Fate/BlackRod   作:雑草弁士

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第2話 無双し切れない男

 突如現れたキャスター黒杖特捜官(ブラックロッド)に対し、最初に動いたのはやはりライダーであった。彼は(おもむろ)に話し掛ける。

 

 

「のう、お主。黒杖特捜官(ブラックロッド)とか言うたのうキャスター。何やらこの地に我らを招いた聖杯に、何かしら瑕疵(かし)がある、じゃと? なんぞ論拠でもあるんかの?」

「ある」

 

 

 黒杖特捜官(ブラックロッド)は語る。呪的発声(ハード・ヴォイス)は既に使っていないが、それでも彼の声には何かしらの重みという物が感じられる。

 

 

「論拠の最たるものは、我の存在だ。我は本来、聖杯戦争のサーヴァントとして召喚()ばれるはずもない存在である。にもかかわらず、今我はこうしてこの場に、キャスターとして立っている」

召喚()ばれるはずもないと……。お主、いったいナニモンじゃい」

「一介の、公務員だ」

 

 

 唖然とする一同の中で、ライダーが己のマスターであるウェイバーに小さく訊ねる。

 

 

「あやつの能力はどんなもんじゃい」

「一部は、み、見えない。なんか魔術的手段で隠蔽してるんだと思う。けど、能力値のステータスは見せてる……。た、たぶん、動き回れば能力値、見せてなくてもバレるから。

 全部、全部の能力がB以上だ。一部B+とかB++が見える。ただ1つだけ、魔力のランクが……EXだ。ば、バケモンだ」

「ほおう……。お主、十二分に英雄の域に居るではないか」

「能力値の高さだけで、英雄が決まるわけではなかろう」

「ま、そりゃそうじゃが。……お主、わしの配下としてわしの偉業を支える気は無いかの? 今なら宮廷魔術師の座は空いておるぞ」

 

 

 だが黒杖特捜官(ブラックロッド)はこの誘いを謝絶する。

 

 

「申し訳無いが、お断りさせていただこう。我は器が小さいのでね。爆発するマグマの皮一枚上に居るかもしれぬのに、その上で踊る趣味は無いのだよ。それに我は既に公僕だからな」

「……そこまで危険かもしれんと?」

「そうだ。第七百二十六号聖杯は願望器の能力を備えた危険物。それが正しく動作しない可能性がある以上、もしもそれが滅び等の方向性に向かい力を発揮してみたまえ。たまった物ではない」

 

 

 そこへ金ピカのアーチャーが口を挟む。

 

 

「ふん、なんだかんだ言っても、それは貴様個人が言っているだけに過ぎまい。明確な確証はあるまいが」

「その通りだ。我は自身の魔術的観測手段で、既に第七百二十六号聖杯の挙動が怪しい事を掴んでいる。しかしそれが魔術的手段、我と言う属人的手段による物であるが故に、他者に対しての決定的証拠とは相成らぬ。いくらでも、我の都合で改変が叶うものだからな。故に我は論拠として、我そのものが召喚()ばれたという事実で話している。

 もし我が英雄たる存在であるならば、自身を英雄ではないと断ずる事などすまい? 自身の誇りにかけて、な。だが、あえて言おう。我は英雄ではない。英霊では無い」

「ふん、鼠が」

 

 

 そして金ピカアーチャーは踵を返す。

 

 

「ち、興が削がれたわ。次に(オレ)と相まみえるまでに、真に英雄と呼べるものだけを選りすぐって置くがいい」

 

 

 金ピカアーチャーの姿が消える。霊体化して離脱したのだ。ライダーが語る。

 

 

「どうやら、金ピカは信じなんだ様だな」

「その様だ」

「……わたしも信じられぬ。貴様自身が言った通り、魔術的観測手段は貴様の都合で、いくらでも誤魔化しが効く」

「もとよりわたしが誓うのは、わが今生での主に勝利をもたらす事のみだ。貴様の語る口が真実か否かは、聖杯を取るための姦計でないと言い切る事はできぬだろうて」

 

 

 セイバーとランサーもまた、信じなかった模様だ。そしてバーサーカーだが……。

 

 

「……ur()……」

「!?」

「……ar()……ur()……!!」

 

 

 地獄から響いたかの様なうめき声を上げ、突如としてセイバーたる()()()に襲い掛かったのである。

 

 

「な!」

 

 

