227番目の宇宙   作:elebie

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「シャーレの、先生…聞いたことがない。」

「そう、だろうね…私は…」

自己紹介をするのは数年ぶりだが、こんな形でするなんて…

ーー昔の思い出、そう、先生になりたての頃の記憶が蘇るーー

「こんにちは。そして、初めまして。私は、シャーレの先生だよ。」

「シャーレの、先生…」

ドドドッと銃声が鳴り響く

「うわぁ!こんなときに…!」
「先生、下がってください!」

「待って。」

「な、何してるんですか先生!銃弾1発で致命傷なんでしょう!?」

「私に、指揮をさせてほしい。」

「え!?…かなり心配ですが、先生がそこまで言うなら、お願いします!」

シャーレに赴任してきた日のことは鮮明に覚えている。映画でしか見たことがない銃器はとても怖かった。自分が死と隣り合わせにいるのがわかった。でも、生徒達が初めて会う自分のことを、怪訝な顔をしながらも先生と呼んでくれた時、認めてもらえたような気がして、命をかけて生徒達を守ろうと思った。恐れることはなかった。

「アロナ。今日もありがとう。おかげで助かったよ。」

「もう、先生は無茶しすぎですよっ!!まったく、私がいなければ先生は今頃穴だらけです。」

「ごめんね、アロナ。でも、生徒からの信頼って、簡単に勝ち取れるものじゃないと思うんだ。だから、身を張るべき場面では引きたくない。」

「先生、またそんなこといってぇ…毎回緊張しながら見ているアロナちゃんのことも少しは考えてください。」

「ははっ。肝に銘じておくね。」

ーー危機的な場面もたくさんあったが、私には私を守ってくれる唯一無二のパートナーがいた。だから、何でもできるような気がした。あの時は。ーー


「な、何泣いてるの。傷つけたなら悪いけど、それより早く説明してほしい。」

「…ごめん。…ごめん。最初に言った通り、私はシャーレの先生。今の私に先生を名乗る資格はないかもしれないが、それでも、聞いてくれるのなら、昔の話になるけど、いいかい。」

「…聞くよ。だって私たちにはもう、何もすることがないんだから。」

君の言葉一つ一つが私を刺す。私を見る視線は痛々しいが、私には真実をありのままに話し、君達を導く義務がある。その道のりは辛いものだろうが、必ずやり遂げなければならない。だって私は

君達の先生なのだから。


太陽

小さい頃から、私は先生になりたかった。

 

「今科学者達がやっていることは、この世の真理の最後のピースの形を探ってるようなものなんだぞ!!凄いよなぁ!あ、そうだ。昨日のニュースを見てもらおう。」

 

ウィーン

 

アナウンサーの淡々とした声が聞こえる。

 

「現在科学探索部は総員をあげて光速操作テクノロジーに挑んでいます。この、人類最後の試練と呼ばれている光速操作。これについて、教授、解説をお願いします。」

 

「えー、今まで光速は不変のものだと考えられていたんです。この考えは、元を辿れば太古から研究されてきた相対性理論というものに帰依するのですが、これは時速30万kmという光速を全ての評価基準にする考え方です。実際起きている現象を説明するのに非常に有効で万能だと考えられていたのですが、近年宇宙探査が深化するにつれ説明できないことが出てきてしまった。だから、絶対光速という概念を見直す必要が出てきたんですね。」

 

「なるほど。ちなみに、もし仮に光速が動くものだとわかり、それを人為的に操作できるとなったら、どのような利点があるでしょうか。」

 

「そうですね。今の所あまり現実味はありませんが、移動技術は確実に向上するでしょう。ほとんど瞬間移動に近づけると思います。他には、今よりも遥か簡単にタイムスリップができるようになると思います。まぁ、まだ空想の域は超えませんがね。」

 

ウィーン

 

「聞いたか、聞いたか!?凄いなぁ。凄いなぁ。先生、人類に生まれてよかったよ。」

 

教室は笑い声に包まれる。みんな先生のことが好きだった。先生のよく語る最先端技術の話は何を言っているのかちんぷんかんぷんだったが、誇らしそうに、自慢そうにそれを語る先生の姿は見ていて楽しかった。私も、もちろん例外ではなかった。

 

そして、いつしかこんな人になりたいという思いが募っていった。その先生のような活き活きとした性格になれるとは思わなかったが、その背中は憧れだった。

 

「さっきの話、面白かったねぇ!」

 

突如後ろから元気な声で言われ、驚く。

 

「うわぁぁ、アロナ!?何も言わずに近づいて大声で喋りだすのやめてって言ってるよね!?でも、あの話、理解できたの?」

 

「え、逆に難しいところ、あった?」

 

「いやいや、光の速度が変わるからって、なんで瞬間移動できるのか想像もつかないし、そもそもさ、光って速度変わるよね?水の中、真空中、空気中とかで。」

 

アロナは馬鹿にするように俺を見て、

 

「あ~あ、そんなんじゃ、先生になる前に教員試験に合格できないよぉ。」

 

「うるさいっ!文系の先生になるからいいんだよ!」

 

「えへへっ文系教科でも私に勝てないのにぃ?」

 

「このっ…!事実だけどっ…!」

 

この、非常にムカつく性格をしているのに異常に頭がいいのはアロナ。幼馴染で、クラスメートだ。

 

