Fate/BlackRod   作:雑草弁士

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第3話 戦略目的統一と月下の召喚

 一同は、とりあえず衛宮家に集合して今後の対策を練る事になった。本来は学校の結界の処置を終わらせた後は、各自の家へ帰宅予定だったのだが。いよいよ聖杯戦争が本番という事になった以上、可能な限り士郎が持っている情報を知っておきたいと凛が言い出したのである。

 何のことかと言うと、8ミリの映画フィルムで撮影された大聖杯の画像である。AVIファイルの動画では、やはり信ぴょう性が難しいと凛が考えた事もあるし。まあその凛は、AVIファイルが何なのか、アーチャーに解説されるまで何も知らなかった人ではあるのだが。

 

 薄暗くした部屋で、映画鑑賞の気分で8ミリフィルムの映像を見ていた凛とアーチャー、士郎だったが、凛の顔色が蒼白になる。士郎とアーチャーは、慣れてしまったためか平然としていた。

 

 

「アーチャー、コンピューターの動画? ってのは細工が比較的し易いって聞いたけど、フィルム映像は?」

「あらかじめ魔術的な処置で幻影を出して、それを撮影するという方法が無くも無いが。だがこれだけ真に迫った幻影を出すのは、逆に何かしらのモデルを見て確固たるイメージが無いとな。という事は、この映像が幻影を撮影した物だとして、その大本になる災厄の源が、何処かにあると言う事だ。であるならば、冬木のセカンドオーナーとして、その災厄の源を断つ必要があるな。

 それとそこまで言ってしまってからで申し訳無いのだがね。これは偽映像では無いと思う。わたしはコレを見た記憶がある。擦り減った記憶の彼方で、確かにこれを見た記憶があるのだ。間違いなく、冬木の大聖杯だ」

「並行異世界の記憶と、偽造が難しいフィルム映像、か。衛宮君、現状では冬木のセカンドオーナーとして、聖杯が汚染されている可能性が極めて高いと断ぜざるを得ないわ。今後新たな明確な反証が出るまで、わたしたちは貴方に協力して聖杯戦争の少なくとも一時停止に協力する」

「感謝する」

 

 

 ここで凛が、アーチャーの様子が変なのに気づく。

 

 

「アーチャー、どうしたの?」

「いや、この映像に関して何か思い出したかの様な感覚を覚えたのだが。記憶、ではなく、記録? いや、これは? 何故だ、何故桜の事を思い出す。この汚染された聖杯と、桜が」

「桜!? 桜がどうしたの!?」

 

 

 凛が、叫ぶ。凛に取って桜は、間桐桜は、ただの後輩では無い。だが間桐家との約定で、それを語る事はできないのだが。

 そして士郎も眉を(ひそ)める。

 

 

「遠坂。間桐の家も、魔術師の家系だな?」

「え、ええ。その中でもちょっと事情がある家、だけど」

「以前、間桐がこの家、衛宮家に入り浸っていた時期があっただろう。俺が間桐桜の扱いに対して兄の間桐慎二に苦言を呈した事に対しての礼、って事で。家事手伝いしようって。あまりのしつこさに、立ち入り禁止区域を除いて立ち入りを許可したんだが……」

 

 

 士郎は肩を(すく)める。

 

 

「やっぱり立ち入り禁止区域に許可無く入ろうとしたんでな。追い出さざるを得なかった。間桐自身から魔力を直接的に感じた事は無かったんで、詳しい調査はその時まではしなかったんだが。その時に追い出す前に、簡易的な調査をしたら、魔力を体内に埋め込んだ何がしかで外に出さない様にしてると言うか、それ以上の調査は気取られそうだったんでしていない」

「!!」

「あと、間桐桜の意識がその際に存在していたかも怪しいな。警報機と魔術的、非魔術的トラップに引っ掛かって、立ち入り禁止区域へ立ち入ろうとしたのがバレた時の顔……。気弱で温厚な当人の性質が、まったく違う物になっていた。あの性格は偽装ではないと、俺は確信してる。

 だが別人格がそれに重なっているというか。見つかったとき、一瞬だけ顔を(みにく)く歪めて舌打ちしてたのを見てしまったからな」

 

 

 凛の顔色は、蒼白であった。アーチャーも苦悩を表情に浮かべつつ、語る。

 

 

