マブラヴ・カーストルーム   作:EXTERMINATION

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第34話 東京湾最終防衛戦

午前五時四十九分。

 

東京湾中央の海面は、

巨大な何かが下から押し上げているかのように盛り上がり、

周囲へ幾重もの波紋を広げていた。

 

やがて海水の膨張が限界に達すると、轟音とともに海が左右へ割れ、

その中央から塔のような黒い構造体が姿を現した。

 

それは人工物ではなかった。

 

無数の有機組織が絡み合い、岩盤や地下水をまとったまま垂直に伸びている。

 

表面には赤黒い光を放つ亀裂が走り、内部で何かが脈打つたび、

巨大な構造体全体が呼吸するように膨張と収縮を繰り返していた。

 

東京ハイヴの中枢。

 

人類が地下へ潜り、破壊しようとしていた存在が、

今度は自ら地上へ現れようとしている。

 

中枢に続き、白い外殻を持つ統率級が海中から次々と姿を見せた。

 

幅広い胴体から伸びた複数の肢体が海底へ触れるたびに海面が沈み、

その反動で数十メートル級の波が生まれて艦隊へ押し寄せる。

 

最前線に展開していた護衛艦や輸送艦は、すでに後退を始めていた。

 

それでも、中枢の上昇によって発生した海流は軍の予測を大きく上回り、

数千トンの艦体を横から押し流していく。

 

『全艦、船首を波へ向けろ!』

 

海上艦隊指揮官の命令が飛ぶ。

 

護衛艦が艦首を旋回させ、正面から波を受ける姿勢へ移行する。

 

同時に複数の主砲塔が中枢へ向けられたが、まだ砲撃命令は下りなかった。

 

人工島西側の地下には、候補生第一隊を含む多数の戦術機が残っている。

 

ここで中枢へ大口径砲撃を行えば、

衝撃が東京湾地下へ伝わり、撤退路そのものを崩壊させる危険があった。

 

第一作戦管制室では、坂柳理事長が海上と地下、

二つの戦場を同時に見つめていた。

 

画面の一方には、地表へ上昇する中枢構造体。

 

もう一方には、人工島西側の浅層出口を目指している

地下部隊の反応が映し出されている。

 

地下部隊が地上へ到達するまで、推定三分。

 

中枢が完全に露出するまで、推定四分。

 

差は、わずか一分だった。

 

「海上艦隊は砲撃待機を継続してください」

 

坂柳理事長が命じると、統合司令部の参謀が険しい表情で振り返った。

 

「中枢の露出が進んでいます。このままでは光線級も地上へ展開します」

 

「承知しています」

 

「今のうちに本体へ砲撃すべきです」

 

「地下には、まだ多くの部隊が残っています」

 

坂柳理事長の声は穏やかだった。

 

しかし、譲る意思はない。

 

「人が残っている場所へは撃ちません」

 

参謀は何か言おうとしたが、結局その言葉を飲み込んだ。

 

戦術的に正しいかどうかだけの問題ではない。

 

これは、高度育成衛士高等学校司令官としての決定だった。

 

坂柳有栖が中枢周辺の反応を拡大する。

 

「地上へ出た統率級は現在三体。海中にも少なくとも二体が残っています」

 

ひよりは地中観測データを確認していた。

 

「中枢本体の下には、まだ巨大な空洞があります。

地下に残ったBETAが基部を支えているようです」

 

候補生第一隊の回線から、龍園の声が入る。

 

『つまり、地上へ出てきた部分だけ壊しても終わらねぇってことか』

 

「はい」

 

ひよりは答える。

 

「地下基部が残る限り、中枢は活動を維持する可能性があります」

 

高円寺も状況を理解した。

 

『地上部分、地下基部、そして周囲を守る統率級。

少なくとも三つを同時に崩す必要があるわけだね』

 

天衝作戦の地上決戦は、中枢へ艦砲射撃を集中させるだけでは終わらない。

 

地下基部へ爆薬を設置し、地上へ露出した外殻を破壊し、

周囲の統率級と光線級も排除する。

 

そのすべてを実行しなければ、中枢を完全には止められない。

 

だが、その判断を下す前に。

 

まず地下部隊を戻さなければならなかった。

 

午前五時五十分。

 

人工島西側浅層出口では、葛城を中心とする候補生第二隊が、

帰還路を守るために戦闘を続けていた。

 

戦車級の群れ。

 

要撃級。

 

さらに浅層奥には光線級の反応も残っている。

 

出口は元々、戦術機二機が並べるほどの幅があった。

 

しかし、連続する戦闘と崩落によって通路は狭まり、

現在は一機半ほどの空間しか残っていない。

 

橋本の機体は、もう戻らない。

 

軽井沢の機体も、深い亀裂の底へ消えたままだ。

 

その場所を通過するたび、候補生たちの意識には、誰も口に出せないものが残った。

 

神室は左腕を失った吹雪で、出口右側の射線を維持していた。

 