 セイバーは驚愕した。どうにかぎりぎりで右手だけで操った(つるぎ)もて受け止めた、バーサーカーの振るった武器。それはアーチャーとバーサーカーとの戦いで破壊された、街灯のポールの残骸であったのだ。それはバーサーカーの黒い鎧の小手から伸びた葉脈のような黒い筋に浸食され、その一部の様に見える。

 

 

「……そういう事か。あの黒いのが掴んだものは、何であれ()()()()()になると言う事か」

 

 

 溜息の様に語ったのは、やはりと言うかライダーである。その傍らでは、子羊の様にウェイバー君が震えていたりした。一方で、片腕のセイバーではその攻撃をいなすのは、徐々に難しくなって行く。しかしながらそこへランサーが割って入った。魔力を断つ長槍、破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)が、一時的に宝具と化した街灯ポールの残骸を両断する。

 

 

「悪ふざけはその程度にしておいてもらおうか。バーサーカー。そこのセイバーには、この

俺と先約があってな。……これ以上つまらん茶々を入れるつもりなら、俺とて黙っておらんぞ?」

「ランサー……」

 

 

 あまりにも、あまりにも正々堂々。この槍の騎士の高潔さに、心打たれない者は多くないだろう。だが少なくとも1人、そうでは無い者がいる。よりにもよって、ランサーのマスターだ。

 

 

『何をしているランサー? セイバーを倒すなら、今こそが好機であろう』

「セイバーは! 必ずやこのディルムッド・オディナが誇りにかけて討ち果たします! お望みなら、そこな狂犬も先に仕留めて御覧に入れましょう! 故にどうか、我が主よ! この私とセイバーとの決着だけは尋常に……」

『ならぬ。ランサー、バーサーカーを援護してセイバーを殺せ。()()()()()()()()()

「「!!」」

 

 

 あまりにも無慈悲なマスターの言葉。令呪とは、聖杯戦争に於いてマスターが持つ、己のサーヴァントに対する3回までの絶対命令権。マスターの命令をサーヴァントの意思を無視して絶対に聞かせるだけでなく、サーヴァントの意思に沿って命令を実行させた際には大いなる増強(ブースト)として働く物でもある。たとえば長距離の移動による接敵を命じたならば、空間転移現象すらも起こせるほどに。

 だがランサーのマスターは、その貴重な3回限りの1回の手札を、あまりにも勿体ない使い方をして見せたのだ。よほどにランサーとそのマスターの間には、信頼関係という物が存在していないに違いない。

 

 

「……セイバー。……済まんッ!!」

「ランサー……」

 

 

 刀身こそ見えねど両手持ちの大剣を右手のみで扱うセイバーには、もはやランサーの縦横無尽の双槍と豪風のごときバーサーカーの攻撃とをどうにかできるはずも無い。せめて両手が使えるならば。まだどうにかできる可能性もあったのだが。

 

 

キュキュキュン! キュキュン! キュキュキュキュン! キュンキュキュン!

 

 

 数度、レコードの早回しの様な音が鳴った。そしてセイバーの剛剣が振るわれ、ランサーが望んでいない、言うならば魂が入っていない2つの槍撃を軽々と打ち払う。そしてバーサーカーの短くなった街灯ポール残骸による攻撃も、また同様に。

 

 

「これは!」

「きゃ、キャスター!? 貴様、いや貴殿が!?」

 

 

 ランサーとセイバーの2つの驚きの声が響く。そして黒杖特捜官(ブラックロッド)が、その長大な呪力増幅杖(ブースターロッド)を構えて、セイバーの隣に歩み出た。愕然としたウェイバーの叫び声が響く。

 

 

「げぇっ!?」

「どうした小僧」

「きゃ、キャスターの筋力と耐久と敏捷が! 全部、全部A++に跳ね上がってる!」

 

 

 身体施呪(フィジカル・エンチャント)。圧倒的な魔力の加護により、施術された対象者、この場合は黒杖特捜官(ブラックロッド)当人だが、その身体能力を効果時間中桁外れに跳ね上げる。……だが今回問題なのは、そちらでは無い。必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)で傷つけられたセイバーの左手が、呪いによる癒えぬはずの傷が、完全に治癒されているのだ。

 

 