「凛、この件に関してはわたしも出来る限り思い出そうと努力する。記憶ではなく記録、という事は生前の物ではなく、守護者としてか、あるいは今回の様になんらかの手段で個別に召喚されたときの記録だろう。必ず、必ず思い出してみせる。待っていて欲しい」

「え、ええ。衛宮、君。申し訳ないけれど、ほんとは泊まるつもり無かったけど、ちょっとそうも言ってられない。部屋、用意してもらえるかしら」

「了解した。いちおう晩飯に消化の良い(かゆ)を枕元に置いとくから、食べてから眠れ」

「ありがとう」

 

 

 そして部屋の準備が済んだら、よろよろと去って行く凛。それを後目に、アーチャーが士郎に訊ねる。

 

 

「……少し聞きたい事がある」

「あ。俺も」

「そう、か。先に、良いか?」

「ああ」

 

 

 そしてアーチャーは口を開いた。

 

 

「正義の味方、についてどう思う」

「綺麗なもの」

「……それだけ、か?」

「なんか聞いて来た理由、分らんでもないさ。お前も、義父(オヤジ)さんの死に目に、義父(オヤジ)さんの想いを聞いたんだろ?」

 

 

 その言葉に、アーチャーは頷く。

 

 

「わたしは、あの夜の事はどんなに記憶が削れても、摩耗しても、忘れない。忘れられぬ記憶の1つ、だ。美しかった。その理想が。だからこそ、わたしにとっての正義の味方、爺さんが。夢を、正義の味方を諦めてしまった事が。無念でならなかった。だから子供なりの想いで、その夢を受け継いで叶えてみせる、と。

 ……だが、その俺自身が、正義の味方にどの様なやり方で成るのか、明確な物を持っておらず。漠然と、爺さんに受け継いだ魔術で戦って、全てを助ける、全てを救う、正義の味方になるのだ、と。そうして、俺は正義の味方の『成り方』を間違えた」

「……」

「凛曰く、戦士の道は、全てを救いたいと願う俺にとって、唯一希望の一欠片も無い破滅の道だそうだ。警官なら、もしかしたら何時しか全ての犯罪を撲滅『できるかも知れない』。料理人なら、もしかしたら何時しか飢えを無くし、全ての人を幸福に『できるかも知れない』。だが、戦士の道は敵対した物、剣を向けた相手、それだけはどうしても絶対に救う事は『できない』のだ。わたしのやり方では、全てを救うには最初の1歩から間違えていた」

 

 

 アーチャーは続ける。

 

 

「そして最後に、わたしは守護者に『落ちた』。一部を切り捨てて全人類を救う者。虐殺の結果、人類という形の無い物だけを救う者。壊れそうだった。いや、壊れていたのかも知れん……。

 だが、見たところお前は、その道筋を通っていない様だな」

「そうだな。って言うか、あんた『わたし』と『俺』が、とっちらかってるぞ。まあ分からくも無いが。それと、義父(オヤジ)さんを爺さんは酷く無いか。享年で40代だぞ。まあ、見た目からは分らなくも無いけどさ」

「そ、それはな。爺さんが死ぬまで、年齢を調べようともしなかったんだ。その辺から、少しわたしは変だったかもしらんな」

 

 

 士郎とアーチャーは、そろって仏壇に手を合わせる。そして士郎は語った。

 

 

「俺にとって、正義の味方は『成ろうとして成る』もんじゃない。義父(オヤジ)さんはあくまで『結果として』『俺だけの』正義の味方になってくれた。だけど、義父(オヤジ)さんは他の冬木大火災の被害者からすれば、犯人の1人でしか無い」

「……」

「それでも、俺にとっては『正義の味方(ヒーロー)』だ。だから憧れたけど、俺にとっての認識は、自分から成るもんじゃ、なかったからな。まあ俺も目指してはいなくも無い。いつか、誰かの。何処かの誰かの。その人のための『正義の味方』に成りたいとは思ってる。でも、積極的に目指す、のは違う。

 だから、とりあえず『ほどほどの善人』として、『自分に負担の少ないレベル』で、多くの人を助けたいとは思う。公序良俗を『できるだけ』守って、まあでも緊急事態にはソレを踏み越える事も、大枠で『正義』ってほどじゃないけど『正しさ』を護れるなら、許容したりさ。聖杯戦争停止も、その一環」

 

 

 そして士郎は小さく、『キャスター時代にゃ、入れ込み過ぎて失敗した面もあるしなあ』と聞こえない様に呟いた。アーチャーはそれが聞こえなかったのか、(おもむろ)に話を進める。

