おばあちゃんは魔法少女をやめない 作:魔法少女(少女とは限らない)
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私がムサシを睨み続けること数十秒。
やっと根負けしたらしちムサシは、ついに口を開く。
「……分かった。話すから場所を変えよう」
ただ、一旦この廊下からは場所を移したいらしい。
でもまあ、考えてみれば当然か。
下手すれば魔法少女の根幹にも関わるような話だし、誰が聞いているか分からない廊下でする話ではないだろう。
「あなたの部屋に入った途端、闇討ちなんてことはないわよね?」
「ああ、ない。そもそも現役の魔法少女が全員でお前を襲っても勝てないはずだ」
昔からいるムサシは、おそらく魔法少女協会の中でも地位が高いはずだ。
だから、私を騙し討ちできるだけの魔法少女も用意できるのではって思ったけど……。
ムサシの言うことを信用するなら、それだけの魔法少女は抱えていないらしい。
……本当かなあ?
昔はみんな私より才能があったし、今もきっとほとんどの子は私より才能があるでしょ。
「ここが今の俺の部屋だ。どうだ? 昔と比べて随分と偉くなっただろ?」
「あら、ほとんどトップじゃない」
「元は雑用係がここまでこれるなんて、あの頃の俺は夢にも思っていなかっただろうな」
そして、ムサシはいつの間にか協会の中でもかなり上の地位に就いているらしい。
その役職は、なんと副会長。
もう一つ上は魔法少女協会のトップという、とんでもない地位まで上りめていた。
照れくさそうに自慢をしているが、さすがの私もこれはすごいと素直に思う。
いくら年功序列だろうとはいっても、昔から同じ仕事に就くのは簡単ではないはずだ。
別に給料がめちゃくちゃ高い、という仕事でもないから、ここまで来れたのは彼の努力と忍耐があってこそだろう。
「まあ、ここにかけといてくれ」
「毒針が出てきたりとかしないわよね?」
「だからないって言ってるだろ。昔じゃねえんだ、魔法少女が対象の法律も色々増えて面倒くさいことになるんだよ」
彼の部屋のソファーは、私の目から見てもかなり高そうだ。
普段はここで色んな人間と話をしているのか、資料が机にまだ置いてある。
ただ、それ以外はかなりシンプルで質素とも言えるかもしれない。
昔から自分の周りには無頓着だったし、こんなものかな。
……ソファーで向かい合わせになって気づいたけど、ムサシ、髪が寂しくなった以外にもちょっと太っているかもしれない。
そこまでではないものの、腹の主張が強くなっている。
一昔前は、筋肉も付いていて自慢の腹筋を
「ここは防音で、外に話が漏れない。だから俺が言ったらことは漏らさないでくれよ? 俺も聞いたことは言いふらさないからな」
「別にいいけど、内容によるわよ」
「分かった、それでいい」
ていうか、ムサシを煽ったのはやましいことがあると思ったからなのに、意外とそうでもなさそう。
焦る様子は全くなくて、むしろ余裕も感じられるし、何の罠も仕掛けずに私を招いたし。
いや、今副会長にいるってことは相当腹芸が得意なんだって分かってるんだけどそういうのじゃない気がする。
長年の肩の荷がやっと降ろせる、みたいな。
そういう類の安心顔を覚えているような安心感すら見せている気がする。
なんか、思っていたのとは随分違う感じになってきた。
「まず、今の魔法少女は才能がないやつがほとんどだ」
「そうなの? 私が今日会った子は才能がありそうで妖精との相性も良さそうだったわよ」
「そういう奴もいる。だが、お前たちの時代と比べて明らかに才能がない。普通の方法じゃ契約すらできないやつもいる」
「なるほどね」
そんな、ムサシがまず語り始めたのは、現代の魔法少女の才能について。
さっきも言っていたように、彼は現代の魔法少女は総じて才能がないと考えているらしい。
それも、私たちのように妖精自身と契約する方法すらできないくらいに。
そんな馬鹿なことがあるのかと思ったが、彼の目は嘘をついているようには見えなかった。
どうやら、今の魔法少女たちは本当に才能が乏しい子が多いようだ。
ただ、そうなると才能がありそうなあの子、玲奈ちゃんが妖精を見られていないのが分からない。
「で、ここからが問題なんだが、今の契約方法は妖精の承認って段階を飛ばしたりこれでもかと簡略している」
「……え? 正気なの?」
