自尊心+肉体マッサージ 作:ビクッミン
綾小路清隆→何を間違ったかスケベ度が原作より高い。
櫛田桔梗→困る。
Dクラスで序盤の出番が多そうな人達は以上。ファイッ!
「お前は何者だ。なぜホワイトルームのことを知っている」
クラスメイトの
人気のない非常通路に僕を呼び出し、今にも殺害しそうな眼光を向けてきている。
「さっさと吐け、
「距離を詰めてこないでくれる? 純粋に怖い」
僕は
「悪いことは言わない。正直に話せ。なぜあの施設のことを知っている」
綾小路清隆クンの目はガチだ。なんだよその無慈悲な暗殺者みたいな冷たい眼差し。自己紹介でどもってたのは演技だったのか? 眠そうな顔で本当に居眠りを始めてたのは僕を欺くために?
そう、彼はうたた寝していたのだ。みんなが自己紹介している最中に。自分が自己紹介をミスったからってつまらなさそうな顔で、普通に瞳を閉じてスゥスゥしてたよ。
「逆に聞きたいんだけど、ホワイトルームってなに」
「先にその単語を出したのはお前だ」
「君が寝言で言ってたのが先だからね。ホワイトルーム……クソが……って」
「なんだと?」
綾小路君は目を見開いた。どうやら驚いているようだが、僕が言ったのは事実である。
ホワイトルームなんちゃらと先に言ったのは彼の方だ。寝言で言ってた。僕としてはなんじゃそりゃとなったから質問してみたら、こんなことになった。
人気のないところに連れ込まれ、詰められているというわけだ。腕を掴んで強引に。誰かに見られたらおぞましい勘違いをされるかもしれない。入学初日でそっちの疑いをかけられるとか冗談ではない。冗談ではないんだよ清隆クン。いやキヨポン!
「先に言ったのそっちだから、キヨポン」
「キヨポンってなんだ」
「あだ名だよ。こちとら
人の話を聞かない清隆なんてキヨポンと呼ぶのが相応しい。意味不明だが許して欲しい。これでもテンパっているんだ。まさか入学初日に男子に拉致されて、超至近距離で見つめられるとは思ってなかったから。
近いんだよほんと! 息遣い聞こえるレベルで近い! 彼我の距離感バグってない? 君は中学で人間関係とか学んでこなかったのかい?
「……あだ名か。悪くないな」
「悪くない!? なんなのほんと! 奇想天外な発言と行動はやめてくんない!? 調子が狂う!」
「それはすまない。だが、そうだったのか。つまり俺は寝言でホワイトルームと口にした。お前はそれを耳にしてしまっただけだ」
「そうです。だから解放してください」
身長はこっちの方が少し高いけど、戦闘になったら勝てるかは微妙だ。戦いの強さを見た目だけで決めつけるのは危険である。実家に住み着いているちっちゃいおじさんがいい例だ。ヤスマツさんは見た目は弱そうだけど超強い。ちなみに髪の毛はない。
「なるほど。オレの早とちりだったか。まずったな……昨日は入学式が楽しみすぎて眠れなかった。睡眠不足の弊害がこんなところで出るとは」
「純粋な心してるくせに拉致脅迫するとか……」
「別にオレは純粋じゃないぞ」
「そっか」
「ああ……」
さて、気まずいぞぉ。
誤解だとわかったのならさっさと去ってくれればいいんだけど、キヨポンは微動だにしない。先に動いたら殺されそうな気がするから、僕も動けない。
「……」
「……」
会話は、消えた。
なんなんだこの状況は。
結局ホワイトルームってなんなんだろうか。知っているならお前を消し去るくらいの勢いだったけど、まさか知ってはいけない日本社会の闇……そうたとえば、悪い政治家が関与している虐待・売春施設とか。
そこにキヨポンも関与している……? つまり、キヨポンは高校生にしてトンデモナイ犯罪者……いや、ないだろ。ないと信じたい。ガチだったら戦闘が発生してもおかしくない。それは避けたい。