左肩部は中破し、頭部センサーも一部が機能していない。

 

それでも、残された右腕で突撃砲を構え、

近づいてくる戦車級へ正確な射撃を続けている。

 

伊吹が神室の横へ機体を並べた。

 

『下がりなさい』

 

『まだ敵がいる』

 

『そんなことは見れば分かる』

 

『なら撃って』

 

神室の短い返答に、伊吹は舌打ちしながら引き金を引いた。

 

石崎とアルベルトも加わり、四機で出口周辺を押さえる。

 

葛城は後方から全体へ指示した。

 

『候補生第二隊は、第一隊の到着後に順次地上へ移動する。

神室、最後尾へ残るな』

 

神室はすぐには返事をしなかった。

 

橋本が最後まで守り続けた通信位置。

 

自分がそこを離れれば、また誰かが見えない場所を抱えることになる。

 

そんな思いが、神室を出口の外へ留まらせていた。

 

坂柳有栖が管制から声をかける。

 

『真澄さん』

 

『聞こえてる』

 

『橋本くんが担当していた情報支援は、こちらで引き継いでいます』

 

神室は黙る。

 

『だから、あなたは戻ってください』

 

しばらくして、神室は小さく答えた。

 

『……分かった』

 

橋本なら、何と言っただろう。

 

おそらく、格好をつけるな。

 

早く戻れ。

 

そんな軽口を叩いたに違いない。

 

神室は機体を反転させ、伊吹たちとともに出口へ向かい始める。

 

一人で残らない。

 

それが、橋本の役割を引き継ぐということでもあった。

 

同じ頃、候補生第一隊も最後の上り斜面へ近づいていた。

 

平田は軽井沢を失ってから、一度も自分から通信を開いていない。

 

機体は動いている。

 

正規軍の損傷機を支え、隊列を維持し、命令にも従っている。

 

だが、声だけが消えていた。

 

一之瀬は左側を進み、時折平田へ呼びかけていた。

 

『平田くん』

 

返事はない。

 

それでも一之瀬は離れず、一定の距離を保ったまま隣を進み続ける。

 

神崎が平田機の速度変化に気づいた。

 

『平田、速度を落とせ』

 

返答はない。

 

平田機は、前を進む正規軍機へ近づきすぎている。

 

『平田!』

 

神崎が強く呼ぶ。

 

ようやく平田が反応した。

 

『……何』

 

『前を見ろ。機体間隔が狭すぎる』

 

平田は正面を確認し、慌てて速度を落とした。

 

あと一歩で、前方機へ接触するところだった。

 

『ごめん』

 

『謝るな』

 

神崎は厳しい声で言った。

 

『軽井沢が空けた道を、最後まで使え』

 

平田機が僅かに揺れた。

 

軽井沢が命を懸けて作った帰還路。

 

ここで平田が立ち止まれば、その選択を無駄にする。

 

『……分かってる』

 

今度は、はっきりと返した。

 

神崎自身も、橋本を失っている。

 

それでも彼は情報を確認し、仲間を前へ進ませていた。

 

悲しんでいないわけではない。

 

ただ、今は後回しにしている。

 

全員を地上へ返すために。

 

午前五時五十一分。

 

東京湾中央では、中枢構造体の上部がほぼ完全に海面へ露出した。

 

推定高度は三百メートル以上。

 

海底から続く基部を含めれば、その全長はさらに大きい。

 

表面にはハイヴ内部で確認された有機壁面と同じ組織が幾重にも重なり、

その隙間を高温の液体が移動している。

 

内部が脈動するたび、中枢全体がわずかに震え、海面へ重い波を送り出していた。

 

三体の統率級が、中枢を囲むように配置される。

 

北。

 

東。

 

西。

 

残る個体は海中へ留まり、地上へ出た個体を下から支えている。

 

さらに中枢表面の複数箇所で、光線級の赤い発光が始まった。

 

『光線級、照射準備!』

 

海上艦隊が警告を発する。

 

重金属雲が海面へ散布され、灰色の粒子が中枢周辺を覆っていく。

 

無人偵察機は上空へ退避しようとしたが、光線級の照射は早かった。

 

赤い閃光が雲を切り裂き、複数の偵察機が一瞬で機能を失う。

 

そのうち一機は翼を焼かれ、回転しながら海面へ落ちていった。

 

「重金属雲を追加散布してください」

 

坂柳理事長が命じる。

 

「艦隊は光線級に限定して精密砲撃。本体への攻撃は禁止します」

 

護衛艦の小口径砲が発射される。

 

着弾点を中枢表面の光線級だけに限定した砲撃が、

海面と有機外殻の上で連続して爆発した。

 

一体の反応が消える。

 

しかし、別の砲弾は統率級の白い外殻に遮られ、浅い傷をつけただけで弾かれた。

 

統率級の中央にある赤い孔が大きく開く。

 

次の瞬間、高温の蒸気と有機液体を混ぜた衝撃波が海上へ放たれた。

 

