後世の歴史家いわく、俺は面従腹背の成り上がり復讐者らしい 作:トマトルテ
『妹はヒンデンブルク家の恥です』
クラウディア・フォン・ヒンデンブルクに対して、姉のカトレアが言い放った言葉である。
実の姉の言葉としては、中々に酷い言葉ではあるが、クラウディアについて調べれば、気持ちは分かる。
クラウディアは政治・軍事面においては、お世辞にも有能とは言えなかった。
シャルルの罠にあっさり引っかかる程度には、軍事はド素人である。
政治に関しても、貴族としての嗜みはあっても、特別キレ者と言うほどではない。
しかし、両親からしてみれば別に構わなかった。
末の娘なので、そこまで重要な立場ではない。
有能ではないが、顔もよく、人当たり自体は良い。
適当な貴族と見合いさせて、どこかの家に嫁に出せば、後の人生も安泰だろう。
そう考えて、兄や姉に比べると、甘い育て方をした。
だが、クラウディアはそんな両親の想いを裏切った。
『結婚相手は、自分で運命の相手を見つける』
そんな、頭お花畑なことを言って、見合いを断わったのである。
このセリフだけでも、彼女の政治力の無さが分かるだろう。
当然、両親は困った。
しかし、相手が悪かっただけかと、別の相手を見繕ってきて再度見合いを行う。
が、ダメ。
顔が英雄ではないという理由で、これもまた断る。
それが続く。
その事態を聞いた、先に嫁に出ていた姉のカトレアは当然激怒。
嫁ぎ先から、当時15歳のクラウディアへと、長文の手紙を叩きつけた。
以下がその手紙の内容になる。
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我が親愛なる妹、クラウディアへ。
ご機嫌麗しく、お健やかに過ごされておりますこと、存じます。
お久しぶりでございます。
お元気でございますか?
本日は、あまりにご無沙汰な我が妹に、大変重要なお話があり、このような手紙をしたためました。
何故なら、貴女がお見合いをこれまで三回も拒んでいらっしゃったと伺いましたから。
一体、貴女は何を考えているのか、私にはさっぱり分かりません。
貴女は、あのヒンデンブルク辺境伯の娘でございます。
その家のために尽くす義務があることを、貴女もよく分かっていることと思います。
貴女はそんなに、ヒンデンブルク家の名誉を地に落としたいのですか?
もし、そうでなければ、どうして貴女は見合いを拒むのですか?
貴女は、まだ15歳と美しいお年頃です。
貴女のような美しいお方なら、簡単に縁談をまとめることが出来るはず。
むしろ、縁談成立のお祝いの品に何を贈ろうかと、悩んでいたぐらいです。
なのに、なぜ!
貴女は初めの縁談の相手を断わったのですか?
相手は、あのブリュッセ侯爵の御子息と聞きました。
ブリュッセ家は皇帝陛下からの信頼も厚く、御父上のミトル侯爵もとても素晴らしい方でいらっしゃると、侯爵家の中でも評判だったのです。
なのに、何故ブリュッセ家からの縁談を断ったのですか?
あの方を断わったことによって、貴女の評判は、大層悪くなりました。
ヒンデンブルク家の今後の繁栄を考えれば、ブリュッセ家からの縁談を断るなどと、常識外れも良い所です。
貴女は何を考えているのですか? 見合い相手を見る目がないのですか?
二回目の見合いは、ビューレンベルク侯爵の御子息だったと聞きました。
あの方はどなたよりもお若くて、美しくて、紳士的な方で、貴族のご令嬢達にとても人気のあった方です。
そんなあの方を断るなど、貴女は一体どのような神経の持ち主なのですか?
あの方に限らず、あの方のご両親にも、大変失礼なことです。
しかも、あの方を断った理由が、『お顔が勇ましくない』という理由だなどと、何を愚かなことを言っているのですか。
相手は侯爵家のご子息です。
家柄や、その方の教養を見なくてはなりません。
『顔が勇ましくない』などという基準で相手を選ぶなど、絶対にいけません。
貴女はそれをよく理解した方がよろしい。
そして、三度目の相手は、ミュンヘン伯爵です。あの方は内政官として、皇帝陛下の施策を広められた方です。
伯爵家ですが、昔からの名家。家柄も申し分ありません。
しかも、貴女との結婚を、熱望されたと聞いております。
そんな素晴らしい方を、貴女は何故またも拒むのですか?
