爆薬を限度いっぱいの重量まで運ばせる。
「俺もラジコン操縦、上手くなったなあ。洞窟内は昔は上手く飛ばせずに、いったんラジコンバギーに切り替えたもんだったが」
「あ、見えて来たわね」
「あれが大聖杯……。うわ、ラジコンヘリのカメラから見るだけでヤバいわね」
士郎はラジコンヘリを、大聖杯の所定の位置まで突っ込ませる。そして凛に声を掛けた。
「遠坂、これ良かったら、ボタン押すか?」
「下準備、全部あんたでしょ? わたしがやっていいの?」
「いや、遠坂も冬木のセカンドオーナー、だっけ? その責任とか感じてるんじゃないか、って。
「そっか」
そして凛は、一瞬瞑目するとカッと眼を見開き、気合を入れてボタンに指を乗せる。
「お父さま。これで、冬木の聖杯戦争は終わりです。その事については申し訳なく思っています。ですが、これほどまでに発展し開発し尽くされた時代に、聖杯戦争は合わないのでしょう。夜でも人多いし、サーヴァント戦ったら魔術の秘匿も何もあったもんじゃありません。
それに、聖杯は汚れてしまった。冬木のセカンドオーナーとして、これを放置してはいられません。……いきます」
ぽちっと音を立てて、ボタンが押される。その瞬間、汚泥を至近距離で映し出していたカメラ映像がブツリと切れた。何かに反応したかの様に、士郎は家の外に走り出る。他の皆も、それに続いた。
超遠距離の視力を持つ、アーチャーが叫ぶ。
「な! 円蔵山が! 崩れる!」
「なんだって!」
一同の視界の中で、円蔵山の一部、柳洞寺と参道のあるのとは反対側の斜面が、ガラガラと崩れて行くのが見えた。たぶん、柳洞寺ではけっこうな地震に見舞われた状態になっているだろう。
そして急ぎ
「計算ミス、か? いや、それは無い。だったらタイミングのズレだ。それで、虚数空間に逃げる予定だった魔力のごくごく一部が、実数空間にバラ撒かれた」
「た、タイミングのズレ!?」
「リンがなんかウダウダ言ってたから!?」
「え゛! わ、わたしのせい!?」
「いや、これは俺にも責任が大きい。俺、ボタンを渡したらすぐ押すと思い込んでたんだ。あらかじめ遠坂に注意しておけば」
そこへセイバーが、建設的な意見を出す。
「シロウ、とりあえず警察と消防、救急に連絡するべきでしょう。二次被害を食い止めなければ」
「わ、わかった! 俺は警察に、遠坂は消防、救急に頼む!」
士郎は携帯電話で、警察に電話した。すぐに相手が出る。
「はい、こちら110番……」
「大変です! こちら○○県冬木市の衛宮と申しますが、今突然地震みたいな地響きが聞こえて、外に出たら、円蔵山が崩れていたんです! 円蔵山には柳洞寺があるんで、お坊さんたちが心配です! 至急、何の手配になるかわかりませんが、手配お願いします!」
一方で、凛もまたその背後で消防、救急を手配していた。時間が経過して、柳洞寺に続々と救急隊員やレスキュー隊員が走り込んで行く。後日判明した事だが、幸いにも負傷者は少なく、死者は居なかった。ただし柳洞寺の墓地に墓石がひっくり返るなどの多大な被害が出ていた。檀家には、その修理のためにかなりの額の寄付がお願いされた模様。士郎も凛も、元凶の一員であるがため、素直に大枚を支払ったのである。
*
翌日の日曜日、彼らは再度衛宮邸に集まり、胡乱な顔でTVを見つめていた。ちなみに大聖杯を爆破したため、アーチャーとセイバーとバーサーカーには既に聖杯からの魔力供給は無い。それ故に、士郎とイリヤ、それに凛は衛宮邸地下の衛宮士郎工房に備え付けの、電気式魔力炉から魔力をいったん各自の身体に送り、そこから各サーヴァントに魔力を転送していた。
凛がため息の様に言った。
「電気式魔力炉、かあ。衛宮君、
「あのなあ。電気代かかるぞ、阿呆みたく」
「そうなの!?」
「今俺ん家の電気式魔力炉で一括してやってんのは、各自の家に1基ずつ魔力炉置くより機材的にも電気代的にも安上がりだからだ」
