Q. もしも1981年11月1日の夜が物凄く寒かったら   作:階段下から

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第27話 小石

 あの薄汚れた包みの中身が賢者の石であったかはまだわからない。だがもしも本当に包みの中身が賢者の石なのであれば、手に入れない理由はない。

 

 ……しかし、あの老いぼれの元で管理されているとなると面倒だな。大男のペットだけではなく、複数の守りが存在している可能性が高そうだ。そして何より、今の僕ではその番人すら殺せない。

 

「そんなすごい石があるんだ! そりゃ狙われるのも無理なさそう」

 

「あくまで推測よ、まだ断言はできないわ。それにダンブルドア先生が守ってくださるのなら安心じゃないかしら」

 

 ロンはもし自分が賢者の石を所持したらクィディッチ・チームを買うと話している。そんなもしもの話を楽しげに聞いている子どもは、ただただロンの話を聞くだけで自分の夢は話さなかった。

 

 子どもは、僕にその石が使える可能性があると説明すれば協力するだろうか? 手に入れる価値があると伝えて説得は可能だろうか。

 

 ……たぶん難しいだろう。幼いころから、子どもは飢えているにもかかわらず食料を盗むという選択肢に対して消極的だった。ダーズリー家から掠め取っても、確実にバレそうにない時ぐらいしか盗みは行わなかったのだ。

 

 説得が難しいのであれば、問題はどう話せば子どもは協力するか……だろうか。憐れみでも乞うてみるか? 僕の身の不遇を嘆いて同情でも誘ってみるか? ……無いな、僕はそんな無様な姿は絶対に晒したくない。

 

 ならば子どもに『これは盗みではない』と思わせることができれば?

 

 あるいは、石を取ることに正当な理由を作ることさえできれば。

 

 …………。

 

 (ねえハリー。あの包みと、この石は関係があると思うかい?)

 

 子どもはこちらに少しだけ目線を向けると考え始めた。今は手に入れる手段を模索するよりも、まずは包みの中身が何かを確定させる必要があるだろう。

 

「そういえばさロン。僕らが最初ハグリッドのところへ遊びに行ったとき、新聞の切り抜きがあったよね?」

 

「あったあったグリンゴッツ侵入事件のやつ! やっぱハリーが見た包みって中身は賢者の石でさ、グリンゴッツの侵入だってそれ目当てだったんじゃないの?」

 

 ロンは続けて、ハグリッドに聞こうとしたけど結局うやむやにされて城に戻ることになったもんな。と子どもに頷いている。

 

「もう! だからまだ賢者の石とは決まったわけじゃないでしょう?」

 

「でも偶然にしては出来過ぎじゃない? あのハグリッドが新聞の切り抜きをわざわざ大事に持ってたんだ。ハグリッドも狙われていることを知ってたのかも」

 

「そうそうハリーの言う通り。それにパパが言ってたよ。グリンゴッツに侵入したのは強力な闇の魔法使いだろうって。グリンゴッツに侵入したんだ、もしかしたらホグワーツにだって盗みに入ってくるかも……」

 

 三人は一瞬黙り込んだ。現状は推測に推測を重ねているに過ぎないが、狙われている可能性をそれぞれ考えているのだろう。

 

「……もし本当に石が学校にあるとしても、ダンブルドア先生がいるんだからきっと平気よ」

 

 では老いぼれが城にいない時、もしくは何かしらが原因で身動きがとれない時が狙い目か。例のグリンゴッツに侵入した魔法使いがホグワーツにも盗みに入るのであれば、老いぼれの守りを破らせて横から掠め取ることも可能だろうか?

 

「もう少し私の方でも調べてあげるわ。ダンブルドア先生との共同研究や賢者の石について、あとフラッフィーという名前の生き物の候補。推測だけで終わらせるのは気持ちが悪いもの」

 

「えっいいのかよ?」

 

「ハーマイオニーありがとう!」

 

 二人の言葉に少し驚いたハーマイオニーは、小さく笑みを浮かべて首を振った。引き続き協力を得られるのであれば、この本題をすぐに忘れて寄り道ばかりする子どもとロンよりかは進展があるだろう。

 

「私も興味あるから気にしないで。じゃあ、そろそろお昼だから出した本を片付けましょう」

 

「えっこれ全部?」

 

「もちろんよ」

 

 子どもとロンの目の前には、山のように本が積み重なっている。その本をハーマイオニーに言われるがままに、子どもとロンは引き攣った顔をしながら棚へ戻していった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 残念ながら、それから数日経っても石やフラッフィーについて新しく判明したことはなかった。今の僕にできることとしては、子どもに一つでも呪文を多く覚えさせて、いざというときのために備えさせるくらいだろうか。

 

「Acufors!」

 

 ……不安だ。子どもが呪文を唱えると、目の前に置かれたマッチ棒は完璧な針へと変身した。しかしこんな小さな針が何の役に立つというのか。

 

「みなさん良くできましたね。マッチ棒を針へと変身させる呪文『Acufors』は、今後もきちんと復習しておくように」

 

 生徒が呪文を唱え終えたのを確認すると、マクゴナガルは教卓の上の小箱を手に取った。小箱の中には、小さい石が詰められていた。

 

「では今日は『Avifors』と呼ばれる変身呪文を学びます。『Avifors』という呪文は、使うことで小さな物体を鳥へと変身させることができます」

 

 そう説明しながらマクゴナガルは呪文を唱えて小さな石を鳥へと変身させた。その後生徒にノートをとらせると、全員に小石を配り鳥へと変える練習が始まった。

 

「Avifors!」

 

 子どもが杖を振り呪文を唱えても、小石はピクリとも動かなかった。……はたしてこの呪文はいつ使い物になるのだろう。

 

