「上条!」
「まかせてください!」
勢いそのまま右手を振るい、目の前のうようよした化物…呪霊を祓う。
ついこの間まで病院にいた俺こと上条当麻は、ある程度動けるようになった途端に任務へ行くことに。
なんでも呪術界は万年人手不足であり、学生が出張ることも珍しくないそうで。
今は安全を考慮してクソ強い先輩方二人の付き添いとして来た訳だが…
だとしてもさぁ!
ついこの間まで意識不明だった子どもを出すか!?
まだ体の節々が痛いんですけどぉ!
…まあ本音ではそうだとしても理屈では納得せざるを得ない。
「やっぱ呪霊ぶっ殺すだけなら便利だよな、上条の右手は」
つーかこれ術式か?と右手を直に見ながらつまらなそうに言う五条さん。
そうだ。
多忙の原因のほとんどはこの右手、
今しがた祓った呪霊というのは風斬のように異能によって構築された存在であり、彼女と同じく触れたら基本強弱なく消失、この右腕は祓えてしまう。
さらに呪霊は人並みの知能を持たないのが圧倒的多数なので
上層部もすぐに仕事をあてがうのも分かってしまうが、なんともまあ恨めしい。
学生だぞこちとら。
勉強が仕事ならぬ仕事が勉強になってるじゃん。
ストレスで呪霊生まれそう…それすらこの右腕で掻き消されるだろうけど。
「病み上がりのところお疲れ当麻。 怪我はないかい?」
「大丈夫です。 それよりほとんど戦ってた2人は何か…」
「ばーか。こんな雑魚、戦ったにもなんねーよ」
「上条は後輩で私たちは先輩なんだ。これくらい当然さ。何より私たちは───」
───最強なんだ、と続ける夏油さん。
事実、今までの戦いを見て2人の実力は相当だ。
五条さんの無下限呪術は圧倒的な暴力、そして文字通り他者を寄せ付けない力。
髪色も相まって、彼の学園都市第一位を意識せざるを得ない。
方や夏油さんの呪霊操術は数に物を言わせた技の多彩さ。
とあるで言えば木山さんや恋査に近い戦術かな。
更に二人とも体術もできるのだから正直隙なんてありゃしない。
今回俺がやったことなんて祓い損ねた呪霊の後始末みたいなもので終わってしまった。
「そういえば夏油さん、呪霊打ち消しちゃってよかったんですか? 俺の右手だと跡形もなくなっちゃうから取り込めないんじゃ…」
「たしかに数が多いに越したことはないけど、ここまでは流石にいらないかな。上条がいてくれて助かったよ」
俺のいらぬ心配を笑いながら夏油さんは呪霊を黒っぽい玉に変えて呑み込む。
とあるでは見慣れぬテイストの調伏に少し驚いてしまう。
絵面的にも絶対に不味いと思うんだけどな、呪霊だし。
「そいや前に言った流しそうめん、校舎の裏にある竹つかおうぜ。天元様の結界内にある竹だから、他のやつより品種がいいだろ絶対」
「たしかに… さすが悟だね。帰ったら一本だけ取ってチェックしてみようか」
「…そんなことしたら上がめんどくさそうですけどいいんすか。天元様が少しでも関わるならぐちぐち言ってきそうですけど」
「はっ! 死にかけのジジババどもに何言われてもどーでもいいわ」
「何より私たちは――最強だからね」
「それ言えば何でも解決すると思ってません?」
「呪術って…魔術のカテゴリーでいいのかな」
以前、記憶喪失なら知識の抜けがあるかもしれないと家入さんに渡された本を読んだときのこと。
この世界の上条当麻が身を置いている呪術の世界について書かれていたそれには呪術にまつわるあらゆることが書かれていた。
曰く、呪力とは「人間の負のエネルギー」である。
曰く、人は大なり小なり呪力を持ち合わせている。
曰く、呪術師と呼ばれる者には生得術式が刻まれており、呪力を糧に術式を振るう。
その他にも色々書かれていたがこの呪術という超常、名前の響きだけなら俺の知るとあるの魔術に近しいものだと考えていた。
だが頭に浮かんだのは、とあるにおけるもう一つの異能体系。
「魔術…というより超能力の性質もあるのか?」
特に生得術式がまさに『
解釈次第ではどんな術式でも化ける可能性があるのも同じだ。
一個体一つの能力の原則もビンゴ。
もちろん血統や個人の資質が重要だったりと違いもあれば共通する部分もあったりと完全には一致しない。