理由を聞けば、貴女と、歳が離れているからだなどと、またもおかしなことをおっしゃったとお聞きしています。
年齢差が大きい夫婦というものは、よくあることです。
貴女はそれを理解なさっていません。
大体、同程度の年齢の方が良いと言うのならば、貴女は何故、ブリュッセ家やビューレンベルク家のお話を受けなかったのですか?
貴女は全てが理想の殿方が現れるまで、結婚はしないとおっしゃるのですか?
それでは、結婚相手が見つかるまで、どれだけの年月がかかるのか、貴女はお分かりですか?
貴女の我儘が、このまま続けば、貴女はいつまでたっても、結婚が出来ずに、実家に居座ることになります。
それは、とてもとても、迷惑なことです。
貴女は、家のために、一刻も早く結婚をしなければなりません。
繰り返しますが、あなたは、ヒンデンブルク家の娘なのですから。
貴女はこれ以上、我儘を言うことは許されません。
次の見合いで、きちんと相手の方をみて、結婚相手を決めなければなりません。
そのように、しっかりと、お父様とお母様にお伝えください。
貴女が今回の言葉に、背くことがないことを、祈っております。
あなたの姉 カトレアより。
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その後10年。
クラウディアは姉の忠告を無視して、見合い話を断わり続けた。
一部、姉の考えを受け入れた部分(年の差)もあるが、それでも彼女は好みに煩かった。
そうして、気づけば25歳。
当時の女性の結婚年齢から考えれば、完全に行き遅れである。
カトレアが最初に語った言葉を言うのも、分かるというものだ。
しかし、クラウディアに、何の美徳も無かったわけではない。
これは後になって分かることであるが、クラウディアには人を見る目があった。
まず、エリザとクラウスに同時に求婚したという意味不明な逸話。
愛し合う幼馴染みカップルの間に、自分を挟み込もうとする非常に浅ましい行為。
三角関係と言えば聞こえは良いが、これはもはや棒に向けてボールを投げているようなものだ。
昔からこの行動については、クラウスには愛人が居たとする歴史家ですら、流石にクラウディアが愛人はないだろうと、首を横に振っている。
そもそも、実家の地位が高すぎるし、血筋的には彼女は母方の従姉に当たるのだ。
政略結婚は考えられても、愛人説はまずありえない。
クラウスとエリザの関係にとっては、邪魔者と言う他にないだろう。
しかし、現代になって多様性が認められてきてから、ようやくクラウディアには見る目はあったと評価されるようになってきた。
未来の英雄二人の素質を見抜いたのだ。
9歳年下の相手ということや、同性という点や、二人同時にという行動がなければ、
いや、やはり、これは現代の価値観でもおかしいかもしれない。
やはり、彼女の見る目……もしくは、運の良さを示すエピソードは、断った見合い相手にある。
ブリュッセ侯爵家、ビューレンベルク侯爵家、ミュンヘン伯爵家。
カトレアの手紙に出て来た、以上の三家であるが、実はかなりきな臭い家である。
特にブリュッセ家。
これは三章で説明した、対ヴィクトワール家の筆頭『ミトル・フォン・ブリュッセ侯爵』の家だ。
ビューレンベルク侯爵家、ミュンヘン伯爵家も皇帝の息がかかっている。
そして、クラウディアが15歳の時、すなわち10年前と言えば、皇帝暗殺冤罪事件の直前ことである。
10年後に皇帝ヨーゼフが、ヒンデンブルク家の邪魔をしていることを考えると、この見合い話も少し臭いものがある。
ヒンデンブルク家を取り込もうとするようにも、逆に内側から完全に潰すためにも見える。
そのため、歴史家の中には、クラウディアは一見するとうつけ者に見えるが、実際は全ての裏を読み切って、地雷を回避しつつ最大の勝ち馬に乗った策謀家だとする意見もある。
しかし、見合い話自体は純粋に、侯爵達が縁を結んで派閥に取り込みたかっただけの可能性も高いため、真偽のほどは分からない。
ひょっとすると、この時に見合い話を受けていれば、10年後にヨーゼフに邪魔建てされることも無かったかもしれないのだから。
そうした中で、我々、後世の人間にハッキリと分かることは、一つ。
ブリュッセ侯爵家、ビューレンベルク侯爵家、ミュンヘン伯爵家の三家は後に──
──クラウスの手によって、全て潰されたということだけだ。
「い、いや……まず君とクラウスは、いとこ同士なのだよ……クラウディア」
ウッドベン伯爵の言葉に、俺は固まる。
え? 俺とこいつが……いとこ?
