突如現れたキャスター
「のう、お主。
「ある」
「論拠の最たるものは、我の存在だ。我は本来、聖杯戦争のサーヴァントとして
「
「一介の、公務員だ」
唖然とする一同の中で、ライダーが己のマスターであるウェイバーに小さく訊ねる。
「あやつの能力はどんなもんじゃい」
「一部は、み、見えない。なんか魔術的手段で隠蔽してるんだと思う。けど、能力値のステータスは見せてる……。た、たぶん、動き回れば能力値、見せてなくてもバレるから。
全部、全部の能力がB以上だ。一部B+とかB++が見える。ただ1つだけ、魔力のランクが……EXだ。ば、バケモンだ」
「ほおう……。お主、十二分に英雄の域に居るではないか」
「能力値の高さだけで、英雄が決まるわけではなかろう」
「ま、そりゃそうじゃが。……お主、わしの配下としてわしの偉業を支える気は無いかの? 今なら宮廷魔術師の座は空いておるぞ」
だが
「申し訳無いが、お断りさせていただこう。我は器が小さいのでね。爆発するマグマの皮一枚上に居るかもしれぬのに、その上で踊る趣味は無いのだよ。それに我は既に公僕だからな」
「……そこまで危険かもしれんと?」
「そうだ。第七百二十六号聖杯は願望器の能力を備えた危険物。それが正しく動作しない可能性がある以上、もしもそれが滅び等の方向性に向かい力を発揮してみたまえ。たまった物ではない」
そこへ金ピカのアーチャーが口を挟む。
「ふん、なんだかんだ言っても、それは貴様個人が言っているだけに過ぎまい。明確な確証はあるまいが」
「その通りだ。我は自身の魔術的観測手段で、既に第七百二十六号聖杯の挙動が怪しい事を掴んでいる。しかしそれが魔術的手段、我と言う属人的手段による物であるが故に、他者に対しての決定的証拠とは相成らぬ。いくらでも、我の都合で改変が叶うものだからな。故に我は論拠として、我そのものが
もし我が英雄たる存在であるならば、自身を英雄ではないと断ずる事などすまい? 自身の誇りにかけて、な。だが、あえて言おう。我は英雄ではない。英霊では無い」
「ふん、鼠が」
そして金ピカアーチャーは踵を返す。
「ち、興が削がれたわ。次に
金ピカアーチャーの姿が消える。霊体化して離脱したのだ。ライダーが語る。
「どうやら、金ピカは信じなんだ様だな」
「その様だ」
「……わたしも信じられぬ。貴様自身が言った通り、魔術的観測手段は貴様の都合で、いくらでも誤魔化しが効く」
「もとよりわたしが誓うのは、わが今生での主に勝利をもたらす事のみだ。貴様の語る口が真実か否かは、聖杯を取るための姦計でないと言い切る事はできぬだろうて」
セイバーとランサーもまた、信じなかった模様だ。そしてバーサーカーだが……。
「……
「!?」
「……
地獄から響いたかの様なうめき声を上げ、突如としてセイバーたる
「な!」
セイバーは驚愕した。どうにかぎりぎりで右手だけで操った
「……そういう事か。あの黒いのが掴んだものは、何であれ
溜息の様に語ったのは、やはりと言うかライダーである。その傍らでは、子羊の様にウェイバー君が震えていたりした。一方で、片腕のセイバーではその攻撃をいなすのは、徐々に難しくなって行く。しかしながらそこへランサーが割って入った。魔力を断つ長槍、
「悪ふざけはその程度にしておいてもらおうか。バーサーカー。そこのセイバーには、この
俺と先約があってな。……これ以上つまらん茶々を入れるつもりなら、俺とて黙っておらんぞ?」
「ランサー……」
あまりにも、あまりにも正々堂々。この槍の騎士の高潔さに、心打たれない者は多くないだろう。だが少なくとも1人、そうでは無い者がいる。よりにもよって、ランサーのマスターだ。
『何をしているランサー? セイバーを倒すなら、今こそが好機であろう』
「セイバーは! 必ずやこのディルムッド・オディナが誇りにかけて討ち果たします! お望みなら、そこな狂犬も先に仕留めて御覧に入れましょう! 故にどうか、我が主よ! この私とセイバーとの決着だけは尋常に……」
『ならぬ。ランサー、バーサーカーを援護してセイバーを殺せ。
「「!!」」
あまりにも無慈悲なマスターの言葉。令呪とは、聖杯戦争に於いてマスターが持つ、己のサーヴァントに対する3回までの絶対命令権。マスターの命令をサーヴァントの意思を無視して絶対に聞かせるだけでなく、サーヴァントの意思に沿って命令を実行させた際には大いなる
だがランサーのマスターは、その貴重な3回限りの1回の手札を、あまりにも勿体ない使い方をして見せたのだ。よほどにランサーとそのマスターの間には、信頼関係という物が存在していないに違いない。
「……セイバー。……済まんッ!!」
「ランサー……」
刀身こそ見えねど両手持ちの大剣を右手のみで扱うセイバーには、もはやランサーの縦横無尽の双槍と豪風のごときバーサーカーの攻撃とをどうにかできるはずも無い。せめて両手が使えるならば。まだどうにかできる可能性もあったのだが。
キュキュキュン! キュキュン! キュキュキュキュン! キュンキュキュン!
