催眠おじさんのダンジョン無双~「俺は最強」と思い込んだら、本当に最強になってしまった~   作:ぽんたぬ

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第7話 日本最強が、死者蘇生の秘薬を持ち帰りました

 

 俺が新居と呼んでいる場所は、大宮第一迷宮の未確認区域にある横穴だった。

 

 壁は岩肌がむき出しで、床には砂と小石が転がっている。置いてあるのも簡易マットと毛布、ランタン、蓄電池、それに漫画が数冊だけだ。

 

 俺は上半身から半透明の粘体を薄く広げ、壁を這う掃除スライムを吸収した。

 

 

「家賃無料。飯も現地調達でほぼ無料。俺の人生で一番条件のいい物件だ」

 

「だが、人間の住む場所ではない」

 

 短い黒髪に濃い色のシャツ、カーゴパンツ姿の澪が、大きなリュックを床へ下ろした。

 

「失礼だな。少なくとも一人は住んでるぞ」

「お前が人間かどうかは、正直私はまだ疑っている」

 

 俺は法律上の死亡者なので部屋を借りられず、地上では虚素不足で身体が崩れ始めてしまう。つまり長時間外では居られない状況なのだ。

 

 そこで澪に頼んで俺が集めた素材を売り、その金で食料や日用品を買ってきてもらっている。俺にとって、彼女が地上との唯一の窓口だった。

 

 

「悪いな。助かってる」

「……熱でもあるのか?」

「感謝しただけで病人扱いするな」

 

 澪は水の容器を俺のそばへ置くと、探索者用のスマホ端末を取り出した。虚素通信を利用することで、ダンジョン内でも地上の情報を見られるらしい。

 

「DIVE!のダンジョン配信か?」

「あぁ。今潜ってるのは……おっ、《天蓋》チームの配信が始まるぞ」

 

 画面に映ったのは、新宿の地下迷宮を進む探索者たちだった。

 

「《天蓋》……現状、日本で最強の探索者チームか」

「ほう、引きこもりのお前でもさすがに知っていたか」

「お前だって同じ引きこもりだろうが!」

 

 なにせ俺が《催眠》で最強の探索者を演じるときは、コイツらをイメージしてるしな。だがそれを言うのは癪だから黙っとくけど。

 

 

「見ろ、チームリーダーの神代が出るぞ」

 

 チームの先頭に立つ神代レイジは、短く整えた黒髪に黒い探索服を身につけている。巨大な甲殻獣の突進を正面から受け止めると、仲間へ落ち着いて指示を出しながら、一撃で胸の核を砕いた。

 

『日本最強!』

『神代なら世界最深まで行ける!』

『強くてイケメンとか最高すぎる』

 

 コメントと高額の投げ銭が画面を埋めていく。

 神代は今日も仲間全員を引き連れ、これまで誰も到達したことのない層へ足を踏み入れたらしい。

 

 

「強いだけではなく、仲間をまとめる力もある。人気が出るのも当然だな」

 

「どうせ中身はクソ性格悪いぜ。善人ぶるだけなら、俺でもできる」

 

「初めて見た相手へ、よくそこまで対抗心を持てるな」

 

 神代たちが最深部の宝箱を開くと、淡い光を放つ液体の入った小瓶が現れた。

 

『鑑定結果が出ました! 最高位の《神級》です!』

 

 実況者の声が裏返る。

 ダンジョンではモンスターや宝箱から、地上には存在しないアイテムを入手できる。

 

 中身は用途不明のガラクタから、未知の素材、薬、装備、使用者へ能力を与える《スキルオーブ》までさまざまだ。

 

 ダンジョンの存在が公表されたのは五年前だが、それ以前から一部の迷宮は秘匿されていた。歴史上の偉人やスポーツ選手、芸術家の中にも、ダンジョン産の素材やスキルを利用していた者がいたと、今では判明している。

 

 

『小瓶から、異常な生命反応が確認されています!』

『もしや、伝説にある死者蘇生の秘薬じゃないか!?』

『本物なら歴史が変わるぞ!』

 

 画面は投げ銭とコメントで見えなくなった。

 神代は浮かれた様子もなく、小瓶を封印容器へ収め、仲間全員で持ち帰ると宣言する。

 

「もし本当に死者を蘇生できるなら、とんでもない発見だな」

「どうせ育毛剤とかだろ」

 

「神級アイテムを育毛剤扱いするな」

「死者蘇生より、切実に求めてる人間は多いぞ」

 

「お前は嫉妬すると、途端に見苦しくなるな」

 

 

 配信が終わると、洞窟へ静けさが戻った。

 

「ところで澪。今夜は泊まっていくのか? 布団なら半分空いてるぞ」

「一枚しかない毛布の半分を、空いているとは言わない」

 

「密着して寝れば温かい。ついでに、命を助けたお礼としてエッチなことをしてくれても――」

「恩人という立場を最低の方法で使うな」

 

 澪は立ち上がり、荷物へ向かう。

 その背中から、ごく小さな声が聞こえた。

 

「……一度くらい身体を許してもいいとは思っているが、せめて雰囲気くらい作れ。この童貞が」

「今、身体を許すって言ったか?」

 

「言っていない。幻聴だ」

「俺の耳はモンスター並みに良いんだぞ!」

 

 澪は答えず、大きな段ボール箱を引っ張り出した。

 

 

「そういえば、頼まれていた物を買ってきたぞ」

 

 箱には派手な文字で《装備オリジナルパック》と書かれ、その下に《返品・交換不可》とある。

 

「おぉー、これがかの有名な装備のオリパか!」

 

 探索者がダンジョンから持ち帰ったアイテムは、まずギルドの査定窓口で買い取られる。

 

 価値のあるものは即時現金化されるが、鑑定不能品や需要のない装備は倉庫に回される。そうした売れ残りは一定量まとめられ、「装備オリジナルパック」として格安で再販売される仕組みになっているのだ。

 

 

「まともな装備が入っているとは限らないぞ」

「分かってないな、だから面白いんだろ」

 

 当たり装備があれば、俺はもっと強くなれる!

 俺は神代への嫉妬も、澪との会話も忘れ、段ボール箱へ飛びついた。

 

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