催眠おじさんのダンジョン無双~「俺は最強」と思い込んだら、本当に最強になってしまった~   作:ぽんたぬ

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第15話 疑念の果てに

 

 甘い匂いが肺の奥まで入り込んでくる。

 だが、その前にやることがある。

 

 

「いつまで人の腹に手ぇ突っ込んでんだよ」

 

 女に無理やりされることに全く興味がないわけではないが、さすがに腹の穴を犯される趣味は無い。

 

 俺を貫いている長い腕へ力を込めた。

 

 腹の肉を青いスライムへ変え、内部で腕を包み込む。そのまま固めれば、引き抜こうとしても抜けない。

 

 

「捕まえた」

 

 苗床ゴブリンが焦ったように身をよじる。

 

「普通は腹を刺された側が言う台詞じゃないぞ!」

 

 壁際に拘束された本物の澪が叫ぶ。

 

「俺も今そう思った!」

 

 右手を背中へ回してナイフを一本抜き、《必中》を発動させて投げる。

 

 刃はゴブリンの額へ正確に突き刺さり、その身体が俺の上へ崩れ落ちた。

 

 

「危なかった……危うく偽物に初めてを捧げるところだった」

「その感想は後にしろ!」

 

 ごもっともである。

 死体を押し退けて立ち上がると、繁殖室の中央にいる女王が低い声を響かせた。

 

 その周囲では何体もの世話焼きゴブリンが動き始め、洗脳された男たちまで俺の前へ立ちはだかる。

 

 こいつらを殺すわけにはいかない。

 だが女王はそんな事情など気にもしていなかった。

 

 

「やめろ……まだ、俺は使える……」

 

 痩せ細った男が一人、女王の腕に引きずられてきた。脚は何度も折れたらしく歪み、胸や腹には何本もの管を刺された痕がある。

 

 男は必死に女王へ縋った。

 

「お願いだ……捨てないでくれ……」

 

 返事の代わりに、女王の爪が腹を貫いた。

 

「……は?」

 

 身体を持ち上げ、そのまま床の端へ放り投げる。

 

 待ち構えていた幼体が一斉に群がった。

 腕に噛みつき、顔を裂き、開いた腹へ頭を突っ込む。

 

 

「助けて……!」

 

 その声が途中で消えた。

 

「……てめえ」

 

 胸の奥が一気に熱くなる。

 

「散々利用しといて、最後は餌かよ」

 

 搾取するだけしておいて捨てる。

 ニートの俺だって許せないもんがある。

 

 女王が大きく口を開き、甘い匂いを吐き出した。

 

 

「ふざけんな!」

 

 俺は背中からナイフを抜き、立て続けに投げる。

 

《必中》。

 

 一発目が女王の肩へ突き刺さり、二発目が長い腕を貫く。男たちを盾にしても関係ない。刃は狙ったゴブリンだけへ飛んでいく。

 

 その隙に身体の右半分を液状化させ、腕を何メートルも伸ばした。

 

「澪!」

 

 壁から伸びる肉の蔓を掴み、まとめて引き千切る。

 落ちてきた澪を受け止めると、彼女は俺の胸を押してすぐ立った。

 

 

「助かった」

「もっとこう、抱きついたまま感謝とかない?」

 

「戦闘中だ」

「知ってた」

 

 澪は俺の腕から離れると、すぐにリボルバーを女王へ向けた。

 そのとき、女王の太い腕が床へ倒れている男の一人へ伸びる。

 

「やめろ!」

 

 澪が引き金へ指をかける。

 だが、銃声は響かなかった。

 

 響くはずがない。

 澪のリボルバーには、もう弾が入っていない。

 

 

「……くそっ」

 

 澪が銃を握り締める。

 

「まただ。あのときも、弾を全部撃ち尽くして……目の前で仲間が死んでいくのを見ていることしかできなかった」

 

 いつもの強い声ではなかった。

 

「だから、この銃を捨てられなかった。もう二度と、何もできないまま誰かが死ぬのを見たくなかったから……なのに、結局また同じか」

 

「澪!」

 

 女王の爪が男へ振り下ろされる。

 俺は間へ飛び込み、肩で受け止めた。

 

 肉が大きく裂け、青い体液が床へ飛び散る。

 

 

「司!」

「心配すんな。俺は最強の探索者だ」

 

 痛いけど。

 めちゃくちゃ痛いけど。

 

 ここで格好つけた直後に泣くわけにはいかない。

 自己催眠で傷口を塞ぎながら、俺は澪を見る。

 

 

「澪。こっち見ろ」

「何だ」

 

「《催眠》」

 

 灰色の瞳を正面から見つめる。

 

「その銃には弾が入ってる」

 

 澪が一瞬、呆気に取られた。

 

「……何を言っている。空だ」

「いや、入ってる」

 

「入っていない。私の銃だぞ」

「でも、弾があれば撃てるんだろ?」

 

 澪が黙った。

 

「だったらあると思え。六発、まだ残ってる」

「そんな無茶な……」

 

「俺なんか下半身なくなっても、あると思ったら生えたぞ」

「お前と一緒にするな」

 

「大丈夫だ。澪ならできる」

 

 口にしてから、ちょっと恥ずかしくなった。

 澪も驚いたように俺を見る。

 

 

「……分かった、私を――いや、私はお前を信じる」

 

 澪は息を吐き、リボルバーを握り直した。

 

「弾は……ある」

 

 自分へ言い聞かせるように呟く。

 

「私はまだ撃てる。今度は、守れる!!」

 

 その瞬間、澪の身体から虚素が溢れた。

 淡い光が腕を伝い、リボルバーへ吸い込まれていく。

 

「おい……」

 

 澪も異変に気づき、手元を見る。

 

 空だったはずの回転式弾倉。

 その六つの穴から、淡い光が漏れていた。

 

 

「司、これは……」

「知らん。俺は弾があるって言っただけだ」

 

 次の瞬間。

 

 カチリ。

 何も入っていないはずの銃の中から、確かに何かが装填された音がした。

 

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