おばあちゃんは魔法少女をやめない 作:魔法少女(少女とは限らない)
わたし、朝日玲奈は、元気いっぱいで明るい性格だって家族や友達によく言われる。
実際、周りの空気が沈むのが嫌で明るく振る舞っているから、そう思われていることは嬉しい。
だから、魔法少女になってからも、わたしは常に明るい女の子であり続けた。
そう、変身する時も、怪人と戦う時も、記者さんたちの質問に答える時も。
気づけば、わたしは魔法少女の顔として扱われるようになっていて、わたしがきっかけで魔法少女になったなんて子も出てくるほどになっていた。
だけど、何かが足りない。
みんなは、わたしを凄いと言ってくれるけれど、わたしはそこまでの自信がない。
魔法少女最強って言われることもあるし、わたしがもっと強くならないとダメなんじゃないかって。
ついつい、そう思ってしまう。
そんな、わたしにとって、幸子ちゃんとの出会いは、まさに奇跡的だった。
「第二ラウンド開始だよ、幸子ちゃん!」
「望むところよ!」
それこそ、今まさに、こうやって戦うことも、もしかしたらなかったかもしれない程に。
実はあの日、わたしは用事が終わった後で、まさに協会を出ようとしていたところだった。
だから、幸子ちゃんを助けたのはほんの気まぐれだったのだ。
幸子ちゃんは、わたしより年下っぽいのに、雰囲気が落ち着いていて、それが面白かった。
しかも、妖精が見えると言う。
話していて、楽しくないわけがなかった。
それが、まさかこうやってそんなに日が経たないうちに模擬戦までするようになるとは。
あの時のわたしは想像すらしていなかっただろう。
「少し、本気を出させてもらうわ!」
「そうこなくっちゃ!」
それにしても、幸子ちゃんが常に変身しているというのはびっくりした。
変身を解かずにいることは意外と難しい。
わたしも何度か楽をしようとチャレンジしたことがあるけれど、一日も持たなかった。
幸子ちゃんの魔法は、結構わたしと似ている。
まだ能力名は聞いていないけれど、多分『光』に関係する何かなんじゃないかな。
でも、放ってくる魔法の精度と威力は、わたしとは大違い。
一気に何十個もの魔法を展開してくる上に、その全てがちょっとずつ違う軌道で飛んでくる。
こっちは、なんとかそれを打ち消すことで精一杯。
なのに、また新しい魔法を展開され続けるのは、さすがに絶望すぎた。
今もまた、ざっと五十個くらいの光の玉が、幸子ちゃんの周りからわたしへと次々に飛んでくる。
……だけど。
「妖精さんっ!」
わたしは、ついさっき存在が感じられるようになった妖精さんに呼びかけて、力を貸してもらう。
その力で周りに大きな魔力バリアを展開すれば、ほら。
幸子ちゃんの魔法は、バリアに阻まれて届かない。
これまではほとんど反撃できなかったけれど、この調子なら……!
ようし、次はこの力を攻撃に回して……ってええ!?
「油断大敵よ。魔法が止められるなら、もちろん自分でどうにかするわ」
「幸子ちゃん、意外と脳筋なんだ……?」
……びっくりした。
まさか、幸子ちゃんが急加速してバリアに突っ込んでくるなんて。
ずっと魔法ばっかりで攻められてたから、そんな手を使ってくるとは全く考えてなかったよ。
だけど、負けは負けだ。
結局、幸子ちゃんに手も足も出ずに負けちゃったなぁ。
模擬戦では久しぶりの負けだから、ちょっと悔しい。
「いやぁ、凄いわね。この戦いの中で妖精と繋がれるようになるとは思って無かったわ」
「いやいや! それより幸子ちゃんがあんな強いって聞いてないんだけど!?」
「まあ、私は長くやってるから、あなたもそのうちできるようになるわよ」
模擬戦が終わった後、幸子ちゃんはなんだかおばあちゃんみたいなことを言っていた。
幸子ちゃん、わたしより年下だと思うんだけど、一体何年魔法少女をやっているんだろう?
わたしだって、魔法少女の中ではそこそこベテランらしいんだけどなぁ。
わましも早く、幸子ちゃんくらい魔法が上手に放てるように頑張ろう。
ここ最近、ここまでボコボコにされたこともないから、まだ成長できるんだって思えて嬉しいや。
「それと、妖精との繋がりは強くなったようだけど、姿は見えるようになったかしら?」
「あ、確かに! ……あれ、なんとなくこの辺かなぁって場所は分かるんだけど、まだ見えないや」
「力をもらえるくらいになっているから、そのうちすぐに見えるようになるわよ」
妖精さんの姿は、まだ見える様子がない。
繋がりが強くなったのは感覚として分かっているし、少し前までは全く分からなかった場所もなんとなくだけどわかるようになっている。
今は……多分、幸子ちゃんの頭の……上?
