Fate/BlackRod   作:雑草弁士

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第3話 1人でできる事は限界があり、1人でやるのは無理がある

 今現在黒杖特捜官(ブラックロッド)は、非常に影が薄い。無論、魔術による効果だ。人々の影から影へ、陰から陰へと渡り歩き、けっして印象に残らない。そうやって彼は、街中を歩いていた。……目的は、魔術的な探査端末を地域のあちこちに配置する事である。物品を配置する仕事がある以上、霊体化に頼るわけには行かなかった。

 

 

(調査端末の配置は、これでよし。地下深くに埋もれている貴金属鉱脈や宝石鉱脈、見つけたぞ)

 

 

 そして彼は『馬鹿歩き(シリー・ウオーク)』で一気に根拠地にしている廃屋へ転移し、次にせこせこと床に魔法陣を描きはじめる。ここの廃屋の床には、地脈から魔力を収奪するための魔法陣も描かれているが、それとは別な物だ。これは召喚魔法陣である。

 とは言っても、これは霊的な存在を召喚するための魔法陣ではない。そうではなく、極めて即物的な存在を召喚するための物だ。地下深くから、宝石の原石や、貴金属の鉱石を召喚するのである。

 

 

キュンキュキュキュンキュキュン!

 

 

 呪力増幅杖(ブースターロッド)圧唱(クライ)する。数瞬で長々と儀式呪文を唱えるのに匹敵する高速詠唱(クイッククライ)を行える呪力増幅杖(ブースターロッド)であるが、今回はそれにしても長い。かなり長時間の詠唱に匹敵する圧唱(クライ)を行った模様。床の魔法陣が光を放ち、その上に多数の岩塊が出現した。

 黒杖特捜官(ブラックロッド)は更に呪力増幅杖(ブースターロッド)で何度も圧唱(クライ)。岩塊は光を放ち、金銀プラチナとダイヤモンド、ルビー、サファイヤなどの宝石類と、それ以外の土塊(つちくれ)に分解された。金銀プラチナは古代の金貨や宝飾品に、宝石類は更にカットされて値打ちものの大粒宝石と宝石屑に変わる。

 

 

「ふう、あとは質屋にこれを持ち込めば、まとまった金が手に入る。……古代の金貨や宝飾品は、本物ではないが貴金属そのものとしての価値は本物だから、勘弁してもらいたいな」

 

 

 ちなみに宝石屑は売れないが、魔術の触媒として使うのには充分だ。どこぞの遠坂家でやっている様な宝石魔術に使うわけでは無いため、立派な宝石である必要は無い。とりあえず黒杖特捜官(ブラックロッド)は、貴金属宝飾品宝石類を集めると、街の質屋へと向かう。

 おそらく質屋でも買取の際の身元確認などで、店員を催眠状態に落とす必要があるだろうが。それでも元公僕としてか、彼の中途半端に高い倫理観は、泥棒などで金や物資を手に入れる事を許さなかったのである。……地下から原石を手に入れる行為が、地権者の地下権を侵害している事には、武士の情けで触れないで欲しい。

 

 

 

*

 

 

 

 既に深夜の域に達した時間帯。第1段階の戦利品を売り払い、それによって得た資金で第2段階の戦利品……ラジコンヘリとラジコンバギー、ワイヤレスマイク、ワイヤレスのカメラなど手に入れた機材多々を抱えて、黒杖特捜官(ブラックロッド)は息を吐いた。深夜まで開いていた24時間営業のホームセンターに頼る事ができたためもあり、どうにかこれだけの物資を入手できたのだ。これだけあれば、当面の偵察はどうにかなるだろう。

 

 

(あとはコレを根拠地まで持って帰れば……。!?)

 

 

 その瞬間、黒杖特捜官(ブラックロッド)は天を仰いだ。表情は凍り付いたかの様に動かない。しかし内心では、正直唖然としていた。……冬木ハイアットホテルが、崩れていたのである。派手に外部に向けて崩れたのではない。その外壁が、全て内側に向けて崩落していたのだ。……よくTV番組で散見される、ビルの爆破解体現場。それが今、そこに在った。

 そしてサーヴァントとしての感覚に、ぎりぎり外縁部に引っ掛かった、覚えのあるサーヴァントの気配。ランサーである。そしてサーヴァントはランサーしか感知できない。おそらくは、ランサーのマスターが冬木ハイアットホテルに宿泊していたのだ。それを狙ってのテロ行為、であろう。

 

 

キュキュン!

