界渡りの不確定な切り札   作:アルフレッド

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ガンダムSEED編第六話「ザフト襲来」

C.E.71年1月25日――ヘリオポリス

 

工業カレッジキャンパスside

(───では激戦が伝えられる華南戦線その後の情報を……)

 

キラ・ヤマトはいつの間にかあらぬ方をさまよっていた視線をコンピュータの方に戻し、投げやり気味にキーボードをたたいた。

 

黒い髪、黒い目の小柄な少年だ。

 

「キラ!」

 

呼ばれて顔を上げる。

 

「何ぼーっとしてんだよ」

 

トール・ケーニヒが呆れた顔でこちらを見ていた。

 

「別に……」

 

「またフレイ見てたんじゃないの?」

 

ミリアリアがからかうように言う。

 

「ち、違うよ!」

 

「分かりやすいなぁ」

 

「違うって!」

 

「だからぁ、そういうんじゃないんだってばぁ」

 

華やいだ嬌声が上がる。大学のレンタルエレカポートで騒いでる少女たちの中に、フレイ・アルスターの姿を見つけキラの鼓動は一瞬高まった。

 

長く艶やかな髪は燃えるような赤、肌はミルクのように滑らかで今はかすかに上気している。

 

彼女の姿を見るとキラの心臓はいつも勝手に暴れまわる。ろくに口をきけもしないのに。

 

「ほら、やっぱり見てる」

 

「見てないってば!」

 

「あ、ミリアリア!ねえっ、あなたなら知ってるんじゃない?」

 

フレイを取り囲んだ少女たちが、こちら気がついて話しかけてくる。その後ろで顔を赤くし「もうやめてってばぁ」とフレイが叫んだ。が、少女たちは取り合わない。

 

「この子ね、サイ・アーガイルから手紙をもらったのに『何でもない』って話してくれないんだよ!」

 

「ええ~っ!」

 

伝染したみたいにミリアリアも素っ頓狂な声を上げた。

 

彼女らがさらにフレイを問い詰めようとしたとき、キラの背後から落ち着いた声がかかった。

 

「───乗らないのなら先によろしい?」

 

サングラスをかけた女性と、さらにその後ろに男性が二人立っていた。声をかけたのは先頭の女性だ。いずれもまだ若く20代前半から半ばといったところだろう。だが学生には見えなかった。

 

発せられた言葉は丁寧だったが、彼女の口調や声には妙な威圧感があり、若い女性の柔らかさを拒絶したような硬く鋭いような雰囲気を漂わせていた。

 

「あ、すいません。どうぞ」

 

キラたちが慌てて道を空ける。

 

「ありがとう」

 

女性は短く礼を言うと、後ろの二人を伴ってエレカへ乗り込んだ。

 

「…………」

 

キラは何となくその後ろ姿を目で追った。

 

「なんか……怖い人だったね」

 

ミリアリアが小声で言う。

 

「うん……」

 

別に怒られたわけでもない。

 

むしろ言葉遣いは丁寧だった。

 

なのに、なぜか教師に注意された時よりも背筋が伸びた。

 

◇ ◇ ◇

 

「───なんとも平和なことだな」

 

幹線道路を自動操縦でエレカが走っていく。風に短い黒髪をなぶらせながらサングラスの女がつぶやいた。

 

彼女の名はナタル。ナタル・バジルール。自分の身分を明かすことなくこのコロニーを訪れ、極秘の目的地に向かうところだった。

 

「あれくらいの年で前線に向かうものもいるというのに……」

 

彼女の声にいら立ちを感じ取って、隣の席からアーノルド・ノイマンは視線を向けた。

 

さっきの学生たちのことを言っているのだろう。

 

「ここは中立国ですから」

 

「分かっている」

 

ナタルは短く答えた。

 

「戦争を知らずに済むのなら、それに越したことはないでしょう」

 

「……そうだな」

 

そう答えながらも、ナタルの表情は晴れなかった。

 

エレカは鉱山部へと向かうセンターシャフトに向かっていた。センターシャフト内部は工場区になっており無重力を生かした工業生産物を主に地球向けに製造している。

 

片方の端に宇宙港があり、もう片方が小惑星を生かした鉱山になっている。今エレカが向かっているのは鉱山の内部だった。

 

