僕のヒーローアカデミア -DBLEGENDS- 作:熱いおゆ
コスチュームに袖を通し終えたアキトは、更衣室の鏡に映る自分の姿を見つめた。
濃紺のボディスーツに、要所を覆うしなやかなプロテクター。ベジータの戦闘服を彷彿とさせる洗練されたシルエットに、この世界のヒーロースーツらしい機能美が完璧に調和している。
左胸にはカプセルコーポレーションの「CC」の銀刻印、右太ももには「Bulma Special」の繊細な刺繍――あの天才科学者の誇りと悪戯心が詰まった一着だ。
「……悪くない。いや、完璧だ」
装甲の重みをほとんど感じさせない驚異的な軽さに、腕を振るたびに静かな高揚感が込み上げてくる。
男子更衣室を出ると、廊下や出入口付近ですでに着替えを終えた生徒たちが集まり、互いの格好を見合わせながら盛り上がっていた。
「うおっ! 星宮、お前そのスーツめちゃくちゃ格好いいじゃん!」
声をかけてきたのは、赤髪をツンツンに逆立て、男らしいプロテクターを纏った切島鋭児郎だった。上鳴電気も目を輝かせて寄ってくる。
「マジだ、シンプルなのに洗練されててすげえプロっぽい! その左胸のロゴマークと太ももの刺繍、どこかのブランドか?」
「ああ……知り合いの凄腕の技術者に頼んで作ってもらったんだ。軽くて動きやすくて助かってる」
「へぇー! 特注かよ、羨ましいな! 俺なんて見てくれよ、上着なしの男らしさ一本勝負だぜ!」
切島が拳を握ってポーズを決め、上鳴が「ただの露出狂じゃねえか!」と突っ込む。
そこへ、女子側の更衣室からお茶子や八百万たちが歩いてきた。お茶子は宇宙服のようなピンクと黒のスーツに身を包み、両手で顔を覆いながら身を縮めている。
「あ、デクくん……! 星宮くん! すごい格好いいスーツだね! 本当にプロのヒーローみたい!」
お茶子の視線に気づいた出久が、オールマイトの前髪を意識したような長い耳がついた、緑色の手作りスーツ姿でびくりと肩を揺らした。
「う、麗日さん! ……あ、ありがとう、麗日さんもすごく似合ってるよ!」
「うう〜……要望書ちゃんと書けば良かったよ……! パツパツになっちゃった……恥ずかしい……!」
頬を真っ赤にしてへにょりと眉を八の字にするお茶子に、出久は顔を真っ赤にしておどおどと目を泳がせた。
その様子を、アキトは苦笑いを浮かべながら見守る。
「で、デクくん……! オールマイト好きが全身から溢れ出てるよ!」
「うわぁあ、お茶子ちゃん! 星宮くん! その、僕のコスチューム……変じゃないかな!?」
「変じゃないさ。自分の憧れがはっきり伝わってくる、いいスーツだと思うぞ」
「星宮くん……! ありがとう……!」
顔を真っ赤にしていた出久だったが、アキトのスーツに視線を走らせると、一瞬で目を輝かせてオタク分析モードに入った。
「そ、それより星宮くん! そのスーツ、素材の質感が凄まじいね……! 表面の装甲は軽量化されてるのに、関節部分の伸縮性が高くて可動域を全く殺してない……! もしかして、召喚した時の強い衝撃や反動に耐えられるように、特殊な衝撃緩和処理がされてるのかな!?」
畳みかける出久の質問に、アキトは思わずブルマの得意げな顔を思い出して苦笑した。
「ああ、鋭いな緑谷。動きやすさを一番に考えて、並の衝撃ならいなせるように特注で作ってもらったんだ。可動域もしっかり確保されてるよ」
「す、すごいや……! デザイン性だけじゃなくて、星宮くんの戦い方に完璧に特化してるんだね……!」
出久が感心してノートを取り出しかけたその時、品のある声が響いた。
「皆様、それぞれの個性が存分に反映された素晴らしい衣装ですわね」
露出度の高い赤と白のスーツを纏った八百万百が歩み寄ってくる。
「『創造』の個性を効率よく使うためには皮膚の露出が必要不可欠ですの」
と堂々と説明する彼女の横を、フルアーマーのようなエンジン装備を纏った飯田が、
「うむ! ヒーローとしての第一歩、まさに身が引き締まる思いだ!」
と腕をカシャカシャ振りながら通り過ぎていった。
巨大な模擬市街地が広がる『グラウンドβ』へ到着すると、仁王立ちしたオールマイトが、溢れんばかりの笑顔で朗々と声を張り上げた。
「――始めようか有精卵共!! 戦闘訓練のお時間だ!!」
「格好から入るのも大切なことだぞ少年少女! なぜなら今日から君たちは――ヒーローの卵なのだからな!!」
クラス全員のテンションが一気に跳ね上がる。
「さあ! 今日は『屋内対人戦闘訓練』だ! ヒーローと言えばヴィランとの戦闘! 二人一組(コンビ)に分かれ、屋内での『ヒーロー役』と『ヴィラン役』に分かれて戦ってもらう!」
