(従来の力学を覆し相対性理論を確立したミレニアムの物理学者の演説より)
「ノドカ…すごいよ!そんなことができるなんて…もしかして、テルのおかげかもしれないね。」
ノドカはハッとする。確かに、自分の神秘が目覚めたのは、この、神秘の力を持つ不思議なオコジョのおかげなのかもしれない。第一、目覚めたのはテルを見ている時だった。
「でもさ、光が操作できたとして、地球と星との距離がわかるの?光が操作できたくらいではやっぱり難しいと思うんだけどなぁ」
「シグレちゃん、それが、できそうなんですよ!!!では逆に質問です。星間距離を測るにあたって、例えば、どんな問題が思い浮かびますか?」
「えーと、まずそもそも光ってどんどん拡散していくよね?発車した時にレーザーだったとしても、反射が帰ってくる時には特大スポットライトになってるよね?これはどうするの?」
「それは気合いです!私の光粒子操作はあまり遠くまでは及びませんが、発射する時にこの高性能発射装置に加えて、少しばかり補正してやれば、だいぶ精度の高いレーザーができるはずです。」
「すごい…そんな緻密な操作も可能なんだ…でも、星の表面はでこぼこしてるからレーザーが正確でも反射軌道はでたらめになるし、まさか鏡じゃないんだから反射する前にだいぶ吸収されちゃうんじゃない?」
「それは試行回数と、このスパコン顔負けの望遠鏡演算システムが解決します。試行回数さえ十分多ければ、観測統計から類似した反応を体系化することで平均的な反射の仕方を見出し、試行回数が増えれば増えるほど正確に距離が計れます。」
「も、もうちょっと具体的にできる?」
「レーザーを一発打っただけではクレーターの窪みに当たって変な方向に反射してしまうかもしれませんし、位置によっては完全に吸収して反射すらしないかもしれません。ところが、無数のレーザーを様々な角度で打って無数の計算を重ねていくと、、だんだんと分かってくるのです。」
「確かにね…飽和戦術か…あ、でも、最後の、そして一番の問題があるよ。」
「はい!シグレちゃんの思ういちばんの問題点、興味があります!」
「太陽系の中だったらまだしも、ノドカがいつも見てるような星って、何光年と遠いよね。光年は、光が1年で進む距離。5光年先の惑星だったら、レーザーが帰ってくるのに往復で10年かかる。つまり、すっごい時間がかかっちゃうよ?」
君はそう言ってノドカの方を見ると、彼女は驚いた顔をしていた。そして、その顔は、ついに満面の笑顔となった。
「し、シグレちゃん!すごいですよ!」
ノドカは君に興奮のあまり抱きついた。どうやら君は思いがけず模範解答を出してしまったらしい。
う、うんん!?そんなに良い答えだった!?でもこれはこれでまたよき…
「普通はそこに考えが行かないものですよ、シグレちゃん。そして、私がここ数日ずっと悩んでいたこともそれです。月ぐらいならこの方法でいいものの、遠くになるとそうはいきません。でもですよ、解決策が見つかったんです。」
ノドカが急に真面目な顔になった。
「私、どうやら光の絶対速度を調整できるらしいんですよ。」
…?
ノドカ、もう一度言うんだ。なんて言った?
「その…自分でもよく分かってないのですが、レーザーを可能な限り直線にする実験を重ねているうちに、軌道をイメージしていたら…」
「レーザーが異様に遅くなって見やすくなっているのに気づいて…」
「自分が光の速さを操作できることに気づいたと言うか…」
「ついでに望遠鏡でちょっとした実験をやったんですけど…速度上昇の方もできるみたいで…」
ひ、光の絶対速度を調整できる?そ、それ…天文学以前に現在の科学体系のほとんどが壊れない…?いや、確かに相対性理論が根本から崩壊するとかはあると思うけど…情報は光の速さよりも早く伝播しない、と言う法則もあるくらいなのに…
「じ、自分がどんなにおかしいことを言っているかは分かっているんです。でも…できちゃったものは仕方がないんですよ…」
ノドカは普通難問にぶち当たると興奮する。その様子は変態ということもできる。しかしながら、今回ばかりはスケールが違う。自分の思考、計算の全てを支えていた最も大きい根本が崩れ去っていくのだ。落ち込まないほうがおかしい。だがそこで君は言い放った。
「ノドカ、そんなことで迷っててどうするの!!!!!」
君は考えることを放棄した。難しかったというのもあるが、どれだけ考えてもその思考は恐らくノドカの脳細胞のシナプス一つにも及ばないのではないかと思ったからだった。
「シグレちゃん!?」
「ノドカは、天文学に疑問を持ってて、もしその疑問が正しければ、天文学自身を大きく塗り替えちゃうんでしょ!?光の速度が一定じゃなかったからって、なんなの!?そんな些細なことで立ち止まっちゃうの!?」
「し、シグレちゃん!?」
(シグレちゃん、恐らく後者の方が圧倒的に馬鹿でかいよ…!?天文学なんて所詮幾何学と観測の上に成り立つものだけど、光の速度が上下しているとなると観測という行動自体にほとんど意味がなくなっちゃうんだよ!?)
「だから、諦めちゃダメ!私も手伝うから!そして、一緒に見つけよう!」
「この世界の、真理を!」
(…!?こんなシグレちゃん久しぶり…だけど、元気出ちゃったかも!)
「でも、改めて戻るけど、ということは超高速レーザーを発射できて、距離測定も一瞬でできちゃいそうだね。」
「は、はい!そうなんです!まず明日、月に向かって色々実験して、自分の感覚と光速の関係を確かめてみるつもりです。ただ、何にしろ光の速度を変えるわけなので、、何も副作用が出ないよう入念に計算するつもりですが。」
君は思う。神秘には、本当に異次元の力があるのかもしれない。ノドカは光を操れ、そしてテルは他人の神秘を増幅させたとも言える。ならば、私は?私も何か、すごい神秘を秘めていたりするのだろうか。
もうすぐ夜が明ける。太陽が、ゆっくりと出てくる。明日太陽の光が新たに照らしてくれるものは、何だろう。