このブロックは国営企業『モルゲンレーテ』の所有地である。エレカは小惑星内部に隠された広大なドックにたどり着き、彼らはそこに降り立った。

 

この場所こそが彼らの目的地だった。

 

「……予定通りだな」

 

ナタルはサングラスを外した。

 

その視線の先に、巨大な艦が横たわっていた。

 

地球連合軍新造戦艦――アークエンジェル。

 

艦の近くには、巨大なコンテナがいくつも並んでいる。

 

その中に収められているものを、ナタルは知っていた。

 

G兵器。

 

大西洋連邦がオーブの協力を得て極秘裏に開発した、新型モビルスーツ。

 

本来ならば、ここからすべてが始まるはずだった。

 

◇ ◇ ◇

 

「大尉ーっ!」

 

トレーラーから大声で呼びかけられ、マリュー・ラミアスは振りかえった。メカニックマンのコジロー・マードック軍曹が無精ひげだらけの顔を窓から突き出し、怒鳴った。

 

「んじゃ、俺たち先に艦に行ってますんでぇー!」

 

「おねがいねぇ!」

 

周囲が騒がしいので自然とマリューも怒鳴り声になる。

 

トレーラーが走り去っていく。

 

マリューはそれを見送ると、手元の端末へ視線を戻した。

 

「これで最後……っと」

 

(ナンブさんたちも、今日だったわね)

 

無事に受け取りが済めばいいけれど。

 

そんなことを考えながら、マリューは端末を閉じた。

 

これでやっと肩の荷が下ろせる。と、マリューは思った。

 

───だが安堵するには早すぎることを、彼女はまだ知らなかった。

 

◇ ◇ ◇

 

ヘリオポリス近傍宙域――

 

「準備は?」

 

「問題ありません」

 

ラウ・ル・クルーゼの問いに、アスラン・ザラが短く答えた。

 

「情報通りなら、地球軍の新型は五機」

 

クルーゼはヘリオポリスの映像を見つめた。

 

「可能な限り確保する。難しい場合は破壊しろ」

 

「了解」

 

イザークが答え、ディアッカが肩をすくめる。

 

「中立国のコロニーに地球軍の新型ねぇ。オーブも随分面白いことやってるじゃない」

 

「油断しないでくださいよ、ディアッカ」

 

ニコルがたしなめる。

 

「分かってるって」

 

アスランは黙ってヘリオポリスを見つめていた。

 

かつて自分が暮らしていた場所。

 

そして――親友がいるかもしれない場所。

 

だが、キラ・ヤマトが今もここにいることを、アスランは知らない。

 

◇ ◇ ◇

 

『接近中のザフト艦に通告する!我が国との条約に大きく違反するものである!今すぐ停船されたし!』

 

『接近中のザフト艦に通告する!我が国との条約に大きく違反するものである!今すぐ停船されたし!』

 

通告もなく接近してきたザフトの戦艦二隻を捕捉した『ヘリオポリス』管制区にアラートが鳴り響いた。

 

管制官の一人が叫んだ!

 

「強力な電波干渉!ザフト艦から発信されています!」

 

とたん管制室に冷たい空気が流れた。その意味するところは一つだった。

 

「───これは明らかに戦闘行為です!」

 

ちょうどその時、港には一隻の貨物船が入港していた。その船のブリッジでも緊迫したやりとりが交わされていた。

 

「敵は⁉」

 

「二隻だ!ナスカ級とローラシア級!電波干渉直前にモビルスーツの発進を確認した!」

 

「ひよっこどもは?」

 

「もうモルゲンレーテについてる頃だろう」

 

「不幸中の幸いですな。ルークとゲイルは『メビウス』にて待機!まだ出すなよ!」

 

「大佐!」 ブリッジの扉が開いた。20代後半のすらりとした金髪の男だった。端正ともいえる顔立ちだが緊迫したこの状況でもどこか飄々と雰囲気を漂わせ、口元は不敵そうに曲げられている。

 

「船を出してください!港が制圧される!俺も出ます!」

 

「フラガ大尉」

 

ムウ・ラ・フラガはヘルメットを小脇に抱え、メインモニターに映るザフト艦を見上げた。

 

