後世の歴史家いわく、俺は面従腹背の成り上がり復讐者らしい 作:トマトルテ
「こんな穴だらけの計画を、成功させろというのか…?」
ウェルケン・フォン・バウムは密室の中で一人愚痴る。
「だが、私がやるしかない……ハイムバッハの馬鹿に、これ以上作戦を任せる訳にはいかない……そもそも最初から私が考えていれば、もっと楽だったのだ」
悩みの理由は皇帝の暗殺計画について。
ハイムバッハの自爆作戦は確かに、成功率が高いが色々と穴が大き過ぎる。
それに何よりも、ヒンデンブルク家への対策がお粗末すぎた。
(ヒンデンブルクの代表が決勝まで来たら、ラインハルトが遅刻するわけがないだろう…! そもそも、決勝の相手が来なかったら試合が始まらん!)
正論であった。
ワザとヒンデンブルク家を決勝の舞台で遅刻させて、暗殺の容疑をかける。
そんなハイムバッハの作戦であったが、当のヒンデンブルクの代表であるエリザが決勝に来たら、遅れる訳がない。
確かに、兵をけしかければ遅刻させられるだろう。
だが、そんな大掛かりなことをすれば、普通にバレるし、逆に相手のアリバイになる。
あくまでも自然に、ヒンデンブルク内の問題で遅刻させなければ意味が無いのだ。
(あのエリザ・ミュラーという代表は、話を聞くに決勝確実の強さを持つ。この時点で、ハイムバッハの計画は崩壊したも同然……だが、自爆作戦は成功率を考えれば、捨てるのは惜しい。何とか、エリザ・ミュラーを決勝までに負けさせるのが賢明か……)
そのために大前提なのが、ヒンデンブルクの代表が決勝前に敗れること。
そうすれば、決勝の舞台で少々遅刻しても試合は始められるだろう。
(だが、どうする? 真っ向から戦って倒されるのを祈っても、神は応えない。対戦相手側と談合しようにも、陛下暗殺の計画をこれ以上広めるのはリスクが大きすぎる……そして、唯一、エリザ・ミュラーを倒せそうなハイムバッハの娘とは決勝まで当たらない)
エリザへの対策を考えるが、正面切って倒せるとは到底思えない。
他の侯爵と協力しようにも、理由を話すのはリスクが大きすぎる。
さらには、マチルダとエリザが決勝まで当たることはない。
(帝国一武道会のトーナメントに公平性などない……陛下への見世物という建前がある限り、最高の試合になるように忖度される)
帝覧試合なのだ。
皇帝への見世物に、完全ランダムな対戦表を作るわけがない。
最高の決勝になるように、予選で秀でた者をシード選手のように配置する。
しかも、そもそもが優勝候補常連のビューレンベルク家と辺境伯のヒンデンブルク家。
上手い具合に、決勝まで当たらないように仕組まれるのは目に見えている。
「……細工をするか。幸い、下働きの者には金で付け入る隙がある。買収可能なはずだ」
故に、ウェルケンは細工を施してエリザを負けさせようと目論む。
「どんな達人も武器がなければ、武装した兵に劣る。悪いが……武器に細工をさせてもらうとしよう」
武器が使えなければ、勝機があると哀れにも机上の空論を信じて。
ウェルケンは処刑される前に、自身の犯行内容を聞かれて次のように答えたという。
エリザが使うであろう武器を、表面だけ取り繕った鈍らに変えて妨害を行ったと。
つまりはエリザの剣を、打ち合えば即座に砕けるものにしようとしたのである。
しかし、騎士の剣を簡単にすり替えられるのか?
恐らく、読者の皆様もそのように思っただろう。
身内やスパイならばともかく、完全な部外者が、剣を置くようなリラックスした状況で近づくのは難しい。
だが、帝国一武道会のルールにおいては、実はさほど難しくないのである。
まず、出場者が使用する武器は、大会側が用意することになっている。
コロシアムに出る前に、選手の控室に置いてある武器を持っていく。
それが、帝国一武道会の習わしであった。
これには二つの理由がある。
一つ目は、死人が出ないための配慮だ。
人の命が軽い時代とはいえ、侯爵達の代表選手。
死んでしまえば、まず間違いなく遺恨が残る。
実際に、初期の大会では死人が出たことで、侯爵同士で武力衝突が起きたとの記録もある。
もちろん、その後始末をするのは主催者の皇帝なので、皇帝としては犠牲を出したくない。
そこで、大会側があらかじめ刃を潰した武器を用意することで、死に辛くしたのだ。
これにより、大会中の死傷率はグンと下がったと言われる。
次に二つ目の理由であるが、武器の性能による差が出ないように、もとい武器に毒などを塗れないようにするためだ。
一応は、帝国最強を決めるという名目の大会なのだ。
武力以外の面で勝敗を決されては困る。
さて、この二つの理由により、武器の細工は出来なくなっていたのだが、ウェルケンは逆にそこに目を付けた。
何故か?