「まあ、正気ではないな。だが、こうでもしないと魔法少女が増えなかったんだ」
だが、その後に続くムサシの言葉で、私はその理由を完全に理解した。
通常、というか私が魔法少女になった時は、魔法少女になる直前、妖精に語りかけるという手順がある。
これには魔法少女が妖精の存在をより強く認識し、それによって妖精との結び付きを強くする目的があるのだが……。
そんなものを省いてしまっては、そりゃ妖精が見えるわけがない。
道理で、玲奈ちゃんが妖精の存在を伝説的なものとして扱っていたわけだ。
もしかしたら、さっき懐いているように見えた妖精は自分の存在を認識して欲しくて構ってもらおうとしてたのかも。
「馬鹿だと思うだろ? だけど、いつの間にか妖精の存在が軽んじられるようになった今じゃもうあれをやろうとしても心がこもらない」
「でもこのまま続けると余計妖精が忘れていかれるだけよ」
「それはそうなんだが、今戻すと魔法少女の数が激減する」
「ままならないものね」
これは、ムサシがあんなほっとした表情を見せるのもわかる。
魔法少女たちに直接、才能がないだなんて伝えることはできないもの。
だけど、このままいくと魔法少女のレベルが下がっていくだけなのもまた事実で。
難しい問題だ。
数を確保するためには質を落とさないといけなくて、質を取ろうとすれば数が目に見えて減ってしまう。
それでも、全国どこにでも発生する怪人に対応するには、多様の質は諦めざるを得なかったのだろう。
実際、これで上手くいってしまっているのがまたこの問題をややこしくしている。
私も、今日玲奈ちゃんに会わなかったら、今の魔法少女たちの問題点なんて気づかなかったし。
「ひとまず、今何が起きているのかは分かったわ」
「そうか、助かる」
「それで私は何をすればいいの? ここまで話したのなら、間違いなく何か頼むつもりよね?」
「……さすがだな、相変わらず察しが良い」
これがムサシが何か企んでる、とかだったら面白かったのに。
こんな切実に魔法少女の問題を突きつけられると、さすがに困る。
いや、でも元を言えばつついたのは私だから、仕方がないといえば仕方がない。
自分で首を突っ込んだからには、どうにか手伝わないと。
ここ最近は全く魔法少女に関わっていなかったから、まさかこんなことになっているとは。
まあ、私一人がいたところで何かが変わるというほどでもないのだけど。
少なくとも、妖精の存在に関してはもう少し周知することができたような気もする。
「まず、才能がある奴が妖精を見れるようにするための手伝いをしてやってほしい」
「それならさっき一人会ったわよ。一人目は玲奈ちゃんでいいかしら?」
「……ああ、彼女なら良いだろう。俺の見立てでは、多分彼女が一番才能があるし、妖精の存在もある程度は理解している。」
「決まりね」
ひとまず、私は才能がある子が妖精を見ることができるようにしてあげれば良いらしい。
遥か昔の話ではあるけれど、私は何度か妖精が見えない子の手伝いをしたことがある。
手順を省略している子たちと妖精の繋がりがどれくらい薄いのかは分からないけれど、少しでも力になれるように頑張ろう。
少なくとも、妖精が近くにいないというわけではないみたいだから、すごく大変ということはなさそうだけど……。
なんにせよ、これはやってみなくては分からない。
今どれだけ考えてもイレギュラーは起こるものだ。
「じゃあ今日はこの辺で失礼させてもらうわ」
「その前に、これだけ持っておけよ。お前が魔法少女ってこと示すカードだ。受付で随分困ってたって聞いたぞ」
「……ああ、そういえばそんなものもあったわね。ありがとう」
最後に、私が受付を通れなかった原因であるカードだけ受け取り、私はその場を後にする。
協会を出る時、心なしか受付の女性の顔がこわばっている気がした。
ムサシから私の魔法少女名でも聞いたのだろうか。
ちょっとかわいそうだったので、帰り際に頭を下げておく……が。
余計、表情が硬くなった気がする。
おかしいな……思っていた反応と違う。
私なんて所詮何世代も前の魔法少女だから、そんな怖がる必要はないはずなんだけど。
まあ、次来る時はちゃんと貰ったカードを見せるから、安心して欲しい。
それにしても、普通の人が私の名前を後から聞いた時の反応って、あんな感じなのか……。
若い子に怖がられるようなことをした覚えはないし、私の功績が盛られたりしているのかしら?