戦闘描写を書くのってやっぱり難しい……
蛍が駆使した三元素による超開花の大爆発に巻き込まれるも、漂う煙を吹き飛ばし平然と現れたチャシクの姿に一時静まり返った観客達が再び熱を取り戻した。
真の力を3分限定で解放し反撃を堂々と宣言したチャシクを前に、蛍は突然手のひらを突き出し「待った」をかけた。
「チャシクが本気を出すって言うなら私も準備がある。武器を別のに交換してもいい?」
「ん?おう、いいぜいいぜ!尤も剣を変えた程度で俺に勝て『ピッカーーン!!!』ぐわあぁぁぁぁああ!!!!こ、この光はっ!?!?」
許可を得た蛍がおもむろに懐から取り出したのは、彼女が長い旅を経て集めた珠玉の業物の数々だった。純白の翼があしらわれた蒼い剣は風神の加護が宿り、岩神がその手で打ったとされる翡翠色の剣は息をのむ美しさを誇る。荒々しくも静かに紫電を帯びる刀は見るものを寄せ付けぬ迫力を持ち、生命力に満ちた白い枝と金の装飾から成る剣は死を遠ざける光を放っていた。
「おっと、手が滑った」
「うっかり4本いっぺんに剣抜く奴がいてたまるか‼︎見るからに高そうな剣をこれみよがしに見せつけやがって嫌がらせかのつもりかぁ⁉︎」
「んー探してるやつじゃない。もっと奥にあるのかな?『バラバラバラ』」
「嘘だろまだ出てくんの⁉︎頼むからやめてくれぇ‼︎一本300モラの武器使ってる俺がみじめすぎて死ぬぅ‼︎」
装備と経済力の差をまざまざと見せつける精神攻撃により目を覆い胸を押さえるチャシク。蛍はその様子をニヤニヤとほくそ笑みながら剣の一本を隠すように自分の背中に回す。
蛍は背後に再び"草蓮灯"を呼び出そうとし——
「——それはもう喰らうのはゴメンだ」
「っ!」
ドガガガガガッッ!!!!
悪寒——もとい超高温を察知し蛍が飛び退くと、先程まで彼女がいた場所を大槍の群れが埋め尽くすように大地に突き立っていた。朱い輝きと肌を焼く焦熱を放つ大槍は、高純度の燃素で練り上げられていることを示していた。
「今度こそ、攻守交代だ」
チャシクの言葉に蛍が振り向くと
「避けてみなぁ!」
ゴオオオォォォッッ!!!!!!
チャシクの口内より放たれた、本物の古龍さながらの獄炎の息吹。視界全てを覆う焔の壁を前に逃げ道を失った蛍は
この状況を、千載一遇のチャンスと捉えた。
「
「っ⁉︎」
蛍が風元素を込めた腕を払い生み出された巨大な竜巻は、迫り来る焔を巻き取り拡散反応によって勢いを増す。更に巨大な獄炎の嵐となって跳ね返ってきたそれを前にチャシクは驚愕に目を剥く。
「言ったでしょ。古龍は時に、自分の炎に焼かれる事もあるってね!」
——村の為に戦い続ける限り、お前は戦士だ。
——火傷などでは無い、炭化している。何をすればこんな風に……
——急げ‼︎あの怪物が
自分の炎に焼かれる、か
「知ってる。長い付き合いだ」
「…え?」
するとチャシクは手に持つ剣を地面に刺すと、戻ってくる炎をあろうことか両手を広げて迎え入れたのだ。穏やかな表情の彼はそのまま竜巻に飲み込まれ、その姿は一瞬で見えなくなってしまった。
「あっあいつ何を⁉︎」
「チャシクッ‼︎」
「……!」
客席で悲鳴をあげるパイモンとカチーナ。ムアラニは手で口を覆いキィニチも僅かに身を乗り出す。
チャシクを飲み込んだ後も留まり吹き荒れる嵐が
「旋風は制御の解放を
不意に、風の流れが乱れる。
「焼かれる痛みも熱さも、克服は終えてる」
不安定に揺らぎ始めた炎の竜巻は2つに分かれながら急速に勢いを失い
「だが、それを超える耐え難い痛みってのは」
分かれた2つの炎は大地に突き立つ剣を包み込み
「この世に幾らでもあるさ」
龍炎燃え盛る剣2本へと変貌した。
蛍が繰り出した渾身のカウンターを見事にいなして見せたチャシクに客席が一気に沸き立つ。だが大歓声が競技場を包む中、サングラス越しにこの戦況を冷静に見抜く者がいた。