 

 

「お前の方で聞きたい事とは?」

「ああ。俺、自分の流派の魔術師だから。というか、第四次のキャスター由来なんだ。とある事情で、第四次キャスターの魔術知識とか入手できてなあ」

「な!?」

「だから義父(オヤジ)さんには師事してなかったりする。それもあってか、コッチの普通の魔術師的な常識に疎くてさ。……セカンドオーナーって、何さ」

「そこからか……」

 

 

 少々疲れて、背中が煤けているアーチャーだった。

 

 

 

*

 

 

 

 5時間ばかり眠り深夜になった頃合いで、少しは元気を取り戻した凛が居間に戻って来ると、士郎とアーチャーが色々な荷を持って、地下室と土蔵とを行ったり来たりしている所だった。

 

 

「あんたら、何してんのよ」

「ん? サーヴァントの召喚準備。俺の工房は2つあってさ。地下室と、庭にある土蔵。土蔵には昔に義父(オヤジ)さんの奥さんが描き(のこ)した魔法陣があって、記念っていうか遺産って言うかみたいな気分で保管してたんだわ。でもサーヴァント召喚するから、使わせてもらおうかと色々機材とか、地下のメイン工房から運び込んでた」

「工房って、あんたさっき言ってた立ち入り禁止区域じゃないの?」

「アーチャーには、ゲスト用パスを出した。信用したからな。遠坂も、このゲスト用パス、胸に付けといてくれ。これは召喚術に影響を及ぼさないための個人用結界発生器でもある」

「あ、う、うん。……良かったら、手伝うわよ」

 

 

 そして凛もまた、小さめの機材を運びながら訊ねる。

 

 

「ねえ、サーヴァント呼ぶって言ったけど。サーヴァント、聖杯の願望器の力に魅せられて来るわけよね? 貴方に敵対しない?」

「その可能性はある。が、その場合はご退場願う。説得はするけど。ああ、ご退場って言っても、死んでもらうわけじゃない。聖杯の現出が進んじゃうからね。封印する。

 あと、俺は召喚に触媒使わない。触媒なしの召喚だと、自分と相性の良い相手が召喚()ばれるみたいだからな、調べた限りでは。であれば、説得も可能かも知れないし、もしかしたら俺みたいに聖杯に対し願いが無くて、単に一時的でも現界する事とかが目的の相手が来るかもしれん」

「なるほど」

 

 

 そして土蔵である。床の魔法陣周辺は片付けられ、その更に周囲に様々な魔導機器、そして狭義で言う科学の機器が置かれている。何度も言うが、広義に於いては魔術や魔法も科学の一分野であった。

 士郎は(おもむろ)に各機器を稼働状態にし、そして魔法陣に魔力を満たし始める。更には、右手前腕部に装備された簡易型の呪力増幅杖(ブースターロッド)を掲げる。呪力増幅杖(ブースターロッド)は装備者の呪力魔力を増幅するだけでなく、装備者額にインプラントされた魔化されたプラチナ片を媒介に霊的に交霊(チャンネル)し、装備者に代行して呪文を詠唱する。人間の声帯では不可能な、超々高速な発音で。

 

 

キュキュキュンキュキュン!!

 

 

 やや長めの高速詠唱(クイッククライ)。万が一の失敗を防止するためもあり、これでも呪文の詠唱速度はゆっくり目にしているのだ。内容をあえて記せば、以下の様になる。

 

 

『素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖には我が義父、衛宮切嗣。

 降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

 閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する。

 ……告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者。我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!』

 

 

 だがこの時、士郎の表情は引き締められる。そして口元から、呟きが漏れた。

 

 

「しくった、かも」

「え」

「え」

「遠坂、英霊エミヤ、失敗したかもしれん。俺は触媒を使わない事で、俺と相性の良い英霊を召喚()んで、協力を依頼しようとした。だが……」

 

 

 彼は目を自身の肉体に下す。

 

 

「俺の身体の中に、何らかの聖遺物があったんだ。俺はそれを聖遺物だとは、今の今まで気づかなかった。10年前の冬木大災害の日、俺を救おうとした義父(オヤジ)さん、衛宮切嗣が……。俺の身体の中に、なんか医療用の物品を魔術的に移植したのは理解していた。だがそれが、聖遺物、触媒としての働きを持ったものだとは」

「あ」

 

 

