新作ロボゲー『ヴァンガードフレーム』で傭兵生活を始めます 作:ののじん
店を出た俺はにっこにこだった。
めちゃくちゃかっこいい頭部パーツを組み込んだVFを買うことが出来たからだ。
量産機なのに頭を変えたことで専用機みたいになった。
しかし同時に懐が寂しくなってしまった。後悔はしてないけど。
本体価格1億2800万Crから540万の頭部パーツを抜いて3000万の試作頭部に換装した。お値段締めて1億5260万Crだ。
残ったお金は590万Cr……
「武器買う金まで消えてしまった」
「大丈夫だって、今から行く店で一個くらい武器買えるって」
「でもこの手持ちで買えるのジャンク品なんだろ?」
「ないよりマシだろ?」
「うーん、ジャンク品がどのくらいか分からないと何とも言えないだろ? 素直に金貯めた方がいいかもだし」
「まあな、でもとりあえず行ってみようぜ」
商業区の北西端に向かっているのだが、だんだん治安が悪くなってきたな。
浮浪者が物陰で座っていたり、ガラの悪そうな連中がたむろしていたり。そこいらで罵声が飛び交い、中には殴り合いをしている者もいる。
「おい、こっちで合ってんのか?」
「そのはずなんだが……お? あれじゃね?」
デトの声に反応して通りの先を見ると大きな看板が見えた。今にも落ちそうにぶら下がっている。
看板にはレックピッカーと書いてあった。
と、そこで、裏路地につながる小道から少年少女の二人組が飛び出してきた。
看板に気を取られていたせいで反応が遅れる。とっさに避けようとしたが……こっちに突っ込んできた? ぶつかるようにしてすれ違う。
避けきれなかった? 子供が通れるくらいには避けたはずだ。
いやな予想が頭をよぎる。俺は数歩歩いたところで立ち止まる。
「ん、どしたー?」
デトの言葉を無視してその場で傭兵プロフィールを確認した。
所持金がいつの間にか0Crになっていた。そしてプロフィール画面を閉じると同時にイベントミッション《スリを追え》がHUDに表示される。
「クッソォ……」
「どうしたんだよ?」
「スリだ……」
「え?」
「だから! スられたんだよ! ぶつかったガキに!」
「スリ? え、何お前スられたの? ぶっはっは……ん?」
嘲笑したデトが不自然に止まる。
聞かなくてもわかる。相手は二人組でデトもしっかりぶつかっていた。
「……ッ!……やがった……あいつら、スリやがったぁあああ! オ、オレの!! 2000万クレジットがぁああああ!!!」
土曜日は俺より長くヴァンフレにインしていたからだろう、随分と貯めていたらしい。まだ2000万残っていたとは、俺よりスられた額が高いので、俺は落ち着きを取り戻した。このことはあとで煽ることにしてひとまずは。
「おい、戻るぞ」
「ああ! 分かってる! 絶対泣かせてやるッ!」
子供の足だ、まだ遠くまで行っていないだろう。
少年少女が飛び出してきた小道まで戻る。
スリを働いたら少しでも早く身を隠したいだろう。走り去っていった先で一番近い脇道は……
「こっちだデト」
「こういう時は頼りになるぜ、うぉおおお! どこだぁあああ!」
路地を抜けるとT字路に出る。
左右の通路を見ると左の道に走る二人の影があった。
「いたぞ!」
「待てぇい! 逃げるなぁ! 金返せぇえええ!」
デトの本気の叫びがウケる。
だが他人ごとではない。デトよりも少額とはいえ、俺も盗られているからな。
「通信をつなげ。デト、回り込め。東に誘導する」
「了解!」
元気よく返事したデトが分かれ道を曲がる。
ミニマップを見ながら、スリの子供たちが通りそうなルートを考える。
見失わないようにしながら、誘導する。西側に回り追い詰めていくのだが、逃げ慣れている。
逃走ルート上の子供しか通れないところをうまく使っている。単純なスピードは負けていないのだが、こちらの足を止めてくる。
でも、こちらも負けてはいない。ミニマップを見るとデトがいいポジションにいる。
「デト、二つ先を左に曲がれ。挟み撃ちだ」
『わかった!』
俺の方をチラチラ見ながら走っていたので反応が遅れたのだろう。
「やぁっとつかまえたぞぉ、ガキども。盗ったもんだせよ」
デトが二人を確保した。
HUDが更新され、二人を尋問しろと出てきた。
「放せよッ! 何も取ってねぇよ」
「嘘つけ、じゃ何で逃げたんだよ」
デトが問いかけると威勢のいい返事が飛んでくる。
「大人が追っかけてきたら逃げるだろうが」
言い逃れしているがぶつかってきたのはこいつらで間違いない。
「俺らに接触したのはお前らしかいないんだよ」
「証拠出せよ、俺らがとったって証拠をさ」
ずいぶん強気だな。
ああ、盗んだ金、逃走中に隠したなこいつら。
デトが二人の体を調べ始めるが、案の定金は見つからなかった。
「満足したかよ」
こいつら懲りてないな……一芝居うつか。
「よし、デト、女の方連れてけ。人身売買で一儲けしよう」
「ッ!?」
俺の言葉に男の子の方が反応する。
「……お前、鬼畜かよ。でも、仕方ないか。やったことの責任は取ってもらわないとな」
デトは俺の狙いに気づいているだろう。一応乗ってくれたしな。
「ま、待てよ! 妹は関係ないだろ」
「いやいや……共犯だろ?」
「ひッ」
女の子が悲鳴を上げる。ちょっと後悔してきたな。
まぁでも、脅しが効いてるうちに畳みかけていこう。
「犯罪を犯すってんなら、俺ァ、ガキでも容赦しねぇ」
ドスを効かせてしゃべる。
「嫌なら金のありかをしゃべるんだな。今ならまだ、許してやるよ」
デトがいい感じにフォローしてくれた。上手い具合に飴と鞭になったんじゃなかろうか?