「……それってつまり、炎を風元素ごと逆に飲み込んだってことか?あ、あり得るのかそんな事?」
「物を知らねぇなチビ。人間共が扱う元素は燃素が元になってるのは知ってんだろ?奴は風元素を原初の姿、つまり燃素まで強制還元しやがったのさ。取り戻した燃素で剣2本を強化するおまけ付きでな。燃素の還元、付与、圧縮、変質…およそ一人の人間が出来ていい芸当じゃねぇ——」
戦いの様子を窺っていたアハウが視線のみをパイモン達に寄越す。
「——龍王を含む、ナタの古龍の中でも一握りの個体だけが持つ権能だ」
普段のおちゃらけた態度とは違う重みのある言葉にパイモンは息を呑む。
そも、アハウから見てもチャシクの基本戦術である武器の具現化の時点で既に常軌を逸した力であった。過去のアビスとの大戦の際、こだまの子の長老が共闘した2人のカーンルイア人と協力し、自らの命を犠牲に固形燃素の釘を生み出しアビスを封じたとの記録が残されている。それ程までに固形燃素の扱いは難しく、かつ途方も無いエネルギーを要する技なのだ。
古龍の権能を授かるより以前から、チャシクは誰に習うこと無くそれを使いこなしていたという。アハウが忌々しくも、チャシクを天才と認めざるを得ない所以である。
「じゃあ、色んな元素を使える旅人とは相性最悪じゃないのか?旅人の攻撃を全部燃素に変えられちゃったら、チャシクに絶対勝てないじゃないか!」
「どうだろうな。元素還元のスピードは大したもんだが、ありゃかなり負担がかかる無茶な戦い方の筈だ。なんの代償も無く使える力なんてこの世にそうあるもんかよ」
「(……あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁぁ……これは…ちょっと割に合わんな。跳ね返ってきた燃素の炎を操ろうと力を込めたら、風元素ごと燃素に還元されて同時に気力をごっそり奪われた。便利だけどこんなに消耗が大きいなら無闇に乱発は出来ねぇな)」
意図せず発動した古龍の権能に軽い目眩を覚えながらもこれといって驚きもせず「まぁ、古龍ならやるか」程度の反応で分析を終えたチャシクは火の粉が立ち昇る剣二本を持ち直すと、上体を地面すれすれまで沈めるように構えた。
「——シイィィィイッッ!!!!」
ガッキイイィィィンンッッ!!!
「——ぐぅっっ!?!?」
蛍には、かなり離れた場所に立っていたチャシクの足元から上がった爆発と
ギャギギギギギギンッッ!!!!!
「(捌き…きれない!押し出される!)」
その上攻撃速度も飛躍的に上がっていた。左手に握った片手剣もここに来て導入され、獲物を奪い合う二匹の龍が如く凶暴に襲いかかる。蛍が捌ききれる限界に迫る速度の剣撃が彼女をみるみる競技場の端に追いやる。絶えることのない連撃を防ぎ続け火花を散らしていた剣が朱色に変色し熱を帯び始めていた。
「(型もなにも無い、まさに猛獣……いや、これが龍か!)」
「ガアアァァァァアアッッ!!!」
チャシクは両の剣を左右に広げ、咆哮と共に蛍目掛け挟み込むように叩きつけた。
「
ガッキイィィィインッッ!!!!
「……ッチ、岩元素まで使うのか」
喰らいつく龍の顎を思わせる挟撃はしかし、獲物のいた場所の地面から出現した岩元素の球体を半ば砕いて止まった。避けられたと悟ったチャシクの目には、それを生み出した彼女が岩に落とす影を確かに捉えていた。
「
岩元素創造物"荒星"を地中から生成した勢いに乗り上空に逃れた蛍が、同じ岩元素で極限まで硬く重く強化した剣の腹をチャシク目掛けて全力で振るう。彼女の腕力のみでは決して持ち上がらない程の重量を得た剣は、重力に導かれるまま一気に加速していき
剣がチャシクの頭を捉えた
その時
ドッカアアァァァァンンッッ!!!!