護衛艦一隻が直撃を避けたものの、

衝撃を受けて大きく傾き、甲板上の乗員が倒れる。

 

『第六護衛艦、推進器一基停止!』

 

『後退させろ!別艦が射線を引き継げ!』

 

海上では、地下部隊を待ちながらも戦闘が始まっていた。

 

午前五時五十二分。

 

人工島西側出口から、最初の正規軍機が地上へ姿を現した。

 

一機。

 

二機。

 

その後ろからは、牽引されている損傷機が続く。

 

地上で待機していた整備班と医療班が、すぐに受け入れ態勢へ移る。

 

候補生第二隊も、少しずつ出口へ下がり始めた。

 

葛城。

 

アルベルト。

 

伊吹。

 

石崎。

 

櫛田。

 

そして神室。

 

神室機が出口の直前まで来た時、地下側から新たな要撃級が現れた。

 

正規軍後衛の射撃で一体は止められたが、

二体目は砲火を受けながらも前進を続ける。

 

その先には、候補生第一隊と教導隊がいる。

 

神室は反射的に振り返った。

 

伊吹がすぐに止める。

 

『行くな』

 

『行かない』

 

神室は出口横に射撃位置を取った。

 

『ここから撃つ』

 

伊吹も並ぶ。

 

石崎とアルベルトも加わり、四機で要撃級の脚部へ火力を集中させる。

 

神室は片腕しか使えず、照準が僅かに揺れていた。

 

かつてなら、橋本が死角と敵位置を伝えていた。

 

だが、その声はもう聞こえない。

 

代わりに坂柳有栖が管制から補助する。

 

『真澄さん、右へ二度』

 

神室は機体を修正。

 

『今です』

 

引き金を引く。

 

砲弾が要撃級の脚部へ命中し、伊吹、石崎、アルベルトの射撃も同じ場所へ重なる。

 

巨体が出口脇へ倒れ、帰還路を塞がない位置で動きを止めた。

 

神室は、小さく呟く。

 

『今度は邪魔にならなかった』

 

橋本へ向けた言葉だったのかもしれない。

 

坂柳有栖だけが、その声を聞いていた。

 

『ええ。完璧でした』

 

『そう』

 

神室は短く答え、ようやく地上へ向かった。

 

その後ろから、候補生第一隊が姿を現す。

 

須藤。

 

高円寺。

 

龍園。

 

宝泉。

 

七瀬。

 

天沢。

 

八神。

 

堀北。

 

オレ。

 

平田。

 

一之瀬。

 

神崎。

 

十二機すべて。

 

続いて教導隊と正規軍後衛も上がってくる。

 

茶柱。

 

坂上。

 

星之宮。

 

真嶋。

 

そして、最後尾を守っていたサムライ3。

 

サムライ3が斜面を上がる直前、地下奥から統率級の肢体が伸びてきた。

 

白い外殻。

 

開き始める赤い孔。

 

茶柱の声が飛ぶ。

 

『全機、集中射撃!』

 

候補生と正規軍が同時に撃つ。

 

赤い孔へ無数の砲弾が入り込み、内部で爆発した。

 

統率級の肢体が痙攣するように止まり、その隙にサムライ3が地上へ飛び出す。

 

全地下部隊の帰還。

 

それが確認されると、坂柳理事長は即座に命じた。

 

「西側出口を封鎖してください」

 

工兵隊が設置していた爆薬が起動する。

 

地上部隊が後退した直後、

出口周辺の岩盤と鋼材が大爆発を起こし、斜面全体が内側へ崩れた。

 

地下から上がろうとしていた統率級の反応は残っている。

 

だが、進路は完全に閉ざされた。

 

これで地下撤退戦は終わる。

 

そして、東京湾での最終決戦が始まる。

 

午前五時五十四分。

 

東の空が僅かに白み始めていた。

 

夜明け。

 

だが、東京湾中央は黒い中枢と赤い光、

そして立ち上る爆煙によって朝の色を失っていた。

 

北迎撃隊。

 

南迎撃隊。

 

西迎撃隊。

 

人工島防衛部隊。

 

候補生部隊。

 

海上艦隊。

 

人類側のすべての戦力が、中枢を囲むように展開する。

 

坂柳理事長の声が全回線へ流れた。

 

「中枢構造体は、東京湾中央の無人海域へ誘導されました」

 

「地下部隊の帰還も確認しています」

 

「これより、中枢本体への総攻撃を開始します」

 

第一目標は光線級。

 

第二目標は統率級。

 

第三目標は中枢外殻。

 

そして周囲を確保した後、地下基部へ爆薬を設置する。

 

「全軍、攻撃開始」

 

海上艦隊の主砲が一斉に火を噴いた。

 

轟音が東京湾全体を揺らし、

砲弾が光線級、統率級、中枢外殻へ次々と着弾する。

 

爆炎と水柱が重なり、海面は一瞬で炎の戦場へ変わった。

 