「キャスター! これは!?」

呪詛解除(ディスペル・カース)治癒(キュア・ウーンズ)の呪文だ。さすが宝具の呪い。少々だけ解呪に苦労した」

「何故わたしを!」

「先ほども言った。我が望んでいるのは、聖杯戦争の最低でも一時休止。だがここでセイバーが倒されてしまえば、聖杯の現出が進行してしまう」

 

 

 そして黒杖特捜官(ブラックロッド)は前に出る。

 

 

「セイバー、バーサーカーを。可能であれば、倒さずに」

「貴殿は」

「ランサーを」

 

 

 そしてランサーがセイバーに襲い掛かる。本来なら対峙している黒杖特捜官(ブラックロッド)に突きかかるべきなのだが、令呪により攻撃目標が固定されているため、それは叶わない。その隙をついて、呪力増幅杖(ブースターロッド)が唸る。

 

 

キュキュンキュン!

 

 

 高速詠唱(クイッククライ)。ぼんやりとした魔力の輝きが呪力増幅杖(ブースターロッド)の先端に宿り、そしてA++ランクの強圧的な敏捷性によってランサーの防御を搔い潜り、ランサーの胴体に叩き込まれた。次の瞬間、ランサーは一気に跳び退(すさ)り、身構え、そして更に次の瞬間呆けた表情を見せた。

 

 

「な、何をした貴様……」

「……解呪(ディスペル・マジック)の呪文だ。()()()()()した」

「「「『な!?』」」」

 

 

 ウェイバー、ランサー、セイバー、そしてランサーのマスターの驚愕が、叫びとなって響く。ライダーだけは、『いや、やはりあ奴、欲しいのう』とニヤニヤ笑いを浮かべていたが。

 

 

「……さて、どうするね? ランサーのマスター。もう一度、令呪でランサーに命じるかね? そうであれば、また我がそれを解呪(ディスペル・マジック)するだけの話だが」

『ら、ランサー! 撤退、撤退だ!』

「はっ、主よ! ……キャスター、礼を言っておこう。だが貴様を信じたわけではない。セイバー、勝負は預けたぞ!」

 

 

 そして疾風の速さで、ランサーは消える。駆け去るその後ろ姿が、霊体化して消失。残るは今なおセイバーに突きかかるバーサーカーだ。

 

 

キュキュキュンキュン!

 

 

 そしてまたも呪力増幅杖(ブースターロッド)が唸る。圧唱(クライ)の音だ。それから射出されるは、捕縛(ホールド)の呪文。強力な魔力に裏打ちされたその呪文は、バーサーカーを捉え、捕らえてその動きを封じる。

 

 

「……ar()……ur()……!!」

「おっと、セイバー。これ以上はバーサーカーへの攻撃を避けてもらえると有難い。バーサーカーも倒されてしまっては、聖杯の現出が進むので、ね」

「……どうするつもり、だ」

 

 

キュキュン!

 

 

 今度呪力増幅杖(ブースターロッド)から放たれたのは、念動(サイコキネシス)の呪文である。それは身動きが取れないバーサーカーを捉え、宙に浮かせた。もはやバーサーカーには、どうする事もできない。黒杖特捜官(ブラックロッド)はセイバーに答える。

 

 

「バーサーカーを、何処か手出しできない遠くへ捨てる。とりあえず、我の言う事は誰にも信じてもらえない模様だからな。何か方法を考えるまでだ。さらば、だ」

「あ、待……」

 

 

 黒杖特捜官(ブラックロッド)の脚が、足が、ふらふらと踊るように踏み変えられる。異様なリズムを踏んで。異様な足音を立てて。そして黒杖特捜官(ブラックロッド)と、その荷物になっていたバーサーカーが消失した。姿が消えたのだ。もしここに、黒杖特捜官(ブラックロッド)以外のキャスターレベルの魔術師が居たならば。彼が地脈に乗って異なる場所に転移したのが理解できただろう。

 ここ冬木市は、濃い地脈の上にある。霊脈の上にある。だからこそ、第七百二十六聖杯を設置した過去の魔術師たちが、ここに聖杯戦争を設定したのだ。ここに聖杯を置いたのだ。故に、黒杖特捜官(ブラックロッド)は地脈に沿っての空間転移、『馬鹿歩き(シリー・ウオーク)』が可能だったのである。

 

