Q. もしも1981年11月1日の夜が物凄く寒かったら 作:階段下から
「ハグリッド!?」
大男は顔を引きつらせている。口を滑らせたことに気付いたようだが、昨日の段階で気付くべきだったのではないだろうか。
「まじかよ、そいつってどんなやつだったの?」
「……い、いやわからん。マントを着たまんまだったしな」
「どうしてそんな怪しい人とトランプで遊んでるのよ!」
ロンとハーマイオニーの質問により、大男はついに頭を抱えてしまった。……まあわからなくはない、きっと僕だったとしても一番口が軽そうな大男を狙うだろう。第二候補はクィレルだろうか?
「村のパブにおかしなやつがいたって、別にいつも通りなもんで気にせんかった。フードも被ったままで顔も見とらんしな……」
ついには子どもも頭を抱えてしまった。ハーマイオニーは目頭を押さえ、ロンは上の方を見ている。
「あっ! いかんいかん、おまえたちに話しちゃならんのだった。今聞いたことは忘れてくれ!」
結局、三人にも話してしまったことに気付いた大男によって、半ば追い出されるように小屋を出ることになった。
「…………どうする? フードを被った怪しい男ってさあ、スネイプじゃないの?」
「スネイプ先生も仕掛けを守ってるのよ? ダンブルドア先生が信頼しているのだもの、きっとそんなことしないわ」
「でも守ってるからこそ、罠の詳細もわかるんじゃないかな」
子どもの言葉に、それぞれ考え込むように黙り込んだ。僕としては、そのフードの男がスネイプ本人だろうと協力者だろうとどうでもいいが、明確に狙う人間が存在しているということが判明したのは悩ましい。狙う人間の横から掠め取るとして、機会を探る必要があるだろう。
「これはもう先生に言うべきよ」
「でも何て言うのさ。ハグリッドから全部聞いちゃいましたって?」
今言ったらハグリッドが法を犯してドラゴンの卵を隠していることも確実に見つかるだろう。さて、実際に見つかってしまったのなら、可能性としては何があるだろうか。
(……ドラゴン由来の素材はかなり重宝しそうだね。血や心臓の琴線に皮、君の学用品にもドラゴンの革が指定されていたし、ダイアゴン横丁ではドラゴンの肝が量り売りされていたっけ)
子どもの顔色は一気に真っ青になってしまった。
「ハグリッドが法律違反しているってバレたらどうなるんだろう……、あの卵のドラゴンも薬の素材になっちゃったりする……?」
「うーん……生きたままどこかに送られるかもしれないし、処分されるかもしれないよね……。そうなると言わない方がいいんじゃない?」
ロンの兄はルーマニアでドラゴンの研究をしているのだったか。それであればどこかへ送る選択肢もあるだろう。
「で、でも石を狙っている人がいるかもしれないのよ?」
「だよなぁ。でもハグリッドったらもうママになる気満々に見えたぜ?」
頭が痛いとばかりにハーマイオニーは顔を歪めてしまった。子どもはまだ青ざめたままだ。
「……いきなり取り上げたらハグリッド嫌だと思う。それに、もしかすると卵のことは僕ら三人にしか言ってないかもしれない。先生に話したらハグリッドの信頼を裏切っちゃわないかな?」
嫌かどうかの問題だろうか? 現実問題として、生徒は餌ではないとあの大男が躾できる未来が見えない。
「……そうかもしれないわね。なら卵の話はせずに、ハグリッドが誰かにフラッフィーの弱点を漏らしたことを、私たちが偶然知ってしまったとだけ先生に話すのはどうかしら」
「それならまあ」
子どもが頷いているが、こちらとしては警備が強化されてしまうのは困る。しかしトロールの時とは異なり、止められるような理由が無い。やむを得ないか。
「じゃあどの先生に話す? スネイプにもし本当に奇跡でも起こって協力者がいるとして、協力者に話しちゃ不味いだろ」
ロンの中では、奇跡でも起きないとスネイプの協力者はこの世に存在しないのだろうか。
「ならマクゴナガル先生か、ダンブルドア先生はどうかしら? マクゴナガル先生は私たちの寮監だし、ダンブルドア先生ならきっと話が早いわ。なにせ石を守っているのはダンブルドア先生でしょうし」
反対する者はいなかった。そのまま三人は城へと引き返しマクゴナガルと老いぼれを探し始めた。……それにしても僕は何をしているのだろう。石を守る? 他の人間に奪われるよりは良いだろうが、自分自身の首を絞めることになっている。
「マクゴナガル先生!」
「ミス・グレンジャー? どうかしましたか?」
駆け回った三人はマクゴナガルを見つけてしまった。なんと仕事熱心なのだろう、休暇中にもかかわらず学校にいるとは。
「その、大事な相談があって……」
「相談ですか?」
「ハグリッドが昨日、村のパブで知らない人にフラッフィーのことを話してしまったみたいなんです」
マクゴナガルの眉が僅かに動き、三人を怪訝そうに見ている。
「フラッフィー?」
「ハグリッドが飼っている三つ頭の犬の名前です。いま大事なものを守っていると聞いています。ただ、音楽を聞かせると眠ってしまうって、その人に教えてしまったらしくて……」
「何故、あなたたちは三つ頭の犬のことを?」
……まあ気にはなるだろう。学校に入って半年ほどにもかかわらず立入禁止の廊下に近づいた可能性があるのだから。
(厨房の肉のことを話しなよ。その肉からルビウスにフラッフィーのことを教えてもらったと)