最初に光線級陣地が吹き飛んだ。

 

数発の徹甲砲弾が海底付近へ突き刺さり、

次の瞬間、巨大な爆発が連続して発生する。

 

赤黒い肉片と外殻が空高く吹き上がった。

 

統率級の群れも無事では済まない。

 

戦艦から放たれた大口径砲弾が直撃し、

巨体の半身を消し飛ばされた統率級が海中へ崩れ落ちる。

 

さらに巡洋艦隊の集中砲火が続いた。

 

砲弾は夜明け前の空を白い軌跡となって切り裂き、

次々とBETA群の中心へ降り注ぐ。

 

一発目の着弾で海面が爆発したように盛り上がり、

数十メートル級の水柱が空へ噴き上がった。

 

続く砲弾は統率級の足元へ直撃し、凄まじい爆炎と共に外殻を吹き飛ばす。

 

衝撃波は周囲の戦車級をまとめて薙ぎ払い、

砕けた装甲片と有機組織が炎の中へ舞い上がった。

 

さらに第三射、第四射が間髪入れず着弾し、

海面そのものが沸騰したかのように赤く染まる。

 

二次爆発、三次爆発、四次爆発、五次爆発。

 

連続する大爆発の閃光が夜を昼へ変え、

無数のBETAが灼熱の火炎と衝撃波の中へ呑み込まれていく。

 

中枢構造体の外殻にも次々と砲弾が叩き込まれた。

 

巨大な有機装甲が裂け、

内部から赤い体液と白い蒸気が噴き出す。

 

爆炎は幾重にも重なり、まるで東京湾そのものが燃え上がったかのようだった。

 

それでも砲撃は止まらない。

 

戦艦、巡洋艦、駆逐艦。

 

全艦が持てる火力を解き放つ。

 

無数の砲弾が空を埋め尽くし、海上は絶え間ない閃光で昼のように明るく染まった。

 

BETAの群れは次々と吹き飛ばされ、灼熱の爆炎と砕けた外殻の中へ消えていく。

 

それは人類が東京を取り戻すために放った、総力戦の咆哮そのものだった。

 

戦術機部隊も跳躍ユニットを噴射し、重金属雲の中を低空で進む。

 

候補生第一隊は、地下から戻ったばかりだった。

 

弾薬は減っている。

 

機体も疲弊している。

 

平田は軽井沢を失い、一之瀬はまだ神崎の隣を飛んでいる。

 

それでも、誰も戦列から外れなかった。

 

須藤が前方を見ながら言う。

 

『休む暇もねぇな』

 

高円寺が答える。

 

『これが最後なら、後でいくらでも休める』

 

龍園。

 

『終わらせればな』

 

宝泉。

 

『なら早く壊すぞ』

 

堀北は冷静に全体を見ていた。

 

『隊形を崩さないで。候補生第一隊は西側支援。

正規軍前衛の射線を塞がないように』

 

神崎が機体状態を確認する。

 

『第一隊弾薬残量、平均四十一パーセント』

 

八神。

 

『通信中継器の予備はありません』

 

七瀬。

 

『救援装備は残っています』

 

天沢。

 

『百二十ミリは一発』

 

「十分だ」

 

オレは答えた。

 

候補生第一隊は正規軍の後方から西側へ展開する。

 

前方では、統率級一体と正規軍が交戦していた。

 

砲弾を受けても白い外殻は崩れず、赤い孔が開くたびに高温蒸気を放とうとする。

 

須藤と高円寺が左側。

 

龍園と宝泉が右側。

 

七瀬と天沢がそれぞれ補助し、開口部へ火力を集中させる。

 

統率級の動きが鈍る。

 

だがその背後の海面が盛り上がり、二体目の統率級が姿を現した。

 

光線級もまだ残っている。

 

重金属雲が薄くなり始め、艦隊の被害も増えている。

 

坂柳有栖が状況を整理する。

 

『光線級を減らさなければ、軌道支援の誘導機を近づけられません』

 

参謀が答える。

 

「地上座標だけで攻撃できる」

 

ひよりが否定した。

 

「中枢基部の位置が移動しています。誘導信号なしでは誤差が大きすぎます」

 

中枢は海上へ露出しているが、地下基部は海底で動いている。

 

軌道支援を正確に直撃させるためには、

有人機が中枢へ接近し、誘導装置を設置する必要がある。

 

正規軍航空隊の三機が挑戦した。

 

一機は光線級の照射を避ける。

 

二機目は跳躍ユニットを焼かれ、海面へ落下しながら搭乗者を射出する。

 

三機目は誘導装置を投下したが、

統率級の蒸気攻撃によって装置ごと吹き飛ばされた。

 

失敗。

 

茶柱が教導隊回線を開く。

 

『教導隊が行きます』

 

堀北が反応する。

 

『先生』

 

『今度は戻る』

 

星之宮が苦笑する。

 

『ずいぶん約束が増えたね』

 

坂上。

 

『四機で中枢へ接近する』

 