「ナスカ級とローラシア級。それにMSまで出してるんでしょう?」

 

「ああ」

 

「だったら、ただの威嚇じゃない」

 

ムウは口元を歪めた。

 

「どうにも嫌な予感がするんですよねぇ」

 

「……それに」

 

ムウの表情から笑みが消えた。

 

「いる」

 

「何?」

 

「あいつがいる」

 

「俺が先に出ます。あの二人は艦の護衛に」

 

「一人で行く気か?」

 

「敵さんが何を狙ってるのか分かりませんからね。手札を全部見せる必要もないでしょう」

 

◇ ◇ ◇

 

「クルーゼ隊長の言うとおりだったな。つつけば慌てて巣から飛び出す」

 

冷静な口調で言ったのはイザーク・ジュールだった。バイザー越しにもわかる、冷たく整った顔立ち、まっすぐに切りそろえられたプラチナブロンドがさらにその印象を強めるが今はヘルメットに隠されている。

 

パイロットとして一流ではあるが、怜悧な外見に似合わずやや癇癪持ちな面を見せることがある。

 

アスランは少々この同僚を敬遠していた。 ことあるごとにアスランをライバル視して突っかかってくるようなところがあるからだ。

 

『イザーク、先走るなよ』

 

「分かっている。お前に言われるまでもない」

 

アスランは小さく息を吐いた。

 

こういうところだ。

 

ザフト艦侵攻の知らせが届いたのだろう、にわかにあわただしくなった『モルゲンレーテ』工場付近の様子を、『ヘリオポリス』内部に侵入していたアスランたちはスコープで見つめていた。

 

作業服を身に着けた栗色の髪の女性が目に入る。

 

「警備が動き始めた」

 

アスランがスコープを下ろす。

 

「情報通りなら、搬出が始まるはずだ」

 

「ようやくか」

 

イザークが口元を歪めた。

 

「待たされた分くらいは楽しませてもらいたいものだな」

 

「遊びじゃないですよ、イザーク」

 

ニコルが苦笑する。

 

「分かっている!」

 

「───時間だ」

 

カウンターがゼロになった。工場区のあちこちで爆発が起こる。爆風に飛ばされる人々、誘爆を引き起こし、炎上する施設、鉱山内部の岩盤が崩れ瓦礫が降り注ぐ。

 

それと同時に港を突破したMSが『モルゲンレーテ』を攻撃し始めた。建物の外壁がライフルの弾で抉られ、被弾した車両が爆発し、爆風が搬送作業中の人員を襲う。

 

混乱に乗じてアスランたちは行動を開始した。

 

◇ ◇ ◇

 

「きゃあっ!」

 

突然の爆発に、マリューの身体が地面へ投げ出された。

 

「な、何……!?」

 

顔を上げる。

 

つい先ほどまで自分が立っていた場所が炎に包まれていた。

 

銃声。

 

それを耳にした瞬間、マリューの表情が変わった。

 

「敵襲……!?」

 

『ラミアス大尉!』

 

通信機から怒鳴り声が飛び込んでくる。

 

◇ ◇ ◇

 

キラたちのエレカは『モルゲンレーテ』の社屋に入って止まった。彼らの指導教官であるカトウ教官のラボがそこにあるのだ。

 

「あ、キラやっと来たのか」

 

彼らがラボに入っていくと、同じゼミ仲間のサイ・アーガイルが顔を上げた。

 

部屋にはサイとやはり同じゼミのカズイ・バスカーク、そして今一人キラの知らない人物が壁に身を寄せるように椅子に座っていた。

 

金色の短い髪に、勝ち気そうな大きな瞳。

 

年齢は自分たちとそう変わらないだろう。

 

少年のようにも見えるが――

 

「誰?」

 

キラが小声で尋ねる。

 

「さあ?」

 

サイも困ったように首を傾げた。

 

「教官の客じゃないのか?」

 

「遅かったな」

 

「ちょっとエレカポートで……」

 

「フレイたちに捕まってたんだよ」

 

ミリアリアが笑う。

 

「フレイ?」

 

サイが反応した。

 

「な、なんでもない!」

 

「キラ、これ預かってる。追加とかって。渡せばわかるってさ」

 

サイが一枚のメディアを取り出し、キラに差し出した。

 