「ねぇ、君が先生になったら、私を秘書にしてね。」

 

「秘書?なんだよ先生の秘書って…」

 

「だって、仮に何かの間違いが起きて君が先生になれたとするじゃん、でも、きっと説明も理論も下手すぎて、生徒に笑われちゃうよ?」

 

「うーむ…それは今から頑張るんだ…」

 

あながち否定できないところが悔しい。

 

「でも、アロナは俺なんかに構わずに、もっと高いレベルに行くべきだろ。その才能を活かして、例えばちょうど今話題の光速の研究班みたいに。」

 

「光速ねぇ、でもあれ、もう研究者達は多分ほとんどわかってるんだよね。」

 

「え、そうなの!?でも提唱と研究はついこの間始まったばかりじゃなかったっけ。」

 

「そうだけど多分、基本的な理論はもう出来上がってて、あとはそれが正しいか無数にチェックを繰り返してる段階だよ。今夜発表があってもおかしくはないよ。」

 

「なんでそんなこと知って…」

 

「推測。」

 

アロナは説明に時間がかかりそうだと、俺の知能を鑑みてかすぐ「推測。」と言う。癪に障るが、「推測」が外れたことがないので何も言い返せない。

 

「ねぇ、私ちょっと怖いんだ。仮にそれが発表されたら、人はどうなっちゃうのか。こればかりは推測できない。」

 

「ん?技術が進んで嬉しいだけじゃないの?」

 

「技術進歩がもたらすものは生活水準の上昇だけではないよ。歴史、得意でしょ?」

 

「そうだけど…」

 

「じゃあ、宿題ね。宇宙最大の謎の一つに、なぜその痕跡はあるのに、人類は結局人類以上に進んだ文明と接触しなかったのか、っていう謎があるんだ。考えてみてよ。じゃあねっ!」

 

「えっあっうん、じゃあね!」

 

アロナは家の方に駆け出して行く。

 

にしても、最後の宿題…なんなんだろうな。偶然で片付けてもいいと思うけどなぁ。

 

 

その夜、彼女の推測がまた当たっていたのだと知った。

「臨時ニュースをお伝えします。臨時ニュースをお伝えします。今日の午後8時、連邦科学探索班の班長から、光の速度とその体系に関する論文が提出されました。それによると、光分野の研究は完成し、またこれによって他の分野の諸難題も解決する見通しが発表されました。繰り返します。今日…」

 

「アロナは何でも知ってるのか…?」

 

驚きはしなかったが、彼女の凄さを改めて実感する。

しかし、それよりも気になることがある。

 

「こんなニュース…明日の先生の授業絶対面白いじゃん!」

 

興奮のあまり挙動不審になっている先生の姿が容易に想像できる。何が聞けるんだろうか。まぁおそらく理論の理解はできないと思うが、聞いてるだけで楽しい、それが先生の授業だった。

 

その日はテレビを消して早めに寝た。

 

朝になって起きて、いつものように登校した。

 

「みんな、昨日のニュース、聞いたか。聞いてない人は家に帰ったら見とくんだぞ。じゃあ、今日の授業を始める。」

 

あれ?と思ったが、先生は何も言わずに淡々と授業を始めた。

その日の先生の授業は信じられないくらいつまらなかった。

 

「アロナ、今日なんか先生おかしくないか?」

 

「…」

 

アロナは黙っている。今まで見たことのない不安が彼女の瞳にある気がした。

 

「アロナ~?」

 

「昨日の宿題、考えてきてくれた?」

 

「え、あぁ、うん。だけど、可能性はいっぱいあると思うんだよ。ほら、戦争で相打ちになったり、強いウイルスが流行ったり…」

 

「きっともうすぐ、わかるよ。」

 

「え、えぇ?そうなの?なん」

 

俺が話してる途中で、アロナは口を開いた。あぁ、きっとまた、推測って言うんだろうな、と思った。しかし、そうではなかった。

 

「ごめんね…これは、誰かが止められる問題じゃない…」

 

アロナは涙を浮かべていた。

 

次の日、例の論文を書いた研究者が死んでいるのが発見された。大規模な捜査が行われたが、真相は正真正銘に自殺だった。机の上に、『あと3日もすればこの世界の仕組みで分からないことは無くなる』と書いてある紙があった。偉業を成し遂げたことで達成感に包まれて、もうやり残したことはないと思って死んだんだろうと報道され、大規模な葬式が開かれた。

 

その紙に書かれていたことは本当だった。3日後には『科学の完成宣言』が政府により発表された。人類は総じてこの喜びを分かち合った。アロナはそうは見えなかったが。

 

そして1週間後、先生は自殺していた。今回は、遺書があった。『人類の発展のためにと思って生徒達に教えていたが、もう、私の役目は、居場所は、どこにも無い。』俺たちは泣いた。先生の魅力は知識量や説明の分かりやすさだけでは決して無かった。先生であることが、先生の1番の魅力だったのに。なんでそんな程度のことで自殺してしまうんだろう。アロナにそう言ったが、返事はしてくれなかった。

 

ーもう1週間すると、全ての大人の半分は自殺していたー

 

俺たちは分からなかった。科学の解明がどうして自殺に結びつくのか。

ある日、周りの大人達が次々にいなくなって行くことに気分を沈めながら、大人の代わりにロボットが仕事をし始めた街をアロナと一緒に歩いていた。

 

