新作ロボゲー『ヴァンガードフレーム』で傭兵生活を始めます 作:ののじん
『うぁあああ!』
『助け――』
ワンダーの無線に敵機のパイロットの悲鳴が流れてくる。
「今ので最後だな」
戦闘が終わるとデトが近づいてきた。
『大分キツかったなワンダー』
「ああ。デト、そっちはHPどのくらいだ?」
『1割切ってる。しかも左腕壊れた』
「俺も似たようなもんだ。しかし、ギリギリだったな」
『指揮官が優秀だったよな』
「ああ、先に落とせなかったのが今回苦労した要因だろうな」
指揮官の立ち回りもうまかった。部隊をうまく回していたし、なにより戦闘技術が高かった。
敵UFの数が少なかったのは僥倖だった。
土曜日、つまり昨日は、UF向けミッションで稼いでいたが、VF向けミッションの報酬がウマウマでウハウハだから、今後は少し無理してでもVFミッションを受けることになるだろう。そっちの方が面白いし。
とはいえ、UFではVF向けのミッションでも下の方の難易度しかクリアできそうにないが。
まあUF
『金が貯まったな。買いに行こうぜ、VF!』
傭兵プロフィールを開いて稼いだ金額を確認する。
――1億5850万。
うっひょー。貯めた貯めた。
ついに自分のVFを手に入れる時が来たか!
俺たちはルンルン気分でバルディアへ向かう。
現実の時刻は4時半を少し過ぎた頃だ。
ゲーム内ではすでに月がてっぺん付近まで昇っていた。
UFをドックに戻し、二人並んで商業区の方に足を向ける。
やがて通りに出る。
街は真夜中なのに非常に活気にあふれてる。
上品な店はここでは見ない。
声が飛び交い、店先で傭兵達が談義している。
BARや食堂からは笑い声が聞こえてくる。
そんな喧騒が通りの奥まで続いている。
「VF関連のショップはまだ先だ」
デトはあらかじめ調べていたらしく、先導してくれる。
「どうする、車拾うか?」
「いや、この街を楽しむのもいいだろう? 歩いていこうぜ」
俺が聞くとデトが答える。
まあ確かに何事も楽しまないとな。
デトの提案に乗り、雑談しながら歩くことにした。
「お前なんの武器使うんだ?」
デトの言葉に少し考える。
「武器か……VFを買うことでいっぱいで、まったく考えてなかったな」
「考えとけよ」
「VFを見てから考えることにした。まずはVFだ」
「ま、確かに大事だな。だけど、あとから全換装できるし、好きなの選んだらいいと思うけどな俺は」
「そうだな。でも、見た目もモチベーションの一環だからな」
「お前はそうだろうな」
「ケッ、性能厨メ」
「いやいやいや、大事だろうが、特に序盤から終盤は」
「ずっとじゃねぇか」
「いいだろ? 俺は序盤から少しでも強くありたいんだ」
「もっと機体を愛せよな」
「愛なんて連れ添っている間に芽生えるんだよ」
クッソ腹立つことに一理ある。
(こいつ、ゆっくり愛を育むつもりかよ、ぷ、似合わねぇ」
「オイ漏れてるぞ、心の声が」
「ふ、失敬失敬……ぷふっ」
「お前マジでぶっ飛ばすぞ」
そんなやりとりをしていると、風景が変わってきた。
「おお! すっげー。見ろよあれ、VFの上半身が吊られてるぞ」
店というか工場とか工房みたいな感じでどこも似たような造りをしている。
VFを扱ってるだけあって、一棟ごとの建物が半端なくデカいな。
「どこから行く?」
「じゃあじゃあ、行きたいところがあるんだが、先に行ってもいいか」
「まあ、別にいいけど」
俺の言葉を聞くなり歩き出す。
「そら、レッツらゴー」
あらかじめ調べていたのだろう。迷いのない足取りで目的地へ向かう。