「うぇ、まだ前のだって終わってないのに……」

 

キラは情けない声を上げた。

 

その時突然、轟音とすさまじい揺れが彼らを襲った。

 

「!?」

 

床が大きく跳ねた。

 

「きゃあっ!」

 

「な、なんだ!?」

 

少年たちは慌てて部屋を出てエレベータを目指した。その間にも足をすくうような振動が襲ってくる。エレベータは電圧が不安定で動かず、一同は非常階段へと向かった。

 

ちょうど駆け上がってきた職員にサイが

 

「どうしたんです?」

 

と尋ねた。

 

「ザフトに攻撃されてる!コロニー内にモビルスーツが入ってきてるんだよ!」

 

「ザフトが!?」

 

「なんで!? ここはオーブだろ!?」

 

「中立国じゃないのかよ!」

 

「…………!」

 

金髪の少年――のように見える人物が唇を噛んだ。

 

「やっぱり……!」

 

「え?」

 

キラが振り返った時には、その人物は階段を駆け下り始めていた。

 

「ちょ、ちょっと! どこ行くんだよ!」

 

「放っとけよキラ! 避難するぞ!」

 

「でも――!」

 

「――きみ!」

 

逆方向へ駆けていく『彼』の後をキラは思わず追いかけた。

 

「キラ!」

 

背中にかかるトールの声に、

 

「すぐ行く!」

 

と答え、キラは走った。

 

教授の客という少年は、工場区の方へ走っていった。

 

キラが追い付いてその腕をとらえたとき、背後のどこかで爆発が起こり爆風が帽子を吹き飛ばした。

 

あらわになった顔と、つかんだ腕の頼りない感触。とっさに身をすくめたそのしぐさ───。

 

「お、女の子?」

 

相手は鋭い目でにらんだ。

 

「今までなんだと思ってたんだ!」

 

「いや、その……男の子かと……」

 

「どこをどう見たらそうなるんだ!」

 

「だ、だってその格好じゃ分からないよ!」

 

「お前の目が悪いんだろ!」

 

「そんな無茶な!」

 

「そんなことより離せ!」

 

少女はキラの手を振り払った。

 

「どこに行くんだよ! ザフトが攻めてきてるんだぞ!」

 

「だから行くんだ!」

 

「だからって――」

 

「確かめなきゃならないことがある!」

 

「何を!?」

 

「お前には関係ない!」

 

「だったら一人で行けよ!」

 

「最初からそのつもりだ!」

 

「…………」

 

少女は再び走り出した。

 

「…………」

 

「ああ、もう!」

 

なぜか放っておけず、キラもその後を追った。

 

工場区の外では激しい戦闘が繰り広げられていた。

 

地球連合軍は懸命に地対空ミサイルで応戦しようとしているが、ミサイルを積んだ装甲車は片っ端からザフトのモビルスーツ『ジン』に潰されていく。

 

ザフトの侵入部隊はその間隙をぬって搬出口へ接近しつつあった。

 

工場から出たところで三台のトレーラーが身動きが取れなくなっていた。

 

その荷台にはそれぞれ一体ずつ、明らかにモビルスーツとわかる機体が積まれている。

 

潜入部隊の目的はそれだった。

 

彼らの姿に気づいた地球軍兵士がライフルを構えるが、一瞬にして射殺される。無駄のない動きでトレーラーに張り付きながらイザークが指示する。

 

「運べない部品と工場施設はすべて破壊しろ!───報告では五機だったが残り二機はまだ中か?」

 

「俺とラスティの班でいく!イザークたちはそっちの三機を先に!」

 

アスランが叫びラスティたちに合図する。

 

「任せよう。各自搭乗したらすぐに自爆装置を解除!」

 

イザークのセリフの後半はディアッカとニコルに向けた言葉だった。

 

そして彼自身も一機のコックピットに滑り込む。

 

それを確認してアスランも搬出口を目指した。

 

◇ ◇ ◇

 

キラと謎の少女も戦闘区域に近づきつつある。

 

「おい! そっちは戦闘区域だぞ!」

 

「分かってる!」

 

「分かってて行くの!?」

 

「うるさい! ついてくるな!」

 

「だったら危ないところに行くなよ!」

 

