Fate/BlackRod   作:雑草弁士

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Fate/stay night時代
第1話 エミヤシロウと衛宮士郎


 彼は記憶が混濁していた。何せ、召喚そのものがあまりにも乱暴だったため衝撃を受けただけでなく、出現場所が大空の上だったためだ。そして彼は落下する。どことなく見覚えがある様な気がする洋館の屋根が見える。そこ目掛けて落下する。

 

 

ドッガアアアァァァン!!

 

 

 そして衝撃。第五次聖杯戦争のサーヴァントとして召喚()ばれた彼からすれば、物理ダメージは少ない。これが万が一、大地に叩きつけられたなら問題だったが。不幸中の幸い、彼が叩きつけられたのは洋館の屋根と、それを突き破って落ちた家具の上であった。

 ちなみに物理ダメージが無い、ではなく少ない、なのは仕方の無い事でもある。この洋館は、魔術師の家らしく、魔導の結界とか色々あったからだ。それを突き破って落ちる際に、やはり魔力的干渉で若干のダメージは被った。だからこそ、より一層記憶が混濁した気もする。

 

 建物の階上の部屋、2階なのか3階なのか、そもこの家屋敷に3階はあるの判然としないが、屋根と天井と突き破り家具を叩き潰し、その上に落ちた。そして今、その瓦礫の上に座っている。

 と、そこへこの部屋の扉をこじ開けようとする音が響く。ガン、ガン、と開かないドアを蹴り飛ばしているかの様だ。優雅ではない。まったく優雅ではない。彼は思う。とんだマスターに引き当てられてしまった様だ、と。

 

 そして扉が吹き飛ぶかの様に蹴り開けられる。年端もいかない、とまでは言わないがそれでも年若い少女のマスターが入室して来る。彼はその少女に、妙な既視感を覚えた。そして彼女は居丈高(いたけだか)な態度で彼に接しようとして来るのが『何故か』理解できたので、彼は先手を打つ。

 

 

「なんとまあ、乱暴なマスターに呼ばれたらしい」

「なっ!」

 

 

 少女のマスターの顔に、怒りと憤りが浮かんだ。だがそれは、瞬時に消え失せる。彼は『ほう? 理性で感情を抑えたか? ……違うか?』と考えた。考えただけ。口には出さない。出す(ヒマ)が無かった。

 少女のマスターが、突然彼を呼んだからだ。

 

 

「え、衛宮君!?」

「!!」

 

 

 その瞬間、混濁していた記憶の糸が繋がる。この少女の名前、この土地の名前、今の時間帯はかつて彼が『マスターとして』参加していた第五次聖杯戦争の前夜である事……。当時の記憶はもはやザラッザラに摩耗していて、その大半が即座には取り戻せない。だが、この少女のマスターの名前は取り戻せた。

 

 

「遠坂……凛!?」

「えっ!? ほ、本当に衛宮君!? なんで衛宮君が英霊に!? あ、あれ、でも衛宮君より背が低い。肌色も黒いし髪も白いし」

「な!? わたしは聖杯戦争後に急に背が伸びて、187cmになったのだぞ!? それよりも今の衛宮士郎が背が高いだと!?」

「え゛っ……。じゃ、じゃあまさか……。衛宮君の並行存在……。なんてこと、我が家の悲願、第二魔法の実例が目の前に? ああ、いえ聖杯戦争の英霊は元より世界の外から召喚されるんだから、驚くべきことじゃ」

 

 

 大騒ぎになった。

 

 

 

*

 

 

 

 少女魔術師にして、英霊エミヤ、クラスはアーチャーのマスターである少女は、痛みを訴えるこめかみを右手で揉みつつ、口を開く。

 

 

「つまり貴方によれば、衛宮君の父親、義父だって言ってたけどソレがモグリの魔術師で。衛宮君は義父に師事して魔術師を学んだけど、義父の早逝と誤った魔術鍛錬で、魔術師とはとても言えないド三流の未熟者に成長した、と。

 そしてその後、聖杯戦争を通じて並行異世界のわたしの弟子になり、聖杯戦争を潜り抜けて色々成長し、海外に渡って英雄とは名ばかりの守護者となる、と。……守護者とは言えど、英雄クラスを育て上げるなんて、さっすがわたし! と言いたいところだけど」

「……」

「なんでアンタ、守護者なんて世界の掃除屋に落ちぶれてんのよ! アンタの世界のわたしは、何してたわけ!? そんなの、そんなのタダでさえ辛く苦しいだけじゃないの!」

「……君の言う通りだ」

 

 