真嶋。

 

『誘導装置と予備爆薬を積む』

 

だが、中枢西側には二体の統率級が立ちはだかっている。

 

正規軍の火力だけでは、教導隊を通すための道を作れない。

 

「候補生第一隊が統率級を左右へ誘導する」

 

オレが告げると、茶柱がすぐに止めた。

 

『待て。お前たちは支援部隊だ』

 

「教導隊を中枢へ通すための支援です」

 

茶柱は一瞬黙った。

 

堀北が部隊を分ける。

 

『第一班は左側の個体。第二班は右。

第三班は中央後方を維持して、教導隊の通路を守って』

 

左側。

 

オレ。

 

須藤。

 

高円寺。

 

堀北。

 

右側。

 

龍園。

 

平田。

 

一之瀬。

 

神崎。

 

中央。

 

宝泉。

 

七瀬。

 

天沢。

 

八神。

 

第一班は左の統率級の右側へ射撃を集中させ、少しずつ外側へ進路を変えさせる。

 

第二班は反対から右側個体を押す。

 

統率級を倒す必要はない。

 

中央の道を開ければいい。

 

平田は軽井沢を失った直後だった。

 

それでも、一之瀬と並び、龍園の死角へ入ろうとする戦車級を排除している。

 

神崎は敵位置を送り続ける。

 

龍園が撃つ。

 

平田が補う。

 

一之瀬が回収経路を確保する。

 

少しずつ。

 

中枢正面に一本の道が開いた。

 

『教導隊、行け!』

 

須藤が叫ぶ。

 

茶柱。

 

坂上。

 

星之宮。

 

真嶋。

 

四機が中央を突破する。

 

統率級の肢体が教導隊へ伸びるたび、

候補生と正規軍が射撃を集中させ、その軌道を逸らした。

 

宝泉は前へ出すぎず、中継を担当する八神と教導隊の間を守る。

 

戦車級が中央へ流れ込む。

 

宝泉が撃つ。

 

七瀬が左側を補い、天沢が右から回り込む要撃級を引きつける。

 

『八神、教導隊の位置を切らすな』

 

『分かっています』

 

教導隊四機は中枢表面へ着地した。

 

足元の有機組織は生きている。

 

脈動するたびに機体が揺れ、表面の亀裂から高温の蒸気が噴き出す。

 

茶柱と真嶋は誘導装置と爆薬を固定する。

 

坂上と星之宮は、上部に残っていた光線級へ向かった。

 

『設置地点を確認』

 

真嶋が中枢外殻の裂け目を見る。

 

『ここなら内部へ爆圧が入る』

 

茶柱。

 

『固定開始』

 

作業アームが伸び、誘導装置を外殻へ押し込む。

 

その間にも光線級が照射準備へ入った。

 

星之宮が射撃しながら注意を引き、坂上が側面から接近する。

 

赤い閃光。

 

星之宮機の左脚を僅かに掠める。

 

警告。

 

それでも機体は止まらない。

 

坂上機が長刀で光線級の発光部へ斬撃を入れ、

星之宮が至近距離から砲撃した。

 

光線級の反応が消える。

 

『一体排除!』

 

茶柱。

 

『誘導装置、設置完了』

 

真嶋。

 

『予備爆薬も固定した』

 

神崎が教導隊から送られる信号を確認する。

 

『誘導信号、受信』

 

八神も端末へ表示された波形を見る。

 

『こちらも確認しました』

 

だが次の瞬間、中枢が強く脈動し、通信波が乱れた。

 

誘導信号が弱くなる。

 

坂柳有栖。

 

『信号強度が低下しています』

 

神崎。

 

『中枢から強い電磁干渉が出ています』

 

八神。

 

『中継器がなければ、軌道側まで信号を維持できません』

 

予備中継器はない。

 

地下へ置いてきたものも回収できない。

 

中枢と地上管制の間に立ち、戦術機そのものを中継器として使うしかない。

 

神崎が迷わず言った。

 

『俺が中継します』

 

一之瀬がすぐに反応した。

 

『神崎くん?』

 

『機体通信出力を最大にする』

 

八神。

 

『通常機では出力が足りません』

 

『中枢へ近づけば届く』

 

龍園が神崎を見る。

 

『近づきすぎだ』

 

『他に方法はない』

 

坂柳理事長は制止する。

 

「神崎くん。これは命令ではありません。別の方法を探します」

 

『時間がありません』

 

軌道支援可能時間は、残り二分。

 

中枢の活動は止まっていない。

 

候補生隊の弾薬も減っている。

 

これ以上地上戦が長引けば、人工島だけでなく東京湾岸全体へ被害が広がる。

 

一之瀬が前へ出ようとする。

 

『私が行く』

 

神崎が遮った。

 

『君は救援担当だ』

 

『関係ないよ』

 

『ある』

 

神崎の声が強くなる。

 

『君は戻る人を助けろ』

 

『でも』

 

『それが君の役割だ』

 

