新作ロボゲー『ヴァンガードフレーム』で傭兵生活を始めます 作:ののじん
現実時間、夜7時16分。俺は再びバルディアの街に戻ってきた。
大通りを脇へ外れ裏路地に入る。
ゲーム内時間は朝6時を過ぎ、すでに夜明けを迎えている。
やってないかとも思ったのだが、しっかり営業していた。
これは後に知る話なのだが、このバーは24時間営業らしい。
中に入ると二人の客がいた。
奥のテーブル席で男性客が酔いつぶれて寝ていた。
女性客はカウンター席に座っている。カウンターの上のグラスは空になっていた。
俺は女性客の二つ隣の席に座る。
「マスター、アップルジュースを一つ」
20歳設定なのだから、別に何を飲んでもいいんだけど……
「あら坊や、お酒は飲まないのかしら?」
声をかけてきたのは女性客。美人で色気がある。
「もう少し大人になってから嗜むよ。これから仕事もあるし」
「あらそう。マスター、オブヴァース・プロファイルの30年をストレートで頂戴」
「かしこまりました」
そうだ今のうちにしておかないといけないことがあったんだった。
「マスター、ちょっと電話してもいいかな?」
「ええ構いませんよ」
連絡先一覧を出すとリヴェラを選ぶ。
掛けてから思ったが、この世界の人間ならまだ寝てるか?
切ろうかと思った矢先、電話が繋がった。
『……なんだい? こんな朝早くに。ふあぁ……』
明らかに寝起きだな。まぁ当たり前か。
「ああ、ごめんリヴェラ。聞いておきたいことがあったんだ」
『……いってみな』
「近々雇いたい。いくらかかる?」
『驚いたね、もうあたしを雇いたいって? そうさね、あんたには安くするって言ったし……7000万で勘弁しといてやるよ』
「7000万だな。分かった稼いどく」
『それで相手は何だい?』
「コルヴォ・ファミリーだ」
『ッ!』
俺の言葉に女性客のお姉さんが視線を向けてくる。
『目が覚めたよ、まったく。……まさかUFでやるってんじゃないだろうね?』
「まさか、ちゃんとVFは手に入れた」
『へぇ、この短期間で手に入れたのかい。やるじゃないか』
「メンバーは、俺と俺の友人ディトゥア、そしてもう一人誘おうと思ってる。ワイルドベルのエリンドって傭兵だ」
『エリンドってあのエリンドかい、腑抜けの』
有名なんだな。……悪い意味で。
「ああ多分そいつだ」
『大丈夫なのかい? VF4機でやるんだろう? カバーしきれないよ。足手まといにならないかい?』
「エリンドは後衛だ。比較的安全な地点から火力を提供してもらう。見た感じ当て感と回避能力は良かった。最悪フォーメーションを崩されても放っておいて大丈夫だ。……多分!」
『おいおい、心配になってきたよ……』
「まぁまだやることは沢山ある。まず新しい機体に慣れないとだし、情報収集して、金も稼がないと」
『これは提案だけど、あと4000万追加で出さないかい?』
「内訳は?」
『
戦力は多いに越したことはない。デトも文句は言わないだろう……いや、金策で文句言うか?
「多分大丈夫。払う方向で考えとく。報酬はマフィアがため込んだ金を山分けで考えてるけど、どうだ?」
『乗ってやるよ。準備はしっかりしておくんだね』
「ああ分かった。準備ができたらまた連絡する」
通話を切ると横の女性客が話しかけてきた。
「面白い話をしていたわね」
「ああ気にしないでくれ、ただの
「私はそうは思わなかったわ。コルヴォ・ファミリー、ね」
意味深にほほ笑むと、彼女はグラスを傾ける。
「情報が欲しいんでしょう?」
……この女性何か知ってるのか?
「というと?」
「わたし、バルディアの北にあるカジノ街を取り仕切ってるんだけど――情報も扱ってるの」
取り仕切っちゃってるんだー。この人結構大物じゃないか?
「ワンダーだ。ただの傭兵の」
「あら、自己紹介が遅れちゃったわね、スカーレットよ。スカーレット・ディオス」
「どおりで赤いドレスが似合うわけだ。美人な人を相手にするのは……少し緊張するな」
「ふふ、
「それで情報の対価はいかほどで?」
「まあ待って、焦らないの」
彼女はグラスを置き、シガーケースから細身の葉巻を取り出すと、慣れた手つきでカットする。
「情報料は今回は無くていいわ」
シガーマッチで葉巻に火をつけ、煙をくゆらせる。
「代わりにやって欲しいことがあるの」
なるほど交換条件か。タダと言われなくて少し安心する。タダより高いものはないというし。
「うちで扱ってる商品の護衛よ」
「商品について詳しく聞いても?」
「カジノの客向けに高級品を扱っているの。富裕層や腕の立つ傭兵向けの品よ。商品の内容は依頼を成功させたら教えてあげるわ」
違法なものだったりしないよな……?