「ゔぁっ…!?!?」
剣先がチャシクに届こうとした瞬間、そこから大爆発が引き起こされた。空中にいた蛍は爆風により十数メートルほど吹き飛ばされたが、岩元素を付与した剣で辛うじて防ぎ大した怪我には至らなかった。剣を握っていた彼女の指を反動による痺れが襲う中、爆煙の内から声が飛んできた。
「『
ようやく痺れがおさまり手の感触を確かめつつ蛍は顔を顰める。
「……なるほど、ブラフだったんだね」
「そ。あの時発動したのは実は
チャシクの生来のタフさに加え燃素ガードが合わされば半端な攻撃では意味がない。そう踏んだ蛍は至近距離、可能なら死角から剣を打ち込む機会を狙ったのだが、逆にそれをチャシクに利用され誘われたのだ。
だが、痛手を負ったのは蛍だけでは無かった。
「(………誘っといて食らってるようじゃカッコつかないなぁ。おぉイテテ…)」
蛍が放った一撃は、チャシクの燃素爆鱗による爆発を一瞬だが突破しており、彼は後頭部にできたタンコブをさすっていた。岩元素により限界を超えて強化されたその剣撃は、チャシクのガードを確かに貫く鋭いものであったと彼も認めざるを得なかった。
「(岩塊は崩れぬ盤石を
そして攻撃に対する蛍の反射速度、そして天性の勘。あれだけの至近距離からの爆発を剣一本でほぼ完璧に防ぎ切るなど、この両方が揃わなければ成し得ない離れ技だ。
「(そして極めつけの複数元素の同時使用。雷、風、草、水、そして岩まで……救国の英雄と呼ばれるのも頷ける本物の強者だ。そんな彼女と正面切って戦えるだなんて——)」
チャシクは両の剣を揃えて地表に当てがうと
「——
三日月を描くように天へ向けてかちあげた。彼が振るった刃からは巨大な朱の斬撃が獄熱と質量を伴って大地を斬り裂くように放たれた。
『
ドガガガガガガガガガァッッ!!!
先程とは逆。勾玉によってチャシクを追い回した蛍が、今度は飛ぶ斬撃から逃げ回る番だった。嵐のような連撃を駆けながら回避しつつ、蛍はこの光景に既視感を覚えた。チャシクには知る由もないが、蛍はつい最近フォンテーヌでこれによく似た技を目にし、実際に受けてもいたのだ。
かのファデュイ執行官第四位である『召使』ことアルレッキーノが放つ大鎌による赫い斬撃。彼女の攻撃は効率と殺傷力を極限まで突き詰めた恐ろしいものではあるが、あくまでも対人攻撃の域を出ない規模だった。対してチャシクの攻撃は常軌を逸した質量と火力にものを言わせた、古龍の暴威が込められた規格外のものだ。
正に災害同然の圧倒的な破壊力。だが———
「見慣れた技なら、やりようはある」
———彼女にとってその程度の違いは誤差であり、一度見た攻撃の対処は難しいことでは無かった。
蛍はその身を急反転させると、回るように剣を振い斬撃を放ち続けるチャシク目掛け一直線に突っ込んでいった。無謀にも見えるその行動を前に容赦ない斬撃の雨が浴びせられる。
「(—————ここ)」
ドギャギャギャギャギャッッ!!!