「清水」
「なに?」
「ホワイトルームとは俺の妄想の産物だ。少し恥ずかしかったから、口封じしておくべきだと思い、お前をここに連れてきた」
「発想が物騒すぎるだろ。口封じとか普通に言うのやめろ。そんなワード出てこないから。日常生活……それも普通の高校生活においては」
「そうなのか?」
「そうだよ」
「そうか……」
「……」
僕の不安は今にも爆発しそうだったが、キヨポンが襲いかかってくることはなかった。
「それなら、ジュースでも飲むか? 清水、コーラでもペプシでも構わない。お詫びに奢ってやる」
「いらない」
「おかしいな。普通は喜ぶんじゃないのか? 高校生なら」
「コーラとペプシの二択じゃなぁ……」
「ならお前の好きな物を選べ」
キヨポン違う。そういうことじゃない。問題なのはジュースの種類じゃないんだよ。
「遠慮するな。オレはそこまで貧乏じゃない。むしろ金ならある。友達に奢るくらいわけない」
「そりゃそうだろうね。十万もらったわけだし。ちなみに所持金はほぼ同額だと思うよ?」
この学校はかなり変わっていて、入学と同時に十万円相当のポイントを支給してくれた。高度育成高等学校は全寮制で、敷地内には色々ある。コンビニ、カフェ、ショッピングモール、カラオケなどなど。それら全てでポイントが使える(レートは1ポイント1円)わけだけど、今はそんなことはどうでもいい。
「ところで、僕らって友達なの?」
「……違ったのか?」
友達だと言うなら、問答無用で拉致したり脅したりしないで欲しい。あと上目遣いやめろ。キヨポンは心做しか悲しそうな顔でこちらを見ている。暗殺者モードとのギャップが激しいなおい。
「友達でいいよ。友達でいいけど、だったら拉致監禁脅迫はNG」
「当たり前だろう。友達にそんな真似をする奴があるか。ダメだって俺でもわかるぞ」
「……」
キヨポンは棚上げ星人なのか?
少し、いやかなり変な人だ。単なる世間知らずのお坊ちゃまとも違う感じがするし、まさか本当にダークサイドの人? 外界から隔離された施設で特殊な訓練を受けてきたとか……ないか。そんなゲームやアニメみたいな話はあって欲しくはない。とりあえず高校生活内では直面したくない。絶対に嫌だ。
「とにかく……すまなかったな。寝言の件は秘密にしておいてくれ。高校生にもなって寝言だなんて恥ずかしいからな」
「その羞恥心は大切だと思うよ。それじゃ僕は帰るから」
「待て。折角だから色々と教えてくれ。そうだな……折角だからあれが聞きたい。どうしたらリア充になれるんだろうか」
「知らないよ。とりあえず洗顔を頑張ればいいんじゃないかな」
僕は適当なことをほざいた。
リア充って……キヨポンはモテたいのか? まあ男子なら当たり前の感情だとは思うけど、キヨポンに関しては意外だ。女子に興味とかなさそうに見えるのに……って、第一印象で判断するのは愚の骨頂。いけないいけない。
「洗顔か……それなら洗顔フォームを買って帰るか」
「それがいいと思うよ。できれば高いやつね」
「そんなに違うものか」
「ものによる。多分」
薄暗い空間から出てコンビニに向かい、その辺にあった洗顔フォームをゲットした。キヨポンが。僕はいらない。使いたくなったら借りればいいし。そもそも使いたくなる頻度がそこまでじゃないから。
「これでいいか。肌ツヤフォーム・フォーティシックス。フォーティシックスってなんだ? シックスナインの間違いか?」
「それ、教室では絶対言うなよ。リア充が遠のいて戻ってこなくなるから」
今のは冗談……なのか? 距離を縮めようとして下ネタに走った……のか? 表情筋の動きが少なすぎてよくわからん。冗談のつもりなら笑ってよ。そうだよ笑え。笑えよキヨポン!