妖精さんって、契約してる魔法少女の近くにいるってついさっき聞いたばかりなんだけど……。
もしかして、わたしの妖精さんはちょっと変わっているんだろうか。
「……なんか、ごめんなさいね」
「あ、やっぱり幸子ちゃんの頭の上にいるんだ?」
「まあ、妖精の中にはいろんな子がいるのよ。中にはわんぱくすぎて滅多に近くにいない子もいるくらいだし」
「へぇ〜」
べ、別に嫉妬してる訳じゃないんだよ。
ただ、せっかく前より身近で感じられるようになったから、どうせなら近くにいてほしいなって。
これは嫉妬なんかじゃない、本当に。
幸子ちゃんにわたしの妖精さんが取られて寂しいなんて、そんなことは思ってない。
……ごめん、やっぱり嘘かも。
せっかく繋がりが強くなったんだから、やっぱり契約してるわたしのところにいたっていいじゃん。
幸子ちゃんはそのうち見えるようになるって言っていたけれど、どうせなら今すぐ見えるようになりたい。
もっと欲を言うなら、見えるようになるだけじゃなくてさわれるようにもなりたい。
そしたら、ずっと抱きしめてあげてわたしのそばから離さないのに。
そう、念じながら幸子ちゃんの頭からちょっとズレた気配を掴もうと手を伸ばす。
「この辺にいるんでしょ、えいっ!」
『ワァっ!?』
突然、わたしの右手に何かを掴んだ感覚が生まれて、頭の中に声が響く。
わたしのものでも、幸子ちゃんの声でもない声だ。
まさか。
いや、でもそんな簡単に見えたりさわれたりできるようになる存在ではないはず。
だけど、なんか手に何かを掴んでいる感覚がちゃんとあるんだよね……。
そして、わたしが手を胸の前に持っていき、恐る恐る右手をゆっくり開くと。
『捕まっちゃった……』
「……あ、これは妖精さんだ」
「えぇ……えぇ……?」
そこには、間違いなくわたしの妖精さんと思われる、小さな鳥のような存在が、喋りながら羽ばたいていた。
妖精さん、見えるようになっちゃったよ。
今日は妖精さんの歴史を説明して終わりにするはずだったのに、最終目標だったはずのここまできちゃった。
この子が、わたしの妖精さんなんだ。
こんな、片手だけで掴めるくらい小さくて、頼りになるかも怪しい感じだけど、さっきはこの子がわたしを支えてくれた。
多分、わたしが魔法少女になってからずっと、見えていなかっただけでわたしに力を送ってくれてたのかな。
見えるようになって、さわれるようになってはじめて、わたしは本当に妖精さんに力をもらっているんだなってことがわかる。
「可愛いなぁ〜」
『く、くすぐったい……』
「今まで全く見えてなくてごめんね。これからはちゃんと見えるから、改めてよろしく」
『……うん』
妖精さんを抱きしめてみると、意外とあったかい。
そもそも、本当にわたしたちと同じ生物なのかって疑問はあるけれど、わたしには、この温もりが気持ち良い。
これまでふれられなかった分、これからはいっぱい抱きしめてあげよう。
妖精さん、撫でられたりするのが案外まんざらでもなさそうだし。
意外と妖精さんって図太かったりするのかな。
「……あ、幸子ちゃんごめん。妖精さんと二人の世界に入っちゃってたかも」
「構わないわよ。こんなに短時間で妖精が見れるようになる人がはじめてで、ちょっと固まってただけ」
「幸子ちゃんの教え方が上手かったからだよ〜」
「多分、ほとんどあなただけで完結してるわよ」
幸子ちゃんは、本当に驚いているんだなってくらい、石のように固まっていた。
彼女曰く、見えない状態からは普通短くても一週間、長かったら一ヶ月くらかかるらしい。
ということは、一日で見えるようになったばかりかふれられるようになった私は相当運が良いみたいだ。
わたしに才能があったからだって、幸子ちゃんは言ってくれたけど、これはやっぱり幸子ちゃんのおかげだ。
そもそも幸子ちゃんに会わなければ、妖精さんの存在を半分くらい信じていないままだったからね。
ちなみに、幸子ちゃんはどれくらいで妖精さんが見えるようになったのか聞いてみたんだけど。
「……魔法少女になる前から、話すこともふれることもできたわ」
ってめちゃくちゃ申し訳なさそうな表情で言われた。
結構謙遜してるけれどさ、やっぱり一番才能があるのは幸子ちゃんじゃない……?