 

 

 黒杖特捜官(ブラックロッド)が右手で保持した呪力増幅杖(ブースターロッド)圧唱(クライ)する。崩れ去る冬木ハイアットホテルからは生命反応は2つしか無い。多分これはランサーのマスターとその協力者か何かだろう。双方は極めて近い位置に居る。そして生命反応でこそ無いが、それに擬態した反応もある。これはランサーだ。

 

 

(どうやら、魔術的手段か何かで命ながらえた模様、だな。しかもどう言う手段を取ったかは知らないが、巻き添えになった人間は居ない模様だ。どうにかしてあらかじめホテルから逃がしていたんだろう。……このまま何かしら勘違いされて戦いに巻き込まれでもしたら、まずい。すぐに撤退、だな)

 

 

 即座に黒杖特捜官(ブラックロッド)は、『馬鹿歩き(シリー・ウオーク)』で転移する。気配を極めて薄くしていたのが幸いしてか、それに注意を向ける者は居なかった。

 

 

 

*

 

 

 

 黒杖特捜官(ブラックロッド)は一人悩む。現状どうやら敗退したサーヴァントは居ない模様だ。アサシンは一見敗退した様に見えるが、実は黒杖特捜官(ブラックロッド)は魔術的監視機構と防衛機構により、彼を監視、観察している複数体のアサシンを捕らえて確保している。とりあえず死なせずに麻痺させており、その頭脳と精神を洗脳して外部制御する事で、捕らえた事実を誤魔化して報告させていた。

 

 

「だけど……。冬木ハイアットホテルを崩落させてまで相手マスターを殺そうとする陣営が居る。一応無関係な人間は、TVニュースによれば火事を起こして避難させたらしいが……。このまま手をこまねいていれば、聖杯の現出が進んでしまう危険がある。

 大聖杯は、危険だ。ヤバい。その直接的根拠は僕の魔術的感覚だけど。でも何の誤魔化しも無く、危険だと感じる。あれがまともに稼働したなら……。調査、急がないと。魔術的『じゃない』機器で撮影された映像で、異常が観測されたなら、きっと動いてくれるはずだ」

 

 

 黒杖特捜官(ブラックロッド)は、異世界から流れ着いた霊魂が聖杯戦争のシステムに引っ掛かってサーヴァント化された存在である。それが故に、この世界の魔術師たちについての理解が薄かった。この世界の魔術師たちの、いわゆる科学技術に対する蔑視について、理解が無かったのだ。

 彼の世界では、魔術は科学の一分野であり、と言うか生活にすらも溶け込んでいた。科学とは、自然科学、社会科学、人文科学など等、ありとあらゆる学問の事を言うのが元々の意味合いである。そして魔術とは、魔力(マナ)魔素(マナ)と言った自然界の存在が、どのような状況下でどのような反応を返すか、を調べそれを応用する学問であり、技術である、とも言える。ぶっちゃけた話、それは自然科学の有りようであって、そしてその応用である科学技術そのものとも言えるのだ。

 

 だがこの世界に於いては、何故か魔術や魔法を科学技術の外に置く風潮が蔓延している。そして魔法や魔術以外の一般的な科学技術を、魔術師たちは蔑視しているのだ。劣った物として、見下しているのだ。本質は、そうそう変わらないと言うのに。

 故に、この世界の魔術師たちに、いわゆる科学技術による映像証拠を見せたとして……。納得させられるかどうか、それについては可能性が薄いかもしれない、という事を……。彼は理解していなかったのだ。

 

 

 

*

 

 

 

 ここは、冬木教会。おおっぴらになってはいないものの、聖堂教会の出先機関であり、責任者の言峰璃正神父は聖杯戦争の監督役という立場にある。今ここには、その教会には似つかわしく無い映像機材が持ち込まれ、そしてとある冒涜的な映像を映し出していた。

 この機材と映像媒体を持ち込んだのは、キャスター……黒杖特捜官(ブラックロッド)である。彼は前日の内に、改造ラジコンヘリでワイヤレスカメラやワイヤレスマイクを搭載した大型の改造ラジコンバギーを、円蔵山の奥……深い洞窟の入り口まで運んだ。そしてそこから改造ラジコンバギーを操り、洞窟奥に隠されている大聖杯の様子を撮影して来たのだ。

 

 無論だが、そこまで遠距離から操縦できるように改造したラジコン機材は電波法違反であり、それだけでなくそんな遠距離から電波が届くように改造したワイヤレスカメラ、ワイヤレスマイクもまた、電波法違反である。元公僕である黒杖特捜官(ブラックロッド)にとって、その事実を黙殺するのはけっこうな心理的負担であったりした。

 閑話休題(それはともかくとして)

 

 