それは、バレずに細工をすることさえ出来れば、武器の不具合を大会側に押し付けられるからだ。
さらに、彼は細工を壊れやすくする程度に止めた。
あくまでも、自然に武器を失って負ける様にと、細心の注意を払っての選択だったと述べている。
たまたま運が悪かっただけだと、言い訳できるように。
ウェルケンは武器を控室に運び込む下働きの人間を、金で買収した。
そして、エリザが選ぶであろう武器を全て、細工を施したものにすり変えたというのである。
後は、エリザが試合に出た後で武器を元のものに戻せば、完全犯罪の完成である。
だが、既にお察しであろうが、ウェルケンの策は失敗に終わる。
下働きの人間が密告したのか?
それとも、大会側が先に気づいたのか?
否、エリザは細工された、どの武器も選ばなかったのである。
彼女が戦士として見抜いたのか。それとも、誰かに教えてもらったのかは分からない。
しかし、彼女は用意された剣や槍に目を向けることなく、とある物を武器に選んだという。
エリザが武器として選んだもの、それは──
──武器を置く『机』であった。
「エリザ、それ全部鈍らよ?」
控室に用意された数々の武器。
それをチラリと見たシェーネが、いきなりエリザに忠告をする。
「え、そうなの? 見た目は普通だけど……」
「見た目に騙されたらダメよ? 粗悪品っていうのは、化粧みたいに外見だけは取り繕ってるんだから。売るための工夫ね」
一瞬で、武器の良し悪しを判断するとは……こいつにそんな特技があったのか。
「お前、安物のナイフしか使わないのに、そういうの分かるんだな」
「少しでもいいものを選ぶために、目利きを身に着けたのよ。一回使っただけで壊れるようなものを掴まされたら、たまったもんじゃないんだから」
「……因みにどのぐらい悪いか、分かる? シェーネさん」
「まさに、一回使っただけで壊れる奴よ。最低ランク、もうこれワザとやってるでしょ」
そう言って、シェーネが机の上から剣を手に取って、壁を斬りつける。
すると、まるで切込みでも入れてあったかのように、剣があっさりと折れてしまう。
なるほど、これは使い物にならない。
「帝国一武道会っていうのも、ケチね。まともな武器すら用意できないなんて」
「……いえ、これは明らかにおかしいですわ。
クラウディアが槍を手に取って、しげしげと眺める。
俺も、手近にあった杖を持ってみる。
すると、先端の重さに耐えられずに柄の部分が僅かに揺れ動く。
魔法の一発で、簡単に分離してしまうだろう。
「怪しいな……」
間違いなく誰かの意図がある。
ハッキリとそう確信する。
「すぐに大会側に抗議を致しますわ。エリザさんは少々お待ちください」
「で、でも、もうすぐ試合が始まっちゃうよ? 間に合うかな……」
「それは……」
エリザに言われて、部屋から出ようとしていた足を止める、クラウディア。
試合開始時刻は絶対。
遅れれば、棄権とみなされて敗退だ。
あまり時間をかける訳にもいかない。
「……というか、今思ったんだが……武器って必須か?」
「はあ? あんた何言ってんのよ」
別に武器とか要らなくない?
そう告げる俺に、シェーネが馬鹿かこいつという目を向けて来る。
「いや、エリザは素手でクマより強いんだから、いけるだろ?」
「そういえば、そうだったわね……」
しかし、そんな目線を俺はすぐに黙らせる。
素手でクマより強い奴が武器など必要か?