「……分かったよ。金のありかを言うよ。その代わり妹は助けてくれ!」
「分かった分かった、じゃあ、案内しろ」
手慣れた感じを見るに、こいつら初犯じゃない。少し問い詰めないとな。
やがて金を隠した地点に着く。
小道の影にデバイスのようなものがあった。
逃げる時に投げたのだろう、雑に落ちている。
「これが俺らの金か?」
「……ハッキング装置なんだ。かなり近づかないとスれないけど性能はいい」
最近のスリはハッキングをしてくるらしい。
この世界では現金を持ち歩く人はほとんどいない。財布もデータチップのような感じになっている。だからハッキングなんだろう。
少年が装置をいじった後、俺たちの財布に重ねるとお金が戻ってきた。
無事にイベントミッションをクリアできた。
今回の事は勉強代になったかもな。まあ自分の金取り戻しただけなんだけどな。
「お前らこれまでも、散々スってきたろ? かなり稼いでるはずだ。その金はどうしてる?」
「……俺たちの金までとるのか?」
「ばーか、俺は自分の金が戻ればそれでいいんだよ。……なんでこんなことを続けてる?」
「……金が必要なんだ。スった金から決められた額をここいらの元締めに渡してる。ノルマがあるんだ」
「だが残りはお前たちの物だろう?」
「母さんが病気なんだ。延命するのにも金が要る。治すにはもっと金が要る」
「父親は?」
「いない。俺たちを捨てて出ていった」
「なるほどな」
しかし、これ以上スリを続けるのはこいつらのためにもならない。
「治療費はいくらだ?」
デトが兄妹に尋ねる。
「2億って言ってた」
元締めってやつはぶっ飛ばせばいい、母親の方は……
「情状酌量の余地あり、か」
デトがそうつぶやくと俺に声をかけてくる。
「なぁワンダー」
「分かってる」
助けろってんだろ?
「オイ、ガキども名前を教えろ」
「俺、エリオ」
「……ティナ」
「歳は?」
「15」
「14歳」
「分かったエリオ、手伝ってやる」
「え?」
「俺たちがその元締めってやつをぶっ飛ばしてやる」
エリオが俺の言葉に歩みを止める。
「無理だ! あいつらVF乗りのマフィアなんだ。交代でアジトを守ってる!」
あいつらねぇ……
「そうだな、準備はいるだろうな」
どれくらいいるか分からないけどVFが複数機となると俺たち2機だけじゃちょっときついかもな。援軍を呼ぶか。
「任せとけ、ガキんちょども。俺らの腕を舐めんなよ?」
「ただし条件がある」
「何だよ、条件って」
「これ以降スリからは足を洗え。まっとうな仕事をしろ」
「なんの仕事をやればいいか分からねぇよ……」
まぁ確かに、これで生きてきたわけだからな。
「俺にいい案がある!」
デトが急にそんなことを言い出した。
「いい案ってなんだよ?」
エリオより先に俺が問い返していた。
「エリオ、お前傭兵になれ」
「ばっかお前、コイツまだ子供だろうが」
「ここでは15歳は成人だ。そして成人なら傭兵になれる」
突飛なことを言い出したが、どうなんだ? エリオにやれるか?
……僚機やほかのUFが付くようなミッションなら、いける、か。
俺たちが鍛えるってのもありだな。
「まぁ、いっか。エリオ……お前が決めろ、お前がUF乗りになるなら鍛えてやるし、俺とコイツで2億Cr作ってやる、出世払いでいい」
「俺も!?」
「お前が助けるって言い出したんだろうが。責任持てよ」
正確には言ってないけど。
「ここで決めなくていい。俺たちがその元締めってやつぶっ飛ばしてからでいいさ」
「……考えとく」
「なあ、その組織の名前分かるか?」
「……コルヴォ・ファミリー。バルディア北西部の外れにある、今は使われてない貨物集積場を根城にしてるよ」
とりあえず今後の敵が決まったな。
まずはマフィアぶっ潰すってことで。
っとその前にやることがあるんだがな。