「そうだな。どんなことになるかはだいたい想像つくからやめておく。とりあえず洗顔してみるよ。それでリア充が近づくなら安いもんだ」
「えーっと、キヨポンは彼女欲しいの?」
コンビニを出て寮へと向かう途中、真顔のキヨポンに尋ねてみた。既に狙ってる子がいるならアドバイスくらいはできるかもしれない。クラスメイトなら力になってあげたいところだ。理不尽な目には遭わされたが、あれくらいで嫌悪したりはしない。ディープフェイクのベロチュー写真(なお相手は男)を流通させられたりしたら、さすがに僕でも怒るけども。キヨポンの行いなんて、それに比べたら可愛いもんだ。
「彼女は欲しいな。楽しい高校生活の必需品だし……」
「必需品とか言うな。それも教室では言っちゃダメなやつだからね。さっきのシックスなんちゃらより宜しくない」
「わかってるって。オレはそこまで無神経じゃないぞ。必需品扱いなんてしたら、女子からどう思われるかくらいわかる」
「それなら声のデカさを抑えようか。いや普通の声量ではあるけど、すれ違った先輩達には聞こえてたからね」
とても綺麗なお姉様達が早足で僕達から離れていく。汚物を見てしまったような顔で。
「しまった……オレとしたことが……たまに細かいことを失念してしまうのは、オレの悪い癖だ」
「最近なんかドラマ見た?」
「ああ。杉下という刑事が出てくるやつで……」
「今のはボケみたいな何かってことね。わかりにくいからやめた方がいいよ」
その杉下さんの口癖は『僕としたことが……』と『細かいことが気になってしまう、僕の悪い癖』。あんまり似てないしウケないとも思うから、やめた方がいいと思う。
「清水は頼りになるな。できればこれからも色々と教えてくれ。手始めに連絡先の交換を」
「いいけど、深夜に変なメッセージ送ってきたらブロックするから」
「大丈夫だ。その辺の常識はわきまえている」
キヨポンは腑抜けたツラで胸を張った。常識は弁えていないと思った。
寮のマンションに戻ってきて、エレベーターホールで立ち止まる。なんと十四階建て。何から何まで贅沢極まりない学校である。十万円の支給でみんな浮かれまくってるけど、怪しすぎるだろ。絶対に裏があると思うと怖いよ。
「しまった」
「なに。またなんかやらかしたの?」
一緒にエレベーターに乗り込むと、キヨポンは迫真の表情で言った。
まさか忘れ物でもしたのか? あっエレベーターの扉が閉まった。
「ジュースを買うのを忘れた……オレの部屋にコーラとペプシがあるんだが」
「いらない」
エレベーターは四階で一度止まり、キヨポンはゆっくりと外に出た。ついてこいよと言わんばかりに顎で部屋の方向を示してきたが、僕は無言で閉まるボタンを連打した。
「おい。ペプシかコーラかどっ」
「……」
キヨポンの声は途中で消えた。姿も消えた。
エレベーターが動き出す中、僕は一人でツッコミを入れた。
「いや、ペプシもコーラだから」
キヨポンがコーラコーラと言っていたコーラは、きっと正式名称があるはずだ。全く興味ない。
▼
「友達ができた? あなた、何を言っているの。友達なんて普通にやっていれば量産できるものでしょう。わざわざ喜ぶほどのものでもないわ」
黒髪ロング。均整の取れたスレンダー。見る者に聡明な印象を抱かせる美形。
「ほどほどに自尊心を満たしてあげれば、大抵の人間は心を開くものよ。もちろん、上手くいくかは相手の知能によるけど……世の中は馬鹿の方が多いの。ほら。友達を作るなんて簡単じゃない」
綺麗な手の平をパーにして、「ほら」と突き出す謎の仕草。意味深な微笑を浮かべてはいるが、深い意味はどこにもない。
「私は既にクラスの過半数と友人になったわ。過ごしやすい高校生活のため、駒になってくれそうな人が何人かいたから、ばっちりよ」
「なごやかに談笑してると思ったら……そんなこと考えてたのか。いや、いいんだけどね。腹の中で何考えても。薄っぺらい表面上じゃなければ。嘘もつき通せば本当になるわけだし」
堀北鈴音は笑みを深めた。
会話の相手は同じ中学の男子、清水空人である。
本日の反省会をするために呼び出したのだが、良く考えれば
持ち前の美貌と磨き上げられた愛想を活かし、初日にして信頼度は急上昇。よりよい高校生活に送っていくにあたり、順風満帆な滑り出しであった。
「不本意ながらではあったけど、中学時代に自ら気付き、あなたに色々と教わっておいて良かったわ。独善者のままだったとしたら、私は大切なことに気がつくことができなかった。そう。どんな無能でも使いよう。心象を良くしておくに越したことはないってね」
「自ら気付き、教わった?」
「そのとおりじゃないの。何を変な顔をしているの。私は優秀だから自分で気付いて、そっち方面に秀でているあなたのやり方を学んだの。自発的にね。断じてやらされたわけではないわ」
鈴音は「ふっ……」と昔を懐かしむ。
優秀すぎる兄に追いつくことばかりに気を取られ、低脳と関わること自体が害悪だと考えていた中学時代。友人など無価値だと思っていた。