 いや、普通にまともな空間転移は、下手をすると魔法の域に近い大魔術だ。こんなに手軽に行える物では無い。黒杖特捜官(ブラックロッド)が『馬鹿歩き(シリー・ウオーク)』、かつて日本や中国では『縮地』と呼ばれていた手法で転移が可能なのは、あくまでこの土地が(ぶっと)い地脈、霊脈が集った土地にあるが故であった。

 

 そしてその場に残されたセイバー一行とライダー一行は、そのまま戦闘に入る事も無く解散する事になる。やはり戦いには、メンタルという物が大事であるのだ。仮にセイバーがやる気になったとしても、ライダーの方にやる気が無く、そうなればライダーの宝具である戦車、神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)で空を飛び逃げ去ってしまう事は必定であった。

 

 

 

*

 

 

 

 黒杖特捜官(ブラックロッド)は、彼が根拠地、工房ととりあえず仮に定めた一見外から見ると廃屋、しかしてそこそこに地脈が集まっており、一等地とまでは言えないまでも仮住まいには十分な場所で、大きく溜息を吐いた。ちなみに今は、床面に(えが)いた魔法陣を介して、マスターより得られない膨大な魔力を、地脈から非常に効率よく吸い上げている最中である。

 

 

「はぁ……。なんだよ、まったく。ああ言った奴らと話すのは、普通の口調じゃ侮られるだろうから、偉そうにしたけど。疲れるって。僕のキャラじゃ、無い。

 あー、なんか方法無いかな。あいつらに、ここの聖杯が変だってのを納得させる方法。……とりあえず、まあ調べるだけ調べとくしか無い、かな。だけどなあ。なんかヤバい感じあるんだよ……。困った事だ」

 

 

 彼は当初より、自身をサーヴァントとしてこの世界に現出させた聖杯に、疑念を抱いていた。そして聖杯のシステムを色々と調べてみたのである。そうして、幾らかの成果は得られた。

 

 

「……セイバーのマスターを装ってた女、あれはセイバーのマスターじゃない。別にマスターがいる。気脈(レイ・ライン)辿れば判る。前回の戦いの現場を盗み見てたやつの1人、それが本当のマスターだ。

 だけどあの女がセイバーと何の関係も無いかって言うと、そうでもない。と言うか、あの女は全サーヴァントと繋がりがあった。あの女の体内に、聖杯の一部、小聖杯が存在する。敗退したサーヴァントは、アレに引き寄せられ、その霊はアレに収容される」

 

 

 だがそこで、黒杖特捜官(ブラックロッド)は頭を抱えた。

 

 

「だけどな。あの円蔵山……。あそこに大聖杯があるのは間違い無い。無いんだ、が。魔術的手段であそこ調べるの、極めて危険そうなんだが。僕がサーヴァントの身だからこそ、ヤバ過ぎる。

 こうして超遠距離から、魔術的に見てみてるだけで、ヤバさが伝わって来る。というか、幾重もの耐汚染処理して、はじめてまともに見られるぐらいだ。ほんとはあそこにある柳洞寺の僧侶らを洗脳し、あそこに工房築こうかと思ったんだがな。一見あそこは有利そうだし便利そうだったけど、下手すると一気に飲み込まれかねない。確率は低いけれど」

 

 

 まだ円蔵山の深くに隠されている大聖杯は、活性化していない。だから調べるのは今のうち、という事でもあるのだが。それでもサーヴァントの身で手を出すのは(はばか)られる。下手に魔術的に手を出して、一気に『目覚め』られたら、魔術的繋がりを媒介に完全に汚染されかねない、と黒杖特捜官(ブラックロッド)は見ていた。

 

 

「……現金が欲しい。どうにかして(カネ)が手に入れば、それで機械的な監視装置とか購入して調査するんだが」

 

 

 科学技術に偏見を持つこの世界の魔術師が聞いたら、目を剝きそうな事を呟きつつ、黒杖特捜官(ブラックロッド)は調査と他のサーヴァントに理解してもらうための方策を練るのだった。




やはり霊体が実体化してる上に、聖杯とリンクしているサーヴァントの身だと、この世全ての悪(アンリ・マユ)に汚染された大聖杯は鬼門です。まあ第五次キャスターは神代の魔術師なので色々できたって事で。あとたぶん、呪文編纂機(スペルコンパイラ)があれば黒杖特捜官(ブラックロッド)にももっと色々できると思います。でも呪文編纂機(スペルコンパイラ)は公安本部にあるので、ここの世界には存在しません。
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