神崎は一人で決めようとしている。

 

これまで何度も否定されてきた行動。

 

だから彼は、オレへ判断を求めた。

 

『綾小路』

 

「何だ」

 

『中継がなければ軌道支援は失敗する』

 

「そうだ」

 

『他に中継できる機体は』

 

八神が答える。

 

『現時点ではありません』

 

オレは地形と敵反応を見る。

 

神崎を一人で行かせるわけにはいかない。

 

「神崎を中継位置へ移動させる」

 

一之瀬。

 

『綾小路くん!』

 

「護衛を一機つける」

 

神崎。

 

『必要ない』

 

「命令だ」

 

一之瀬が言う。

 

『私が行く』

 

だが神崎が拒む。

 

『君は駄目だ』

 

オレは別の名を呼ぶ。

 

「龍園」

 

短い沈黙。

 

『……了解』

 

神崎と龍園の二機が、中枢下部へ向かう。

 

統率級の間を抜け、海面から突き出た高い瓦礫へ上がる。

 

神崎機が通信出力を最大にする。

 

八神。

 

『信号接続』

 

坂柳有栖。

 

『軌道誘導信号、回復しました!』

 

神崎。

 

『この位置で維持します』

 

龍園は瓦礫の下で、接近する戦車級と要撃級を撃ち続ける。

 

神崎は動けない。

 

位置がずれれば信号が切れる。

 

統率級一体が神崎へ進路を変えた。

 

龍園が脚部へ砲撃を集中させるが、白い外殻は止まらない。

 

須藤と高円寺も遠方から支援する。

 

宝泉は残っていた百二十ミリ弾を、統率級の赤い孔へ撃ち込んだ。

 

大爆発。

 

統率級の動きが一度止まる。

 

軌道支援の照準が進む。

 

残り三十秒。

 

茶柱たちは中枢表面から離脱を始めている。

 

『神崎、下がれ』

 

茶柱が言う。

 

『あと二十秒です』

 

龍園。

 

『俺が残る。お前は行け』

 

『お前は下がれ』

 

『命令すんな』

 

『候補生隊全体を動かせるのは、お前だ』

 

龍園は反論する。

 

『綾小路がいる』

 

『一之瀬もいる』

 

『だからって、お前が残る理由にはならねぇ』

 

その時、神崎の背後の海面が盛り上がった。

 

新たな統率級。

 

白い外殻を持つ巨体が、神崎機のすぐ近くへ上がってくる。

 

ひよりが叫ぶ。

 

『神崎くん、後方です!』

 

龍園が機体を跳躍させる。

 

だが神崎が叫んだ。

 

『来るな!』

 

龍園は止まらない。

 

『龍園!』

 

これまでにない強い声。

 

『戻れ!』

 

龍園機の動きが、僅かに止まった。

 

神崎は続ける。

 

『一之瀬を頼む』

 

『お前が自分で言え』

 

『時間がない』

 

軌道支援まで五秒。

 

統率級の肢体が持ち上がる。

 

一之瀬の声。

 

『神崎くん、動いて!』

 

神崎は信号を維持したまま答えた。

 

『動けば誘導が切れる』

 

三秒。

 

二秒。

 

一秒。

 

『誘導完了!』

 

神崎の声と同時に、坂柳理事長が命じる。

 

「軌道支援、実行」

 

雲の上から、一筋の巨大な光が落ちた。

 

東京湾中央。

 

中枢上部へ直撃する。

 

視界が白く染まり、海面と空が一つの光へ飲み込まれた。

 

衝撃波が人類側の戦術機を吹き飛ばし、龍園機も瓦礫の上から押し流される。

 

神崎機の反応は、光の中で消えた。

 

直接の瞬間を見た者はいない。

 

ただ、誘導信号だけは。

 

最後まで途切れなかった。

 

軌道支援は中枢外殻を大きく裂き、教導隊が設置した爆薬も内部で誘爆した。

 

巨大な爆発が中枢上部を崩壊させる。

 

人類側から歓声は上がらなかった。

 

一之瀬は言葉を失ったまま、神崎の反応があった場所を見つめている。

 

吹き飛ばされた龍園機が立ち上がる。

 

装甲は損傷している。

 

だが、動ける。

 

一之瀬が震える声で尋ねた。

 

『神崎くんは……』

 

龍園は長く黙った。

 

そして。

 

『……信号を通した』

 

それ以上は言えなかった。

 

一之瀬も返せない。

 

平田が彼女の隣へ機体を寄せた。

 

自分も軽井沢を失っている。

 

それでも。

 

『前を見よう』

 

一之瀬は息を整える。

 

『……うん』

 

今度は、平田が一之瀬を支えた。

 

軌道支援を受けた中枢構造体は、上部を大きく破壊されている。

 

だが、地下基部はまだ生きていた。

 

巨大な構造体が西側。

 

人工島の方向へ傾き始める。

 

坂柳有栖が警告する。

 