鬼から金棒を取り上げた所で、鬼は強いのだ。
「まあ、素手の方が慣れてるけど」
剣術3年。ステゴロ18年。
エリザの真骨頂は、その拳にあると言ってもいい。
武器なんて、ボクシンググローブみたいなものだ。
「お待ちください、エリザさん。確かに、エリザさんの武勇ならばクマでも素手で勝てるでしょう。ですが、敵は各侯爵の代表……マチルダさんのような強者を相手にするには、いささか心不足ですわ」
しかし、クラウディアが反対の声を上げる。
理由は、相手側も強者ならば、武器の差が大きく出てしまうことだ。
「確かに……よく考えたら、クマさんと遊んでる時は、クマさんも素手だったもんね」
「ええ、今回は素手VS素手ではなく、武器VS素手。決して油断するべきではありません」
「ねえ、クラウス? クマの爪も牙も立派な武器だって、ツッコんだらダメかしら?」
「俺に聞くな」
シェーネから視線を向けられるが、俺は目を逸らす。
エリザに関しての俺の常識はボロボロなのだ。
まともな意見は期待できないと思った方が良い。
「でも武器かぁ……すぐに壊れるのを持って行ってもなぁ」
エリザが丸い目を細めて、考え込む。
そして、ピコンと何かを閃く。
「あ、そうだ! ねぇ、クラウディアさん? 武器は、この部屋にある物なら
「ええ……ですが、その武器がどれも鈍らだというのが、問題なのですが」
「大丈夫! 武器じゃないものを武器にすればいいから」
「はい?」
ポカンと口を開けるクラウディア。
その目の前で、エリザは──机を持ち上げてみせた。
因みに長机。
「うん。硬くて長いから、結構使えるかも」
ブンブンとまるで丸太のように机を素振りする、エリザ。
部屋の中に強烈な風が巻き起こり、俺の髪やクラウディアのスカートをはためかせる。
「よし! じゃあ、一先ずはこれで戦ってくるね!」
「あッ! 少々、お待ちを!?」
そうして、エリザはクラウディアの静止も待たずに、コロシアムに出て行くのだった。
机を装備したまま。
『それは武器と呼ぶには、余りにも机だった』
当時の記録には、エリザが持ち込んだ衝撃の武器についてこのように記されている。
もう一度言おう。机である。武器が机だったのだ。
形状は細長い長机。もちろん、武器として使われることはまずない。
どちらかと言えば、椅子の方が投擲武器として活躍するだろう。
だが、この武器(机)を用いてエリザは、初戦をあっさりと突破してしまった。
対戦相手は、戸惑いもあったであろうが、長机の意外なまでのリーチと攻撃範囲に翻弄されて、最後は机の面で場外に叩き出されてしまったと残っている。
さて、皆様はさぞや困惑しているだろうが、安心して欲しい。
当時の人間もとても困惑していた。
困惑していなかったのは、恐らくはエリザ本人とクラウスだけだろう。
机は武器になるのか?
ルール違反には当たらないのか?
そもそも、長机を剣のように振るえるのは、何かおかしくないか?
エリザの机作戦は、一時大会を止めて審議まで発展したが、武器として認められた。
これは、やられた相手への武器以外で負けたのは、不憫という想いやりもあったが、意外な人物の後押しもあった。
ハイムバッハである。
『戦場では全てが武器となる。ましてや、控室に置かれていたものならば、猶更だ』
ハイムバッハにとっては、エリザが敗北した方が何かと都合がよかったはずだ。
しかし、彼の、ビューレンベルク家としての考えを優先したのだろう。
彼は今でもフローズブルクの嫌われ者だが、近年では武人としては素晴らしい人間だったと再評価されつつあるのは、そうした自分の意見を貫いた点にあるだろう。
こうしたハイムバッハの後押しもあり、エリザは無事に一回戦の突破を認められたのだった。
「机か……エリザも面白いことをするな」
コロシアムの観客席。
ギリギリ試合が見える通路の端で、腕を組んで仁王立ちをする、マチルダ。
完全に少年アニメのライバルキャラの立ち方である。
「戦場においては武器が壊れるなど日常茶飯事。一見武器には見えないものも使いこなしてこそ、真の戦士……つまり、そう言いたいんだな?」
そして、したり顔でエリザの真意を推測する。
机を武器に使ったのは、あえて常在戦場の心構えを示すためだと。
もちろん、勘違いであるが。
「しかも、あれだけの机さばき……日常的に机を振って鍛えていたのは間違いない」
いいえ、今日初めて机を振るいました。
勘違いである。
「きっと、私と同じで日常が全て厳しい鍛錬だったに違いない」
勘違いですが?