 エミヤは苦笑いを零す。そうだ、守護者とは世界の掃除屋である。人類の集合意識にして霊長の守護者、人類を存続させるために在るアラヤの奴隷だ。アラヤは人類を滅ぼしかねない事象がある時と場所に、守護者を送り込む。守護者は行動の自由は無く、かつて生前に(つちか)った技能と技量を以て、それにアラヤより託されたチカラのブーストを加えた状態で、送り込まれた場所の全てを抹殺するのだ。その事により、人類を破滅させかねない原因を消し去るのが、守護者の役割である。

 だが、それはエミヤにとって、地獄だった。彼は守護者のなんたるかを知らなかった。世界は、アラヤは、彼と契約した際に、チカラの誘惑を以てした。そして彼は応じる。自分のためでは無い。危機に陥った人を救うため、それに使うためにチカラを欲した。それに彼は、守護者の世界を救うという面だけを重くとらえていた。守護者として死後を契約すれば、死後も人を助けつづけられる、と『甘く』考えていたのである。

 

 しかしその彼に与えられたのは、皆殺しの任務。任務。任務。永劫にも値する皆殺しの果て、彼は擦り切れて行き、自らの消滅をすら願う様になったのだ。そして彼は、疲れた様に語った。

 

 

「わたしは、馬鹿だった。愚かだった。それ故に、一瞬この世界に来れた時に、聖杯戦争のサーヴァントとしてある程度以上に自由意志を持った状態で召喚された事で、自分殺しのパラドックスを引き起こして守護者としての任から解放されるか、と。自分を消滅させられるか、とさえ。

 ……だが、それもままならぬ様だ。この世界の衛宮士郎は、どうやらわたしでは無い様だしな」

「……!! あんた馬鹿でしょ! なんでそっち方向に行くのよ! 自分殺し!?」

「それ以外に道はなかろう」

「ンな事、あるかあああぁぁぁッ!! はーっ、はーっ。そんな物騒な事じゃなしに、他の方法考えなさいよ。たとえば、あんたは正義の味方目指して戦ったあげく、そうなっちゃったんでしょ? だったら、正義の味方にならないか、そうでなくても別の方法で正義の味方やらせるとか。それだって、世界の矛盾じゃない?

 素直にお(まわ)りさんにならせるとか、色々あるでしょ。あれだって、正義の味方よ? それにアンタが取った方法、戦士の道は、全ての人を救いたかったアンタに取って最悪の道よ。他の道なら、お(まわ)りさんなら、いつか犯罪を撲滅して、無辜の市民を全て救える『かもしれない』。コックさんなら、いつか無数の人に料理を提供して、飢え死にする不幸を無くせる『かもしれない』。だけど……」

 

 

 そして凛は語る。

 

 

「だけど、その『かもしれない』すらも、わずかな希望すらも許されないたった1つの道が、戦士、戦う者の道よ。戦う者は、剣を向けた相手、敵に回してしまった相手、それだけは絶対に、絶対に救えない。あんたにとって、唯一救いのない道が、戦士の道『だった』のよ」

「そう、か。戦士以外の『正義の味方』か。考えた事も、無かった。義父、切嗣から教わった魔術を活かし、切嗣の未練であった『正義の味方』になる事しか頭に無かった。そして、切嗣の過ちを……。そのままなぞってしまったんだな、わたしは」

「今も過ちを繰り返しつつあったわよ? 自分殺しなんて、自分と等価存在とは言え、あんたとは『別人』よ。別人殺して、世界の歪みを生み出そうなんて」

「……そう、か。君は、まさに賢者だ。至賢と言わざるを得ない」

 

 

 そう言われた凛は、しかし気まずそうな顔になる。

 

 

「あー、だけどそうなると少し気まずいわね。よりにもよってアンタを、戦うためのサーヴァントとして使役する事になるんだもの」

「いや、それは気にしないでくれ。そうさな。この世界では衛宮士郎が違い過ぎて成し遂げられぬだろうが。今後ももしかして並行異世界の第五次聖杯戦争に召喚されることもあるだろうさ。そして衛宮士郎に、戦士の道の愚かさ、戦う『正義の味方』の間違いを刻み込み、導く。それの繰り返しで、いつか。いつの日にか」

「そう……」

 

 

 そして凛は、表情を明るく切り替えた。彼女は語る。

 

 

「さて、それじゃ並行異世界だから違いはあるだろうけど! 何かの参考にはなるかも知れないから、異世界での聖杯戦争について、細大漏らさず吐けやゴラぁ!」

「ぬあ!? ま、まあ分かった。分かったが、まず1つ。わたしの記憶は摩耗し、混濁している。思い出そうとしても、思い出せない事があるのは許して欲しい。それともう1つ。あくまで参考だ。参考にとどめて置いてくれ。思い込みで行動すると、うっかりミスが発生してしまう可能性が高い。……今回の、様に」

「え、今回?」

 

 

 エミヤは小さく(かぶり)を振る。そして致命的な問いを口にした。

 

