次々に、宝剣、宝槍、宝鎚、宝斧がアーチャーの背後の空間から射出される。その武具の矢を、
キュン! キュン! キュン! キュン! キュン! キュン! キュン! キュン! キュン! キュン!
連続して唸りを上げる
「
八枚の花弁にも似た、飛び道具に対しては無敵の防御力を誇る盾が展開される。次々にソレに着弾する
「ぬお! なんだと!?」
「……」
「おのれ、我が船を潰したとて、いい気にな」
キュキュキュン!
「ぬがあああぁぁぁ!?」
「……」
しかしながら、この鎧はおそらくは黄金ではなく、青銅だ。青銅は
サーヴァントは物理ダメージは負わないはずではある。だがこの
英雄王は破壊されたヴィマーナから脱出しつつ自慢の蔵から、酒瓶を取り出して全身にかける。凄まじい蒸気と共に、黄金の鎧が冷えて行った。続いて彼は耐え難い火傷の痛みをどうにかするためにこれも自慢の蔵から奇跡の薬湯の瓶を取り出して、あおる。シュウシュウと全身が、湯気の様なものを立てて癒えて行く。
「やってくれたな……。よかろう、貴様には褒美としてコレを魅せてやろう……。起きろ、エア……」
「……」
ここでも
「貴様ごときには勿体ないが、
「……ふうっ」
小さく息を吐き、
「無駄だ! エアの力は、次元断裂! そのような魔力の盾で、防げるものでは無いわ!」
「……」
そして
そして……。攻撃に回す以外の、残りのありったけの魔力が、
左掌に仕込まれていた、
うねりっ!
英雄王ギルガメッシュの解離剣エアから放たれた次元断裂が、その威力の波動が、一直線に飛ぶかと思われたソレが、大きくうねる。そして『幸運』にも。『幸運』にもソレは、
おそらくはこの時、パラメーターで言うならば
「な!?」
「……!!」
キュン!
「があっ!? お、おのれ」
そのまま右足が。次に左肩から先が。次には左足が飛び、アーチャー、ギルガメッシュはダルマになった。地面に倒れて転がるアーチャーの躯体。その顔面を、
「ガッ……。ぎ、ぎざ、ば、
「……」
そして英雄王に答えずに、
*
そして、数瞬。時間が止まったかの様だった。
「……あほくさ」
「「「「「「!?」」」」」」
上体をよろよろと起こしたセイバー、
「まったく、なんだってんだ! こっちはほんとに! 本当にヤバいから! 一人でも! 無辜の民間人が一人でも死んでほしくないから! だから! だから聖杯戦争を! あの狂った汚染されたヤバい聖杯の現出を! 止めようとしてたってのに! なんなんだ、なんなんだよ、お前ら!」
「な……」
「もう、もう知るか! お前らこのまんま突き進みやがればいい! そしてとんでもない事になってから後悔しやがれよ! 知るか! 僕は降りる! 僕は降りるぞ!」
そして
キュン!
次の瞬間、とある殺人現場として封鎖された家屋の床下から遥か数十mの地下深く、
その時、アイリスフィールは自分の体内にある小聖杯に、新たなサーヴァントの霊魂がくべられたのを感じ取る。同時にそれは身体機能に重い障害を誘発し、アイリスフィールは崩れ落ちた。
「アイリスフィール!」
悲痛な声を上げて、セイバーが彼女の方向へ這って行く。それを後目に、両手両足を失いズタボロのアーチャーは、憤怒の形相で蔵から再生の秘薬を引き出し、口で栓を抜いて噛り付く事で薬を飲みほしていた。ジュウジュウと煙を上げ、ビクビクと麻痺を繰り返しつつ、両腕両脚が激しい苦痛と共に再生して行った。黄金の鎧は両腕部分と両脚部分が失われ、あまりにもみすぼらしい。
だが最も重い傷を抱えているのは、英雄王ギルガメッシュの心であった。
「おのれ……。勝ち逃げのつもりかぁ!!
もはや英雄王の心に、あの憎き怨敵以外の何物も居ない。嘲弄し愛でてやろうと思っていたセイバーの事も、もはやどうでも良い事に成り下がっている。限りない苛立ちと腹立ちと、憎悪だけが彼の心に渦巻いていた。
*
衛宮切嗣は、幼い少年を抱いて歩いていた。助けられたのか、と一瞬思った。だが赤い髪の少年は意識を取り戻さずに、しかし半眼を開き淀んだ
(誰か、誰か助けてくれ。僕はいい。この子供を、この子だけでも、助けてくれ)
声は
いや、待て。誰かが居る。半透明の、亡霊が、立っている。自分を迎えに来たのか、それともこの子供か。切嗣は必死に後ずさる。だがその亡霊を、どこかで見た記憶があった。直接に会った事は無い。だが望遠レンズで、資料写真で、何度も、何度も見た覚えがある。
……キャスター、
「だぜだ……。げ、ほっ! なぜ、だ。何故お前が居る。全てのサーヴァントは、英霊は去った、は、げほっ、はず、だ」
(……セイバーの、マスター、か。たしか衛宮切嗣。……僕は、英霊じゃないからね。ただのこの世に迷い込んだ、亡霊、さ。それが英霊に混ざってサーヴァントだなんて、変、だろう?