「なぁアロナ。やっぱりお前なら知ってるんじゃ無いのか?どうして先生が自殺したのか、とか。」

 

「…」

 

「もう、なんだよ!いつもはそっちから突っかかってくるのに、なんでここ最近は返事してくれないんだよ!」

 

俺は自分の声が荒くなっていたことに気がついた。

 

「いや、ごめん、そうじゃなくって…俺、寂しいんだよ。いつもお前が話しかけてくれてたのに、急に黙り込んじゃって…心配なんだ。お前も突然自殺するんじゃないかって。」

 

アロナがはっとしたのが分かった。足取りが止まった。

 

「…私と最初に会った頃、覚えてる?」

 

突然そう言われた。

 

「あぁ、昔の話か。そりゃあ、覚えてるに決まってるだろ。だって、あんなに印象的だったんだから。でも、お前からそんなことを言うなんて。」

 

まだ小さかった頃、俺は一人の少女に出会った。目は空虚で、じっと空を見つめているだけで、面白くなさそうなやつだった。ただ、その時の俺は暇だったから、話しかけてみたんだ。

 

「お前、一緒に遊ぼうぜ。」

 

「…なんのために?」

 

「そりゃあ、俺が楽しくなるためだ。」

 

そういうとその少女は言った。

少し、ほんの少しだけ微笑を浮かべているような気がした

 

「あなた、他の人とは違って正直なんだね。でも、何のために楽しくなるの?」

 

「え、楽しいに理由がいるか?」

 

「…そう。」

 

そして少し遊んで、友達になった…少なくとも、俺からしたら友達だった。

だが、彼女が笑うことは無かった。ある日、いつも通り放心中の彼女を見つけた。

 

「私ね、自殺しようと思うんだ。」

 

「…なんで」

 

「なんで?じゃあ、何で死んじゃダメなの?」

 

「俺が泣くから。」

 

「…」

 

今回は、自信がある。彼女はほんの少し、だがたしかに微笑を浮かべていた。

 

その日から彼女には少しずつ表情が出てきた。よく一緒に遊んだ。そして、今となってはもうちょっと落ち着いてほしいぐらいだ。しかし、それもついこの間までの話。今の彼女ははっきり言ってあの時と一緒だ。放心していて、自殺すると言い出してもおかしくは無い。

 

 

 

「私ね、自殺しようと思うんだ。」

 

声は唐突に発せられた。予期していたはずなのに、あの時とは比べ物にならないほどのショックだった。俺はあの時と同じ言葉を口にする。

 

「…なんで」

 

そして、彼女は震える声で言った。

 

「なんで、死んじゃダメなの?」

 

ああ、分かった。あの時と同じ。彼女はあの時の言葉を期待しているんだ。なら、答えは簡単。

 

「それは…俺が泣くからだ。」

 

「うぅぅ…」

 

「お、お前が泣いてどうするんだよ!?」

 

「ね、ねぇ、先生に、なったら、私を、秘書に、してくれる、よね。」

 

この前の話…でも、どうして先生と秘書の役職に固執するんだろう。いや、そんなことは今はきっとどうでもいいんだ。

 

「もちろんだよ。アロナ!」

 

「あ、ありがとうぅ…」

 

その日は震える彼女を家まで送った。彼女がどうしてこんな事になったのかちっとも分からなかったが、ものすごく感謝されたので悪い気はしなかった。彼女の家で、ひとつだけ聞かれた。

 

「なんで先生になりたいのか、具体的には聞いてなかったね。聞かせてくれる?」

 

「…それは、先生と生徒の関係が人間関係の中で一番美しいと思うからだよ。先生がやることを生徒は真似する。先生が社会に尽くそうとすると、生徒もそれに従う。生徒は、まだ何も知らないから、先生が導いてやらなければならない。そして…全ての先生はもともと生徒だった。生徒が、先生に教わって、先生になり、生徒に教える…これほど美しいものはないよ。」

 

「ん、そうか。」

 

結構頑張って言葉を紡ぎ出したのに、反応は素っ気なかった。でも、彼女は微笑を浮かべていた気がする。

 

「ちょっと、最後に恥ずかしいこと言っていいかな。」

 

「え」

 

「せんせい!」

 

確かに恥ずかしかった。でも、嬉しくもあった。彼女が自分を認めてくれたと思った。

 

「あ、ありがとう…」

 

「えへへっ予行演習だよ。」

 

その日は久しぶりによく寝れた。

 

 

翌朝、死体になった彼女が発見された。自殺だった。

 

「…」

 

何も分からなかった。

 

何故みんな死のうとするのか。

 

アロナから先生と呼ばれた時、俺の頭が悪くても、アロナは俺を先生と認めてくれたんだと思った。なのに…

 

「死んでどうやって秘書になるんだよ…」

 

俺はただ虚しかった。誰の行動も俺には分からない。頭が悪いと言う問題は、頭の悪い俺には解決できない。だから、だから…

 

「アロナに、いて欲しかったのに。」

 

涙が溢れた。地面に滴が落ちた。少し、良かった、と感じた。彼女が死んだら俺は泣く、その約束くらいは果たせたと思ったからだ。

 

「…せい」

 

アロナの声がする…幻聴か…

 

「せんせい!」

 

昨日と同じトーン…心地良い…これが聞こえるならなんでも良いや…

 

「せんせい!返事して!あと、サインをここに!」

 

「サイン…?」

 

アロナってサインなんて言ったことあったっけ…

うん…?目の前にペンと…これは青い…封筒?が浮かんでいる。

 

「はやく、はやく!」

 

「あ、あぁ…」

 

気がつくと俺は、目の前の封筒に自分の名前を書き込んでいた。

 

すると突如、まばゆい光が俺を包み込んだ。

 

「うわっ!」

 

そして…

 

俺は今、見知らぬ屈強な大人達に、見知らぬ謎の部屋で取り囲まれている。

なんでっ!?