「これは……」

「綺礼、先ほどキャスターが直接この映像を置いていったのだ。機材の設置も、キャスターがやって行った」

「この映像は」

「キャスターがラジコンで撮影したと言っていた。……円蔵山の奥、大聖杯の現場映像だ、との事だが……。この映像が本当ならば」

「……大聖杯は、明らかに何がしかで汚染、されておりますな。この黒き汚泥にまみれた……」

 

 

 言峰璃正神父は眉根を寄せて苦悩の表情を隠さない。一方で息子でありアサシンのマスターである言峰綺礼は無表情を貫く。

 

 

「時臣君に、連絡を取らねばならない。頼めるかね、綺礼」

「は。父上」

 

 

 時臣とは、遠坂時臣と言い、あの金ピカのアーチャーのマスターである。璃正神父は聖杯戦争の監督役でありながら、教会の利益のために裏で遠坂時臣と結託し、此度の第四次聖杯戦争を出来レースにするため暗躍していたのだ。……理由は、遠坂時臣の目的が魔術や魔法の源とも言える『根源の渦』へ到達する事であり、それ以外の目的を持っていない事だ。冬木市の聖杯は、もともと『根源』への到達が目的で創造されたものであり、願いを叶える願望器としての機能は言わば儀式達成のための撒き餌であった。

 世界を隔てる次元の壁を突き抜けて『根源』へ至るためには、7騎のサーヴァント……英霊が動力源として必要である。その英霊とそれを召喚するマスターを獲得する餌として、願望器としての機能が必要なだけであったのだ。しかし願望器としての機能を持つという事は、余計な願いを持った者がこれを使った場合、世界そして教会組織にも被害を(もたら)しかねない。

 

 だから璃正神父は、遠坂時臣と裏で手を組んだのである。だから璃正神父は、息子である綺礼に令呪の兆しが発現したのを良いことに、彼を時臣の弟子にしてサーヴァントを召喚させ、そしてそのアサシンが百体に分裂する能力を持っていたのを良いことに1体を自滅させ、敗退したマスターを保護するという教会、そして監督役の役割を悪用。綺礼を教会で(かくま)い、彼を時臣のための手駒として動かしていたのだ。

 だが聖杯、そしてその機能の中心とも言える大聖杯が、今まさに汚染されているという映像が、監督役の元に正面から届けられた。これは放置して置くには、あまりにも厳しい。それ故に、璃正神父は急ぎ息子に、時臣に連絡を取らせたのであった。しかし……。

 

 魔導の通信機器置き場から戻った綺礼に、璃正神父は問いただす。

 

 

「時臣君は、どうかね」

「師はこう申しておりました。聖杯のチカラに魅せられたサーヴァントの言う事など耳を貸す必要は無い、その映像も魔術で映像を創り、それを撮影したのだろう、と。キャスターならばそれぐらいは可能だ、第一下賤な科学製品など証拠として論ずるに足らぬ、と」

「む……」

 

 

 しかしながら璃正神父の眼は、今なお不浄な汚泥が這いまわる(さま)を映し出している、画面に向く。

 

 

「綺礼、だがわたしはこの映像の真に迫った様相を、無視するのは難しい。お前が主体となって、円蔵山の調査を行ってはくれぬか」

「わかりました、父上」

「頼むぞ」

 

 

 璃正神父は肩を震わせて、教会の奥へと消えて行く。そして綺礼は再度その眼を、映像に向けた。ぽつり、と彼は呟く。

 

 

「……美しい」

 

 

 そして次の瞬間、彼は柳眉を逆立ててリモコンのスイッチを叩き切り、映像機材を片付け始めた。

 

 

「……馬鹿な。あれが『美しい』だと? 気の迷い、いや何かの間違いだ。馬鹿な」

 

 

 そして言峰綺礼は、円蔵山の洞窟に、百のアサシンのうち5体を向けた。自分でも判らぬ焦燥と共に。

 

 

 

*

 

 

 

 その時、黒杖特捜官(ブラックロッド)は円蔵山洞窟奥の現場に置いたままになっているラジコンバギーに仕掛けたカメラで、大聖杯の様子を伺っていた。ちなみにソレを運んだラジコンヘリは、もう根拠地に帰還させてあった。ラジコンバギーの回収は、既に断念してある。正直もうバッテリーも切れる寸前だった。

 だがそのカメラに、何かが映る。大聖杯を汚染している汚泥が、妙な動きをしたのだ。次の瞬間、汚泥に何かが捕らわれる。……5体の人間型をした、何か。黒杖特捜官(ブラックロッド)の眼が、それが何かを瞬時に判断する。通常黒杖特捜官(ブラックロッド)であるならば、制帽に装着してある霊視眼(グラムサイト)識別(アイデンティファイ)しなければ、何も判断しないのが通例だ。しかしカメラ映像では、対象を直接識別(アイデンティファイ)できはしない。

 

 

「……!!」

 

 

キュキュキュン!!