『中枢倒壊方向は西です!』

 

このままでは、人工島と学校が直撃を受ける。

 

坂柳理事長。

 

「全軍、中枢西側から離脱!」

 

「海上艦隊は基部へ集中砲撃!」

 

中枢を支える地下基部を破壊し、倒れる方向を変える。

 

海上艦隊の主砲が火を噴く。

 

正規軍と候補生も残る弾薬を基部へ集中させる。

 

しかし、残っていた統率級三体が外殻を盾にし、砲弾を受け止めた。

 

教導隊が戻る。

 

茶柱たちが一体の統率級へ接近し、関節へ砲撃と斬撃を集中させる。

 

須藤。

 

高円寺。

 

龍園。

 

宝泉。

 

一之瀬。

 

平田。

 

七瀬。

 

天沢。

 

八神。

 

堀北。

 

オレ。

 

候補生第一隊も支援する。

 

その間に、浅層側から神室たちが地上戦へ合流した。

 

神室機は片腕。

 

弾薬も少ない。

 

坂柳有栖が止める。

 

『神室さんは後退してください』

 

『まだ動ける』

 

『左肩部出力が限界です』

 

『右腕は動く』

 

中枢側面では、最後に残った光線級が照射準備へ入っていた。

 

これを止めなければ、艦隊は基部へ砲撃できない。

 

神室は言う。

 

『私が光線級を止める』

 

伊吹がすぐに反応した。

 

『一人で行くな』

 

神室は少しだけ間を置く。

 

橋本を失った後の自分なら、一人で向かっていたかもしれない。

 

だが。

 

『来て』

 

伊吹が驚く。

 

『石崎も』

 

『了解!』

 

アルベルトも続く。

 

『I’m with you.』

 

四機で行く。

 

神室が先頭。

 

伊吹が右。

 

石崎が後方。

 

アルベルトが要撃級への盾となる。

 

坂柳有栖が見えない左側の情報を送り続ける。

 

『前方、要撃級一体』

 

神室。

 

『伊吹は右』

 

『分かった』

 

『石崎、後方を見て』

 

『了解!』

 

『アルベルト、要撃級を押さえて』

 

『Roger』

 

アルベルトが要撃級の腕を受け止める。

 

石崎が脚部へ射撃。

 

伊吹が側面へ回る。

 

神室は光線級へ一直線に進む。

 

赤い発光。

 

照射まで八秒。

 

『神室、急いで!』

 

伊吹の声。

 

『見えてる』

 

神室は残っていた百二十ミリ弾を発射した。

 

砲弾が光線級へ直撃し、赤い発光部を吹き飛ばす。

 

照射は上空へ逸れた。

 

だが、爆風で神室機の姿勢が崩れる。

 

そこへ要撃級の腕が横から振るわれた。

 

伊吹が叫ぶ。

 

『神室!』

 

回避は間に合わない。

 

巨大な腕が吹雪へ激突し、機体を大きく弾き飛ばした。

 

神室機は海面近くへ落ち、転がるように中枢基部の近くで止まる。

 

『神室機、大破!』

 

坂柳有栖。

 

『真澄さん!』

 

神室の通信には強いノイズが混じっていた。

 

『……動かない』

 

伊吹がすぐに向かおうとする。

 

『今行く』

 

『来ないで』

 

『一人で決めるな!』

 

神室は僅かに笑った。

 

『そうだった』

 

橋本を失った後。

 

何度も言われたこと。

 

自分一人で判断しない。

 

神室は続ける。

 

『じゃあ、三人で決めて』

 

石崎。

 

『何を』

 

神室機は中枢基部のすぐ近くにある。

 

機体は大破。

 

周囲にはBETA。

 

救援へ向かえば、伊吹たちも巻き込まれる可能性が高い。

 

だが、神室機の反応炉を自爆させれば、

すでに傷ついている基部へ決定的な損傷を与えられる。

 

石崎は叫んだ。

 

『助けるに決まってるだろ!』

 

アルベルト。

 

『We can reach her.』

 

だが中枢は人工島へ倒れ続けている。

 

時間はない。

 

坂柳理事長の声。

 

「神室さん。脱出してください」

 

『脱出したら、機体は』

 

真嶋が答える。

 

『遠隔自爆できる』

 

神室。

 

『通信が不安定』

 

『手動タイマーを入れろ』

 

『脱出後に爆破する』

 

神室は一人で残る必要がない。

 

助かりながら、機体を爆破できる。

 

『分かった』

 

自爆タイマー。

 

三十秒。

 

ハッチが開き、脱出ユニットが起動する。

 

伊吹たちは接近する要撃級を止めながら、神室の回収位置へ向かう。

 

『今!』

 

伊吹の声。

 

神室の脱出ユニットが吹雪から射出される。

 

伊吹機が腕を伸ばす。

 

あと十メートル。

 

だが、中枢側から統率級の肢体が伸びてきた。

 

神室は補助噴射で横へ移動し、肢体を避ける。

 

