孤独とグルメ   作:大気圏突破

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害食

 八神はやてたちが所属する時空管理局は大別して二つの組織から成り立っている。『海』と呼ばれる次元航行部隊と『陸』と称される地上本部が双璧をなしているが関係は悪い、本局は「次元世界全体の平和」を重要視しているため次元世界を股にかける『海』に対してレアスキル保有者を含む優秀な魔導師を優先的に配属してきた

 

 潤沢な予算で露骨な引き抜きも行われ地上の戦力は年を追うごとに痩せ細り、犯罪件数も増えてしまい首都であるクラナガン周辺のスラム街が形成されている

 

「ミッドチルダ衰退の原因を作った組織が上から目線で侵犯してきて、他部署の者たちが手を貸すと思うか?」

 

「…思いません、せやけど4年前の空港火災の―――」

 

「今はそこの論議ではなく、貴官は隊長として部下の命を預かる身だ率先して行うことは何だ?」

 

 カウンセリングが始まると思いきやゼストの指摘に対して彼女が答えていく形式となった。今でこそ流浪の生活を送る彼だが地上本部に勤めていた頃は名の通った猛者である

 

 

「部隊を設立するときに何を一番に考える」

 

「………………」

 

 この質問には間違っていても即答してほしかった。隊長の矜持が鈍ってしまうと下で働く隊員たちまで伝播してしまい組織として脆弱になってしまう

 

「…そこに勤める隊員たちの安全やろか」

 

「確かにそれも重要なことだが一番ではない、隊員たちの実力を十分に発揮させる環境の構築だ」

 

「せやけどちゃんと環境も」

 

「隊長たちにリミッターを設けたこと、傾いたパワーバランスに胡坐を掻き横との連携が出来ない状況は組織の長として疑問に思わなかったのか?」

 

 過剰とも呼べる戦力を運用するために能力限定を受けた。『陸』との軋轢は彼女が原因ではなく紡いできた歴史によって形成されたが事前に分かり切っていたことなので設立前に関係を作ることだって可能なことだった

 

 

「心のどこかで地上で働く隊員たちのことを見下していたか」

 

「…っ!」

 

「貴官は実力を持った若者が陥りやすい陳腐な全能感に溺れていたようだな、俺も若い頃は同じ境遇に陥ったが仲間が頬を叩いて助けてくれた」

 

 その話を聞いて彼女は自身の今までを振り返る。周りから聞こえるのは自分を褒め称える拍手の音と歓声で雑音は消されていた。守護騎士たちも常に『イエス』しか言わない存在で提案したことに対して否定的な意見を述べることはしなかった

 

 

 

 

 痰が喉に絡みゼストが咳き込んだことで休憩となり、ミドラは彼の体調を鑑みて薬草茶を作ることになった

 

「兄貴〜」

 

 弱々しい声でアギトが申し訳なさそうな顔をして近付いてくる。何となく理由を察したミドラは多くを語らず人さし指の腹で彼女の頭を撫でる

 

「あるとき払いで十分だ」

 

「でもそれだと―――」

 

「理由になるから気長に待つさ」

 

 そう言ってマグカップに薬草茶を注いで切り株に腰掛けるゼストのところへ向かうと、頭を垂れる八神はやての隣にルーテシアが座っていた

 

 

 

「ねぇ!」

 

 返答の声は出さなかったが半身になって目線を合わせる。はやてからすれば彼女は戦闘中に隊員のキャロが使役するフリードを攫った存在で明確な敵だが、そのドラゴンが身近に居ないということは結末を察するのは容易なことだった

 

「何で落ちて死のうと思ったの?」

 

「………っえ!」

 

「ゼストが教えてくれた。色んな人を不幸にした女」

 

 心臓を抉り生命を刈り取るような言い方に、鼓動が早くなり過呼吸へ陥りそうになったがギリギリで持ちこたえる

 

「死んだら何もできなくなるよ」

 

「何もしたくないんや、全部失敗してもうて嫌なんや!」

 

 ミドラに攻撃をしたことで高町なのはのリンカーコアが全壊し事の成り行きを知った彼女の姉に罵られる。散らばるレリックもスカリエッティ一味に奪われ機動六課の存在意義を問われるようになった。挙句の果てに10年前の事件で糾弾され世間の目が冷たく突き刺さる

 

 

「失敗することはいけないこと?」

 

「成功しないとアカンのや、失敗すれば積み上げてきたもんが全部のうなってしまう」

 

「また積めばいいじゃん」

 

「簡単に言うてくれるけど世の中は失敗をした人に次のチャンスなんて与えられへん」

 

 

 寝れなくて追い詰められる日々を過ごし若干の被害妄想に支配されている

 

「誰がそんなことを決めたの?」

 

「それは…それ、は」

 

 言葉に詰まりヒートアップしていた頭が段々と冷えていくのを感じる。確かに失態を犯せば評価が下がるのは当たり前のことだが彼女はまだ10代の女の子で経験も浅い、少なくとも次のチャンスが二度と訪れないということは有り得ない

 

 

「アギトは私たちの財布を燃やしちゃった」

 

「ルール―!」

 

「だけどミドラから借りたお金を返そうとしている。毎日泥だらけになって頑張っているのを私は絶対に笑わない」

 

 はやての失敗と財布を焼失させたことを同列に扱うのはどうかと思うが少なくとも根本の部分は同じなのだ

 

「もう一度言うよ、死んだら何もできなくなるよ!」

 

 

 今の彼女にとって正面から突き刺さる正論は味わったことのない苦しみとなって襲い掛かる。メンタルがボロボロで薬に頼らないと瞼を閉じることすらできない

 

 

 

「成功は積み上げすぎてはいけない」

 

「ゼスト?」

 

「1つ2つを積むぐらいなら構わないが10や20を超えると周りが求めて期待してくる。いつの間にか成功は枷となって心を支配し全てを乗っ取ってしまう」

 

 過去のことを思い出す。地上の戦力が吸い上げられると必然的に実力を持つ彼に期待するようになる。そして浴びせられるプレッシャーで食事が喉を通らない日もあった

 

「でも…しないといけないんや、カリムの予言を」

 

 

 彼女は発せられる言葉を受け入れようとするがキャパシティを超えてパニックを引き起こす。涙がこぼれているのに笑顔を作り出してしまい何をしたいのか分からない、呼吸が段々と浅くなって全身に酸素が行き渡らず苦しくなる。今度はアトピー患者のように皮膚に爪を立てて掻き毟ろうとするが寸前で止められた

 

 

「どうする?こいつを六課に戻したら二度と人として生きられなくなるぞ」

 

「カウンセラーのいる医療機関に連れていくしかなさそうだな」

 

 ストレスが原因で精神が衰弱し心が壊れかけている。積み上げていった成功が崩れたことで感情が追いつかなくなり子供のように泣きわめくことしかできない

 

 闇の書事件の加害者と被害者は10年の時を経て引き合わされた。全てを受け入れて今まで生きて来たミドラとしては終わったことに対して唾を吐くつもりはなかったが、守護騎士の主である彼女は未だに過去に囚われたままだった




秋華賞の本命が決まりました

高町美由希の戦闘力は?

  • ナンバーズに勝てる
  • ギリギリ善戦出来る
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