天王星が見つかってから地球上では革命が相次ぎ、既存の古い価値観は疑われるのが当然となった。衛星の一つであるミランダでさえ、一度惑星規模で壊れて、それを再構築したような世界をその星面に見ることができる。
「変化は恐れられるが、それなしに進歩はない!」
(工務部の生徒がレッドウィンターでのクーデター中に放った一言)
「本当にあったんだね。」
「バリア、が。」
一見、そこには何もない。しかし、手で触れられる何かがあった。硬いが手触りは滑らかで、研磨された石を触っているようだった。
「ノドカ…これ、どうする?」
「ちょっと、調べてみよう。」
ノドカはそういって望遠鏡を見えない壁に向ける。
ピピッ
レーザーが発射された。まだ日中なのに、軌道がよく見えるくらい強い光だ。
そしてレーザーは進み、見えない何かに当たって、跳ね返った。
「シグレちゃん、本当なのかもしれない。外からの光は通すけど、こちら側からの光は反射するようなバリアがあるというのは。」
君は少し喜んだ。わずかばかりでも彼女のためになったかもしれないからだ。
「でも、こんなものがあるから距離測定なんてできなかったわけだね。」
「シグレちゃん、壊してみない?」
「私もそう思ったけど、どうやって...すごく固そうだよ?」
「シグレちゃん、知ってる?光ってね、ほんのわずかだけど、エネルギーと運動量を持ってるの。つまり、その光を恐ろしく早く衝突させたら...」
ドゴォォン
実行が早い...というか、今までも散々驚かされてきたけど、光一つでここまでできるものなのか。ただ、ノドカが呪文を唱えなくなったのは少し寂しい。あれ、好きだったのにな。
君は咄嗟に目をつぶった後、音のした方向を見る。すると、突如半球状のバリアが現れて...なんていうことはなかったが、代わりに穴が開いた6角形の黒いタイルがノドカの前にあった。黒くなった部分は相当大きいが、この壁が半球状だと仮定するなら、恐らくこの6角形タイルの集合なのだろう。
「シグレ、ちゃん...これ...」
「液晶だ。」
「えっ!」
液晶。君は考える。もしこの壁がそうなら、私たちは今まで、電子的に作られた風景を見て自然だのなんだのと言いながらなごんでいたのであろうか。
「そりゃあそうだ...もしこの世界が光を反射する液晶で包まれていたなら、観測はそれを見るだけでどうにでもなるけど、距離はどこも100km。そういうことだったのか。」
君はさらに考える。それ以前に、自分を閉じ込めている何者かがいることになる。何のために?ここで生き続けて、すごく苦しいことは特に起きなかったし、何かから干渉されたような記憶もない。目的は何だろう。でも、やっぱり気持ちはよくない。それはきっとノドカも...
「私たちは...」
「騙されてたんだね。」
「ノドカ...残念だけど、そうだろうね。」
「...私が陶酔し続けた天体も、美しかったのは何者かによって人為的に作られた映像だったから。そりゃあ、整合性がとれててきれいで、」
「何も変わらないわけだ。」
ノドカ...今まで信じ続けたものを失ったノドカ。もう、私たちは何も信じられないだろう。これから先何に出会っても、これは誰かに見せられているものじゃないのか疑うことになる。今からの人生、最初から企画ばれしているドッキリのようなものだ。でも...
「私は、これから何に対して生きればいいんだろう。今までのように、見せられるものを見続けて生きていくのは、あんまりやる気が起きないな。」
「ノドカ。」
「シグレちゃん、どうするつもり?」
「私は、ここで止まるわけにはいかないよ。とりあえず、私たちが暮らしてきた世界の真相くらいは知ってもいいんじゃないかな。そこそこ、面白いと思うよ。」
「...そうだね。私を騙してきた人の顔くらいは見ておかないと。人かは分からないけど。」
「そしてさ、ノドカ。もしそのあとに暇だったらさ、一緒に、宇宙を見に行こうよ。作りものじゃない、本物の宇宙を。」
「シグレちゃん、ずいぶんロマンチストだね。宇宙とか、星っていう概念の信頼性はもうほとんど残っていないよ。だって私たちが経験してきたことは、ただのストーリーに過ぎないんだから。」
「そうだね。だけど、人間の想像力なんて大したことないんだから、きっと実在するんだよ。オリジナルが。」
「まず、私たちを閉じ込めてるのが人間かどうかも分からないんだけどね。」
「まぁでも、シグレちゃんがそこまで言うんなら、ちょっとは見ようか。夢を。」
君は空いた穴から黒いタイルの内側に足を踏み入れる。後ろから、声がした。
「シグレちゃん、ちょっと前に言ったよね。いろいろな世界線があって、設定があって、無限の事象は思い浮かぶけど」
「今のシグレちゃんと私が大切な友達であることに変わりはない、って。」
「シグレちゃん、私はもうほとんど何も信じられないけど」
「今言ったことだけは、きっと永遠だよ」
君は振り向いて言った。
「もちろん」
太陽を移す液晶のほうから、黒い部屋に光が差していた。