 

 

 次の瞬間、黒杖特捜官(ブラックロッド)飛翔(フライ)の呪文を高速詠唱(クイッククライ)する。同時に手元にある、ありったけの現金などの、元から自分の『装備品』では無かった物品群をかき集めて持つと、廃屋の窓をブチ破って飛び出した。『馬鹿歩き(シリー・ウオーク)』は使わない。地脈に乗って移動する技術であるために、『現場』である廃屋から直接地脈で接続され得る場所は、危険性が高いからだ。

 次の瞬間、廃屋の破れた窓から、何か汚泥が一瞬だけ溢れた様に見えた。今度こそ、霊視眼(グラムサイト)で確認、識別(アイデンティファイ)。物理的距離があるため、霊視眼(グラムサイト)による識別(アイデンティファイ)ならばどうにか安全は確保できている。……識別(アイデンティファイ)結果は、『聖杯の泥』。

 

 つまりはこう言う事だ。あの瞬間、大聖杯を偵察に行っていた言峰綺礼配下のアサシン5体。それが、大聖杯を汚染していた汚泥に襲い掛かられ、飲まれた。そしてアサシン百体は、百にして一、全てが1体なのである。故に黒杖特捜官(ブラックロッド)が洗脳して捕らえていた複数体、正確には3体のアサシンは、同時に聖杯の泥に飲まれる。そしてそれにより、アサシンを捕らえていた現場である黒杖特捜官(ブラックロッド)の根拠地にしていた廃屋一帯が、一瞬にして聖杯の泥に汚染されたのだ。

 だがそれも一瞬だけ。アサシンはこれにより完全に敗退し、消滅した事になる。そしてその霊魂は、小聖杯へと吸収された。すなわちそれを媒介にして廃屋一帯を汚染していた聖杯の泥も、いちおうは消え失せる事になる。……まあ黒杖特捜官(ブラックロッド)にしてみれば、一見泥が消え失せた様に見えてもとうてい安全が確認できたとは言えないし、安全を確認するために魔術的手法で現場を調査して、その術に『乗られて』本体である彼が汚染されたら、たまったもんではない。

 

 

「まずいな」

 

 

 黒杖特捜官(ブラックロッド)は、1時間かけて自分自身とは魔力的、霊力的、気脈(レイライン)的に切り離した探査機を創る呪文を編纂した。これが、公安の呪文編纂機(スペルコンパイラ)さえあれば、数瞬、長くても数秒で呪文が創れる。しかし呪文編纂機(スペルコンパイラ)がある公安本部は、並行異世界だ。彼の肉体が事故で死亡した、向こう側の世界に存在するのだ。そこまでは、交霊(チャンネル)できない。できっこない。無理だ。

 こうして長い時間かけて自力で呪文構築(ハンドアセンブル)した魔術で、黒杖特捜官(ブラックロッド)は冬木市街とその周辺地域を満遍なく調査する。結果、不幸な事に近隣家屋屋根の上からアサシンの1体がウェイバー・ベルベットとライダーの潜伏先を監視しており、それにより隣家家屋が一時聖杯の泥にまみれ、一家が生命力を全て吸い取られて不審死していた。

 

 

「……ずさんな調査方法を取った事、教会にクレームを入れないといけないな」

 

 

 だがこの時、黒杖特捜官(ブラックロッド)は知らなかった。知るはずも無かった。言峰綺礼が自分の事で悩み果て、いっぱいいっぱいであった事を。そしてそれが故に、封書で言峰教会の郵便受けに投函したクレーム書面を、綺礼が握りつぶしてしまう事を。……結果として、教会も遠坂時臣も、その他のマスターたちまでもが、聖杯の汚染に対して何も手を打たずに、聖杯戦争を続ける選択を取った事に。

 黒杖特捜官(ブラックロッド)は、それらの事に、何も気づく事ができなかったのである。




まあどんなに高い能力持っていても、言峰綺礼の内心とか、それによるヤバい影響とか衝動的な行いとか、あとこの世界の魔術師連中の科学技術に対する超絶的蔑視とか、それによる科学技術不信とか、知るわけも判るわけも無いですからねー。
いや、魔法とか魔術って、分類上は完璧に自然科学だし、魔術行使とか魔導の機器とかってその応用である科学技術そのものなんですけどねー。科学って、ぶっちゃけ『すべての学問』を指す言葉なんDeathよー。神秘学はアレは社会科学だしー。

と言うわけで、頑張ったけど裏目裏目に出るというお話でしたわ。
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