元一般人の俺からするとオカルトちっくな印象を受けるから一見魔術だと思う反面、一応科学で裏付けされている超能力の要素も見受けられる。
…まあ超能力がオカルトしていないかと問われたら、それはそれで怪しいけど。
ならばこの右手はこの世界でどんな立ち位置にあるのだろう。
上条当麻の右手に宿りし能力で、超能力でも魔術でもそれが異能の力なら、たとえ神の
この右手を巡って禁書世界は物語が進んでいると言っても過言ではない。
それがこの世界でも同様なら…いやどうしようもできないわ。
呪いに関することなら何でもお任せ!五条先輩's eyeでも分からないって、ほんと何なんだお前。
「まずは生活に慣れていかないとな」
本と一緒に受け取った学生証には、『
それが呪術師としての上条当麻。
広い視野で見るためにも呪術師として生きていく他ない。
そうしないと情報がないんじゃ!
まあこの体が本当に上条当麻なら、危惧すべきは右手じゃなくて中にあるものかもしれないし……
無断で竹を伐採するのがいけなかったらしい。
おかげでヤガセンにえらい大目玉を食らった。
流しそうめんの台に使うと言ったら説教の時間が延びた。
どうしてだろうか。
たけのこじゃなくなって食われる機会を失った竹を有効活用してやったと言うのに。
パンダでもいれば話は別かもしれないが。
にしても腐ったミカンか… ヤガセンも聞いたとき噴き出しそうになってたし、一般家庭出身の私ですら思い当たる節は多々あったのだ。
名家五条家の悟の評価は何も間違っちゃいないのだろう。
だがあんな形態でもまあ弱者生存の体は取っているし、私からすればまだマシと言ったところか。
『弱者生存』
そのために強者たる呪術師は力を使い、非術師を救う。
それが本来あるべき社会の姿であり、そして呪術界の絶対の責務だ。
中でも特級を冠している自身にかかる比重は他とは比べ物にならない。
同じ特級の悟はまだ自覚がないようだが…
それも込みでまだ学生だ。
これからも一緒にいる中で実感してもらえればいい。
「とうま! また他のおんなの人のにおいがするんだよ! 今度は誰なのかな…」
「いやいやとばっちりだ! つーか何だその嗅覚! お前そんなキャラだったとはお父さん全く知りませんでしたよ!」
通りがかった部屋から後輩の悲鳴となぜか異性なのに同居している女の子の声が響く。
人口密度が敷地に全くと言っていいほど釣り合っていない寂しいこの宿舎ではこの騒ぎは近所迷惑にもならない。
私らの代もまあ騒ぐ方だがプライベート空間では落ち着くのが多いので新鮮味もあって好きにさせている。
上条が来てから高専も少し変わった。
変化を感じるほど高専にも長くいる訳でもないが、それでもそう思える。
硝子が気に入っているようなのは意外だった。
以前一度だけ悟と一緒にからかったことがあったが、仮にも医師の卵とは思えないほどの仕打ちを受けた。
二度と硝子には逆らわないと心に決めた。
「キャラってなに!? そもそもとうまは私のこと子ども扱いしすぎ! 反転術式も効かないとうまの方がよっぽど危ないと思うんだよ?」
「だーうるせぇ! 呪力を練れないって点じゃ俺もお前も同じだろ? ならこの右手がある俺の方がマシじゃん!」
「範囲が狭すぎるんだよ! 少しでもズレたら終わりなんだよ!」
何やらいつもの痴話喧嘩から意地の張り合いみたいなものが繰り広げられている。
悟も私もああなるとすぐに実力行使(喧嘩)になってしまうからな。
彼らのようにもう少し対話を試みるべきか。
片方はありとあらゆる呪いを打ち消すイレギュラー。
もう片方は理論上すべての呪術を体現可能の異能の卵。
…いや、これは腐ったミカン共の言い方だな。
囚われていたお姫様と助けたヒーローの方がまだしっくりくる。
春先の、あの案件はとてもじゃないが入学したての一年が就くような任務ではなかった。
海外の呪術組織も絡んだ、紛れもなく特級案件。
それでもあの一年達は、上条は彼女を救い出した。
「もう! とうまの分からずや!!」
「待て待て! その構えはまさか… だぁぁあ!生え際を噛まないでぇぇ! 不幸だぁあ!!」
呪力もない上条が、あの場にいた全員を救ったと聞いた。
形はどうあれ、彼はそれを成し遂げた。
私に────特級術師、夏油傑にそれができたか?