数度、レコードの早回しの様な音が鳴った。そしてセイバーの剛剣が振るわれ、ランサーが望んでいない、言うならば魂が入っていない2つの槍撃を軽々と打ち払う。そしてバーサーカーの短くなった街灯ポール残骸による攻撃も、また同様に。
「これは!」
「きゃ、キャスター!? 貴様、いや貴殿が!?」
ランサーとセイバーの2つの驚きの声が響く。そして
「げぇっ!?」
「どうした小僧」
「きゃ、キャスターの筋力と耐久と敏捷が! 全部、全部A++に跳ね上がってる!」
「キャスター! これは!?」
「
「何故わたしを!」
「先ほども言った。我が望んでいるのは、聖杯戦争の最低でも一時休止。だがここでセイバーが倒されてしまえば、聖杯の現出が進行してしまう」
そして
「セイバー、バーサーカーを。可能であれば、倒さずに」
「貴殿は」
「ランサーを」
そしてランサーがセイバーに襲い掛かる。本来なら対峙している
キュキュンキュン!
「な、何をした貴様……」
「……
「「「『な!?』」」」
ウェイバー、ランサー、セイバー、そしてランサーのマスターの驚愕が、叫びとなって響く。ライダーだけは、『いや、やはりあ奴、欲しいのう』とニヤニヤ笑いを浮かべていたが。
「……さて、どうするね? ランサーのマスター。もう一度、令呪でランサーに命じるかね? そうであれば、また我がそれを
『ら、ランサー! 撤退、撤退だ!』
「はっ、主よ! ……キャスター、礼を言っておこう。だが貴様を信じたわけではない。セイバー、勝負は預けたぞ!」
そして疾風の速さで、ランサーは消える。駆け去るその後ろ姿が、霊体化して消失。残るは今なおセイバーに突きかかるバーサーカーだ。
キュキュキュンキュン!
そしてまたも
「……
「おっと、セイバー。これ以上はバーサーカーへの攻撃を避けてもらえると有難い。バーサーカーも倒されてしまっては、聖杯の現出が進むので、ね」
「……どうするつもり、だ」
キュキュン!
今度
「バーサーカーを、何処か手出しできない遠くへ捨てる。とりあえず、我の言う事は誰にも信じてもらえない模様だからな。何か方法を考えるまでだ。さらば、だ」
「あ、待……」
ここ冬木市は、濃い地脈の上にある。霊脈の上にある。だからこそ、第七百二十六聖杯を設置した過去の魔術師たちが、ここに聖杯戦争を設定したのだ。ここに聖杯を置いたのだ。故に、
いや、普通にまともな空間転移は、下手をすると魔法の域に近い大魔術だ。こんなに手軽に行える物では無い。
そしてその場に残されたセイバー一行とライダー一行は、そのまま戦闘に入る事も無く解散する事になる。やはり戦いには、メンタルという物が大事であるのだ。仮にセイバーがやる気になったとしても、ライダーの方にやる気が無く、そうなればライダーの宝具である戦車、
*
「はぁ……。なんだよ、まったく。ああ言った奴らと話すのは、普通の口調じゃ侮られるだろうから、偉そうにしたけど。疲れるって。僕のキャラじゃ、無い。
あー、なんか方法無いかな。あいつらに、ここの聖杯が変だってのを納得させる方法。……とりあえず、まあ調べるだけ調べとくしか無い、かな。だけどなあ。なんかヤバい感じあるんだよ……。困った事だ」
彼は当初より、自身をサーヴァントとしてこの世界に現出させた聖杯に、疑念を抱いていた。そして聖杯のシステムを色々と調べてみたのである。そうして、幾らかの成果は得られた。
「……セイバーのマスターを装ってた女、あれはセイバーのマスターじゃない。別にマスターがいる。
だけどあの女がセイバーと何の関係も無いかって言うと、そうでもない。と言うか、あの女は全サーヴァントと繋がりがあった。あの女の体内に、聖杯の一部、小聖杯が存在する。敗退したサーヴァントは、アレに引き寄せられ、その霊はアレに収容される」
だがそこで、
「だけどな。あの円蔵山……。あそこに大聖杯があるのは間違い無い。無いんだ、が。魔術的手段であそこ調べるの、極めて危険そうなんだが。僕がサーヴァントの身だからこそ、ヤバ過ぎる。
こうして超遠距離から、魔術的に見てみてるだけで、ヤバさが伝わって来る。というか、幾重もの耐汚染処理して、はじめてまともに見られるぐらいだ。ほんとはあそこにある柳洞寺の僧侶らを洗脳し、あそこに工房築こうかと思ったんだがな。一見あそこは有利そうだし便利そうだったけど、下手すると一気に飲み込まれかねない。確率は低いけれど」
まだ円蔵山の深くに隠されている大聖杯は、活性化していない。だから調べるのは今のうち、という事でもあるのだが。それでもサーヴァントの身で手を出すのは
「……現金が欲しい。どうにかして
科学技術に偏見を持つこの世界の魔術師が聞いたら、目を剝きそうな事を呟きつつ、
やはり霊体が実体化してる上に、聖杯とリンクしているサーヴァントの身だと、