「ハハッ!バカみてぇな動きをしやがる‼︎」
攻撃がその身に達する直前蛍はその身に紫電を迸らせ、飛来する斬撃の側面を蹴り三次元的に跳躍し回避して見せた。断続的に響く雷の爆発音がチャシクと観客の耳を
「(あの時、爆発に弾かれはしたけど確かに手応えはあった。これだけスピードが乗れば…!)」
「(燃素爆鱗を突破されちまうか…だが、そんなことはこの
チャシクは電光石火の勢いで迫り来る蛍を迎撃すべく再び両の剣を振るい———
ポッキン⭐︎
蛍の一撃を弾いた拍子に、流し続けていた膨大な燃素に刃が耐えきれず遂にチャシクの剣が折れてしまった。
「我が半身ー!?!?……お、俺の600モラ……」
「もうツッコミも同情もしないからね?…とにかく、これでやりやすくなった」
好機と見た蛍は先ほど斬撃の回避に使用した雷元素の連続使用を敢行するべく再接近。雷と風の速度、そして岩の突破力を以て無防備になったチャシクへ最後の仕上げにかかる。
「これで…終わらせる‼︎」
「ああ、そうしようか」
雷の如き蛍の刃一閃、しかしそれは空振りに終わる。避けたチャシクを探し辺りを見回すが何処にも姿が無い。
見つかる筈が無い。
「————っ‼︎」
相手は、遥か上空にいるのだから。
「時間切れだ。見立て通りこの訓練用の武器じゃ俺が全力で流す燃素に3分しか耐えられなかった。俺にはもう武器が………
跳躍により空中に飛び上がったチャシクの
「この一撃を以て、このエキシビションマッチの幕とする」
———全長15mはあろうかという、太陽の如き輝きを放つ極大の槍であった。
戦いの〆にチャシクが選んだのは、人龍漫遊記の古龍がアビス共を相手に用いた絶対破壊の
まともに受ければ魔神すら無事では済まないと容易に想像がつく、人間一人を相手に使用していい規模を遥かに越えた超常の一撃。
蛍はそれを目の前にし
「(……………ああ……落ち着いてるな………今の私)」
自分でも不思議な程、心は凪いでいた。
時間の流れが緩やかに見え、槍から放たれ肌を焼く焦熱も感じず、周りの喧騒も一切聞こえない。
身の内に流れる血と元素の巡りだけを明瞭に感じる。
——否、不思議では無い。思えば彼女はこの感覚を旅の中で何度も経験していた。途方もなく強大な敵と相対し、自分の身に危険が及んだ時はこの感覚が何度も彼女を救ってきた。
そして今蛍の本能は、チャシクの全身全霊の一撃を前に
"応えよ"と言っている。
「(……全然そんなつもり無かったけど、最近の私だんだん
口角が、僅かに持ち上がった
「火焔は古より連綿と続く熱を
大槍が、ゆっくりと回転を始める
「——勝利は、我が翼の下に‼︎」
速度は少しづつ上がり、周囲の大気が捻れてゆく
蛍は己に備わる全ての元素を総動員し、迎え撃つ準備を整える
「(全身と剣を水元素で熱から保護、岩元素と草元素で刀身の外殻と内部を補強、雷元素の追加付与と身体強化を最大化、風元素を剣と足裏に限界圧縮………よし、こんなもんかな)」
回転速度が臨海点に達し轟音で唸る頭上の大槍に向け、蛍は剣先を構えた
五つの元素が混ざり合い、剣と全身が金の光を放つと
——ドゴオォォッッ!!!!!