子どもはこちらの声を聞き、マクゴナガルへどうして知っているのかを説明し始めた。決して嘘ではないし、これであれば立入禁止の廊下に侵入したと決めつけられることもないだろう。
「なるほど……その人物について、ハグリッドは何と?」
「顔は見ていないそうです。フードを被っていて、昨日村のパブでお酒を奢ってもらったと……」
目を見開き、その後何をしているのだと言わんばかりに顔を歪めたマクゴナガルは、絞り出すように続けた。
「……わかりました。この件は私の方でダンブルドア先生に報告しておきましょう。あなたたちはこれ以上、この件に関わらないように。いいですね」
三人は返事をしながら頷いている。……随分とあっさり受け取られてしまったな、それだけ警備に自信があるのだろうか。
◇
イースター休暇が明け、ハーマイオニーは子どもとロンの分まで学習予定表を作りはじめていた。勧めても作ろうとしなかった二人に、ついに痺れを切らしたらしい。
子どもとロンが必死になって勉強をこなしていたある日、ふくろうが大男からの手紙を持ってきた。子どもが開くと、そこにはたった一行だけ、卵がそろそろ孵ると書かれていた。
「まじかよ、見に行こうぜ!」
「駄目よ。薬草学の授業はどうするつもり?」
ロンは必死になって、一生に一度見られるかどうかなのだとハーマイオニーを説得しようとしている。ハーマイオニーには一切響いていなさそうだが。
……おや。
(ねえ、ドラコがこちらを見ているよ。どこまで聞かれたかもわからないが、広められても面倒だ。早く捕まえなよ)
「やあドラコ、ちょうどいいところに!」
子どもがドラコに素早く近づき探りを入れている。子どもの声に、言い合いが大きくなっていたことに気付いたロンとハーマイオニーは無言になってドラコを見つめていた。
「……でさ、今の聞いてた?」
「何のことだ?」
ドラコは少しニヤつきながらとぼけているが、これは確実に聞かれているだろうな。ならばいっそ共犯にしてしまった方がいいだろう。
「卵が孵るとかなんとか?」
(そこまで聞いていたのであれば話は早いね。いっそドラコもこの面倒事に巻き込んでしまったらどうだい?)
子どもはロンとハーマイオニーに目配せし、ドラコに静かに話し始めた。
「そうなんだ。ハグリッドが卵を今孵化させようとしていてね。ちょっと僕ら今面倒なことになってるんだ」
おやまあ。見覚えがあると思ったら、まるでクィレルの時のようじゃないか。今回はロンとハーマイオニーがドラコを包囲するように後ろへ回りこんでいる。
「聞いてたなら話が早いや、ドラコも一緒に見にいかない?」
そこまで聞いてドラコは面倒な気配を感じたらしい。少し首を傾げている。
「……何の卵だ?」
「それは、見ればわかるよ」
穏やかな笑顔を浮かべた子どもは何とも胡散臭い。焚き付けたのはこちらであるが、即座にこうも当事者へと仕立て上げようとするとは。こいつはいったいホグワーツで何を学んでいるのだか。
「それ、絶対ろくでもないものだろ」
「やだなあマルフォイ。僕らが騙すだなんて、そんな人聞きの悪いことなんてするもんか。なあハーマイオニー」
「ええそうねロン。とても珍しいものですもの、きっと一生に何度も見られるものではないわ」
ロンとハーマイオニーに背後から声をかけられ、ドラコは驚いたように肩を跳ねさせた。振り返れば後ろに二人、前には子ども。気付けばすっかり囲まれてしまっている。さぞ嫌だったのだろう、顔を歪めるなりロンへ突っかかっていった。
「そこまで言うなら僕の質問に答えなよ。何の卵だ?」
「まあまあまあ」
「見ればわかるわ」
先ほどの言い合いで聞かれたからこそ、ここで説明しないのはわかる。だが傍からみれば大変不気味である。スリザリン生をグリフィンドール生三人で囲っている面白い状況に、徐々に周囲の生徒の視線を集め始めていた。
(少し注目を集めてしまっているようだよ。とりあえず集合時間と場所だけ決めて解放してあげたらどうだい)
「大丈夫だよドラコ。ロン、ハーマイオニー、薬草学の授業終わりに急いで行ってみようよ。休憩時間中にさ」
「私は授業をさぼらないのなら、何も問題はないわよ」
「さぼったら目立つもんな……仕方ないかあ」
「おい、僕の質問に答える気はないのかポッター?」
子どもは大丈夫だ見ればわかると繰り返し、気になったら一緒に行こうとだけ話して切り上げた。可哀想に、まるで詐欺にでもあったかのように呆然としている。
その後、あれだけもったいぶられたせいで気になってしまったのか、結局ドラコも待ち合わせ場所へと現れ、四人で大男の小屋へ向かうことになった。
「ハグリッド!」
「おおようやく来たか、もうすぐ出てくるぞ! ……なんでマルフォイんとこの子もおるんだ!?」
「聞かれちゃったから」
正しくは聞かれたからこそ連行したのだろうに。大男は納得したのか、それとも卵へ意識が向いているのか、特に何も言わずにそのままドラコも招き入れた。
小屋の中へと入ると、卵はテーブルの上に鎮座しており既に亀裂が入っていた。中で何かが蠢いているのか、コツコツと音がしている。大男は口に人差し指をあてて息を潜めている。
そしてまたひとつ、殻に亀裂が入った。
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