 (ハリー、杖の動きが雑じゃないか。それに石をじっと睨んでいても鳥にはならないよ)

 

 子どもはこちらを物凄い形相で睨んできた。……図書館に連行される際に嘲笑ったことをまだ根に持っているのだろうか。

 

「……Avifors!」

 

 今度は石に羽根が生えた。ぱたぱたと羽ばたこうとしているが、小石が重いのか宙に浮きはしていない。

 

「おっハリーすっげえ! 金のスニッチっぽい!」

 

 横で杖を振り回していたロンは、見るとまだ小石のままのようだった。ロンのはしゃぐ声が聞こえたのか、近くに座っていたハーマイオニーも振り返った。

 

「でもまだ鳥にはなっていないじゃない」

 

「そういう君はどうなのさ」

 

 ロンが少しだけムッとしながら尋ねると、ハーマイオニーは呪文を正確に唱えて小石を鳥へと変化させた。

 

「ミス・グレンジャー! 素晴らしい出来栄えですね」

 

 ハーマイオニーが変身させた鳥に気付いたマクゴナガルは、珍しく満足そうに笑みを浮かべている。なお、肝心のハーマイオニーはマクゴナガルへ頷くと、そのままロンへと得意げな顔を向けているが。

 

「ハーマイオニー凄いね、コツとかあるの?」

 

「杖の動きを丁寧にするのよ」

 

 似たような指摘だからか、子どもは真面目に受け止める気になったようだ。僕が言った時は睨んできたくせに随分と面倒な拗ね方をしている。ハーマイオニーの隣にいたシェーマスも聞き耳を立てていたのか、ふんふんと頷いていた。

 

「なるほどこうかな……Avifors!」

 

 シェーマスの小石は白く光り輝くと爆発した。

 

「ミスター・フィネガン!? いったい何が、どうして変身術で爆発するのです?」

 

 マクゴナガルは困惑しながらも、砕けた小石を新しいものへと差し替えた。

 

「そんな、ちゃんとやったのに!」

 

 嘆くシェーマスを見て子どもとロンは噴き出した。ハーマイオニーは肩を震わせながらも、いたって大真面目な顔を崩さずにいた。

 

「ちょ、ちょっとハーマイオニー! 君のアドバイスでシェーマス爆発しちゃったじゃん!」

 

「つ、杖の動きを丁寧にって言ったじゃない。そんな振り回してしまったら駄目よ……」

 

 授業中だからか、ロンとハーマイオニーは声を潜めながらも言い争っている。だが二人とも笑いを隠しきれておらず息も絶え絶えだ。子どもはひと息ついたのか再度小石に杖を向けている。

 

「Avifors!」

 

 子どもが再度呪文を唱えると、小石は鳥の石像へと変身した。ハーマイオニーが変身させた鳥のように動いたり飛んだりはできなさそうだが、先ほどの小石に羽根が生えた見た目よりは鳥に近づいている。

 

「ミスター・ポッター。先ほどよりずっと良くなりましたね」

 

「……よしっ! Avifors!」

 

 子どもの石像を見て、ロンも杖の動きを意識しながら呪文を唱えている。するとロンの小石は卵へと変身した。

 

「なんで卵!?」

 

 マクゴナガルはロンが変身させた卵を手に取ると、軽く叩いてみせた。

 

「鳥ではありませんね、ミスター・ウィーズリー。ですが、卵としては非常に良くできていますよ」

 

 そう言って卵をロンの机へ戻すと、別の生徒の机へと向かっていった。先ほどの仕返しか、シェーマスはロンをにやりと笑いながら見ている。

 

「えぇ……? ハリー今僕ってば褒められた? 貶された?」

 

「褒められてる……と思う」

 

 授業終わりには、子どもの石像は少しだけ鳥のような質感へと変わっていた。少なくとも無反応だった最初よりは幾分かましにはなったようだ。

 

「ではみなさん、本日の授業はここまでです。次回も『Avifors』の練習を続けます。各自きちんと復習をしておくように」

 

「ハーマイオニー、さっきは教えてくれてありがとう」

 

「大したことはしてないわ」

 

 じゃあ。と言いながらハーマイオニーはスタスタと歩いていった。ロンは自分が変身させた卵をじっと見つめている。

 

「鳥に変身させてさあ、使いどころとかあるのかな?」

 

「使いどころ……」

 

 子どもはロンの卵を見ながら考え込んでいる……ここでロンに引きずられて子どものやる気が失われても困るな。

 

 (何を言っているんだか。変身術がちょっとした鳥を作るだけで終わるわけがないだろう。そのうち小物をドラゴンに変身させることだってできるようになるはずだよ)

 

 子どもはこちらを無視しようとしたようだが、話の内容に興味があるのか目線を向けてきた。

 

 (『Draconifors』と言ってね、対象をドラゴンに変身させられる呪文だよ。たぶん三年生くらいの頃に習うはずだ)

 

 まあ、変身させたドラゴンはかなり小さく、凶暴さや火を吐く能力も乏しいものにはなってしまうが……別に今は話さなくても良いだろう。

 

「そのうち鳥だけじゃなくてドラゴンにも変身させられる……かも……?」

 

「ドラゴン!? ハグリッドが欲しいって言ってた、あの飛んで吠えて炎を吐く方のドラゴン!?」

 

 子どももロンも一瞬でやる気を取り戻したようで何よりだ。その調子で使える呪文を増やしてほしい。

 

 




ドラマ版PVでついにマッチ棒→針の呪文「Acufors」が登場…!
公式の日本語表記はまだ無さそうだったので、いったん呪文は英字にすることにしました。
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