地面から出現した"荒星"の衝撃に乗り、弾丸となって撃ち出された
大槍が、遂に落下を始めた
「
剣の輝きが増し、星の光を宿した蛍が、裂帛の気合を放つ
「はああぁぁぁぁぁああ!!!!」
「———
テイワットを揺らした
「———よし、こちらが有する限りの情報は一通り書き込んだぞ」
「ありがとうマーヴィカ。………へっへっへ、これでまた新しい聖遺物が手に入る♪」
「オイ旅人、よだれよだれ」
現在蛍達は賑やかな競技場から離れ、聖火が静かに燃える音のみが聞こえる談義室へと場所を移していた。マーヴィカから渡された地図を眺めながらニヤケが止まらない様子の蛍をパイモンとチャシクは横から冷めた目で見ていた。
チャシクと蛍のエキシビションマッチは、帰火聖夜の巡礼のトリを飾るに相応しい盛り上がりを見せた。協力してくれた蛍には彼女の希望通りマーヴィカからナタにおける聖遺物秘境や宝箱等の場所を幾つか書き込んだ地図を贈る事となった。
「君のお兄さんの捜索についてもこちらは協力を惜しまない。だが……他に何もいらないとはな。もう少しぐらい欲張ってもいいんじゃないか?」
「んー…そうは言ってもお金も武器も今は困ってないからなぁ。誰かさんと違ってね(チラッ)」
「お、嫌味か?二回戦目がお望みか?(ゴキゴキッ)」
「どわーっ⁉︎待て待て!こんな所で暴れたら部屋がメチャクチャになっちゃうぞ‼︎」
パイモンが青ざめるのも当然だ。先の試合で互いが放った大技の余波は凄まじく、地面にはすり鉢状の巨大なクレーターが形成され、それまでびくともしなかった燃素具足の防壁に深々とヒビをもたらす程だった。
蛍は燃素の大槍の圧倒的な質量を押し返すに至らず、チャシクもまた五元素全ての強制還元には至らず。二人が使用した武器は壮絶な拮抗の果てに粉々に砕け散り、そこでマーヴィカが試合終了の合図を出し戦いは幕を下ろした。
二人のエキシビションマッチという枠を逸脱した死闘は、つまるところ「引き分け」と相なったのである。
「……あ、そういえばチャシク。さっきの試合でお前が使ってた武器全部壊れちゃってたけど、これからどうするんだ?」
「なぁに、素手だろうと古龍の力を持つ俺がアビスの魔物共に遅れをとる訳ねーだろ?……まぁ、あったほうが燃費良く戦えるのは確かだけども」
「私が使ってない武器でいいなら幾つかあげても良いよ。ホラ、ちょっと試しにそこの床に正座してみて?」
「首捻じ切るぞお前」
「ま、まぁまぁ…チャシク、実は貴方にも渡したい物があるんだ」
睨み合う二人を仲裁したマーヴィカは椅子の脇から木箱を運んでくると、全員の前で開いて見せる。
中には剣2本と槍1本が入っていた。どれも飾り気の一切を排した、柄から刃の先まで一つの金属から削り出された無骨な見た目をしている。その中の片手剣を蛍が持ち上げようとすると——
「…ッ?……ッッ!?!?な、何これ重っ‼︎」
「これらの武器は戦士達のトレーニング用具としてシロネンに特注で打ってもらった物だ。望んだのは『ひたすらに重く、硬く』。これを素振りや試合で使えば良い特訓になると思ってな。…思ってたのだが……」
蛍が両手で握り直し今度は何とか持ち上げたが、水平に構える事すら容易では無い。長くは保たずすぐに箱の中に戻してしまった。
「……〜〜いや無理っ!多分千岩古剣より重いよコレ。こんなのトレーニングに使ってるの?」
「私とイアンサには丁度良い重さなんだが、私達以外誰にも扱えなくてな。注文の時に少々重く頼み過ぎてしまったようなんだ。その時のシロネンの冷ややかな視線ときたら…」
マーヴィカはバツが悪そうに額に手をあてる。その場になんとも言えない空気が漂う中、チャシクはもう1本の両手剣に手を伸ばした
「……おぉ!腕にずっしりとくる重さ!これはっ、確かにっ、良いっ、トレーッ、ニングにっ、なりそうだっ!」
「なんで持ち上がるんだ⁉︎そしてなんで片手で素振り出来るんだ⁉︎」
「ハハハッ!やはり見込んだ通りだ。チャシク、よければこれらの武器3種を貴方に贈りたい。無論タダで、だ」
「……………………へ?……い、いいのか!?!?タダッ⁉︎今タダって言った⁉︎」
「勿論だ。あくまで訓練用なので刃こそ備わっていないが、激しい扱いにも十分に耐えられる強度を誇るこれらの武器は、貴方こそが最も有益に使うことができると思ってな」
驚愕のあまり暫し固まっていたチャシクが、次の瞬間目にも止まらぬ速度でマーヴィカに詰め寄ると、恐る恐る尋ねる。
「……………燃素も流せる?」
「あ、あぁ。私が全力で流してもびくともしなかったぞ。……チャシク、貴方は形式上では私の眷属としてこれから先多くのアビスと戦ってもらう事になる。もしその武器が壊れてしまったとしても、予備はこちらが全て負担しよう。それからもう一つ、聖火競技場に誰も使っていない空き部屋があるんだ。元は従業員用のもので宿ほど広くはないが、家具は一通り揃ってる。この部屋も君の家の様に好きに使って欲しい」
マーヴィカが優しげに微笑みかけると、チャシクは両手剣を抱えたまま涙ながらに床へ崩れ落ちた。
「……あぁ、マジか…此処はまるで天国じゃねぇか……こんな上等な武器を3本、しかもタダで譲って貰えるなんて‥オマケに家無し問題まで解決とは…本当に……本当に………」
「ふふっ、そこまで喜んでもらえるとは思
ガシィッッ!!