 

「わたしが落下して来てから、何時間経過した?」

「え。色々話を聞いてたから、かれこれ……。時計、時計。3時間、ね」

「そして、だ。『コレ』を、どうするの、だ?」

 

 

 エミヤは部屋の中の様子を……。家具の残骸が積み重なり、天井の残骸が積み重なり、屋根の残骸が積み重なる、この部屋の様子を、見まわした。

 

 

「そうね。コレはあんたのせいなんだから、アンタ片付けなさいな」

「どうやって」

「それは修復の魔術で。アンタ、一応二流程度には普通の魔術も使えるって言ってたでしょ」

「どうやって」

「だーかーらー」

「3時間、経過」

「え」

 

 

 そう、3時間既に経過しているのである。修復や再生の魔術というのは、だいたいモノが破壊された直後でなければ効果は無い。まあ長くて2時間ぐらいか? ……3時間も経過していれば、もはやどうにもならない。屋根が大穴開いているので、物の道理を分かった大工、凛の後見役である言峰教会の言峰綺礼神父を頼って、詮索とかしない大工を手配してもらわなければならない。

 相性の悪い言峰神父に借りを作らねばならなくなった事でズンドコにまで落ち込んだ凛は、アーチャーであるエミヤと手分けをして、部屋中に散らばった残骸を片付けるのであった。

 

 

 

*

 

 

 

 そして翌朝。凛はほぼ徹夜での片付けという重労働と、睡眠不足のダブルパンチで、体内時計が完璧に狂った状態で、そのズタボロの内面を必死で押し隠して穂群原学園へと登校する。しかも前日に狂っていた時計を戻し忘れたため、今日も午前7時前に校門へと到着していた。

 だが……。

 

 

(……やられたわ)

(その様だ)

(エミ、あー、アーチャー。貴方の記憶に、コレは?)

(現場に立ち会って、ようやく思い出せた。だが誰がやったかとかまでは無理だな。擦り切れた記憶の彼方、だ。だが1つだけ思い出せた事もある)

 

 

 霊体化したアーチャー、エミヤを従えて、校門前にやって来た凛だったが、あろうことか彼女のテリトリーであるとも言える学校に、何者かによる魔術の結界が張られていたのだ。しかもこれは、内部にいる人間の肉体を融解させて、その魂を魔力源として喰らいつくす、悪夢の存在であったのだ。

 しかしアーチャーはこの結界に関連し、1つだけ思い出した事があると言う。

 

 

(思い出せた事って?)

(君は放課後、深夜にかけてこの結界を解除もしくはどうにか無効化しようと試みるだろう? その場で、妨害、いや違うな。遭遇戦が起きる。当の本人は単なる偵察行のつもりで、こちらを妨害する意図は無かった模様だが、結果として遭遇戦になった。

 敵はランサー、クー・フーリンだ。因果逆転の槍を持っており、それが放たれると因果逆転現象により、まず心臓を貫いてから、槍が放たれる。結果、確実に相手を殺す)

(うっわ、最悪じゃない)

(いや、乗り越えなければならない敵だ)

 

 

 そこへ声が掛かった。男女の2人組の様だ。

 

 

「あれ? 遠坂、2日連続でどうしたのさ」

「遠坂? ああ、あの表面(おもてづら)みす・ぱーへくと」

「げっ……」

 

 

 アーチャーが困惑した思念を寄越す。

 

 

(たしかにわたしより、背が高いな。高校2年で195cmの細マッチョとは。制服とか特別仕立てで高くつくな。完全に成長したら、2m超えるんじゃないか? だが顔自体は、若干幼さが抜け切れていないな。

 しかし、表面(おもてづら)みす・ぱーへくと、とは何事だ)

(猫かぶりが剥げたところを、見られてたのよ衛宮君には)

(南無)

 

 

 そこに居たのは、弓道部部長の美綴綾子と、パソコン研究会所属の衛宮士郎であった。まあ、パソ研は幽霊部員多数で、会員は帰宅部員の代名詞でもあるのだが。なお衛宮士郎がパソ研所属だと知ったアーチャーの顔絵デッサンが一瞬狂ったが、それには触れないであげて欲しい。

 なお士郎はパソ研の中でもまだ真面目な方で、学校の部室にも多くの機材を持ち込んでは自作PC作成や学校に交渉して部室専用のサーバー立ち上げて学校のネットワーク介して外部インターネットに接続したり、自作ゲーム作成したり、やりたい放題している。なお自作ゲーム発表してから1ヵ月程度は、パソ研の部活出席率が異様に上がったらしい。

 

 ここで綾子が、凛に愚痴混じりの頼み事を言う。

 

 