「だからお前には関係ないって言ってるだろ!」

 

「関係なくても目の前で死なれたら困るんだよ!」

 

「…………」

 

「何だよ」

 

「お前、変な奴だな」

 

「君にだけは言われたくないよ!」

 

「……やっぱり」

 

「え?」

 

少女の足が止まった。

 

その視線の先。

 

工場内に二体の巨人が立っていた。

 

「モビルスーツ……?」

 

キラが呆然と見上げる。

 

だが少女の反応は違った。

 

驚いているのではない。

 

怒っていた。

 

「地球軍の……モビルスーツ……」

 

「君、これを知ってるの?」

 

「…………」

 

少女は答えない。

 

キラの隣で少女ががくりと膝をついた。キャットウォークの手すりを両手で強く握りしめ呻くように叫ぶ。

 

「───お父様の……裏切り者っ……!」

 

彼女の声は天井に跳ね返り思ったより大きく響いた。キラッと光るものがこちらに向けられるのを見て取って、キラは少女を手すりから引き離し後ろに飛びのいた。

 

銃声が響き間一髪銃弾が手すりをかすめて飛ぶ。

 

キラは少女を抱えるようにして走り、退避シェルターの入り口にたどり着いた。

 

インターフォンを押すとスピーカーから応答の声がした。

 

『まだ外に誰かいるのか?』

 

「はい!ぼくと友達もお願いします!開けてください!」

 

『二人?』

 

スピーカーからの応答に、一瞬間があいた。

 

『もうここは一杯だ。左ブロックに37シェルターがあるがそこまで行けんか?』

 

キラは振りかえり左ブロックを見た。そこまでは銃撃戦の真っただ中を横断していくことになる。自分一人ならともかくこの女の子を連れては……。

 

キラはインターフォンに向かって叫んだ!

 

「なら一人だけでも!お願いします!女の子なんです!」

 

キラの声の幼さと『女の子』が効いたんだろう。しばしの沈黙ののちスピーカーから返答があった。

 

『わかった。すまん!』

 

ロックを示すランプが赤から青に変わり、扉が開いた。中はシューターになっている。キラはそこに少女の体を押し込んだ。

 

そこまで虚脱したように黙りこくっていた彼女は、この時になってやっと事態に気づいた。

 

「ここにいて!」

 

「おい、待て!」

 

「すぐ戻るから!」

 

「キラ!」

 

シェルターの扉が閉まり始める。

 

「くそっ!」

 

カガリは閉じていく扉を睨みつけた。

 

「勝手なことしやがって……!」

 

一度は奥へ向かおうとして――

 

足が止まった。

 

「…………」

 

先ほどの少年の言葉が頭に残っている。

 

『関係なくても目の前で死なれたら困るんだよ!』

 

「…………」

 

「それはこっちの台詞だ!」

 

カガリは踵(きびす)を返した。

 

「お、おい! 何してる!」

 

シェルターの奥から声が飛ぶ。

 

「悪い!」

 

閉まりかけている扉へ駆け出した。

 

「待て! もう閉まるぞ!」

 

「間に合う!」

 

「そういう問題じゃない!」

 

身体を横にして、狭くなった隙間へ飛び込む。

 

「うわっ!」

 

肩が扉にぶつかった。

 

それでも勢いのまま転がり出る。

 

直後――

 

ガシャン!

 

背後でシェルターの扉が閉じた。

 

「…………」

 

カガリは立ち上がった。

 

「あの馬鹿……!」

 

キラが走っていった方向を見る。

 

「勝手に一人で行くな!」

 

そして、その後を追った。

 

◇ ◇ ◇

 

女性の声が格納庫に響く

 

「ハマナ!ブライアン!早く!Xー105、303を起動させるんだ!」

 

キラは思わずキャットウォークの下に目をやり、例のMSの陰に身を隠しながらライフルを撃つ作業服姿の女性に気づいた。

 

奥にあったもう一体のMSの方から、銃撃に交じって怒号と悲鳴が上がった。さっきザフトが攻めてきたとあの職員が言っていたのを思い出す。

 

敵がザフトというなら、彼らは圧倒的に不利だ。ザフト兵はみなコーディネーターで運動能力、視力、判断力、すべてにおいて圧倒的にナチュラルを凌駕している。

 