この空気を読まない、お馬鹿さんが、
「クラウス……なるほど、叔母様の忘れ形見でしたか。通りで目元が、よく似ていると」
「本当なのですか? ウッドベン伯爵」
「う、うむ。君の母であるコリーナは、ヒンデンブルク家からヴィクトワール家に嫁いだのだよ……まだ幼い君は、知らなかったのかもしれないが」
敵軍を追い返したので、やっと落ち着きを取り戻した城内。
だというのに、ウッドベン伯爵はクラウディアの求婚の件を聞いて、お腹を押さえている。
まあ、昔からお世話になっている家の親しい間柄の娘が、トンチキなことを言い始めたのだ。
部下と上司の仲介に立たないといけない、中間管理職の悲哀が滲み出ている。
「ウッドベン伯爵……しかし、言ってよかったのですか?」
「ま、まあ、ヒンデンブルク家が君を売ることはまずない。君の母は、ヒンデンブルク辺境伯の妹。陛下には、疑いを向けられないように表向きは謝罪しているが……妹を殺されたことに激怒しているからね」
それはそれとして、俺の秘密を明かさないで欲しいと言うが、ウッドベン伯爵は大丈夫だろうと返す。
まあ、血筋としては身内になるから、信用していいのか?
というか、公爵家と辺境伯家が婚姻してるって……ちょっと権力持ちすぎじゃないか?
謀反が本気で成功できそうな勢力だ。
「えっと……クラウディア様。あなたとウッドベン伯爵の言葉は信用します。ですが、この話は出来る限り内密にお願いします。私は既に、死んでいることになっていますので」
「そう、かしこまる必要はありませんわ、クラウス。私達は
「……分かった。とにかく、このことは内緒にしておいてくれ。バレると教会に居る、義理の母のような人に迷惑がかかる」
敬語は使わなくていいと言うので、俺は言葉を崩す。
取り敢えず、俺とエリザへの求婚の件は置いておいても、死の偽装はバラしたくない。
バレたら後々、面倒なことになるからな。
「ええ、分かっていますわ。皇帝陛下の差配については、
緑の瞳を細めて、若干低い声を出す、クラウディア。
「コリーナ叔母様は
なるほど、親戚が俺以外全員処刑されたなら、気分は良くないよな。
というか、母親がヒンデンブルク家ってことは、下手したら連座で罰を食らう可能性もあったのか。
まあ、流石に公爵と辺境伯を同時に潰すのは、無理だったんだろうが。
「
「クラウディア……滅多なことを言うもんじゃないぞ」
誰だって、身内の無実を信じたいだろうが、帝国で皇帝への謀反の罪で処刑された人間を庇う発言は不味い。
身内以外の人が聞いていないとしてもだ。
「………そうですね。今は他にすべき話がありますものね」
俺の警告に息を吐き、切り替えるように目を閉じる、クラウディア。
その顔は、非常に美しく、深窓の令嬢を思わせるものだった。
「それで、ウッドベン伯爵。
「だ、だから、先程からダメと言っているだろう…? クラウスとの結婚は、まあ……いとこなら不可能ではないが……だが、エリザとの結婚はおかしいだろう! 同性だよ!?」
「そこをなんとか!」
「い、いや、これは私の一存とか、そういう訳ではなくてね……もっと…こう……根本的に世間の常識に反しているというか……」
「なら、常識を壊すまでですわ!」
だが、残念なことに、クラウディアの本質は馬鹿だ。
人としては間違いなく良い人なのだろう。
身内の情にも厚い。
だが、それはそれ。これはこれで、スイッチが切り替わる。
正直に言って、対応に困る相手だ。
「そもそもの話、まず本人達から同意を得られたのかね? エリザ、クラウス。君達の気持ちを聞かせて欲しい。クラウディアは頑固だが、相手からはっきり断れれば、引く子だ……それまでが大変なのだが」
「多くの見合い話を断わっている手前、自分だけ例外というわけにはいきませんわ。ハッキリと断られない限りは、決して可能性を諦めませんが」