しかし、鈴音ははたと気づいたのだ。一人の人間にできることには物理的に限界があるから、他人を利用すればいいのだと。そして、利用するためには相手の能力を正確に把握することはもちろん、相応の信頼度をゲットしておかなければならない。人間には感情というものがある。嫌いな相手の言うことは正しくても従わないものだ。
「鈴音ちゃん大丈夫? まさか入学式が楽しみすぎて寝不足で、頭おかしくなってる?」
「はぁ? 綾小路君と一緒にしないでくれる? 体調管理に余念はないわ。あなた、私を誰だと思っているのよ」
鈴音はヤレヤレと手を広げた。
彼はもしかすると、素直に褒めるのが恥ずかしいのかもしれない。堀北鈴音の優秀さを最も良く知っているくせに、頭がおかしいとかなんとか。そんな感想が出てくるはずがないのだ。
「あなたは言っていたはずよ。私はとても価値のある人間で、その価値は何物にも代えがたいと。凡人を百人合わせても足りないくらいの価値だと」
「そこまでは言ってない」
彼もヤレヤレと頭を振っているが、やはり照れ隠しの類いだろう。この照れ屋さんめと言おうとして鳥肌が立った。我ながら気持ち悪いから口に出さなくて正解であった。
「思い返してみると……あなたは頑なだった私に、少しばかりの気づきをくれた」
「なんでいきなり語り出すの? 最近多いってそういうの。ホント大丈夫?」
「何物にも代えがたい価値がある。ダイヤの原石。誰も手が届かない高嶺の花。どれもこれも素晴らしいたとえね」
「真実にしれっと嘘を混ぜ込むのやめろ」
「短所なんて存在しない完全無欠。惜しいところがあるとすれば、それは社会性を軽視しているところ。それさえ克服すれば未来は明るい。兄さんと同じくらい価値のある人間になること間違いないと、貴方はそう言ったはずよ。素晴らしい慧眼だわ。見る目がある」
「現在進行形で社会性が失われてるんだよ。会話が噛み合ってないのに喋り倒してるんだから」
彼はなんか言っているが、まあいい。
口でなんと言おうが、堀北鈴音の素晴らしさを、価値を知っているのは間違いないのだ。かつて、低脳共は鈴音の優秀さを僻んでいて、ビビって近寄ってすら来なかった。
しかし、彼は違った。
高嶺の花に対して粘り強くコミュニケーションを取ろうと努力し、より素晴らしい人間になって欲しいと、気付きを与えようとした。
非常に素晴らしい行いである。かなり
「私の成績なら努力せずとも卒業できる。そうすれば明るい未来が待っているわけだけど、だからといって現状にあぐらをかいていてはいけない。立ち止まる者は退化するから。だから日々、努力は重ねていくべきだわ」
「すごく気持ちよさそうな顔で喋ってるね。スカートめくれてるから直そうか」
「デリカシーがない。それはあなたの欠点のひとつね。話を続けるわよ」
「終わらせて欲しいなぁ」
彼は何を言っているのだろうか。
前に声が綺麗だと言っていたことがあったはずだ。
それならいくらでも聞いていたいと思うものだろう。ご褒美を貰って文句を言うなど……ああ、照れ隠しか。全く……素直じゃない人である。
「大きなことを成し遂げたいなら、孤独ではいけない。将来のため、駒は今から手なずけて置くべきだわ。もちろん教育も必要よ。今だけ良ければそれでいいという考えではダメ。先を見据えて行動してこそ、真に優秀で価値がある人間というものよ」
ちなみに、清水空人はそんなことは教えていない。
かつて彼が言い聞かせたことのひとつは、一人で体育祭とか文化祭とかできないでしょ? である。他人の協力がなければ出来ることは限られている。どんなに天才な人でもマンパワーには上限がある。そういう超低次元なアドバイスだったわけだが、鈴音は深い思考の末、明後日な方向の結論に至っていた。
「ひとつアドバイスをしてあげる。あなたの自己紹介、少しインパクトに欠けていたわ。普通すぎて面白みがなかった。あなたらしくもない。少し考え直した方がいいわね」
「ダメ出しが始まったよ……鈴音ちゃんさぁ、今年入ったくらいからポンコツ度が上がってる気がするんだけど、ホント大丈夫?」
「何も心配はないわ。頭が疲れた時はマッサージしてもらえばいいし……あなたが私に勝っている数少ない技能のひとつ。それが疲労解消のマッサージ。久しぶりに指をお願いするわ」
鈴音は勝ち誇った顔で右腕を突き出した。
この男は他人の疲労を和らげる才能がある。具体的には揉まれると頭がスッキリする。もちろん腕とか肩をだ。最近は大体それで終わる。
「あなたも人脈は広げなさいよ。よりよい将来のために」
「はいはい……なんでこんな風になったかなぁ」
「どういう意味かしら?」
「キャラが崩壊したってことだよ」
「ごめんなさい、意味不明。猿じゃあるまいし、人間の言葉で喋ってくれる?」
よりよい将来のために!
堀北鈴音は高校生活を充実させ、友人という名の駒を量産していく。かつてこの男が言ったように、堀北鈴音は誰よりも価値のある人間になることのできる可能性のある、いわばダイヤの原石なのだ(言ってない)。