ルール説明が始まると、間髪入れずに生徒たちから質問の嵐が飛んだ。
「屋内での器物破損のペナルティは!?」
「勝敗の判定はどうつけるの!?」
「やっぱり最下位は除籍でしょうか!?」
一斉に飛び交う矢継ぎ早の質問に、オールマイトはタジタジになりながら冷や汗を流した。
気を取り直すようにゴホンと大げさに咳払いを一つすると、ポケットからカンペ用紙を取り出し、堂々と説明を再開した。
「ヴィラン役はアジト内に設置された『核兵器(の模型)』を守り抜くか、時間内にヒーローを制圧すれば勝ち! ヒーロー役は核の回収、またはヴィランの制圧で勝ちだ!」
説明が一巡したところで、ふと周囲を見回していた上鳴が首を傾げて声を上げた。
「……そういえばさ、俺たちって……21人いねえ?」
「え? ほんとだ、21人いるぞ」
「あれ? 1クラス20人じゃなかったっけ……?」
あちこちから疑問の声が上がり、生徒たちの視線が一斉にオールマイトへと集まる。
(確か募集要項にも1クラス20人と書かれていたはずなんだが、今この場にいる生徒は21人。通常より1人多い。昨日から余裕がなさすぎて言及できなかったが、俺が加わったことで1人増えてるんだな……)
疑問に答えてほしい全員からの視線を浴び、オールマイトは一瞬気まずそうに豪快な頭をポリポリとかいた。
「え、えっとね! 実は今回の一般入試、境界線上で【3人】が筆記と実技を含めて全くの同点になっちゃってね! 教師陣でも対応に頭を抱えたのだが……校長が『これも何かの縁、3人とも全員合格でいいじゃないか!』と決断されたのだ!」
「いいんすかそれ!?」
「いつもなら絞るのだが、今回は筆記まで含めてあまりに綺麗に同率だったものだからね……」
(……そりゃ悩むわ。あの実技試験と筆記試験を含めてまったく同じ点数なんてそうそうないだろうしな。そりゃ校長も全員合格にするか)
納得するアキトたちに、オールマイトはカンペ用紙をかざしてポンと手を叩いた。
「というわけで! コンビ、及び対戦相手はクジで決める! あ、一組だけ3人チームになるが、その場合は2人が捕縛テープで確保された時点で負けだからね!」
からからとくじ引きの箱が回され、次々と組み合わせが決まっていく。
――Aチーム(ヒーロー役):緑谷出久 & 麗日お茶子
――Dチーム(ヴィラン役):爆豪勝己 & 飯田天哉
その組み合わせが発表された瞬間、空間全体の緊張感が一気に跳ね上がった。
窓際で朱色の目をギラつかせる爆豪が、出久を射殺さんばかりの鋭い視線で見下ろす。
出久は震える拳を強く握り締め、真っ直ぐにその視線を受け止めていた。
(……来たな。デクと爆豪の因縁の対決だ)
息を呑むアキトの前に、オールマイトがくじ箱を差し出す。
アキトが引き当てた紙には『Fチーム』の文字があった。
――Fチーム(3人チーム):星宮アキト & 八百万百 & 尾白猿夫
――Bチーム:轟焦凍 & 障子目蔵
(俺のチームは八百万と尾白の3人チームか……! そして相手は、轟と障子のBチーム……!)
「星宮さん、尾白さん、よろしくお願いしますわ」
「ああ、よろしく八百万、尾白。3人チームとはいえ相手は轟と障子だ。作戦をしっかり練ろう」
「うん、よろしく! 2人捉えられたら負けだから、連携が肝心だな」
尾白が爽やかに微笑みながら頷く。
対戦表を見つめていた爆豪が、アキトの横を通り過ぎざま、低く濁った声で吐き捨てていった。
「チッ……星宮、テメーとの決着は後回しだ。まずはあのクソデクを叩き潰す」
「……あいつをあんまり舐めない方がいいぞ、爆豪」
アキトの言葉に、爆豪は不快そうに牙を剥いて立ち去った。
「第一試合は……Aチーム(ヒーロー)対Dチーム(ヴィラン)だ! 他の者はモニター室へ移動!!」
オールマイトの号令が響く。
出久がお茶子と共にビルへと向かう直前、アキトは出久の肩をぽんと叩いた。
「緑谷」
「星宮くん……!」
「……自分を信じて行ってこい。お前ならやれる」
出久は一瞬目を見開き、そして力強く頷いた。
「――うん! 行ってくる!」
暗いビルの入り口へと吸い込まれていく出久の背中を見送りながら、アキトは仲間たちと共にモニター室へと向かった。
(第一試合……デクと爆豪の全力の激突。そしてその次は、俺たちの番だ)
胸の中でシャロットが不敵に鼻を鳴らす気配を感じながら、アキトは壁一面に並んだモニターを見つめた。
話のテンポ遅いかな?