「あれで断られた判定に入れないのか……どんだけ面の皮が厚いんだよ」
ウッドベン伯爵が胃が痛そうな顔をしながら、話をこっちに振ってくる。
クラウディアも言うように、確かにちゃんとした返事はしていなかった。
正直、あれで可能性を感じるのは、完全にストーカーの領域だと思うが、仕方ない。
ハッキリと告げてやろう。
「エリザ……」
「クラウス…!」
俺は隣にいるエリザと顔を見合わせて、手を握り合う。
「「お断りします!」」
「うぐッ!? な、中々に直球で手厳しい言葉ですわね……」
常識的に考えて、受け入れられないだろ、普通。
「り、理由をお聞きしても…?」
「いや……エリザ以外を愛すとか、不純じゃん……」
「アタシもクラウス以外と、そういう関係にはなりたくないし……」
「な、なんという眩しい愛……今までの見合い相手が石ころなら、あなた方はダイヤモンドですわ」
そもそも、まだキスもしてないのに、二人と交際とか出来るか。
俺は純愛派なんだよ。
「おお! 遂に、覚悟を決めたかね? 式はいつ開くかね? 私が準備をしよう」
「え? あ……い、いえ、そこまでしていただくわけには……」
クラウディア相手に啖呵を切るが、ウッドベン伯爵の嬉しそうな声にハッとする。
今まで気づかなかったが、結構大胆なことを言ってしまっている。
というか……勝手にエリザに嫁宣言をしたが、よかったのだろうか?
「エリザ……今更だけど、俺で良かったか?」
「逆に聞くけど、アタシがクラウス以外が良いって言うと思う?」
「……ありがとう、エリザ」
まっすぐな瞳。
ちょっと重い何かを感じる気もするが、素直に言って嬉しい。
いや、人生初の彼女が出来るとか滅茶苦茶嬉しい!
人の目が無かったら、多分踊り始めていた。
「見たかね、クラウディア? 君の目は非常に優れているが、少しばかり遅かったようだよ」
「ここまでの純愛を見せつけられてしまっては……負けを認めるしかないようですわね」
「いや、もっと前に認めろよ……」
ウッドベン伯爵が笑って、ポンとクラウディアの肩を叩く。
クラウディアの方も、悔しそうにではあるが笑っている。
正直呆れてしまうが、一難が去ったことに違いはない。
「これからは、クラウスの
……一難去って、また一難か。
「……なんで?」
「身内が居なくなった
「いや、それが出来るなら、最初からそっちに引き取られたんじゃ……」
「今は死人扱いなのでしょう? これで、陛下の意向を無視して、心置きなく助けられます」
それはそうなんだが……切り替えがとにかく早い。
求婚からの弟認定。
しかも、本命は弟嫁とかいう、複雑骨折した事態についていけない。
「さて……ここからは真面目な話に戻りますが」
「あ、ふざけてる自覚はあったんだ……」
「クラウス。エリザさん連れて、
急に真面目な顔で、辺境伯の直轄地に来いと告げる、クラウディア。
エリザが面を食らっている。
「まさか、俺達を同時に娶るのを、まだ諦めていないんじゃないだろうな…?」
「あなた達がそれを望むのなら、喜んで行いますが、それとは別です。あなたがエリザさんという伴侶を手に入れたのなら、叔母様に報告する必要がありますわ」
クラウディアにとっての叔母。
すなわち、俺の母親であるコリーナだ。
その母親に報告するということは、つまり。
「叔母様の墓はブランデンにあります。せめて、天国の叔母様へ報告をしなさい」
墓参りだ。
「母親の墓……」
「処刑が行われた後、お父様が無茶をして何とか、叔母様の遺体をブランデンの地へと帰すことが許されたのです」
「……父と兄達の墓はあるのか?」
「………許されたのは、ヒンデンブルクの名を背負ったことがある者だけですわ」
罪人の遺体がどう扱われるか。
それを考えれば、母親の遺体だけでも弔えているのは、良い方かもしれない。
