界渡りの不確定な切り札 作:アルフレッド
第三者side
「推進部が壊れて漂流してたんです」
アークエンジェルに無事たどり着いたキラだが右舷に開かれたハッチのところでもめていた。ストライクはその両手に一隻の救難ボートを抱えていたのである。
「このまま放りだせと言うんですか?避難したヘリオポリスの市民が乗ってるんですよ!」
キラが喧嘩腰に言うと、マリューがため息をついていった。
『いいわ、許可します』
するともう一人の女性士官が目を吊り上げて言った。
『本艦はまだ戦闘中です。避難民の受け入れなど……』
『壊れていては仕方ないでしょう。今はそんなことで揉めて時間を取りたくないの』
ストライクと救難ボートが着艦したのはカタパルトレールが細長く伸びた発着デッキだった。ストライクが奥の格納庫に入ると巨大なエアロックが閉まる。
モビルスーツ用のメンテナンスベッドが奥に据えられ、横には被弾したモビルアーマーが収容されていた。
ストライクのハッチが開きキラが顔を出すとクルーの間にざわめきが走った。
「オイオイ何だってんだぁ。子供じゃねえか、あの坊主があれに乗ってたてえのかよ」
整備士のマードックがあからさまに皆の意見を代弁した。首にタオルを巻き、ぼさぼさ頭に無精ひげの、お世辞にもさわやかとは言えない男だ。
ストライクの着艦を聞いて駆け付けた友人たちが、コクピットから降り立ったキラに飛びついた。
「よかったぁ、キラ!」
「無事だったんだな!」
トールに抱き着かれ、サイに頭をぐしゃぐしゃかき回され、キラは目を白黒させつつもほっとした様子で笑った。
すると格納庫の別の方から声が上がった。
「───サイ!」
「え?」
聞き覚えのある声にサイが振り返る。
「フレイ!?」
赤い髪を揺らしながら、一人の少女がこちらへ駆けてくる。
「サイ!」
「うわっ!」
勢いそのままに抱きつかれ、サイがたたらを踏んだ。
「フレイ、どうしてここに!?」
「避難してたのよ! それよりサイ、無事だったのね!」
「あ、ああ。そっちこそ……」
フレイはそこでサイの後ろにいる面々に気づいた。
「ミリアリア……トール、カズイも」
「フレイ!」
「よかった、無事だったのね」
再会を喜ぶ彼らから少し離れたところで、キラはその様子を眺めていた。
見覚えはある。
同じカレッジに通う学生だ。
そして――。
「サイの……」
「ああ」
トールが小声で答えた。
「婚約者」
「……そうなんだ」
その時、フレイもキラに気づいた。
「あなた……」
「え?」
「さっきのモビルスーツから降りてきた……」
「あ……うん」
「あなたが操縦してたの?」
「…………」
キラは少しだけ答えに詰まった。
「一応……」
「キラが俺たちを助けてくれたんだ」
サイがそう言うと、フレイは驚いたようにキラを見る。
「あなたが……?」
「助けたっていうか……」
「キラ!」
「?」
「無事だったのか!」
今度はカガリの声だった。
「カガリ」
「だからちゃんと返事しろって言っただろ!」
「通信で返事したじゃないか!」
「『たぶん』とか言ってただろ!」
「無事だったんだからいいだろ!」
「よくない!」
「また始まった……」
ミリアリアが呆れたように呟く。
フレイは目を瞬かせた。
「……誰?」
サイも困った顔をする。
「俺たちもよく分からない」
「なんだそれ」
「一緒に避難してきたカガリ……僕もそれ以上のことは知らないんだよね」
「なんでよ?」
フレイが怪訝そうに眉を寄せる。
「なんでって……聞いてないから」
「普通聞くでしょ?」
「そんな暇なかったんだよ!」
「何よそれ……」
フレイは呆れたように呟くと、今度はカガリへ視線を向けた。
「じゃあ、あなたは?」
「私?」
「カガリ……なんでしょう? それ以外は?」
「…………」
カガリの表情が、ほんのわずかに固まった。
「カガリはカガリだ!」
「それ、答えになってないわよ?」
「名前を聞かれたから答えただろ!」
「名字とかあるでしょ!?」
「…………」
「カガリ?」
「細かいことはいいだろ!」
「よくないわよ!」
「なんでお前に教えなきゃならないんだ!」
「お前!?」
キラが小さく息を吐いた。
「……また増えた」
「何が?」
「カガリと喧嘩する人」
「誰が喧嘩してる!!」
「してるじゃないか!」
そんな彼らにムウ・ラ・フラガが近づいた。
「へぇ、これは驚いた」
彼は愛想よさそうな顔でキラの前に進み出た。
「な、なんですか?」
突然目の前に立ちはだかった背の高い軍人の姿にキラは思わず身を引いた。ムウは微笑んでさらっと言った。
「きみ、コーディネイターだろ?」