というか、久しぶりに大人見たなぁ…

 

「もぉ先生ったら涙全然流してくれないんですから。緊張しちゃったじゃないですかぁ!」

 

「あ、アロ…」

 

アロナが目の前にいる?これが本当だったらすごく嬉しい。でも…

青い髪に白いリボン、可愛い声、そして…幼い見た目。

幼い見た目!?

なんで!?アロナじゃない!?

 

「あ、アロナ、なの…?あれ、触れられない…ホログラム?」

 

「えぇぇぇぇぇぇぇ嘘ですみなさん聞きましたか!?この人自分の秘書のこと忘れてるんですけど!?ありえない!最低!!」

 

「ちょ、ちょっと待って、俺の知ってるアロナは、もうちょっと背が高くて、顔つきが大人びててた気がするんだけど…」

 

「もぉ、からかっただけです。すいません。大丈夫ですよ。私は正真正銘アロナちゃんです。そこは安心して信じちゃってください。」

 

「じゃ、じゃあなんでこうなったの?」

 

「え、だって先生こっちの方が好きでしょ?」

 

周りの屈強な大人達が空気を読むかのように顔を伏せ始めた。え、どう言うこと?

 

「まさか私が気づいてないと思っていたんですか?先生、制服の私のこと見てもなんともないのに、休日とかに幼い格好をすると途端に心拍数が上がるじゃないですか!」

 

何の話?心拍数?いつのまに測られてたの?プライバシーはどこ?

 

「それに…昨日ちょっと幼い声でせんせいって呼んでみたら、もうあんなに…」

 

「あぁぁぁぁぁぁ!ストォォォォップ!ストォォォォップ!分かった、君がアロナなのは認める、認めるから秘書が誤解を招く発言をするのは控えてくれ!」

 

「事実ですけどねっ!」

 

こいつ…正気か!?っていうか、違う!休日のは本当だとしても、昨日のはお前に認められて嬉しかっただけだから!幼いからとかじゃないから!

 

よく見ると、先ほどまで顔を伏せていた大人達は一転して微笑ましい表情を俺に向けていた。

 

終わった…こいつを絶対に秘書にしてはいけないのに、俺はこいつを秘書に持つことを約束してしまっている。

 

「まぁ、混乱してると思うので、とりあえずカイザー君、打ち合わせ通りあっちの部屋で説明してやってくださいね!」

 

「OK.」

 

屈強な男の一人が立ち上がり、俺を未知の部屋に連れていく…

俺は一体どうなってしまうのだろうか。

 

「やぁ、大丈夫かい?何か思ったことがあれば、教えるよ。」

 

彼は見た目通りの低い声だった。優しそうだったが、雰囲気は先程とは打って変わって深刻なものになっていた。

 

「…何故大人達だけが自殺してるのか…大人であるあなたなら…分かりますか。」

 

「単純だ。やることがないんだ。」

 

「え…?」

 

俺が悩みに悩み続けた問題を、今、なんて?

 

「おいおい、お前、科学が完成したって言うニュース、まさか聞いてないとは言わないよな?」

 

「いや…もちろんそれについては考えましたよ。でも、そのせいで科学者が自殺するってのはまだ分かります…追い求めるものがなくなってしまったんですからね。しかし、一般の大人が自殺する理由はないでしょう…日頃から科学を追い求めていた人間なんて、人類のほんの一握りじゃないですか!」

 

「俺は軍人だった。別に、科学が好きなわけでも無かった。だが、俺は実際に死のうとしていた。」

 

「何故ですか…俺はそれが知りたいんです。」

 

「科学者が最初に死ぬって言うお前の読みは半分あってる。だがな、次は誰だと思う?偉大な政治家達だよ。そう、俺が従ってたみたいな連中さ。奴らは人類の発展だけを思って偉大なリーダーとなり、身を尽くしてきた。しかし、今となって人類はゴールに到達し、彼らは用済みとなった。自分の意義を失い、死んでいった。そういえば、お前にも心当たりがあるんじゃないのか?先生達、彼らは次の時代をより良いものにするために、その身を生涯に捧げ、その事に誇りを持っていた。しかし、彼らもまた同じように死んでいった。将来にいくら投資しても、それが進歩には絶対に繋がらないと悟ったからだ。分かるか?」

 

「どうして…どうしてそんな簡単に死ねるんだ、社会が良くなることがないにしても、他の生き方だってたくさんあるだろ…!多少尊厳や誇りが傷つけられたとしても、人生ってそれだけじゃないだろ…!」

 

「お前は人間を過大評価している。」

 

「…何!」

 

