催眠おじさんのダンジョン無双~「俺は最強」と思い込んだら、本当に最強になってしまった~   作:ぽんたぬ

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第3話 下半身がスライムになりました

 

 目を覚ますと、周囲からスライムが消えていた。

 正確には、俺が全部食べてしまったらしい。

 

 

「生きてる……のか?」

 

 声は出る。

 両腕も動く。

 腹に突き刺さっていた金属片は床へ転がり、傷口も塞がっていた。

 

 ひとまず喜ぶべき状況なのだろう。

 ただし、俺の身体は腰から下がなくなり、代わりに半透明の青い粘体が床へ広がっていた。

 

 

(これ、人間として生還したことになるのか? モンスター側への転職では?)

 

 身体を起こすと、粘体が重たそうに引きずられる。

 痛みはかなり減っていたが、空腹で頭がぼんやりしていた。

 

 脚がなければ、ここから逃げることもできない。

 俺は清掃スライムが、千切れても身体を作り直すと教わったことを思い出した。

 

 そのスライムを食べ、身体へ取り込んだのなら、同じことができてもおかしくない。

 

 細胞は食べた物から作られる。

 スライムだって生物だ。

 つまり、この青い部分も材料として使える。

 

【認識型スキル《催眠》を使用しました】

 

 

「俺ならやれる……いつか最強の探索者になる男なら、脚くらい生やしてやる!」

 

 言葉にした瞬間、腹の奥が熱くなった。

 床へ広がっていた粘体が持ち上がり、二本に分かれる。太さも長さも、以前の脚とほとんど同じだ。

 

「いける!」

 

 立ち上がろうとした途端、二本の脚は横へ潰れた。

 俺は顔から床へ倒れ、鼻を強く打つ。

 

「形だけかよ!」

 

 見た目を脚にしただけで、中には骨も筋肉も入っていなかった。

 

 そこで骨を意識すると、今度は一本の硬い棒になった。

 膝が曲がらないので歩けない。筋肉を増やせば、太すぎて持ち上がらない。神経を忘れれば触られても分からず、血管を意識しなければすぐに崩れた。

 

(人間の身体、部品が多すぎないか? 今まで何の考えなしに使ってたけど、かなり高性能だったんだな)

 

 保健体育の授業、健康番組、ネットで見た動画。断片的な知識をつなぎ、何度も作り直す。

 

 

【認識型スキル《催眠》が発現しました】

 

 どうやら《催眠》は、願えば何でも実現する力ではないらしい。俺自身が「できる」と納得できるだけの理屈が必要なのだ。

 

 それに、脚を作るたび猛烈に腹が減る。

 俺は両腕と不格好な粘体の脚を使い、暗い通路を這って食べ物を探した。

 

 

 壁で光っていた苔を口へ入れる。

 

「最強の探索者は、現地調達が基本だ」

 

【認識型スキル《催眠》が発現しました】

 

 苦い。だが飲み込めなくはない。

 次に見つけた紫色のキノコも食べてみた。

 

 

「毒が効くのは弱い奴だけだ」

 

【認識型スキル《催眠》が発現しました】

 

 十分後、俺は腹を抱えて吐いた。

 

「効いてるじゃないか……!」

 

 だが死ななかったので、多少は催眠の意味はあったのだろう。たぶん。

 

 

 眠り、起き、食べ物を探し、脚を作り直す。それを何度も繰り返した。

 

 廃品を集める習性のジャンクゴーレムの食料庫を見つければ、持ち主が戻る前に中身を盗んだ。

 

 犬型のレールハウンドと遭遇した時は、線路から離れると遅くなることを利用して転ばせた。倒したあとは、生き延びるために肉を食べた。

 

 

 モンスターを取り込むほど、身体は便利になった。

 

 暗闇でも周囲が見える。

 遠くの血の臭いも分かる。

 傷も以前より早く塞がる。

 

 その一方で、驚いた拍子に腕が長く伸びたり、眠っている間に脚が粘体へ戻ったりする。

 

 空腹が強くなると、近くにいる生き物が何でも食料に思えた。

 

 

「俺は人間だ。これは普通の人間の脚だ。人間は人間を食べない」

 

 何度も言い聞かせると、青い脚は肌の色へ変わり、人間らしい形を保った。

 

 この催眠が解けた時、自分が何になるのかは……うん、考えないことにした。

 

 

 出口を探して歩き続けるうち、通路に案内板や人工照明が増えてきた。管理区域が近いのかもしれない。

 

「もう何日立ったかも分からない……だが、そろそろ出口に着いてもいい頃だろ」

 

 そう呟いた直後、遠くから乾いた音が響いた。

 

 銃声だ。

 一発、二発と続き、今度は女の悲鳴が聞こえる。

 

(人がいるなら、出口を知ってるかもしれない)

 

 

 音を追って通路を抜けると、廃駅のホームが広がっていた。

 

 緑色の小鬼とレールハウンドの群れが、灰色の探索服を着た人々へ襲いかかっている。

 

 倒れた仲間を背に、一人の女が銃を構えていた。

 

 短い黒髪に、血で汚れた引き締まった顔。

 弾丸が最後の小鬼を撃ち抜いたが、線路の奥から巨大なレールハウンドが迫ってくる。

 

(俺が出たら、モンスターと間違われそうだな)

 

 しかし、出口を聞く前に死なれては困る。

 

 

「仕方ない。話を聞くまでは、生きていてもらうか」

 

 俺は線路へ向かって、ホームから飛び降りた。

 

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