ムウの言葉にその場が凍り付いた。
艦橋から降りてきていたマリューが、渋い顔でこっそりムウを睨んだ。
キラはためらったが、不意にきっとムウを見つめ返す。
「……はい」
キラの返事に、再び沈黙が落ちた。
「キラが……?」
最初に声を漏らしたのはフレイだった。
「コーディネイター……?」
「…………」
キラは答えない。
いや、もう答える必要などなかった。
「そうだったの……?」
「……うん」
「…………」
フレイがわずかに後ずさる。
その反応を見て、キラの表情が曇った。
「フレイ?」
サイが心配そうに声を掛ける。
「だって……コーディネイターって……」
その言葉は最後まで続かなかった。
フレイ自身、何を言えばいいのか分からなかったのだろう。
目の前にいるのは、今まで漠然と抱いていた『コーディネイター』という存在ではない。
同じカレッジに通っていた少年。
サイたちの友人。
そして――自分たちを守るために、あのモビルスーツで戦っていた少年だった。
「何か問題あるのか?」
カガリだった。
「……え?」
「こいつがコーディネイターだったら何か変わるのか?」
「あなたには関係ないでしょ!」
「ある! こいつはさっきまで私と一緒に戦ってたんだ!」
「カガリ、戦ってたのは僕――」
「お前は黙ってろ!」
「なんで!?」
「やっぱり喧嘩してるじゃない」
「今はそれどころじゃないだろ!!」
「いや、悪い悪い。別に責めてるわけじゃない」
「…………」
「むしろ納得したんだよ。あの機体をあそこまで動かして、そのうえOSまで書き換えたんだろ?」
「……はい」
「ナチュラルの学生にできる芸当じゃないと思ってね」
◇ ◇ ◇
キョウスケside
悪気はなかったようだな。
ムウ・ラ・フラガにキラを責める意図はない。
単純に、ストライクを動かした技量からそう判断しただけらしい。
だが――。
「MSなら俺も操縦してきたが、コーディネイターじゃないぞ?」
「ん?」
ムウがこちらを見る。
「まあ、そりゃそういう人もいるだろうけどな」
「それに――」
俺はキラを見る。
「キラ君といったな」
「は、はい」
「話は聞いている。悪いが、俺たちのMSもOSを強化してくれないか?」
「……え?」
「いまいち鈍くてな。俺たちの操縦についてきていない」
「…………」
キラが目を瞬かせる。
「僕が……ですか?」
「ああ」
「いや、でも……僕、さっき初めてモビルスーツを……」
「その初めてでOSを書き換えたんだろう?」
「それは……そうですけど」
「なら俺より詳しい」
「そんな理由!?」
カガリが横から突っ込んだ。
「適材適所だ」
「適当の間違いじゃないのか!?」
「失礼ねぇ」
エクセレンが歩いてくる。
「ダーリン、これでも結構本気で困ってるのよ?」
「あなたも?」
キラが驚く。
「そうなの。私たちの子、性能は悪くないんだけど――」
「子?」
「ミラージュちゃん♡」
「モビルスーツのことだ」
「あ……」
「ゴールドも同じだ。こちらの入力に対して反応が遅れる」
「それって……」
キラの顔つきが変わった。
先ほどまでの戸惑いが薄れ、技術者の顔になる。
「OSを見てもいいですか?」
「そのために頼んでいる」
「じゃあ、まず設定を確認して――」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
フレイだった。
「……?」
「今、コーディネイターだって分かったばかりなのに、なんで普通にモビルスーツの整備を頼んでるのよ!?」
「できるからだ」
「そういう問題!?」
「他に何かあるのか?」
「…………」
フレイは言葉に詰まった。
「別にナチュラルだろうがコーディネイターだろが人間に変わりはないさ」
「この場合あるのは敵と味方だけだ」
「まあダーリンは単純すぎだと思うけどね♡」
「分かりやすくていいじゃないか」
ムウが面白そうに笑った。
「敵か味方か、か」
「少なくとも戦場ではな」
「じゃあ坊主は?」
「味方だろう」
キラが目を瞬かせた。
「……僕が?」
「さっきまでこの艦と民間人を守っていた人間を、他に何と呼ぶ?」
「…………」
「それに今から俺の機体を直してもらう」
「そこに戻るのか!?」
カガリが叫んだ。
「重要だ」
「お前、本当にそれしか考えてないのか!?」
「動きが鈍いと死ぬぞ」
「…………」
「急に正論を言うな!」
「さっきから正論しか言っていない」
「どこがだ!!」
「ふふっ♡」
エクセレンだけが楽しそうに笑っていた。
「と、言う訳でキラ君頼めるかな?」
◇ ◇ ◇