英霊は、聖杯戦争が終われば『座』に帰還する。そのパワーは、7騎揃えばたいした物になる。……時空の壁に穴を開けて、『根源の渦』に到達するだけの力に、ね。願望器って機能は、それを実現するためにマスターとサーヴァントを集める餌、さ。聖杯戦争は、蟲毒の罠、だ。……でも、僕は単なる亡霊だから。『座』になんか、還らない、よ)
切嗣は、目を見開く。
「そう、が。おま、えの言ってる、事、は、全部正しがっだ……わげ、だ」
(そう言っていただろうに。……お前が抱いている子供、放置すればそのまま死ぬ、ぞ?)
「!? な、そ、ど、どうにが、できな、ぎぃっ、の、がぁ!?」
(あんまり喋るな。ただ聞いてだけ、いろ)
そして亡霊は、改めて話し出す。
(その子は、魂が欠損してる。喋るな。聞け。……生きようと、努力してる。だけど、魂が欠けてるから、死ぬ。……方法は、1つだけ考えられる。もっといい方法もあるかも知れないが、僕にはそれ以上の事は思いつかない)
「!!」
(僕の存在、僕自身を魂の材料として、その子供に『
切嗣は、再度目を見張った。
(喋るな。強く思え。それで伝わる)
(だ、だが! まず1つ! サーヴァントの魂なんか継いだら、人の魂も肉体も耐えられるはずが! そして2つ! お前はどうなる! もう輪廻転生すら不可能になる!)
(1つ目だが。僕は英霊じゃなくて亡霊だから。だから大丈夫だ。上位神霊に遷移した超存在じゃないから、副作用すらも無いだろうさ。2つ目だが。僕はつい悪い癖が出てさ。ぎりぎりで切れて、諦めちゃった。この大破壊には、僕のせいも多分にあると思う)
(そ、それは! いや、聞く耳を持たなかった僕らも)
(いいんだ)
そして
(それと、その処置をすれば生き長らえはする。だけど、元の少年の心を保持するのが56%。僕と変に混じりあって記憶を失い、取り戻せないのが25%。ほとんど僕自身になってしまうのが11%だが、わずかにこの少年も残る。そして、まったくどうなるかわからないのが6%。双方の形質をほぼ完全に保持したまま残るのが……これは気にしなくてもいいだろうが、2%だ。
まあ完全に少年のままと言ったって、魂を大きく欠損しているから性格や能力が残っても、記憶は怪しいがね)
(そう、か。それでも生きる、んだな)
(さて、少年が死ぬ前に、やってしまおう。正直、僕も色々疲れたから)
(ああ)
そして
(なあ。お前の本当の名前は、何だったんだ?)
(
(そう、か)
(じゃあな)
それを最後に言葉は2度と聞こえず、そして少年が目を覚ました。目の焦点がはっきりと合い、うめき声がその唇から漏れる。
「あ……。ああ。あああっ! 生きていてくれて、ありがとう! ありがとう……!!」
切嗣は、泣いて、笑った。
*
切嗣は、あの時の少年士郎と月を見ていた。彼を養子として引き取って、5年が経過している。切嗣は、ぽつりと呟いた。
「……子供の頃、僕は正義の味方に憧れてた」
「その言い方だと、大人になって諦めたみたいじゃないか」
「ふふ、まあその通りなんだけどね。ヒーローっていうのは期間限定で、大人になると名乗るのが難しいんだよ。はやく気付けば良かったなあ……」
沈黙が続く。そして士郎が口を開いた。
「でもさ。
「え?」
「あの赤い世界、黒い大空の下で。生きていてくれた、ありがとう、って俺に言ってたろ? あの顔がさ。すっごく綺麗で。美形とかじゃなく、ああいや、
おいといて。俺を助けてくれたときの泣き笑いの顔が、すげえ綺麗でさ。今もはっきり思い出せる。……その後の色々で、
「士郎……」
士郎は語る。
「だから、安心してくれ。
「……」
「100%は無理かもしれないけど、俺ができる限り、拾う。たとえば、
切嗣は、微笑んだ。ああ、たまらない。この義理の息子は、本当に、本当に全て理解しているんだな。この子なら……。
「頼んで、いいかい?」
「任せろ」
「ありがとう。ああ、安心したよ……」
そして切嗣は、目を閉じた。そして……。二度と開けなかった。
*
遺影の前で、士郎は溜息を吐く。
「思わせぶりな事言ってしまって。バレたかもしれないな。でも、まあ。俺も、『僕』も、全部ここに『居る』。最後の2%が、大当たりするとは、俺も『僕』も
そしてドタバタと騒がしい音がする。
「……藤村のねえさん!! 何が『切嗣さんグッズ』だ!! それは形見分けで、あんたにも充分な量を渡したはずだろ!?」
「えー!? だ、だってこんなにいっぱい士郎の取り分あって、わたしにこれっぽっち」
「違う! それは何時か来るだろう、
「え゛!? き、切嗣さんに娘、が」
「事情があって、亡くなった奥さんのご実家に取られて、取り返せなかったんだよ!」
「じゃ、じゃあその娘が来るまでの間」
「駄目だ! それは他人の『匂い』を絶対に付けないで、
衛宮家は、葬儀の日でも騒がしかった。
これにてFate/Zero時代編、完です。次回からFate/stay night時代編が開始いたします。真・主人公は衛宮士郎(魔改造)でございますだ。