脱出ユニットが激しく回転する。

 

伊吹機との距離。

 

あと数メートル。

 

神室が小さく呟く。

 

『橋本』

 

『そっちには行かないから』

 

少し笑うような声。

 

その直後。

 

神室機の自爆タイマーがゼロになった。

 

大爆発。

 

中枢基部のすぐそばで、吹雪の反応炉が爆発する。

 

爆炎が統率級の肢体を包み、基部外殻へ深い亀裂を走らせた。

 

衝撃波で脱出ユニットは伊吹機から遠ざかり、海面へ落ちていく。

 

『神室!』

 

伊吹が叫ぶ。

 

救難信号。

 

機体反応。

 

通信。

 

どれも戻らない。

 

直接の瞬間は、煙と海水に隠れていた。

 

だが。

 

神室の反応は消えた。

 

伊吹はその場で動けなくなった。

 

石崎が叫ぶ。

 

『伊吹!』

 

返事はない。

 

『神室が空けた方向だ!』

 

『下がるぞ!』

 

アルベルトも促す。

 

『Move!』

 

伊吹機がようやく動く。

 

一歩。

 

二歩。

 

神室が作った亀裂へ、海上艦隊の砲撃が集中する。

 

教導隊。

 

正規軍。

 

候補生。

 

残る全火力。

 

すべてが基部の同じ場所へ叩き込まれた。

 

統率級が押し退けられる。

 

中枢の傾きが変わる。

 

坂柳有栖が叫んだ。

 

『倒壊方向が変わりました!』

 

ひよりも確認する。

 

『人工島から外れます!南西の無人海域へ向かっています!』

 

神室の自爆が。

 

最後の角度を変えた。

 

午前五時五十八分。

 

中枢構造体は、人工島を外れ、東京湾南西方向へ倒れ始めた。

 

高さ三百メートルを超える巨大な構造体。

 

その質量は、人類側にも正確には測れない。

 

戦術機と艦艇が一斉に退避する。

 

中枢はゆっくりと傾きながら、

周囲の統率級、要塞級、要撃級、戦車級を巻き込んでいく。

 

海面へ叩きつけられた瞬間。

 

東京湾全体が揺れた。

 

数百メートルの水柱が立ち上がり、巨大な波が四方へ広がる。

 

艦艇は船首を向け、人工島の防潮壁では警報が鳴り響く。

 

戦術機部隊は跳躍ユニットを使って高所へ退避し、波と瓦礫を避ける。

 

候補生第一隊。

 

教導隊。

 

正規軍。

 

全機が衝撃に耐える。

 

伊吹。

 

石崎。

 

アルベルトも戻ってくる。

 

だが。

 

神室はいない。

 

神崎も。

 

橋本も。

 

軽井沢も。

 

四人は、それぞれ別の場所で。

 

最後まで自分の役割を果たした。

 

水柱が収まる。

 

中枢構造体は海面へ横たわっていた。

 

上部外殻は軌道支援で裂け、

地下基部は神室機の自爆と集中砲撃によって大きく破壊されている。

 

それでも。

 

内部の赤い光は消えない。

 

中枢はまだ脈動していた。

 

管制官が報告する。

 

「中枢反応、残存しています」

 

参謀。

 

「軌道支援第二射を」

 

坂柳有栖。

 

「誘導装置が損傷しています」

 

ひより。

 

「ですが、中枢本体は海面へ露出しました。内部へ直接入れる裂け目があります」

 

茶柱が即座に言う。

 

『教導隊が内部へ入ります』

 

真嶋。

 

『裂け目の幅は戦術機一機分』

 

坂上。

 

『内部へ爆薬を設置できる』

 

星之宮。

 

『本当に、これが最後だね』

 

坂柳理事長が制止する。

 

「待ってください」

 

教導隊は全機損傷している。

 

候補生も。

 

正規軍も。

 

全員が限界へ近い。

 

それでも。

 

中枢の脈動を止めなければ、東京ハイヴは終わらない。

 

「中枢内部破壊隊を編成します」

 

坂柳理事長は全回線へ告げた。

 

「志願では決めません」

 

「機体状態、残弾、搭乗者の疲労、すべてを確認して選びます」

 

茶柱。

 

『司令官』

 

「茶柱先生も選考対象です」

 

『行くなとは言わないのですか』

 

「言いません」

 

坂柳理事長の声が僅かに震えた。

 

「ですが」

 

「戻れる者だけを行かせます」

 

平田は軽井沢を失った。

 

一之瀬は神崎を。

 

伊吹は神室を。

 

坂柳は橋本を。

 

全員が喪失を抱えたまま。

 

まだ終わっていない最終任務を見つめている。

 

中枢の外殻に開いた巨大な裂け目。

 

その奥には、赤い光が連なっている。

 

一つ。

 

十。

 

百。

 

中枢内部で。

 

無数の何かが。

 

侵入しようとする人類を待つように。

 

一斉にこちらを向いた。

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