 アーチャーが呆けた声を出した。そうだ、彼が異世界の衛宮士郎であった時も、衛宮切嗣はソレを体内に移植してくれていたではないか。……サーヴァント・セイバー、アルトリア・ペンドラゴンの召喚触媒となるべき聖遺物、聖剣の鞘、アヴァロンを。

 

 

「既に召喚は、止められん。最悪の場合、いきなり戦いになる可能性もある。聖杯戦争を止めるのが目的であるこちらと、聖杯を求めるサーヴァントの間で、理解し合える可能性は低いからな」

「まずい、わね」

「……」

 

 

 肝心かなめのこの時に、大事な記憶を思い出せなかったアーチャーは、無言で冷や汗を流す。魔法陣には既に、霊的な存在が霞状の薄煙となって渦を巻いており、それは小規模な魔力の(いかずち)(まと)って輝いている。

 

 

 

*

 

 

 

 そこに立っていたのは、清冽な清らかさを見せる、少女であった。蒼いドレスの上に、銀の甲冑を纏い、金の髪がその頭部を飾る。月光が天窓より差し、少女騎士の姿をこの上なく美しく彩る。

 

 

「サーヴァント・セイバー……。

 召喚に応じ、参上した。

 ……問おう。

 あなたが私のマスターか?」

 

 

 しかし、気おされずに士郎は応える。士郎には、その半分である旧キャスター黒杖特捜官(ブラックロッド)には、衛宮切嗣の持っていた聖遺物を触媒に召喚された以上は、それはこのセイバーである事を充分理解していたからだ。

 

 

「ああ。『俺/僕』がお前のマスターだ」

「? ……これより我が剣はあなたと共にあり、あなたの運命は私と共にある。ここに契約は完了した。

 あなたのお名前を、伺いたい」

「俺は衛宮士郎」

「……衛宮?」

 

 

 一瞬、セイバーの視線が鋭くなる。そこへ士郎の言葉が重なった。

 

 

「俺は衛宮士郎。第四次聖杯戦争における、お前のマスターであった衛宮切嗣の養子だ……。セイバー、アルトリア・ペンドラゴン」

「な……!」

 

 

 そして士郎はその場に座り込み、胡坐(あぐら)をかく。その様子にセイバーも凛もアーチャーも、目を丸くした。セイバーは叫ぶ。

 

 

「何を……!」

喝ーーーーーー(かーーーーーッ)!!」

「!?」

「……セイバー、お前が我が義父である衛宮切嗣に対し、怨み骨髄である事は理解する。恨まれても仕方の無い事をしたのも、理解する。だが、それには理由があった事を知って欲しい。その上で、お前に頼みたい事があるんだ。

 だからそれを話すまで、とりあえずお前の怒りは棚上げにしてもらえないか」

 

 

 セイバーは柳眉を逆立てて士郎を見遣るが、しかし眼を瞑り、肩を落とす。

 

 

「わかりました。ですがその話とやらで納得しない場合」

「その時は、俺を討てばいい。今も俺は、お前に討たれる覚悟で、こうして無防備な姿を晒している」

「……了承した。貴方は、誠実な方の様だ。……貴方の義父と違い」

「……その義父(オヤジ)さんの態度にも、理由はあったと言ってるんだがなあ。ああ、遠坂。忘れるとこだった」

「え、何」

 

 

 凛は唐突に話を振られて、驚きの視線を返す。

 

 

「お前、冬木の地のセカンドオーナー、いわゆる魔術的な意味での土地の管理者だったんだってな。義父(オヤジ)さん、モグリの魔術師だったそうじゃないかよ。言ってくれたなら、義父(オヤジ)さんと俺の分の上納金、払ったのに。

 っていうか、俺がセイバーに殺される前に払い込むから。銀行の支店と口座番号、教えろ」

 

 

 あまりの言いぐさと言うか、場の(わきま)えなさに、凛は切れた。

 

 

「そんな事、言ってる場合ーーー!?」

「今の内に言わないと、セイバーが何時俺を斬るかわからん」

「斬りませんよ! 騎士の誓いを何だと思ってるんです!」

 

 

 セイバーも、切れた。




いや、凛もセイバーも切れるよねそりゃ(笑)。

それはそうとして、士郎と紅茶はとりあえずというか、まあなんというか、ある程度の相互理解には及びました。あと士郎が微妙に本編士郎と異なる感じであるが故に、同族嫌悪も無い模様です。特にアーチャー側からの。
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