「なんだ、お前ら知り合いだったのか? だったら遠坂、衛宮に弓道部にかけもちでもいいから、入ってくれる様に頼んでくれないか」

「どうしたのよ一体」

「前にちょっと軽い感じで、お試しで()てみないかって言って、そんときはこいつも軽く応じてくれたんだよ。そしたら、1射で的中、しかも(まと)のド真ん中だ。そしたらこいつ、急に不機嫌になって即座に立ち去っちまってさ。

 しかも素人が1射で的中させた上に、何度も練習してるのに的中しないって、部員たちの士気も落ちるし。一部はやる気無くなって、なんとか宥めてるけど出席しなくなって幽霊部員化しちまった始末でさあ。責任取って入部しろって、言ってるんだけどな。かけもちでもいいからさあ衛宮」

「駄目」

 

 

 にべもなく断る士郎。凛は怪訝に思う。どちらかと言うと、士郎はお人よしの部類に入る人間だ。パソ研で、自作ゲームで遊びに来た人間に、自分の私物PCを占領されても怒らないし。しかしその士郎がこうまで拒絶するのは、何かあったのだろうか。

 

 

「衛宮君。何か断る理由があるのなら、綾子に言ってあげた方が親切ってものよ?」

「……そ、うだな。美綴、断る理由がある。俺のは弓道じゃなく、弓術の部類だと思う。それを思い知らされて、自分が物騒な人間だって思い知らされて、嫌な気になったんだ。だから、どうしてもやむを得ない本業ならともかく、部活で弓はやらない」

「「弓、術?」」

(……)

 

 

 アーチャー、英霊エミヤの思念は黙して語らない。語らないが、何か思うところはある模様だ。士郎は語る。

 

 

「俺が『()た』ときに、(まと)のところにイメージしていたのは、(まと)そのものでもなければ、自分の思いとか想いとか、そういった観念的な物でも無い。あのとき(まと)の先に俺が見ていたのは、生物の、生き物の、もっと端的に言えば『人』の生命(イノチ)だ。あの1射で、俺は『何の気なしに』『人の生命(イノチ)を』刈り取ってしまっていた。

 その事に、あの1射で気づかされて。だから部活動では、もう()るつもりはない。どうしようもなく、本業でそういう仕事に就いたならともかく。部活動では、もう()ない」

「……そう、か。悪かったな。なんか信念みたいなモンがあって、弓道やらないんだな。なら仕方ないか。あーあ、いい選手見つけたと思ったんだけどな」

「悪いな美綴」

「いいさ。これに関しては、わたしの方が悪かった。んじゃ、部活だから行くわ」

「俺もそろそろ部活行かないとな」

 

 

 そして綾子は、弓道場の方へ去って行く。そして士郎は、凛の方を向いた。

 

 

「何? 衛宮君、部活でしょ? またプログラム? それともデバッグとか言ってゲームするの?」

「いや、設計仕様書書き。実際のプログラミングよりも、設計仕様書を完璧に仕上げてからプログラムするのが、本当はこの上なく大事なんだ。個人的には、ガリガリと無駄を極限まで切り詰めてハンドアセンブルするのも大好きなんだけどな。それよりも……」

 

 

 そして士郎は、凛に向かいとんでもない事を言ってのけた。

 

 

「この結界、張ったのお前?」

「ぶーーーっ!?」

「その反応でわかった。んじゃな」

「ちょっと待てぇ!!」

 

 

 凛は霊体のアーチャーに向かい、思念でがなる。

 

 

(この衛宮君、もろに魔術師じゃないの! アーチャー! あんたの元の世界での、この時代の衛宮君と、ぜんぜん違うわよ!)

(ど、どうもその様だな。実力のほどは判らんが、少なくとも結界の存在が判ると言う事はかつてのわたしの様な、三流以前の未熟者では無さそうだ)

「あ。その隣の霊体、サーヴァント? 聖杯戦争の」

「ぶーーーっ!?」

「その反応でわかった。んじゃ」

「待てマテまてー!!」

 

 

 大騒ぎになった。凛にとって幸いだったのは、人がいない早朝の校門だった事だろう。これがあと30分後であったら、登校して来た面々に彼女の猫かぶりがバレていたところであった。




本作士郎君、195cmの細マッチョのプログラマー兼ゲームデザイナー兼システムエンジニアです。というか自力で呪文構築(ハンドアセンブル)とかやってますし。あとハードウェアの知識も技術もたんまり持ってます。属性盛り過ぎです。
まあでも、前世で公安組織が用意してくれてた装備品とか、第五次聖杯戦争に向けて必死で自前でどうにかしないといけませんからねえ。それぐらいの実力がある技術屋じゃないと、どうにも。

そして凛さん。ごめんよ。後々かっこいいシーンも出すから。とりあえず清涼剤として、ギャグシーンの餌食になっててくれ。
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