(母親の墓参りか……正直、父親と同じであんまり記憶がないんだけどな)
転生したせいで、家族への情が薄いのは変わらない。
正直、変に動いて疑われるのは俺の行動方針には合っていない。
合ってはいないのだが。
「母親……」
イーダさんに頭を撫でられた温もりを思い出す。
体が覚えている、コリーナに撫でられた温もりを思い出す。
そして、前世の母親の温もりも。
産んでもらったのだ。
そして、別に虐待をされていたわけでもない。
確かな愛を受けていた。
だとしたら、恩を少しでも返すべきだろう。
いや、恩とか関係なく、人として母親という存在だけは、無視することが出来なかった。
「……分かった、墓参りに行く。エリザも連れて」
「ええ、それがいいでしょう」
こうして、俺はエリザと共に、ブランデンへと行くことを決めたのだった。
だが、その前にやるべきことがある。
今回の戦の恩賞を決めることになった会議で、俺は堂々と発言する。
「この度の戦での私の功績は、全てウッドベン伯爵の神算鬼謀によるものです。よって、全ての功績はウッドベン伯爵にあります」
「え!?」
変に出世しすぎないように、功績を周りに押し付けることだ。
ついでに、恩返しにもなるので、まさに一石二鳥の作戦だ。
「ま、待ちたまえ、クラウス! わ、私は、君の策を取り入れただけでね……」
「卑しい身分の者の声であっても、迷わず拾い上げる。そのことこそが、最大の功績ではございませんか。ウッドベン伯爵こそが、今回の戦の最大の立役者です」
「ク、クラウス……流石におかしくない?」
「安心しろ、エリザ。お前の武功には何も影響はない」
というわけで、ウッドベン伯爵に俺の分の功績を譲る。
エリザの武功については、当然エリザのものだが、俺のは要らない。
今の地位で十分だ。静かに暮らせればそれでいい。
「クラウディア様もそうは思いませんか?」
ウッドベン伯爵は押しに弱いので、後はお飾りに近いが、この中で一番偉い人であるクラウディアを納得させれば勝ちだ。
公の場なので、敬語を使いながら俺は、クラウディアに目配せする。
頼む。俺の意図を組んでくれ。
「……確かに、この度の最大の功績はラインの全てをまとめ上げた、ウッドベン伯爵にありますでしょう」
「で、ですが…!」
ウッドベン伯爵も、公の場なので昔なじみのおじさんとしてではなく、一人の伯爵として、辺境伯代理に声を上げる。
よし、このままいけば、俺の勝ちだな!
「しかしながら、上に立つ者の仕事は、下の者を労うことにあります。伯爵には、あなたに相応しい褒美を与える義務がありますわ。
しかし、クラウディアは滅茶苦茶まともなことを言ってくる。
こいつ……戦場の時は、そんなことは後とか言ってたくせに……。
「伯爵、彼に相応しい恩賞は?」
「う、うむクラウス・ミュラー軍医、及び、エリザ・ミュラー小隊長の二名を大隊長へと昇進させる」
「お待ちを──」
「──クラウス」
なおも反論を続けようとする俺だったが、ウッドベン伯爵によって遮られる。
その声は、いつものおどおどした感じではなく、騎士の矜持を感じさせるものだった。
「君が何を考えているか……愚かな私には分からない。だがね? 戦場で命を賭けて戦った者に何も与えないのは、君に従った者にも、君が倒した敵にも失礼な行為だ。君は、君が為し遂げた結果を、胸を張って受け止めなければならない。良いものも悪いものも」
背筋が伸びる。
騎士の矜持というものを叩きつけられて目が覚める。
自分を無価値と言うのは、仲間にも敵にも失礼なのだと。
「それが騎士というものだ……私とミハエルはそう学んだよ」
「……ありがとうございます、ウッドベン伯爵」
ああ、なるほど……そういうことか。
きっと、ウッドベン伯爵は俺の父親が、俺に教えられなかったことを教えたいのだろう。
