今現在
(調査端末の配置は、これでよし。地下深くに埋もれている貴金属鉱脈や宝石鉱脈、見つけたぞ)
そして彼は『
とは言っても、これは霊的な存在を召喚するための魔法陣ではない。そうではなく、極めて即物的な存在を召喚するための物だ。地下深くから、宝石の原石や、貴金属の鉱石を召喚するのである。
キュンキュキュキュンキュキュン!
「ふう、あとは質屋にこれを持ち込めば、まとまった金が手に入る。……古代の金貨や宝飾品は、本物ではないが貴金属そのものとしての価値は本物だから、勘弁してもらいたいな」
ちなみに宝石屑は売れないが、魔術の触媒として使うのには充分だ。どこぞの遠坂家でやっている様な宝石魔術に使うわけでは無いため、立派な宝石である必要は無い。とりあえず
おそらく質屋でも買取の際の身元確認などで、店員を催眠状態に落とす必要があるだろうが。それでも元公僕としてか、彼の中途半端に高い倫理観は、泥棒などで金や物資を手に入れる事を許さなかったのである。……地下から原石を手に入れる行為が、地権者の地下権を侵害している事には、武士の情けで触れないで欲しい。
*
既に深夜の域に達した時間帯。第1段階の戦利品を売り払い、それによって得た資金で第2段階の戦利品……ラジコンヘリとラジコンバギー、ワイヤレスマイク、ワイヤレスのカメラなど手に入れた機材多々を抱えて、
(あとはコレを根拠地まで持って帰れば……。!?)
その瞬間、
そしてサーヴァントとしての感覚に、ぎりぎり外縁部に引っ掛かった、覚えのあるサーヴァントの気配。ランサーである。そしてサーヴァントはランサーしか感知できない。おそらくは、ランサーのマスターが冬木ハイアットホテルに宿泊していたのだ。それを狙ってのテロ行為、であろう。
キュキュン!
(どうやら、魔術的手段か何かで命ながらえた模様、だな。しかもどう言う手段を取ったかは知らないが、巻き添えになった人間は居ない模様だ。どうにかしてあらかじめホテルから逃がしていたんだろう。……このまま何かしら勘違いされて戦いに巻き込まれでもしたら、まずい。すぐに撤退、だな)
即座に
*
「だけど……。冬木ハイアットホテルを崩落させてまで相手マスターを殺そうとする陣営が居る。一応無関係な人間は、TVニュースによれば火事を起こして避難させたらしいが……。このまま手をこまねいていれば、聖杯の現出が進んでしまう危険がある。
大聖杯は、危険だ。ヤバい。その直接的根拠は僕の魔術的感覚だけど。でも何の誤魔化しも無く、危険だと感じる。あれがまともに稼働したなら……。調査、急がないと。魔術的『じゃない』機器で撮影された映像で、異常が観測されたなら、きっと動いてくれるはずだ」
彼の世界では、魔術は科学の一分野であり、と言うか生活にすらも溶け込んでいた。科学とは、自然科学、社会科学、人文科学など等、ありとあらゆる学問の事を言うのが元々の意味合いである。そして魔術とは、
だがこの世界に於いては、何故か魔術や魔法を科学技術の外に置く風潮が蔓延している。そして魔法や魔術以外の一般的な科学技術を、魔術師たちは蔑視しているのだ。劣った物として、見下しているのだ。本質は、そうそう変わらないと言うのに。
故に、この世界の魔術師たちに、いわゆる科学技術による映像証拠を見せたとして……。納得させられるかどうか、それについては可能性が薄いかもしれない、という事を……。彼は理解していなかったのだ。
*
ここは、冬木教会。おおっぴらになってはいないものの、聖堂教会の出先機関であり、責任者の言峰璃正神父は聖杯戦争の監督役という立場にある。今ここには、その教会には似つかわしく無い映像機材が持ち込まれ、そしてとある冒涜的な映像を映し出していた。
この機材と映像媒体を持ち込んだのは、キャスター……
無論だが、そこまで遠距離から操縦できるように改造したラジコン機材は電波法違反であり、それだけでなくそんな遠距離から電波が届くように改造したワイヤレスカメラ、ワイヤレスマイクもまた、電波法違反である。元公僕である
「これは……」
「綺礼、先ほどキャスターが直接この映像を置いていったのだ。機材の設置も、キャスターがやって行った」
「この映像は」
「キャスターがラジコンで撮影したと言っていた。……円蔵山の奥、大聖杯の現場映像だ、との事だが……。この映像が本当ならば」
「……大聖杯は、明らかに何がしかで汚染、されておりますな。この黒き汚泥にまみれた……」