キラは、はっとした一人のザフト兵が軍人らしいあの女性を背後から狙っている。思わず

 

「後ろ!」

 

と叫んでいた。

 

彼女は声に反応して振りかえり、敵兵を撃ち殺した。そしてその上にいたキラに目を止める。

 

「───子供……?」

 

女性が目を見開くのが見えた。

 

「来い!」

 

「お構いなく!左ブロックのシェルターに向かいます!」

 

キラが大声で言うと、彼女はライフルを撃ちながら叫び返した。

 

「あそこはもうドアしかない!」

 

その言葉にキラは足を止めた。彼の決断は早かった。ためらいもなくキャットウォークから身を躍らせた彼の姿に女性兵士は目を見張った。

 

落差は5.6メートルはあるだろう。物柔らかな外見に見合わなぬ敏捷さでキラはモビルスーツの上に着地した。

 

驚きに一瞬動きを止めた女性の背後で、MSを守って戦っていた男性が一人のザフト兵を撃ち倒した。

 

「ラスティ!───くそぉ!」

 

赤いパイロットスーツのザフト兵が叫び、仲間の命を奪った男に銃を向ける。放たれた銃弾が命中したのか崩れるように男は倒れた。

 

「ハマナ!」

 

女性兵士がその名を呼んだ瞬間、振り向きざまにザフト兵が彼女を撃った。

 

「あうっ……!」

 

銃弾が彼女の肩に命中し血が飛び散る。ザフト兵は弾詰まりでも起こしたのか銃を投げ捨ててナイフを抜き放って彼女に迫る。キラは思わず駆け寄った。その時───

 

「───キラ?」

 

声を上げたのは誰あろうナイフを構えたザフト兵だった。

 

聞き覚えのある声だった。

 

こんな場所で。

 

こんな状況で。

 

聞くはずのない声。

 

キラは足を止めた。

 

ゆっくりと振り返る。

 

「…………」

 

赤いパイロットスーツ。

 

その顔を見た瞬間、息が止まった。

 

「……アスラン?」

 

キラの口からその名が意識しないうちにこぼれる。

 

「キラ……」

 

二人は動かなかった。

 

◇ ◇ ◇

 

「キラァァァ!!」

 

と遠くから聞こえてくる。

 

「…………」

 

「…………?」

 

そして走ってくる金髪少女。

 

「やっと追いついたぞ、この馬鹿!」

 

「なんで戻ってきたんだよ!?」

 

「お前を追ってきたんだ!」

 

「誰なんだ、その子……?」

 

「知らない!」

 

「知らないとはなんだ!!」

 

「キラ、彼女ができたのか?」

 

「違うよ!!」

 

「誰がこいつの彼女だ!!」

 

二人の声が綺麗に重なった。

 

「…………」

 

アスランが二人を見比べる。

 

「……そうか」

 

「なんだその顔は!」

 

「いや……」

 

「アスラン! 本当に違うから!」

 

「分かった」

 

「絶対分かってないだろ!」

 

「お前も必死になるな! 余計に怪しいだろ!」

 

「カガリがそういうこと言うからだろ!」

 

「なんで私のせいなんだ!」

 

「違うよ!!」

 

「誰がこいつの彼女だ!!」

 

二人の声が重なった。

 

「…………」

 

アスランが僅かに目を瞬かせる。

 

「……そうか」

 

「その顔は絶対信じてないだろ!」

 

「キラ!」

 

鋭い声が飛んだ。

 

「伏せろ!」

 

───女性兵士がその隙をついて、負傷した肩をかばいつつ銃を構える。

 

間一髪のところで、それに気づいたアスランは飛びのく。

 

銃声が響きさっきまでアスランがいたところを弾が薙いだ。

 

驚いて振り返るキラと少女は女性兵士に体当たりされ、モビルスーツのコックピットに転がり込む。

 

「シートの後ろに!」

 

女は指示しモビルスーツの起ち上げにかかった。

 

「痛っ!」

 

「押すな!」

 

「僕じゃないよ!」

 

「じゃあ今の手はなんだ!」

 

「掴まるところがないんだよ!」

 

「だからって変なところ触るな!」

 

「わざとじゃないよ!!」

 

「二人とも静かにして!!」

 

「───私にだって……動かすくらい……」

 

計器類に光が入り、ブゥンという駆動音が徐々に高まる。

 

モニターが明るくなり、外の風景を映し出した。

 

横のモニターの中を一瞬、赤いパイロットスーツがよぎりもう一機のモビルスーツへ向かうのが見えた。

 

(───アスラン……、アスランがザフト兵……?)