「はい!これで2機とも本来の性能を引き出せるはずですよ」
「ありがとう、礼を言うよ」
「ホントありがとう。動きが鈍くてさっきの戦闘では苦労したのよ♡」
「でも、この機体はストライクとも違う設計思想なんですね」
「そうなのか?正直取引の結果もらったものだからそこまで詳しくないんだ」
「そうなんですか?」
MSと取り引きできるものって何だろうという顔をしてるのが俺でもわかるな。
「ああ」
「…………」
「エリカ?」
「キラ君」
「はい?」
「さっき、この二機のOSを調整したわよね?」
「はい。ストライクのOSとは構造が違ったので、少し手間取りましたけど」
「少し?」
「え?」
「初めて見るOSを解析して、二機それぞれの特性とパイロットの操縦データに合わせて調整したのよね?」
「……はい」
「どのくらいで?」
「えっと……」
エリカの目が変わった。
「キラ」
「はい?」
「逃げた方がいいぞ」
「え!?」
「ちょっとキョウスケさん! 人を危険人物みたいに言わないでください!」
「違うのか?」
「違います!」
「じゃあキラ君♡」
「は、はい」
「ちょっとお話しましょうか」
「エリカさん、目が怖いです……」
「ゴールドフレームは近接戦での反応を優先して――」
「うんうん」
「ミラージュフレームは射撃時の姿勢制御を――」
「なるほど」
「それでパイロットの癖に合わせて補正値を――」
「…………」
「エリカさん?」
「キラ君、オーブで働かない?」
「ええっ!?」
「スカウトまで早かったな」
「一本釣りね♡」
ところでキラに何をお礼にしたらいいだろうか。
「キラ」
「はい?」
「何か欲しいものはあるか?」
「え?」
「礼だ。二機分のOSを直してもらった」
「そんな、別にいいですよ。僕も興味があってやっただけですし」
「そうか」
「はい」
「…………」
なら食い物でいいか。
ストレージから菓子の入った袋を取り出す。
「これをやろう」
「え?」
「甘いものは嫌いか?」
「い、いえ……好きですけど」
「なら問題ない」
「ダーリン、それ完全に子供へのお駄賃じゃない♡?」
「学生だろう」
「そういう問題!?」
ん?そうか?
「キラ、これを」
「ありがとうございます」
「…………」
「…………」
視線を感じる。
「なんだ、カガリ」
「別に」
「食べたいのか?」
「いらん!」
「そうか」
「……いや、ちょっと待て! なんでそこで引っ込めるんだ!」
「いや、いらないって言ったから」
◇ ◇ ◇
「ザフト艦の動き、つかめる?」
マリューの問いかけにレーダーパネルを見るパル伍長の答えは冴えなかった。
「無理です。ヘリオポリスの残骸の中にはいまだ熱を持つものも多くこれではレーダーも熱探知も……」
「そう……」
マリューは眉を寄せた。
「向こうも同じだとは思うがな」
俺は少し気休めになるようなことを言った。
敵を見失った。
それは敵がいなくなったという意味ではない。
むしろ逆だ。
どこにいるのか分からない敵ほど厄介なものはない。
「艦長」
ナタルが振り返る。
「この宙域に留まり続けるのは危険です」
「分かってるわ。でも、まだ救難信号が残っている可能性もある」
「…………」
「あと十分。可能な限り捜索して、それから離脱します」
「了解しました」
「それで、これからどうするんだ?」
「まず安全な場所へ移動します」
「安全な場所ねぇ……」
「何か?」
「いや。この辺で一番安全だったはずの場所が、たった今バラバラになったところだからな」
ムウが肩をすくめながら答えている。
「この艦と『ストライク』は絶対ザフトには渡せません。我々は何としてもこれを無事に大西洋連邦司令部に持ち帰らねばならないのです」
月での策略を見るとそこまで信用はできないがそこに口は出せないか。
「キョウスケはどう思う?」
「何がだ?」
「大西洋連邦へ向かうことよ」
「俺に聞くのか?」
「あなたはこの戦争を、私たちより外側から見ているでしょう?」
「…………」
少し考える。
「目的地としては間違っていないと思う」
「そう」
「ただし、信用できるかは別だ」
「……どういう意味?」
「俺たちはこれまで、連合とザフトの戦場を何度か見てきた」
「え?」
「どちらにも助ける価値のある人間はいた」
「…………」
「どちらにも、信用できない人間もいる」
ナタルが僅かに眉を動かした。
「それだけだ」
「大西洋連邦そのものを信用するな、と?」
「そこまでは言っていない」
「では?」
「所属だけで信用するなと言っている。月での作戦を見てるとどうしてもそういう意見にはなる。悪く思わないでくれ」
ムウが目を伏せながら。