言峰璃正神父は眉根を寄せて苦悩の表情を隠さない。一方で息子でありアサシンのマスターである言峰綺礼は無表情を貫く。
「時臣君に、連絡を取らねばならない。頼めるかね、綺礼」
「は。父上」
時臣とは、遠坂時臣と言い、あの金ピカのアーチャーのマスターである。璃正神父は聖杯戦争の監督役でありながら、教会の利益のために裏で遠坂時臣と結託し、此度の第四次聖杯戦争を出来レースにするため暗躍していたのだ。……理由は、遠坂時臣の目的が魔術や魔法の源とも言える『根源の渦』へ到達する事であり、それ以外の目的を持っていない事だ。冬木市の聖杯は、もともと『根源』への到達が目的で創造されたものであり、願いを叶える願望器としての機能は言わば儀式達成のための撒き餌であった。
世界を隔てる次元の壁を突き抜けて『根源』へ至るためには、7騎のサーヴァント……英霊が動力源として必要である。その英霊とそれを召喚するマスターを獲得する餌として、願望器としての機能が必要なだけであったのだ。しかし願望器としての機能を持つという事は、余計な願いを持った者がこれを使った場合、世界そして教会組織にも被害を
だから璃正神父は、遠坂時臣と裏で手を組んだのである。だから璃正神父は、息子である綺礼に令呪の兆しが発現したのを良いことに、彼を時臣の弟子にしてサーヴァントを召喚させ、そしてそのアサシンが百体に分裂する能力を持っていたのを良いことに1体を自滅させ、敗退したマスターを保護するという教会、そして監督役の役割を悪用。綺礼を教会で
だが聖杯、そしてその機能の中心とも言える大聖杯が、今まさに汚染されているという映像が、監督役の元に正面から届けられた。これは放置して置くには、あまりにも厳しい。それ故に、璃正神父は急ぎ息子に、時臣に連絡を取らせたのであった。しかし……。
魔導の通信機器置き場から戻った綺礼に、璃正神父は問いただす。
「時臣君は、どうかね」
「師はこう申しておりました。聖杯のチカラに魅せられたサーヴァントの言う事など耳を貸す必要は無い、その映像も魔術で映像を創り、それを撮影したのだろう、と。キャスターならばそれぐらいは可能だ、第一下賤な科学製品など証拠として論ずるに足らぬ、と」
「む……」
しかしながら璃正神父の眼は、今なお不浄な汚泥が這いまわる
「綺礼、だがわたしはこの映像の真に迫った様相を、無視するのは難しい。お前が主体となって、円蔵山の調査を行ってはくれぬか」
「わかりました、父上」
「頼むぞ」
璃正神父は肩を震わせて、教会の奥へと消えて行く。そして綺礼は再度その眼を、映像に向けた。ぽつり、と彼は呟く。
「……美しい」
そして次の瞬間、彼は柳眉を逆立ててリモコンのスイッチを叩き切り、映像機材を片付け始めた。
「……馬鹿な。あれが『美しい』だと? 気の迷い、いや何かの間違いだ。馬鹿な」
そして言峰綺礼は、円蔵山の洞窟に、百のアサシンのうち5体を向けた。自分でも判らぬ焦燥と共に。
*
その時、
だがそのカメラに、何かが映る。大聖杯を汚染している汚泥が、妙な動きをしたのだ。次の瞬間、汚泥に何かが捕らわれる。……5体の人間型をした、何か。
「……!!」
キュキュキュン!!
次の瞬間、
次の瞬間、廃屋の破れた窓から、何か汚泥が一瞬だけ溢れた様に見えた。今度こそ、
つまりはこう言う事だ。あの瞬間、大聖杯を偵察に行っていた言峰綺礼配下のアサシン5体。それが、大聖杯を汚染していた汚泥に襲い掛かられ、飲まれた。そしてアサシン百体は、百にして一、全てが1体なのである。故に
だがそれも一瞬だけ。アサシンはこれにより完全に敗退し、消滅した事になる。そしてその霊魂は、小聖杯へと吸収された。すなわちそれを媒介にして廃屋一帯を汚染していた聖杯の泥も、いちおうは消え失せる事になる。……まあ
「まずいな」
こうして長い時間かけて自力で
「……ずさんな調査方法を取った事、教会にクレームを入れないといけないな」
だがこの時、
まあどんなに高い能力持っていても、言峰綺礼の内心とか、それによるヤバい影響とか衝動的な行いとか、あとこの世界の魔術師連中の科学技術に対する超絶的蔑視とか、それによる科学技術不信とか、知るわけも判るわけも無いですからねー。
いや、魔法とか魔術って、分類上は完璧に自然科学だし、魔術行使とか魔導の機器とかってその応用である科学技術そのものなんですけどねー。科学って、ぶっちゃけ『すべての学問』を指す言葉なんDeathよー。神秘学はアレは社会科学だしー。
と言うわけで、頑張ったけど裏目裏目に出るというお話でしたわ。