そこへイリヤが口を挟む。
「わたし、電気代の一部をシロウに払ってるわよ。リンは?」
「う、ぐぐぐ……。い、いくら?」
「こんだけ」
ぐげっとカエルを踏み潰したかの様な、淑女では断じて無いうめき声が、凛の喉から漏れる。
「え、衛宮君。とりあえず、今年分の上納金、半額でいいわ」
「了解。後で契約書取り交そう」
TVでは、円蔵山崩落事故を繰り返し流している。どうも爆発物の反応もあった様で、10年前に円蔵山を砲撃すると予告して失敗し、未遠川の川辺でおそらく大砲を操作ミスか何かで爆発させてしまったと思われる、●●解放戦線とか言うテロ組織との関連性が予想されている。……いや、10年前のテロ未遂は、当時キャスターであった今の士郎の半分がやった事であるので、完全に関連性はあるのだが。
そうやって皆が重苦しい気分でTVを観ていると、突然別のニュースが飛び込んで来る。
『たった今入ったニュースです。冬木市警察署に逮捕拘留され、昨日拘置所に移送途中であった言峰綺礼容疑者が、移送中に不審死していた事が判明いたしました』
「「「「「「はぁ!?」」」」」」
『昨日の13時22分、拘置所に移送中だった言峰容疑者ですが、突然身体を硬直させて急死した模様です。司法解剖によりますと、心臓が破裂していた模様ですが、不可解な事に昨日今日に破裂したとは思えない状況であった様で……』
凛が叫ぶ。
「な、何なの!? 綺礼の奴が、死んだ!?」
「13時22分と言えば、俺たちが円蔵山の大聖杯を爆破した時刻だ」
「そうだな、衛宮士郎。それには何がしかの関連性が……。あ」
「「「「「「アーチャー!」」」」」」
「う、うむ」
「アーチャー、貴方また何か思い出したのね」
「今更だが、な」
そしてアーチャーは、言峰に関しての追加情報を語った。それは以下の様な物である。
「あの男は、爺さん……衛宮切嗣に、10年前の第四次聖杯戦争にて心臓を撃ち抜かれ、射殺されていたらしい」
「それが何で今まで生きていたのよ」
「現場が、聖杯の降臨場そのものでな。その場はすぐに聖杯の泥で埋め尽くされた。そして言峰と泥はよほど相性が良かったのだろうなあ……」
アーチャーは遠い目になる。深いため息付きで。
「聖杯の泥が、言峰を生かしたのだよ。壊れた心臓の代わりにな」
「「「「「「……あー」」」」」」
一同、ことに一度でも言峰と面識のある人間は、深く理解した。あの言峰からしても、聖杯の泥からしても、互いは互いに変な言い方だが『認め合う』存在だったのではないだろうか。
そこで凛が真っ青になる。
「まずい、まずいわ。言峰の心臓が昨日今日に壊れたんじゃないって事がニュースで流れちゃった。神秘の秘匿に、やばいダメージじゃないの。魔術協会からクレームが来るわ」
「……よし、裏で偽情報を流そう。言峰が、いわゆる死徒だったみたいに。それも不完全で、それのバランスが崩れて今死んだ、みたいに。
これなら文句は全部、少なくとも大半、教会に行く。あとは教会が頑張ってくれるさ。今回言峰が警察に捕まったのだって、大問題なんだ。潰れかけたメンツを、せいいっぱい繕ってくれるさ」
「どうやって情報流すのよシロウ」
「
ひきつる凛だったが、否応なしに資金を出さざるを得なかった。こうして言峰の経歴には、いつの間にか死徒にされていた元代行者という不名誉まで刻まれたのである。ただ、それを見抜けなかった事については、ちょっとだけ凛にクレームが来たのは、笑い話で済むレベルだろうか。ぎりぎりで。
*
1年と少し後。凛は穂群原学園を卒業し、
「じゃあ衛宮君、イリヤ。アーチャーの事、よろしくお願いね」
「まかせろ遠坂。俺にとって、年齢の離れた双子みたいなもんだからな」
「わたしにとっても、別次元の義弟だもの」