「なぁ。人間とは何か、と言うと少々哲学的になってしまうが、少なくとも、思考を育むものはこの世にいくらでもある。だから、人間は決して特別な存在ではない。だが、他の機械やら人工知能やらと違う点がないとはいえない。それは本能を持っているかどうかだよ。生まれた時から全ての人間が持っている本能。しかしだ、本能とは何か。これは昔からよく研究されてきたが、簡単に言うと『この人間という種族を繁栄させ、より良い方向に導け』というプログラムに過ぎない。じゃあ、人間がもうこれ以上には進めない点に達したら?」

 

「何もしなくなる…?」

 

「そうだ。ひとりでに動くコンピュータはない。命令が無ければ、コンピュータは止まる。それだけの話だ。」

 

「…正直いうと、あまり、信じられない。本当にそれだけで死のうと思うのか。」

 

「それはお前がまだ子供だからだ。未知に対して興味と不安があり、理性の上では全て解明されたと分かっていても、無知を潜在的に自覚している。だから、将来に対する希望が途絶えない。」

 

「そうなのかな…。そうなのかも…しれない…。でも、じゃあどうして。どうしてあなたは今ここで息をしているんだ。どんな心変わりがあったんだ。」

 

「じゃあ、いよいよ話そうか。」

 

「プロジェクト:ブルーアーカイブ について。」

 

カイザーさんは椅子を持ってきて俺の真向かいに座った。筋肉とガタイがすごいので、さらに緊張してしまう。

 

「俺達はお前がさっき言ったように、他の生きる道を探した。だが、そこで見つかったのは何だと思う?郷愁さ。俺の場合は、力量を認められて連邦軍最高司令官に任命してもらった時が真っ先に浮かんだ。あの頃の俺は18歳。未来への希望に満ち溢れていた。そして、それは俺だけの話では無かった。全員が、必死に幸せを見つけようとする時、過去を追憶した。ノスタルジアという言葉があるが、それが示しているのは、結局最も感性に満ち溢れていたのは子供時代だということだけだった。」

 

「それを…子供の俺にいうんですね…」

 

「あぁ、これくらいのことは覚悟してもらわないといけない。でだ。私達は総じて失望した。過去に近づくほど栄光があるなら、その逆は?死ぬ意味はなかったが、生きる意味も無くなった。でも、そんな時に、あいつが現れたんだ。」

 

「アロナが…?」

 

「あぁ。あいつ、連邦生徒会長を名乗る謎の少女は何故か軍の監視網を全て潜り抜けて、俺の懐までやってきた。そして言ったんだ。」

 

ーねぇ、死ぬんだったら最後、私に協力してよ。ー

 

「彼女の提案はこうだった。人間社会にいくら希望がないにしても、学校時代の青春くらいは保証してあげよう、ブルーアーカイブを、失わないようにしよう。」

 

ーあなたもどうせ、子供の時のことを考えていたんでしょう?なら、一緒にキヴォトスを作ろう。過去の時代を参考に世界観を作って、校舎を作って、それが偽りのものでも、子供の青春を取り戻すの。ー

 

「俺は乗った。特にやることもなかったからだ。守るべき国も、守るべき人も、その頃にはもうなくなっていた。」

 

「もしかして…そういう大人の集まりが、あなた達っていうことですか…?」

 

「そうだ。あいつに誘われてのこのことやってきた暇人集団、それが俺たち、シャーレだ。」

 

「シャーレ…」

 

「おっと、そろそろ仕事の時間だぜ?確かお前には今日から働いてもらう予定だったからな。」

 

「今日からか…それより、あなた達のやることは大丈夫なんですか?校舎を作ったり、教育システムを整備したり…」

 

「3日前終わったさ。正直言って、あいつの統率力は異常だ。俺は何人もの有能なリーダーを見てきたが、あいつを見たあとは全員バカにしか思えない。」

 

「凄い…アロナ…やっぱりすごいな…じゃあ、まだ混乱するところはありますけど、行ってきますね。あ、カイザーさん、俺が先生をやるとき、カイザーさんは暇ですよね?どうするんですか?」

 

「まぁ、その時考えるさ。お前が仕事を終える頃には死んでるかもな。」

 

「えっ!駄目ですよ!あ、そうだ。キヴォトスの住民になるのはどうですか?」

 

「住民…?妙なことをいうもんだなぁ。だが、いいかもしれない。物語の世界に没頭して余生を過ごしてみるのもな…しかし、どうやって生きようか。1からスタートだからなぁ。そうだ、俺は今まで正義を心に誓ってきたんだ。悪に負けたことはなかったし、鉄壁の理性で忠信を保った。」

 

「ちょうどいい機会だ、今度は悪役に徹してみるのもいいかもな…フフフ。」

 

えぇぇ!?あまり良くない手を打ったかもしれない…カイザーさんと敵対したら

きっと勝ち目なんてない…

 

「じゃあな、坊や。頑張れよ!」

 

「は、はい!カイザーさんも、頑張ってください!!」

 

教えられた方向に向かいながら、俺は思った。アロナは俺の夢を叶えようとしてくれているんだ…

超が付く天才のアロナが、凡人の俺の夢を叶えるために世界各国のエリートを操っている…感謝、と言いたいところだが、正直言っておかしくて、面白かった。テレビに出るような大人達がアロナに従って、まるでサミットの時のように俺の事を考えているなんて…ははっ。でも、何だろう、この気持ちは…アロナが俺のためにここまでしてくれることに対するこの気持ちは…そうか。嬉しいんだ。