着いたのは大通りの一角にひときわ大きな店。かなりいい立地だ。名前はファング・フォージか。
「この店に来たかったのか」
「おうよ、ここは
「ほかの店では買えないのか?」
「買えはするらしいんだけど、使えないパーツ買っちゃうかもしれないだろ?」
「あーなるほど」
コイツなら確かに間違えそうだな。バカな男よ。フッフッフ。
「何含み笑いしてんだよ」
「まさに専門店か、
「あー、あるんじゃね」
適当かよ。コイツは当てにならなさそうだな。自分が行く店しか調べてないのだろう。
「さ、入ろうぜ」
俺はデトの言葉に促され店の中へ入っていく。
まず、VFがずらりと並んでいるのが目に入る。
「圧巻だな」
「うおぉおお、よしまず一体ずつ見ていこうぜ! どれがいいかな」
VFの前に端末があり、展示されているVFのスペックを見ることができるようだ。
デトが食い入るように見ていると、がっしりしたフェルガの男性が近づいてくる。
男はつなぎを半端に着ており、上半身の部分を腰で結び留めていた。
喰い殺されるのではないかと思う程強面の男であった。
「同胞よ、何を探してる?」
男がデトに話しかける。
「お、おう、VFを探してるんだ、でございます」
コイツ気圧されてやがる。
「そう固くなるな、俺はこの店の者だ。どんなVFがいいか相談に乗るぞ」
「じゃ、じゃあよろしく……」
デトが恐る恐る答える。
「そちらは友人か? ここはフェルガ専門の店だ。アミニス向けの性能ではないが、何か見てみるか?」
「そうだな、ちょっとだけ見てみたい。でもアミニスっていろんなパーツ付けられるんじゃないのか?」
「アミニスに限らず、コアユニット以外はつけることが可能だ。コアユニットは各種族特有の技術が使われている。技術流出を警戒している面はあるが、それよりも身体的特徴に合わせた入力方式が違う」
「入力方式?」
「そうだ、アミニスでは神経接続の技術を使うが、フェルガは身体のモーションを読み取る」
へぇ、ほかの種族の入力方式もちょっと気になるかも。
「頭や視線の向きや姿勢、両手の動き、重心移動など微細な動きを読み取りフェルガの身体能力を最大限活かしている」
うーん野性的というか獣人らしいな。
「ここではフェルガのコアユニットに合わせたパーツを多く取り扱っている。アミニスでも使えるパーツはあるが性能を十分に引き出せないものも多い」
まあフェルガ専門店だからな。
「逆に使えそうなのは?」
「武器類は使えるものも多いだろう。案内をつけよう」
「じゃあお願いしようかな」
別の店員に案内され、武器を見せてもらう。デトは引き続き先ほどの店員とVFを見ている。
「剣、刀、ハンマー、ランス、ここだけファンタジーだな」
さすが近接のスペシャリスト、近接武器の種類が豊富だ。
デトが言うには近接武器はフェルガが使う方が強いらしい。
銃器も、サブマシンガンやショットガン、ハンドガン等、接近戦を意識したものばかりだ。
しばらく待つと、デトが戻ってきた。
「ぐふ、ぐふふふ」
キモ。
「……キモ」
「おい、なんで口に出した? 明らかに間があったろうが。飲み込んでおけよ」
「で、決めたのか?」
「ああ、バッチリだ」
「どういう構成だ」
「長所を伸ばす方向にした。近距離では無類の強さを発揮するタイプだ。ブースターユニットをいいのに変えた」
「武器は?」
「大型のブレードにした」
「ふーん……え、それだけ?」
「いや、予算的に一本が限界だって」
あー、武器も高いのか。
ピンキリではあるだろうが、両手、両肩のフル装備だとかなりかかりそうだ。
「武器代追加で稼がないとなぁ」
「フッフッフッ。案ずるな、いい店をおさえてある」