「誰ともかかわらず……友と遊びもせず……趣味もなく……色恋に現を抜かすことも無く……ただ、親の期待に応えるために生きて来た……きっと、私と同じだ」
残念。エリザは村のみんなとたくさん交流していました。
クラウス以外にも友達は居るし、毎日遊び倒して、普通に恋もしていました。
挙句の果てには、家から飛び出していきました。
「面白いものを見せてもらったお礼だ。私も次の試合で、面白いものを見せるとしよう、エリザ」
クールな真顔で勘違いした独り言をブツブツと呟く、マチルダ。
ここが観客席で、声が周りの人に紛れていなければ、完全に不審者である。
これも、幼少から友達が居なかったが故の弊害だ。
人間、孤独になればなるほど独り言が増える。
「ちょっとあんた、そこ邪魔だよ」
「あ……すまない。すぐに退く」
そして、気の強そうなおばちゃんに、通行の邪魔と言われてすごすごと引き下がるのだった。
「伯父上、エリザの机の件は大丈夫でしたか?」
エリザの机の剣(誤字なし)で巻き起こった審議。
当事者の代表として行っていたラインハルトが戻って来たので、声を潜めて結果を聞いてみる。
「問題はないと、結論が出た。まさか、ハイムバッハが肯定して来るとは思わなかったがな」
「よ、よかったぁ……」
俺の隣でエリザがホッと胸を撫でおろす。
ちょっと、大事になって本人が一番ビビっていたのだ。
「だが、次からは余り勝手なことはしてはならん。貴女はヒンデンブルクの代表……そのことを忘れずに動くのだぞ?」
「は、はい!」
「クラウディア、貴女もだ。何のために、共に行動をさせているか、忘れるではないぞ」
「……申し訳ございません、お父様」
しかし、セーフだったとはいえ、騎士の品位に欠くと言われてもおかしくない行い。
ヒンデンブルクの評判が落ちるかもしれない行動だったので、ラインハルトのお叱りを受ける。
俺も二人の隣で、一緒に頭を下げておく。
「ちょっと、そもそも悪いのは、鈍らを置いていった運営の方じゃない? それが無かったら、エリザもこんな事してないわよ」
だが、シェーネだけは堂々とラインハルトに言い返す。
まあ、この中で唯一家族ではない部外者なので、家長相手でも遠慮が無いのだろう。
「分かっている。だから、叱るだけで止めているのだ」
「……で? 抗議ぐらいはしてくれたんでしょうね?」
シェーネが面白くなさそうに、鼻を鳴らしながら尋ねる。
しかしながら、ラインハルトは仏頂面のまま。
「いいや──泳がせておいた」
ハッキリと首を横に振ったのだった。
「はあ? なんでよ」
「その件については……クラウス。貴殿の提案であろう?」
「はい……悪いな、シェーネ」
なにせ、俺が事前に頼んでおいたのだから。
「どういうことよ? クラウス」
「クラウディアが言ってたみたいに、通常の大会でこんなことはまず起きない。つまり、誰かがヒンデンブルクを……エリザを負けさせようとしたってことだ」
「故に、私もその件は伏せたわけだ。下手人をこちら側で抑えるためにな」
ラインハルトも俺の意見に同意してくれる。
大会側がグルの可能性もあるのだ。
ここで追及すると、相手がそれを察して逃げる可能性もある。
なので、大人しく引き下がったと見せかけて、こっちで捕まえるのだ。
俺はともかく──エリザを傷つけようとする奴に関しては、許す気はない。
「アタシを狙って? そんな人、誰が……」
「まだ、エリザさん個人の狙いかは分かりません。逆に、ヒンデンブルク家を狙ってのものなら、いくらでも相手は浮かぶのですが……」
「大会に通報したら、変に政治的要素が絡まって、見逃さないといけなくなるかもしれないしな。だったら、こっちで捕まえて確実に処理した方が良い」
優勝候補を狙ってのものなら、大体の奴が犯人候補になる。
逆に、ビューレンベルクみたいな自信のある所は、候補から外れる。
でないと、わざわざ机の件でエリザを擁護しないだろうしな。
「……そう言えば、大会前の受付で変に突っかかって来た奴がいたわね」