アーチャーとセイバーは、先日に受肉を果たしている。ようやくの事で、間桐から乗っ取った事業を発展させて発電関係にも食い込む事に成功し、ここから少し離れた海辺に波力発電の実験施設を建設したのだが。その電力を魔力に変換する事で、アーチャーとセイバーへの魔力供給を代行。更には受肉措置に必要だった魔力も得られたのである。
ちなみに2人は、波力発電所に寝泊まりしている。現状の受肉術式の完成度だと、あまり魔力源から離れるのはお勧めできないのだ。だから本日も、凛の見送りには来れていない。2人とも残念がってはいたが。
そして凛が乗った飛行機を見送ると、士郎とイリヤは伸びをした。
「ん~、行ったな。次はいつ帰って来るやら」
「でも、約束があったセイバーはともかく、アーチャーが受肉して残るとは、ちょっと不思議ね?」
「なんかセイバーが心配だとさ。あいつが俺だった頃、あいつも聖杯戦争のマスターとしてセイバーと共に戦ったんだが、そのセイバーも自身が聖杯に賭ける願いの事で苦しんでたらしくて」
「ふうん?」
「その苦しみを救ってやれなかった事が、英霊エミヤにとって狂おしいほどの心残りだったんだってさ」
それを聞いて、イリヤは笑う。
「なるほど。それでバーサーカーは受肉を望まなかったのかもね。なんか受肉するかって聞いたら、首を左右に振るんだもの。驚いたわ」
「ああ、2人っきりにしてやるべきだってか。まあバーサーカーも、理性はともかく知性はあるみたいだったからな。最低限の判断力も。ときどき、そんな気配が見えた」
士郎はイリヤと連れ立って、空港のエスカレーターを下りて行った。今晩のご飯は、セラが勉強して免許を取ったので、フグ刺しとフグちりである。流石の士郎でも、勉強と研究と事業の経営と投資と他色々で、料理は得意ではあるがそちらにそこまで時間を割けない。フグ調理師免許はさすがに取れなかった。普通の調理師免許と製菓衛生士の免許は、なんとかして取れないか、と思ってはいるのだが。
*
今日は、士郎とイリヤの結婚式だ。というかこの後、披露宴である。そう、イリヤは本日をもって、イリヤスフィール・衛宮となった。イリヤが身体の事情で、成長が止まってしまっているというのは、参列者だけでなく士郎が代表を務めるコングロマリット関係者なら周知の事実だ。まあその身体の事情が、魔術関係であるというのは極秘中の極秘なんだが。
「ついに、かあ」
「どうした、
「いや、なんか感無量だなって。士郎がアインツベルン本家と
「まあ、あっちは第七百二十六号聖杯が消滅した事で、家全体が機能不全起こしてたからなあ。
「これだもの」
コロコロと鈴の音の様な声で笑う、イリヤだった。だが少しだけ、表情が曇る。
「でもなあ。子供はやっぱり、無理だろうなあ」
「いや、作ろう」
「え」
「
「シロウ……」
子供ができるなら、衛宮切嗣の魔術刻印ももしかして受け継がせられるかも知れない。イリヤの心残りは、このよくできた
「でも、セイバーとアーチャーにも、出席して欲しかったね」
「あの2人は、特にアーチャーが頑張ったからなあ。セイバーの願い、聖杯に賭けた願いが間違ってるって事を、セイバーに納得させられた。そして彼女は自らの大元、カムランの丘へ帰って行った。
そしてアーチャーもまた、セイバーを救えた事に納得して、英霊の座に還った。馬鹿だよなあ。あのままこの世界に居れば、すくなくともあの分霊はアラヤに
「それがあの黒いシロウの、けじめなのよ。それと、少し話してくれたわ。わずかでも、また聖杯戦争に召喚されたりなんかの時に、その時代のシロウを教育して、自分の間違いに進まない様にしてみせるって」
そして2人は、披露宴会場へと向かう。凛や桜、藤村のねえさん、かつて生徒会長だった柳洞一成や、同級生だった後藤君、他高校大学時代の友人やコングロマリット代表に就いてからの取引先や部下、その他色々が、拍手で迎えてくれる。
こうして、冬木の聖杯戦争により苦難に巻き込まれた子供たちは、とりあえずの大団円を迎えたのだった。
まだ終わりじゃないぞよ。もうちっとだけ続くんじゃ。おそらくあと1話ぐらい。