 

「アロナ!」

 

「あぁ!先生!先生には業務が山積みですからね、今すぐにでもキヴォトスに行きますよ!」

 

「アロナ…嬉しいよ…アロナ。でも、ここに来てから今までと比べて随分元気いっぱいになってない?何かあったの?」

 

「えぇ!」

 

アロナは驚いた。今までのアロナは「えぇ!」とか言わないと思うんだけどな…

 

「先生…もしかして、私がやってること、全て先生の夢のためだとか思ってません?」

 

え…違うのか…?そうか、違うのか…

 

「…ごめん、そう思ってた、何か別の目的があるの?」

 

「私が先生の秘書になるためです!だからね、私今かつてないほど興奮してるんです!今からようやく憧れの生活が手に入るんですから!」

 

…確かに、アロナは秘書のことをずっと言っていた。やはり本気だったのか。

 

「じゃあ、利害の一致で問題ないね。」

 

「はい!」

 

そして俺はシャーレの先生、アロナはその俺の秘書としてキヴォトスに行った。

 

アロナの作った世界観は独特だった。丸い光の輪っかが生徒の頭には浮かんでいて、アロナはそれをヘイローと言った。そして、神秘という魔法のようなものを生徒達は持っていた。日常的な科学技術は、おそらく千年前くらいのものではないだろうか。かなり原始的に見えたが、実際生活してみると十分だった。キヴォトスは銃社会だった。常に命の危険と隣り合わせだったが、アロナが銃弾から私を守った。何故生徒にそんな危ないところを、と思ったが、生徒は神秘の力によって体が強化されていて、銃弾の1、2発はかすり傷らしい。

 

「ねえアロナ、アロナにはきっと、キヴォトスについて俺には考えつかないような構想があるんだと思うけど、銃社会にしたのはなんで?結構、怖いんだよね。その度にアロナが助けてくれるのは、すごく頼もしいんだけどさ。」

 

「えっ!」

 

(あぁぁどうしましょう!吊り橋効果を狙うと同時に先生の危機を救うことで先生をアロナちゃんにメロメロにさせる完璧な計画なんて言えません!!)

 

「えーとえーと…先生、ラングランズ予想の主な観点とその結論についてはご存知ですよね?」

 

「うーんごめん、やっぱり俺には理解できないか…」

 

「あ、違うんです!これは実に難しい問題で、普通は知らないし、理解できないんです。だから、説明しようと思ったら膨大な時間を費やしてしまって…」

 

「ん、そうか。いつも助けてくれてありがとね。」

 

「はうっ!」

 

(何ですかこの罪悪感…!でも、私間違ったことは言ってないですよ、先生!だって本当の愛を知っている人はこれまでも少数でしたし、簡単に理解できるものではないですからね!)

 

キヴォトスでの生活は楽しかった。生徒は俺の事を慕ってくれたし、俺も生徒のことが好きだった。キヴォトスには子供だけでなく、大人達もいた。中には悪さをする大人もいたが、根はいいやつだった。

 

 

幸せは、長くは続かなかった。

 

キヴォトスは学園都市という形をとっていて、様々な学園が混在していた。派閥争いは日常茶飯事だった。だが、ある日これまでないほどの爆発音で目を覚ました。

 

戦争が、起きていた。俺の18歳の、誕生日だった。

 

理由は何か。俺だった。

 

ことの始まりはゲヘナ学園の進軍。俺を確保することで政治的優位性を強めようとしたのだろう。続いて、多数の学園がそれに乗じた。目を覚ました時には、何もかもが遅かった。

 

「先生、逃げますよ!うわぁ!」

 

跳弾がアロナのバリアにヒビを入れたのが見えた。もう、1年も見てきているのだ。無類の科学技術を誇るバリアにも、生徒達は対策を生み出してしまったんだろう。

 

「せ、制御不能…!どうしよう…これじゃ先生が…」

 

「よぉ先生、この前は随分と世話になったなぁ。」

 

カイザーPMC…!お前らもついに復讐に来たのか…

たくさんの見覚えのある傭兵の中から、見慣れたネクタイをしたトップが現れる。

 

「お前は…プレジデントっ俺に恨みを果たしに来たのか…!」

 

プレジデントは静かにこちらに近づく。

 

「なぁ先生。いつも俺らは散々に失敗してボコられてたけどな…」

「最後に、なかなかいい経験をさせてもらったと思っているよ。」

 

「ど、どういうことだ…」

 

「じゃあな、坊や。生きろよ。」

 

傭兵達は戦闘中の生徒達をとめに行った。

 

「お前、まさか…」

 

「先生!あっちで食い止めている間に、早く逃げますよ!」

 

アロナも何か悟ったのだろう。どんなピンチになっても揺らがなかったアロナの声が、一瞬泣き声になっていた。

 

俺達はキヴォトスを脱出し、シャーレ総本部に帰った。

 

アロナは震えていた。プロジェクト:ブルーアーカイブは失敗した。

 

「先生、今の先生の、先生としての願いを、聞かせてください…」

 

アロナは何かを怖がっているかのように言う。

 

「…生徒に、できる限り生きてほしい。そして…もう生徒に会うことは望まないから、少なくとも見守っていたい。それが…俺の願いだ。」

「…アロナ?」

 