「正式な依頼でお願いしてもいいか?」
依頼端末を通す以上それは正規依頼だ。傭兵側の責任はない。
「もちろんよ。指名依頼という事にしておくわ」
「それなら――」
大丈夫、と答えようとしたとき入口の方から声が飛んでくる。
「待たせたな、ワンダー!」
入ってきたのはもちろんデトだ。俺は、店に入る前に先に待ってると連絡していた。
「ようデト。声がデカいぞ、俺以外にも客がいるんだ」
「わりぃわりぃ……うっわぁ、めっさ美人ー」
「あら? あなたは?」
「ああコイツは俺の友人で、今回の作戦のメンバーの一人だ」
「ああ、あなたがディトゥアね」
通話の内容しっかり聞かれてたな。
「は、はい! ディトゥアです。デトって呼んでください」
「デトちゃんね」
デトはさりげなく、俺とスカーレットさんの間に座り、お互いに挨拶を交わしていた。
「マスター、コイツにミルクを」
「かしこまりました」
マスターに声をかけスカーレットさんに向き直る。
「それでスカーレットさん、情報について教えてもらえますか? ちょうどコイツもいますし」
ふぅーっと煙を吐く。葉巻を吸う姿が様になってる。
「分かったわ。まずは、やっぱりボスからかしら。アドリアーノ・コルヴォ。1億2000万の懸賞金が懸けられているわ」
おお! 懸賞金かかってんのか。追加報酬だな。
「みかじめ料の要求に始まり、輸送物資の強奪、禁制品の闇取引、敵対者の不自然な失踪。最後のだけは証拠をうまく隠してるみたいだけど、他があれじゃあね」
「随分あくどいみたいだな」
「ええそうね、ここ数年で力をつけてきたわ。先代は悪党なりに仁義を通す人だったの。けれど子供には甘かったみたいね。……いえ、逆なのかしら? 厳しかったから反発して? どのみち育児には失敗したみたい」
立派な悪党に育ってしまったと。
「アドリアーノの側近、マルコ・ヴェスパリは危険な男よ。抗争の際は切り込み隊長として道を開く。かなり腕が立つようね。9000万の賞金首よ」
「VF乗りとしては一番強そうだな」
「あとは、資金洗浄のダミアーノ・ロッシ。情報工作員のルチア・ベッラーニ。VF部隊指揮官ヴィットリオ・セルヴァ。密輸取引係のエンツォ・カルデラ。この4人も幹部。ヴィットリオ以外はVF乗りじゃないけど、暴れてくれればこっちで処理しておくわ」
こっわー。
「VF乗りの中には3000万前後の賞金首が何人かいるわ。コルヴォ所有のVFに限りがあるから全員は乗らないけど、注意しておいた方がいいわ」
「確か交代で守ってるんだっけ? 何機くらいいるんだ?」
「5機ね、でも、戦闘になればマルコは出てくるでしょうね。彼は専用のVFを持っているから。アドリアーノも乗るでしょうけど、彼は戦闘はしないわ。機体を動かすだけで精一杯のはずよ」
「実質6機か……2機差、埋められるか? ワンダー?」
「おいエリンドが入ってないぞ?」
「あーいっけねー、わすれてたー」
「棒読みがひどすぎる。まあどのくらい戦力になるかまだつかめてないから不安ではあるけど。やればできる子だと思うぞ俺は」
「アドリアーノはメンツを口実に逃げはしないでしょうね。ヘタレで腰抜けだから1人で逃げることもできないだけなんだけど」
エリンドに負けず劣らずか……
しかしそんな奴がボスなのか。マフィアのボスという地位を手に入れたせいで人として腐ってしまったのだろうか? 子供にまで金をせびるとは許せん、成敗してくれる。
「UFもいるのか?」
「11機いるわね。でも7機は運搬用よ、残りの警備しているUFも最低限の装備しかしてないから戦力としてはそこまで脅威にはならないと思うわ」
「最低限の装備か……とはいえ先につぶしておいた方がいいな」
「襲撃する前に傭兵会館に話を通しておいた方がいいと思うわ。密輸品や違法なものは持っていかれるけど合法資産は貰えるはずよ。全財産は貰えない代わりに立場が保証されるの。そして功績として評価されるわ」
なるほど、傭兵会館を通さない場合、正規の傭兵活動として認められない可能性があるのか。敵を作りすぎたり、グレーな傭兵という扱いになったりするのかもしれない。
「そうするよ」
「お利口ね、依頼端末にない依頼や自主的な案件なんかは傭兵会館に話を通すのが賢いやり方よ」
「勉強になる」
「コルヴォの屋敷は北西側の郊外にあるわ。そこからそう遠くないところに今は使われていない貨物集積場があるの。管理棟を建て直して立派な本部にしているんだけど、普段そこで強奪した物資の仕分けや取引相手との受け渡し、幹部会議なんかをしているわ」
「アドリアーノもいるのか?」
「毎日いるわけではないけど、幹部会議、大口の取引、重要な荷物の受け渡しがある日はいると思うわ。これ私の通信ID。アドリアーノが来る日を調べておくから。ああ、私がおびき寄せるのもありかしら? 準備ができたら掛けてちょうだい」
「助かるよ」
「特別サービスよ。貸し一つね」
情報屋を敵に回したくはないし早めに返したいところだな。
「分かった。犯罪にならない範囲なら出来る限りのことはやろう」
「ふふ、安心してちょうだい。私も黒い仕事は嫌いなの」
そう言うと再び葉巻を口に持っていく。
聞いておきたいことは聞けたな。
「情報ありがとう、こっちの準備も早めに取り組むよ」
「頑張って頂戴ね」
スカーレットさんの相手をデトに任せてもう一人の傭兵に電話をかけることにした。
相手はもちろんエリンドだ。
コールするけど、なかなか出ない。さすがに朝早いからな。
その時、奥のテーブルに突っ伏していた男がむくりと起き上がる。
そして男は言葉を発した。
「こちら……えりんどです」
「お前がエリンドかよ!?」