「本当にありがとうっ‼︎君がくれたこの武器でアビスだろうが何だろうが、思い切り蹴散らしてやれる!俺はこれからナタの為に、君の為に粉骨砕身の覚悟で戦い抜く事を誓う‼︎誓っちゃう‼︎」
「……わ、わかったわかった、落ち着いてくれ」
チャシクはマーヴィカを熱い抱擁から解放すると、ホクホク顔で武器を鞄に仕舞い込む。
「貴方にはアビスの魔物が現れ次第殲滅する遊撃の任に就いてもらいたい。その武器で、アビスと戦えそうか?」
「おうよ、
「待ってチャシク、正門で待ち合わせしてるムアラニに君も呼んでって頼まれてるから!流泉の衆に君を招待する約束したって言ってたよ」
「……………そうだっけ?んじゃ急がなくちゃな!ありがとうマーヴィカ、行ってくるっ!」
そう言うとチャシクは満面の笑みで手を振りながら部屋を後にした。蛍がやれやれとため息をつきながら彼を追って出口に向かうが、途中思い出したように足を止めマーヴィカに振り返る。
「案外、顔に出やすいんだね」
蛍はそう言ってイタズラっぽく笑うと、今度こそ部屋を出て行った。
「———失礼します炎神様。
「………んんっ…いやなに、何でもない。ご苦労だったな」
ほのかに頬を染めていたのを誤魔化すように咳払いをすると、マーヴィカは談義室にやってきたキィニチとアハウを迎え入れる。
「なんだぁ?あの炎神マーヴィカが風邪でもひきやがったのか?おいちびニチ、こりゃ明日は大雨が降るかもしれねぇぞ?」
「茶化すなアハウ。…失礼しました」
「構わないさ。それよりもアハウ、事前に君達には話していたが、以前の戦いと今回のエキシビションの戦いを見て、君は彼をどう見る?」
マーヴィカはそれまでの雰囲気から一転、真剣な表情に変わると意見を求め、それにアハウはうんざりといった感じで答えた。
「どう見てもありゃ『古龍の権能』だ。あの力を自分の手足みてぇに扱えるのは、忌々しいが奴の才能だな。それより問題なのは規模の方だ。龍の力をただの人間のガキが手に入れたからって、あんな風に際限無く使える筈は無い。絶対に人間の身体が保たん」
「あいつがチャシクを騙る古龍である可能性は、以前俺達が戦った際に無くなってる。古龍の力だけがチャシクに宿ったとあの時結論付けはしたが…そうじゃ無いってことか?」
「——或いは、第三の可能性。奴は死ぬ前の
その言葉にキィニチは眉根を寄せるが、マーヴィカには思い当たる節があった。彼のベースが人間だとしたら、古龍の権能を自由に操り、蛍の攻撃を生身で散々受けたにもかかわらず何とも無い身体の頑丈さの説明がつかないのだ。
そして変身時の彼の姿。人と古龍、どちらも明確に実体を持つ本物の肉体であり、片方の姿を何らかの力で模倣しているわけでは無い。マーヴィカはいずれも実際に間近で見、そして触れ確信していた。
「………ふむ、私も三つ目の線が怪しいと見てる。人格はチャシクのまま安定はしているが、もし
チャシクの力は、味方であるならばこの上なく心強い存在ではある。
そう、味方であれば。
マーヴィカは、未だ彼の
やったねチャシク。家無し武器無し問題解決だ!
なお金は変わらず無い模様。