「ああ、マチルダが踏んだロン毛野郎か。たしか……バウム家の代表か?」
「バウム家? あまり関わりはないが……」
ラインハルトがバウム家の名前に反応する。
「ええ。なにやら、粗暴でガサツな、おおよそ家名に泥を塗ることしか能のなさそうな男が、エリザさんを女だと馬鹿にしてきたのですが」
「傍にいたマチルダちゃんが、うるさいって潰したんです」
「なるほど……ビューレンベルクが、こちらの探る動きに気づいたかと思っていたが、個人的な逆恨みの線もあるな」
直接潰されたマチルダは怖いので、代わりにエリザに嫌がらせをする。
そんな弱者の思考かと、ラインハルトが頷く。
まあ、明らかに脳筋っぽいビューレンベルクの仕業とも思えないので、俺も同意する。
まさか、手を組んでる人間を潰すわけもないし、今回の件では無関係だろう。
「伯父上……少し、お願いがあるのですが」
「言ってみるがいい」
「では」
なので、俺は小賢しい手を使いそうな相手の思考を読む。
運営全体がグルではなく、個人的な恨みが動機なら、どのようにして武器に仕込みをするか。
そのためには、誰の協力が必要かを。
「お小遣いをください」
「……小遣い?」
具体的には誰を買収すればいいかを。
「控室に武器を運び込んだ人達を買収……すいません、事情を聞くための依頼料です」
「今、買収すると言わなかったかね?」
「いえいえ、むしろ相手側が係員を買収して、武器に細工をさせたのではないかと疑っているだけですよ」
個人的な恨みなら、動き出したのは最近のはず。
つまり、運営絡みでないのなら、自分の手の内の人間は運営内部に居ない。
そうなったら、金で係の人間を買収して、言うことを聞かせるしかない。
「一番怪しくて、一番情報を知っていそうな人間に、お金を払って事情を聞く……それだけですよ。なので、お小遣いをお願いします」
つまり、係員は金で動く人間だということだ。
俺は薄目で、シェーネの方を見る。
「なによ、クラウス? 急に見つめて来て……」
「お前なら、報酬の倍額払われたら、知ってることを話すか?」
「馬鹿言わないでよ──話すに決まってるじゃない」
シェーネの断言。
よし、これで買収に買収を返せば、解決することが証明されたな。
「そういう訳なので、お金で解決できるなら、それが一番てっとり早いかなと」
「……運営側に金を渡す行為を見られれば、こちらが不正を疑われかねない」
「いえいえ、これは賄賂ではありません。私達は不可解な出来事の原因を明らかにしたく、そのために
え? こっちが不正の疑いをかけられる?
事情をお伺いしてるだけなので、何も問題はないですね。
お金はその謝礼でしかない。
「それにこっそりではなく、堂々と聞けばいいんですよ。係員と言っても、こちらの控室に関わった人間だけで良いですから、数人程度……その
ちゃんと報告した上で、話を聞けば買収にはならない。
事後報告? ちょっと、初めての会場で迷子になって、報告係が遅れただけですね。
後、係員が本当に買収されていた場合に、裁くのは俺達ではなく運営なので責任は知らない。
一族郎党の処刑とかになりそうなら、ゲロったことで温情はかけてやるが。
「金で解決するか……何とも、ヴィクトワール家らしいやり方だ」
「え?」
「いいだろう。12年分の小遣いを与えてやる。貴殿の好きに動くといい、クラウス」
なんか、ヴィクトワール家らしいと言われたが、どういうことだろうか?
まさか、先祖代々大金で解決する作戦を取って来たのだろうか。
「とにかく……これで決まりですわね。さっそく、係員を呼び出しましょう」
「ア、アタシは何をしたら…?」
「あんたは次の試合に備えときなさい。次はちゃんとした武器を用意させるから」
クラウディアが動き出す。
エリザが少しおろおろするが、シェーネに肩を叩かれて落ち着く。
それを見ながら俺も動き出す。
ここからが、エリザを守るための作戦だ。
「さて、エリザに危害を加えようとしたんだ。少し、痛い目にあっても恨むなよ?」
名付けて──札束には札束で殴り返すんだよぉッ! 作戦が。