デトが、小芝居がかった口調でそんなことを言う。
「いい店ってなんだよ」
「行ってからのお楽しみだ。さあ行くぞ」
「待った待った、俺のVFが先だろ?」
そのまま次の店に行こうとするデトを止める。
「あー、いや忘れてたわけじゃないぜ」
「いや、100%忘れてただろ」
「いーやそこまで忘れてないね! ……98%だ」
「変わんねーよッ!」
「でも俺、アミニスの店なんて知らねぇぞ?」
「ああ、そんな気がしてたからさっき店員に聞いてきた」
店員からノーヴァ・ヤードというアミニス専門店と大手総合VFメーカー、アークレム・ダイナミクスの直営店の二店舗を教えてもらった。
ノーヴァ・ヤードは各メーカーのパーツで自由に機体を組めるらしい。
一方、アークレム・ダイナミクスの方は自社製品のパーツを使っているが代わりに他より安く買えるとの事だった。
今は少しでも安く買いたい。あくまでベースだ。細かい所はあとから変えればいいし。
そんな考えをデトに話しながらアークレム・ダイナミクスの直営店に向かって歩いていくと目的地にはすぐに着いた。
「いらっしゃいませぇ!♡」
「うおッ!」
店に入るなりいきなり声をかけられた。
入り口に待機してたであろう店員が、ぬるりとした動きで近づいて来た。
「あらボウヤ、かわいらしい顔してるわねぇ♡ 本日はどのような御用なの?♡」
「VFを買いに来たんだ、でありんす!?」
動揺してへんな喋りになった。デトよりひどい。隣でデトが噴き出してるのが腹立つ。
女性らしいしゃべり方で話す店員の見た目は男性だった。
低い声で、青髭をこさえてバリバリに濃い漢らしい顔をしているのだが……フェルガの強面店員とは違った圧がある。
「若いのに稼いでるなんて、素敵だわ♡ 腕がいいのね」
無意識に距離を取る。
「ごめんなさい、ほかの店員さんがいいです」
「あら、オカマは嫌い?」
「……ぐいぐい来られるのは苦手です」
「じゃあ気を付けるわ。でも、ここではあたしが一番詳しいの、怖がらずついてらっしゃい」
うーん、詳しいのか……うーん……まあ気を付けてもらえるならいいか。
おとなしく店員の後ろをついていく。
「あたし、ドミニクっていうの、よろしくね☆」
「ワンダーだ」
「VFを買うのは初めて?」
「あ、はい」
「どんなVFがいいのかしらん?」
「とりあえず中量機体がいいな。突出した性能より総合力が高い機体がいい」
「あら、その若さで堅実ね、もう少し無鉄砲でもいいんじゃないかしら?」
「ああ忘れてた、見た目のいい奴がいい」
「そっちのロマンを取るのね、ふふ、男の子ね。分かったわ」
展示されてるいくつかのVFの横を通りすぎ、中量機が並ぶ一角に案内された。
「貴方の希望に合うのはこのあたりよん。ただ派手なのはあまりないわ」
「おぉおおお」
並んだ中量機はどれも俺好みでカッコよかった。
流線形のフォルムをしてるものや、戦車の様な爆発反応装甲*1をつけたものなど、このアークレムのVFはミリタリー色が強い。
「ここにあるのは初めての人向けなの。うちのハイエンドモデルなんかは桁が一つ違うわ」
「この中でスペックが高いのはどれになる?」
「高性能モデルはこちらよ。でもお値段重量級なのよねぇ」
端末でスペックと値段を見たが2億ちょっとだった。完全に予算オーバーだ。
「うーん、そこまでの物は買えそうにないな。1億3000万までのモデルはあるか」
「なら、こちらなんてどうかしら」
スペックは悪くないのだが……見た目が好みではないなぁ。
正面から見てもパッとしない。
値段を抑えながらも性能だけを求めた結果とかだろうか?