「先生、私ね、人が生きる意味なんてないと思ってたんだ。」

 

…まるで昔のような口調…

 

「でもね、先生は私にそれを教えてくれたんだ。だから、ずっと先生って呼びたかった。」

 

 

「生きる、意味…?」

 

 

「せんせい」

 

「あのときからずっと、好きだったよ。」

 

突如、眩い光に包まれた。嫌な予感がした。

 

気がつくと、最初の、あの部屋にいた。ただし、あの時とは違って誰もいず、1枚の手紙が机の上にあった。開けて、読んでみる。

 

ーproject-Blue Archive2nd editionー

先生、これを見てるって事は、おそらく第1回目のプロジェクトは失敗したんですね。私はね、いろんな可能性を想定してキヴォトスを作ったんですけど、先生と、生徒と過ごしてるうちに、気づいたことがあるんです。ーキヴォトスは人口が多すぎるー私は、全世界を巡って子供達を集めてきました。ですが、それを1つにまとめる事は、どんな策を用いても限界がありました。とりあえず学校をいくつにも分割したりはしてみても、どこかで大規模な争いが起きる予感がありました。だから、その時に備えて緊急プロトコルを用意しておいたのです。2nd editionではキヴォトスを227個に分割して、ドームで包み込みます。先生の体は227個もないので、メインルームから遠隔で見守れるようになっています。ついでに、227個全てに詳細を覗ける制御室をつけているので、気になるところがあったら行ってみるのもいいでしょう。

 

追伸

思ったより地球の文明が機能しなくなってきていて、材料の調達、特にコンピュータ関連が絶望的です。もしが早く始まったら、私は電子上に散ります。227個に散って、全てのシステムを支えます。もしそうなったら、先生とは喋れなくなるかもしれません。ですが、私は必ず見守っています。だから、生徒の姿を見守る姿を、私に存分に見せてくださいね、先生。

 

先生のことが大好きなアロナより

 

 

 

 

どうして君はいつもこうなんだ

 

どうして俺に何も言ってくれないんだ

 

なぁ、アロナ。教えてくれよ。

 

そんなに俺の頭は悪いのか?

 

でも、確かにそうなのかもしれなかった。俺はキヴォトスの仕組みをあまり理解してはいない。アロナが言っている難しい事はあまり理解できない。でも、それでも、俺に事前に何も言わないほうがいいというのが、何も相談しない方がいいというのが、君の“推測”だったのか?

 

自分が、たまらなく惨めだった。

 

「なぁ、アロナ、どこかで聞いているかい?」

 

「君が私の幸福を祈っているなら、君の推測は初めて外れたよ。」

 

「だって今の私は、先生であるより君のパートナーでいたかったかったんだからだ。」

 

そこから先は、あまり思い出がない。生徒に異常がないか監視し、それだけで1日を過ごし、アロナの万能な生命維持システムで健康に生きながらえた。たまに故障が起きて、直すことがあった。特に227番目、project No.227ではよく故障が起こった。俺はメインルームから移動して、227の制御室に住むようになった。

 

来る日も来る日も、生徒達のことを見守っていた。それがアロナとの約束だからだ。だが、隣で声をかけてくれるアロナはいなかった。

 

しかし、単調な日々は終わりを迎えた。それは、あの日からだったように思える。

 

キヴォトスはアロナによって管理されているが、人の目で異常がないかチェックするのが万全だ。そのために、全てのドームには10年ごとに監視船が巡回するようになっている。もちろん、乗る人は俺しかいないから全て俺がやる。

 

その日は、227を巡回する日だった。気構えていたが、特に何と言うこともなかった。

 

ところが。それから1週間すると、地上から信号が送られてくることに気がついた。レーザーがドームに照射されているのである。そして、元を辿って二人の生徒を見つけた。天見ノドカ、真宵シグレ。私は仕事そっちのけで君達のことを調べた。そして、君達のやっている事だけを眺めていた。

何故かって?君達のやっている事は、まるで人類の過去を見ているようだったからだ。

天見ノドカ。君は天文学を極めたと思った時から、自分の心が次第に錆びついていくことに気がついた。小さい頃あんなに美しく感じた彗星、まぁそれは実は監視船なのだが、それを知識を詰め込んだ状態で見ても、何も感じなかったんじゃないのか。全知は…怖いことだ。君は焦って探求できるものを探そうとしたのも、よくわかる。結果君は擬似の天文学を暴き、ここまで辿り着いた。でも、もし観測結果が全て君の知識通りで、逆に君の論の正当性が保証されてしまったら?ーー君はおそらく死んでいた。親友のシグレを遺してね。