随分と気を使わせてしまったようだ。
これでは、転生者でも何でもないただの子供だ。
素直に受け入れることにしよう。
その後のことは、また後で考えればいい。
「大隊長の地位、謹んでお受けします」
「アタシも……お受けします」
「うむ、二人とも此度の働き、見事であった。二人の戦いぶりはラインの歴史へと刻まれるだろう」
頭を下げる俺達に、ウッドベン伯爵が笑いながら、そんなことを告げる。
未来の歴史に残るなんて、大げさだな。
「さ、さて、クラウス、エリザ。まだ、自分の働きに実感が持てないのなら、外に出て見ればいい」
「外に?」
「皆が、英雄の凱旋を待ちわびているよ」
伯爵に促されて、外に出る。
するとそこには──
「お! 英雄二人のお出ましだ!」
「やぁ、クラウス君! やっと覚悟を決めたんだね? 前から、早くくっ付かないか、やきもきしていたんだ!」
「戦乙女のエリザか……入ってきた時から思ってたが、お前は英雄の器だな」
「ラインの悪魔か……まあ、クラウスは言われても仕方ない卑劣ぶりだったからな」
俺達の周りに殺到して来る、マロン先輩や隊長達。
そして、たくさんの祝福の声。
ついでに、俺がちょっとディスられている。
卑劣の何が悪いんだよ。
「お前達! 話が終わったんなら早く町に出ろ! 祭りだ! 戦勝記念の祭りだ!!」
「主役が不在で、始められてないからね。エリザ君と、ついでにクラウス君も連れていかないと」
「酒だ! 酒を飲むぞ!! 今ある樽を全部開けるぞッ!」
「ヒンデンブルクのお嬢様が、高い酒を持ち込んでくれたみたいだぞ! 気が利くな!」
戦場で暴れ回ったエリザが主役として、丁寧にエスコートされていき、俺は既に酒臭い野郎共に乱雑に担がれて、広場に一緒に連れていかれる。
扱いの差が…! 扱いの差がデカイ…!
そりゃ、直接の英雄と、その参謀ぐらいの差があるけどさ!
「それじゃあ、主役が揃ったことだし、ラインの勝利を祝って──乾杯ッ!!」
「「「乾杯ッ!!」」」
そして、ライン全体に響き渡る、歓声と笑い声。酒を飲む音。
そんな音と、光景を見ながら、俺はようやく実感が湧いてくる。
「ああ……守れたんだな」
この居場所を守るために、俺も必死に戦ったのだと。
確かに俺の努力は報われたのだと。
何よりも。
「勝ったんだな…!」
絶望的な状況から、勝利を手に入れたのだと。
ようやく、実感を得ることが出来た。
「よっしゃあああッー!」
「勝ったぞぉおおッ!」
「ザマァ見ろ!! フランソワの軟弱者共め!!」
俺が雄叫びを上げると、周りの人も釣られて声を上げる。
「俺達の──勝ちだッ!!」
後世の歴史書にはきっと、今日のことはこう書かれるだろう。
フランソワに勝利したラインは一晩中、勝利の歓声がやむことはなかったと。
朝。頭痛と共に目を覚ます。
昨日の祭りでの無茶が響いているのだろうか?
「痛つつ……頭が」
頭を押さえつつ、ベッドから起き上がろうとする。
だが。
「んっ……」
「……ん?」
後ろから誰かに抱き着かれているかのように、体が動かない。
意識が一瞬で覚醒する。
そして、慌てて振り返ると、そこには──
「……おはよう、クラウス」
寝ぼけ眼のエリザが、一緒のベッドで寝ていた。
10話なんで一区切り。これから、復讐(?)パートに入ります。
なので、その前にちょっと息抜きをします。
ブランデンに行く前に、エリザとのデートを見たいかどうかのアンケートを取りますね。
下のアンケートに答えて頂けると嬉しいです。もちろん、無視もOKです。
それでは、感想・評価の程よろしくお願いします。次回は24日に投稿。
エリザとクラウスのデートを見たいか?
-
歴史的資料として見たい。
-
絶対に見たい。
-
とても見たい。
-
普通に見たい。
-
どちらかと言えば見たい。
-
見たくないと言えば嘘になる。