「ん-……ん?」
ふと横の機体を見ると今日一かっこいい見た目のVFがあった。
現代兵器を人型にしたような見た目で、角張りすぎていない。
特に気に入ったのは胸部だ。角張りすぎず、前後に長すぎない丸みのあるノーズをしていた。
だが受ける印象は堅実で実用本位の軍用機らしさがあった。
「こっちの機体はなんだ?」
「あら、これが好み? この機体はハイエンド機を元に開発された軍用の量産機なのよ」
スペックを見ると、確かに尖った性能はないけども高い水準でまとまっている。
量産品らしく扱いやすい初心者向けの機体のようだ。1億2800万と値段もお手頃だ。
「これがいい」
性能が足りないって感じたならお金をためて高性能なパーツに切り替えればいいだろう。
「では手続きに、あら?」
一人の店員が近づいてくる。
「ドミニク様、試作頭部の件なのですが」
様呼びされてるが偉いのかな? それよりも試作頭部とはなんだろうか?
「今お客様の対応中よ、後にして頂戴」
「も、申し訳ありません」
「試作頭部ってなんだ?」
思わず聞くとドミニクが教えてくれる。
「試験的に開発された頭部パーツなんだけど、次世代の高機能観測・照準用頭部をコンセプトとして、手動精密照準モードを搭載し、敵機識別拡張、マルチスペクトル観測の二つの戦術機構を埋め込んだものなの」
いろいろ分からない単語が飛び出してきたな。手動精密照準はなんとなく分かるけどほかの二つが分からない。
「それぞれの機能が良く分からないな」
「手動精密照準は
かなり難しそうな性能だな。モードというからには切り替えができるのだろうが戦闘中に頻繁に切り替えて使うのは難しいだろう。
「敵機識別拡張はかなり補助的な戦術機構よ。対象のパイロット名と機体名、功績や悪名を示す傭兵タグなんかが分かるわ。でも、戦闘に直接貢献はしないから不人気寄りなの。だけど戦術機構負荷が少なくて無理なくつけることができたの。いわばおまけね」
ああ、あれば便利って感じか。危なそうなやつか判断できるのは地味に助かる機能だと俺は思う。
「マルチスペクトル観測はこのパーツで一番の目玉よ。可視光、暗視、熱源、電磁反応の複数のセンサー情報を使って周囲を見る機能なの」
「え? じゃあ、通常視点だけじゃなくてナイトビジョンとかサーマルビジョンが使えるってこと?」
「ええ、そういう事。残りの電磁反応は補助的なものよ。中ぐらいの性能までの光学迷彩なんかは見分けがつくわ」
めちゃくちゃ便利だし、何よりかっこいい!
「戦術機構はボディに搭載する戦術機構モジュールによって戦術機構容量が決まってるのだけど、この二つの戦術機構は頭部に搭載してるから戦術機構容量を一切圧迫しないのよ!」
なるほどそれこそこのパーツの売りなのだろう。
「だけど需要があまりないの、マルチスペクトルはまだしも、手動モードは使いにくいし、識別拡張は人気ないし、何より高額なのよね」
「いくらするんだ?」
「3000万よ。エントリーモデルの頭部パーツなんて600万前後じゃない? 高性能モデルでも2000万しないわ。同じ戦術機構が欲しいならボディの方に積む方が安上がりなのよね。まぁ、実験的な側面が強くて、試しに1基だけ作ってみたってところかしら」
「……それって見ることできるか?」
「あら興味あるの? できるわ、こっちよ」
ショールームを出て倉庫に案内される。
頭部パーツは防塵シートがかぶされて保管されていた。
ドミニクがシートを取り払うと、俺は息をのんだ。
頭部の装甲に隠れるように、大きな単眼と左右やや下に小さな複眼センサーが三角形を描くように備わっている。
どことなく猛禽類を思わせる見た目をしている。
一瞬で目を奪われた。思わずぼそりと「かっこいい」と漏れる。
しばらく見惚れていた俺は声を上げる。
「これ買います!」