その鮮やかでつかみどころのない青色は多くの人を魅了し、古くから「幻想」、「神秘」、「霊性」などと言われてきた。しかし、化学技術が進み調査が進むと、海王星の情報は直ちにむき出しとなった。昔神秘や幻想が見出されていたところには、元素や質量に体積といった無機的なデータだけが残った。
全ての事象は必ず因果関係で結びついている。よって、神秘なんてものはこの世に存在しない。あるとすれば、それは因果関係を説明できないときに愚者が用いるその場しのぎに過ぎない。
(海王星に初めて足を踏み入れたゲヘナの冒険家の日記より)
テルはもうすっかり元気になっているようだ。傷の治りが早いのはやはり神秘の力のおかげか。
あ、テルというのはこのオコジョの名前である。ちなみにノドカが名付けた。
「あなたはテルちゃんですよ!最後まで面倒を見てあげますからね!」
「テルというのはJupiterの語尾からとっているんです。そして、木星は幸運の象徴。227号の3人目のメンバーが僥倖でないわけはありません!」
そうであってくれればいいと思った。ただ、無邪気にメンバーが増えたことを喜んでいたかった。
「あの~だれかいませんか???」
「お届け物です」
扉の方から声がする。
「あ、私の望遠鏡がやっと帰ってきたようです!実はですねぇ、シグレちゃんにすっごく見せたいものがあるんですよ。」
MILLENNIUMと大きく書かれた荷物を受け取って大きい包装を開封すると、中から付箋と見慣れないパーツのついた望遠鏡が出てきた。付箋には、「ゴメンネ…受信装置はなにぶん大きいのでまだ時間がかかります///」と書かれている。だとしたら、このパーツがレーザー距離測定装置の出力装置なのだろうか。
ちなみに距離測定器の原理は、レーザーを発射してそれが反射して帰ってくるまでの時間を光の速さで割って距離を測るというものである。発射する装置と、帰ってくるものを観測する装置が必要なのだ。ノドカの望遠鏡は超高機能なので視界に入った光粒子くらいは全て捉えられるが、精度を高めるためには面積の大きい受信装置で観測する必要がある。
ノドカはそのパーツを取り出して、私に見せる。
「さぁさぁシグレちゃん。これはミレニアム製のタネも仕掛けもない超高性能レーザー発射装置。試しに打ってみましょう。あ、そうそう…波長を可視光にしておいて…よし。」
ノドカは少々それをいじった後、窓の外にそれを向ける。
そして…
ピッと音がして放たれた光線は確かに細くて直線で、緻密で、高性能な感じがした。でも、星とかの距離を測るものにしては、少々光が弱すぎるんじゃないかなぁ。ん?いや、ちょっと待てよ。そもそもノドカはなんのためにこれを…現在の天文学体系に疑問を持ったから自分で色々確かめ直してみたいんだろうなぁとは思っていたけど、星間距離を測るのが不可能に限りなく近いことぐらいは私でも分かる。
「ねぇ、ノドカ。ちなみに、どうしてそれを?」
「ふっふっふ、シグレちゃん。私はいいましたよ。星を見るためだって。」
「確かにミレニアムの人達には、星を見るため、って言ってたね。でもあれは、どういう意味?星との距離を測るのかなぁとも思ったけど、ちょっと無理があるよね?」
「いえいえ。まさにその推測通りですよ。」
質問しようとする君を制止して、ノドカは真剣な顔した。まるでこの前の君のように、何か重大なことを言おうとしているのかもしれない、と君は思った。
「さぁ。初めに戻って。これはタネも仕掛けもない、ミレニアムのレーザー発射装置。それがなんと…」
「い、イリュージョンっ!!」
「!?」
その瞬間、一直線だった光線が歪み出した。信じられないものを見ている気持ちになった。まるで、この間の彗星HAL9200を見たときのようだった。そして直線は歪んで、歪んで…ポンタイタチの形になった。
えっなんでポンタイタチ…?
「み、見ましたか?見ちゃいましたか!?」
「えーと、なんで」
「そうですよねそうですよね!不思議ですよね!これは遡ること10年…」
まずなんでポンタイタチなのかと謎の呪文について聞きたかったがそんな君を放ってノドカは語り始めた…
ノドカは彗星を見たあの時から、天文学について深く学びたいと思いはじめた。そこで最初に行ったのは知識開放前線の図書館だった。だが、そこに置いてある本は面白くはあったけれど、少し考えればすぐ理解できるものばかりだった。なんにしろその頃のノドカは望遠鏡をまだ持っていなかったが、肉眼で見える範囲での観測は完璧だったのだ。さらなる知識を求めたノドカは、誰も使わなくなった図書館を探すことにした。そして、それは意外にも早く見つかった。使われていない学校校舎の図書室だった。入って本を持ってすぐ帰るつもりだったが、中の構造は意外にも複雑で、迷った。しかし、ついに科学カテゴリーの棚を見つけた。だが外ですらもう暗くなりはじめていたので、どの辺りにあるということは分かっても、肝心の題名が読めない。遠い旧校舎まで来たのに、ここで終わりなのか。ノドカは人生で初めて悔しさを抱いた。(太陽よ、なぜ沈んでしまうのか)と。ふと、そのときだった。夕日が束のように集中して窓に差し掛かり、暗い室内が一挙に明るくなったのだ。ノドカははっとしたが、明かりが消える前にと思いすぐに本を集め始めた。それが自分の神秘に気づいた最初の時であった。
その後も似たようなことはよくあった。旧校舎探索は危険が多かったが、本当に危険になった時は光が助けてくれることがあった。ノドカには学者心があるが、この、神秘の光については何も調べようとは思わなかった。そこには感謝と尊敬があり、何よりそれは神秘であったからだ。
そして話は2日前に戻る。ノドカは君が拾ってきたテルに、すぐに魅了された。尻尾や耳は少しばかり君と似ていて、そこもまた彼女を虜にした。そして彼女は思った。(もっと、テルを間近で見たい。詳細まで細かく。)と。別に強く願ったわけでも、命の危険に陥っていたわけでもなかった。しかしだ。そのとき急に、光が差し込んできたのだ。明らかに今の自分の意思に連鎖してのことだった。今度は余裕があったので、光が消えない内に早く…とは思わなかった。それよりも、驚いたことがあった。その光が操作できるのだ。思い描いた場所に、光が当たった。そして分かったのだ。
「シグレちゃん」
「私、私の神秘はどうやらね、光の粒子を、操作、できるの。」
君はかつてないほど驚いた。神秘が操作できるなんてことがあって良いのか、と。でも、他方納得もした。光と触れ合い続け、光を知り続け、光が長い間唯一無二の友達であったノドカの神秘がそう覚醒したというのは、至って単純な話だった。
ノドカは驚いた君の言葉を待っている。だが、君はしばらく声が出せなかった。もしノドカの言っていることが本当なら、
神秘はもう、神秘ではないじゃないか。
辺りはもう暗く、ポンタイタチだけが光っているが、何かは照らされていた。それが何かは分からなかったが、ノドカが照らしていることだけは確かだった。
こんばんは…作者です…
この辺りから科学理論が暴走していくと思いますが、どうかご理解を…