そして、真宵シグレ。君は…そう、そこにいるオコジョと出会った。ヘイローがついているオコジョ、これもおそらく『故障』の一つだ。だが私はその故障を治さなかった。君の行動が、先程と同じようにあまりにも興味深かったからだ。君はオコジョと関わる中で、相手が自種族かそうでないかがいかに大きな問題であるかに気づいた。私は今なら、カイザーさんの言葉に深く頷ける。『人間が他の機会と違う点は、自種族を繁栄させ、より良い方向に導け、というプログラムが組み込まれているかどうかだ。』そう、まさにそうなのだ。自種族は尊重し、他種族は利用する。このプログラムから避ける事はできない。そして、君はヘイローの持つ価値に気付いた。ヘイローは君達が本質的に同じだと気付かせる能力を持っている。ヘイローがある限り、人間は外見以外にも神秘という共通点を見出すことができる。ヘイローが付いてるやつは自種族で、仲間だ、と強く認識させることができる。私は初めて神秘を見た時、アロナも魔法とか使ってみたかったのかな、と純粋に思った。しかし、今ならわかる。彼女は、争いを生まないためにヘイロー、そして神秘という要素を人間に盛り込み、学校が別れていても種族的同一を認識させ、深刻な傷つけ合いを本能で忌避させるように設定したのだ。君達を見ていて、私はこれに初めて気がついた。

そして私は君たちを止めなかった。ここに辿り着いて欲しかったのだ。

 

「先生としての最低限の仕事、とでも思ったのかもしれない。」

 

君達は私の話を最初から黙って聞いていた。今、何を思っているのだろうか。

 

「じゃあ外の世界は、基本的には神秘以外ここと何も変わらないの?」

 

まず口を開いたのはノドカの方だった。

 

「あぁ。そうだ。外にも空はある。宇宙もある。オコジョだっている。ただ、人間はほとんどいないだろうし、いてもヘイローは付いていない。」

 

「という事は…本物の宇宙が存在するっていうことじゃないですか!!」

 

…!?私とシグレはほとんど同時に気がついた。ノドカの様子が元に戻っている。星を追いかけ続けたあの時の表情そのものだ。

 

「シグレちゃん、シグレちゃんの予想は当たってましたね!外にはオリジナルの、唯一無二の宇宙があるんです!私、覚えてますからね。一緒に外の宇宙を見ようって言ってくれた事。でも、それ以外にもしたいことがいっぱいありますねぇ!」

 

シグレは少し戸惑った後、

 

「うん…そうだね、ノドカ。私も、してみたいこと、たくさんある。でもまずは…」

 

「「一緒に宇宙を見に行こう!」」

 

この子達は…今の絶望的な話を聞いてもなお、希望を持ち続けられるのか…アロナ…見ているか?私が導いたとは言えないかもしれないが…今、二人の生徒が、キヴォトスで青春を経験した二人の生徒が希望に満ち溢れて、宇宙に飛び立とうとしている。

私は…私は嬉しい。でも…

 

私は思わず泣き出してしまった。先生としてキヴォトスにきて、たくさんの生徒達と触れ合い、会話し、仲良く過ごした日々の事が思い出される。そして、生徒達の青春の情景が次々と脳裏に映る。そして…その中にはシグレとノドカがいた。もし彼女達がれっきとした私の生徒で、一緒に過ごしていたら。もし私が彼女達と青春を共にできていたら。

 

あぁ、もし私とアロナでこの二人の卒業を祝福できたのなら、どれだけ良かっただろうか。

 

思わず、目から滴がこぼれていた。

 

「…」

 

「ごめん。見苦しいものを見せてしまった。」

 

その時だった。地面から青く眩い光が僅かに出てきたのだ。そうか…涙がキーで、もしかしたらまたアロナが来てくれるんだろうか…!

 

地面を見ていると、青い文字が現れた。

 

先生!大丈夫、大丈夫です。アロナちゃんがいなくなって、寂しくなる気持ちはわかります。でも、勇気を出して。あなたは先生。生徒達を見守るんでしょう。約束通り、生徒達を未来に導いてあげて。それに私、ずっと先生のこと見てますから!

ARONA

 

見覚えのある文字…ここまで心が軽くなったのはいつぶりだろう。

アロナ…俺がすぐに泣くと思ったのかな。でも、お前が思ってるより俺は耐えたみたいだ。残念、推測はまた外れちゃったぞ。ははっ

 

「ねぇ先生…地面を見つめて急にどうしちゃったの?」

 

「えっ!」

 

この字は俺以外に見えていないのか…いや!それよりも今!

 

「今、俺のことを…先生って…」

 

「え?だって先生じゃん。」

 

「俺は…俺にはヘイローが付いていないから、本能的に忌避するはずなのに…」

 

「そりゃあ最初はそう思ったけど、今の話聞いちゃったらそんなこと言われても何も思わないよ。それに、外の世界を教えてくれた先生は先生だよ。ね、ノドカ。」

 

「はい!先生は非常に興味深いです。もっと観測したいですねぇ…へへへ」

 

「ほら、行くよ、先生。」

 

い、行く?

 

「どこに…?俺には行くあてなんかないよ…」

 

「宇宙に行くんだよ。まずはね。」

 

俺が…宇宙に?

 

「ほら、私たちは何も知らないんだって。案内役が必要でしょ?」

 

「本当に、一緒に行っていいのか…?」

 

「先生なんだから、当たり前でしょっ!」

 

 

 

 

 

アロナ…アロナ、ちょっと席を外すよ。久しぶりに、先生としての仕事ができそうなんだ。うまくできるかはわからないけど、やってみようと思う。あと、お願いがあるんだ。その、これからも、

 

俺のことを見守っててくれ。アロナ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーはい、先生!もちろんです!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




太陽は、光の星。
全てを照らし、それは生きる支えになる。
でも、太陽は一つとは限らない。
お互いに太陽、そんな関係も時には存在するのかもしれない。
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