悟にはできるのか?
誇りに思った。
それは事実だ。
弱者生存、この思想が間違っていたとは思わない。
だが上条はどちらだ?
呪力もない反転術式も効かない、でも呪いを打ち消す右手がある。
悟の無下限を破ることのできる、唯一の人間。
私は彼を、救えるのか?
「……違うな」
上条は私の後輩だ。
ならば先輩の私が助けるまで。
これは責務ではない。
夏油傑だから、上条当麻を助けるのだ。
それに意味を見出すことができるのは自分自身だ。
……考えすぎてしまった。
自分でもよくわからなくなってしまった。
気分転換がてらカップ蕎麦でも作ろう。
もちろんざる蕎麦で。
「あれ、何作ってんだ」
「緑のたぬき」
「おお、俺のも〜」
「はいはい、面倒だから一緒にざるにしてもいいか?」
「いいけどほんと傑ってざるが好きだよな」
「余ったスープはどうするんだよ?」
「お茶漬けにでも使ってみるかな。冷や飯はあるし」
冷や飯はどこにあったかな。
冷蔵庫に手をかけた直後、ここにいるはずのない声がしたと振り向く。
「……なぜ君がここに?」
「いい匂いがしたんだよ! とうまにかでんせーひん使っちゃダメって言われてるから夜食作れないし」
「…米だけじゃ、ダメか?」
「蕎麦も食べたいんだよ!」
「させるかぁ!無下限バリアー!」
まずいまずいまずい!
この腹ペコ大魔神、少し漏れた匂いでここまで来るとは!
「なんの!
『──────!!』
「はっ! 何やっても無駄無だぁ!?」
「悟ぅぅ!!」
悟の無下限を破った!?
馬鹿な!
彼女は術式が使えないはず!?
「
「術式の開示!?」
そこまで本気になるか!?夜食で?!
「さとるにも通用するとは思ってなかったけど… ここまでできるなら!!」
「────悪いが、ここを通すわけには行かないな」
そこまで彼女が本気なら、こちらも相応の覚悟を決めるしかない。
カップ麺とはいえ、ざる蕎麦はざる蕎麦。
好物を取られるのはさすがに凹む。
「術式使ったからよりおなかがすいたんだよぉぉ!!!」
「侵入は禁止さ。大人しく上条の部屋にUターンしてくれ!」
今日の夜食…ざる蕎麦、一玉分
残りの蕎麦、かき揚げ、茶漬けはぜんぶ白い悪魔に食われた。
悟は術式を破られたショックと腹に喰らった衝撃で一晩を食堂の床で過ごした。
「くそったれ…不幸だ…」
ツンツン頭…この年でハゲを気にしはじめる。
銀髪…夜食うめぇ
白髪…床って、案外涼しい。流しそうめん大会に腹ペコ娘を入れるか要検討中。竹の件は反省もしてないクソガキ。因果応報。
変な前髪…「上条だって変な髪型だろう!!」←呪術世界じゃウニ頭は結構被る。上条さんをそれなりに気にかけるようになった(若干過保護気味)