 

(そんな馬鹿な、優しいアスランは戦争なんて大嫌いだった。あれが彼であるはずが……)

 

次々と起こる出来事についていけず、呆然としてたキラの目に、モニターに浮かんだ文字列が飛び込んでくる。

 

General

Unilateral

Neuro-Link

Dispersive

Autonomic

Maneuver

 

とっさにキラの目は赤く輝く頭文字を拾い上げていた。

 

「ガ……ン、ダ……ム?」

 

命を吹き込まれたようにモビルスーツの両目に光がともり、ピクリとその両手の指が動く。エンジンが低い唸りを上げ、巨大な四肢がぎくしゃくと動き始めた。

 

歩行を覚えたての幼児のようにどこかぎこちない動作でそれでも爆炎の中モビルスーツは立ち上がる。炎が鋼色の装甲に照り映え、そびえたつその威容を紅く照らし出した。

 

◇ ◇ ◇

 

「……違う」

 

「何が?」

 

少女が後ろからモニターを覗き込んだ。

 

「こんなんじゃ駄目だ」

 

「何が駄目なんだ?」

 

「OSだよ」

 

「OS?」

 

「こんな設定じゃまともに動けない!」

 

「お前、分かるのか?」

 

「見れば分かるよ!」

 

「私は分からないぞ!」

 

「君に聞いてないよ!」

 

もう喧嘩する双子w

 

でもキラが本当に操作を始めたら、カガリも黙る。

 

コードが猛烈な速度で流れる。

 

「…………」

 

「おい」

 

「静かにして」

 

「…………」

 

「今、書き換えてる」

 

「……今?」

 

「今やらないと死ぬだろ!」

 

キラの目の前には避難シェルターに入れず逃げまどっているクラスメイト達が見えていた。

 

◇ ◇ ◇

キョウスケside

 

「……始まったか」

 

格納庫に警報が鳴り響いていた。

 

目の前には二機のモビルスーツ。

 

今日、俺たちに引き渡される予定だったゴールドフレームとミラージュフレームだ。

 

「ダーリン」

 

隣でエクセレンがため息をつく。

 

「私たち、こういうの多くない?」

 

「それはさっき聞いた」

 

「そうだったわね」

 

エリカが端末を確認する。

 

「ザフトよ。コロニー内部にモビルスーツが侵入してる」

 

「目的は?」

 

「…………」

 

「答えられないか」

 

「ごめんなさい」

 

「なら聞かん」

 

俺はゴールドフレームを見上げた。

 

「こいつは動くな?」

 

「……動くけど」

 

エリカが嫌な予感でもしたような顔をする。

 

「まだ正式な引き渡し前よ?」

 

「そうか」

 

「その『そうか』は何!?」

 

「エリカ」

 

「何?」

 

「緊急事態だ。こいつを使わせてくれ」

 

「…………」

 

「正式な引き渡し前なのは分かっている」

 

エリカはしばらくキョウスケを見つめ――大きく息を吐いた。

 

「……壊さないでよ」

 

「努力する」

 

「そこは『壊さない』って言って!」

 

「じゃあ私はこっちね♡」

 

俺はコックピットに飛びうつりゴールドフレームを起動する。そしてエクセレンもミラージュフレームに飛び乗る。

 

(OSが未成熟だな……後で入れ替える必要があるか、だが今その暇はない)

 

「キョウスケ・ナンブ、アストレイゴールドフレーム、出る!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




こまでストックを使いながら連日投稿してきましたが、とうとう作者の執筆速度に追いついてきました(笑)

現在も続きを執筆中ですが、今後は少し投稿間隔が空くことがあります。投稿時間は変わりません。

更新停止ではありませんので、気長にお待ちいただければ幸いです。

引き続き『界渡りの不確定な切り札』をよろしくお願いします!
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