「お前さんあそこにいたのか」
「ああ」
ムウも俺も口には出せなかった。
代わりにムウの口から出てきたのは別の言葉だった。
「だが月本部とすら連絡の取れないこの状況でどうする?意気込みは買うがそれだけじゃな」
ナタルには懸案があるようだが……
「艦長、私はアルテミスへの寄港を具申いたします」
「アルテミス?」
「ユーラシア連邦の宇宙要塞です」
「連合軍の施設か」
「はい。『アルテミスの傘』と呼ばれる防御システムを備え、ザフトも容易には手を出せません」
「安全な場所というわけか」
「少なくとも、この宙域よりは。あそこは本艦の位置からもっともコース上取りやすい友軍です」
……まあいい。
さっき自分で言ったばかりだ。
所属だけで信用するな。
なら、所属だけで疑うのも同じことだ。
「でも【G】もこの艦も公式発表どころか友軍の認識コードすら持っていない状態よ……」
「ですがこのまま月に進路を取ったとしても、まさか戦闘もなくすんなり行けるとはお思いではないでしょう?物資の搬入もままならぬまま発進した我々には早急に補給が必要です」
「俺も少尉に賛成だな」
「フラガ大尉?」
「敵さんが俺たちを諦めてくれたとは思えない。月まで追いかけっこするには、こっちの腹が減りすぎてる」
「…………」
「それにアルテミスなら、月との連絡も取れるかもしれない」
「そうですね……」
マリューはしばらく考えた。
「分かりました。アルテミスへ向かいます」
「了解」
「ただし、接触には十分注意します」
「無論です」
俺としても異論はない。
信用できるかどうかは、会ってから判断すればいい。
「デコイ用意!発射と同時にアルテミスへの航路修正のため、メインエンジン噴射を行う!後に慣性航行に移行。第二戦闘配備!艦の制御は最小時間内にとどめよ!」
マリューが指令を出す。囮を打ち出し、それが発信する偽の情報でひきつけて、その隙に最小限の操艦を行う。あとはアルテミスまで最初の一噴射で得られた推進力で慣性航行する。
エンジンを動かせばその熱量を敵に感知されてしまうからだ。
「アルテミスまでのサイレントランニング、約二時間ってところかな」
ムウがつぶやく、クルーたちは緊張した面持ちだ。
「あとは運だな」
「分の悪――」
「悪い賭けは嫌いじゃないでしょ♡」
セリフを取られた……。
マリューが号令した。
「───デコイ発射!メインエンジン噴射!艦、アルテミスへの航路修正!」
なるほど。
宇宙では一度速度を得れば、減速しない限りそのまま進み続ける。
敵に見つからないために、必要な時だけ動かすというわけか。
「なかなか大胆なことをするな」
「他に方法がないのよ」
「褒めたんだ」
「……そう聞こえないのよ、あなたの場合」
◇ ◇ ◇
二時間というのは、何もなければ短い。
敵に見つかれば終わりだと思いながら待つには、随分と長い。
「オイオイ無茶いうなよ!」
ムウが大きく手を振った。彼ら士官たちはまだ会議中の様だ。
「ですがストライクの力が必要になるかもしれません。フラガ大尉にのっていただければ……」
「冗談!あの坊主が書き換えたって言うOSのデータまだ見てないのか?あんなもんが俺に……ってか普通の人間に扱えるかよ!」
マリューは愕然として黙った。彼女自身キラのOSカスタマイズの過程と操縦技術、そして同じ機体とは思えない運動性を見せたストライクを見ている。
「なら元に戻させて……とにかく民間人のしかもコーディネイターの子供に、大事な機体をこれ以上任せるわけには!」
その顔には明らかな嫌悪が漂っている。
根っからの軍人気質である彼女にとって、ザフトは敵。そしてコーディネイターもまた、その敵と結びついた存在なのだろう。
「まるで俺たちが普通の人間じゃないみたいだな」
「ダーリン」
「なんだ?」
「そういうこと、自分で言わない方がいいと思うわよ♡」
「何故だ?」
「説得力がないから♡」
「…………」
「じゃあキョウスケさんに――」
「断る」
「まだ何も言ってないでしょう!?」
「ストライクに乗れという話なら断る」
「…………」
「俺にはゴールドがある」
エクセレンがくすりと笑う。
「ダーリン、一途ねぇ♡」
「機体の話だ」
「私は何も言ってないわよ♡」
ムウはため息をついた。
「それで?俺にのろくさと出て的になれって言うの?」
「それは……」
ムウは困って顔を見合わせるナタルとマリューの前に身を乗り出した。
「あのな戦闘になったらあの坊主がめいっぱい引き上げた機体の性能、そしてそれを使いこなせるパイロット、───その両方がないと奴らには対抗できないぜ?」
それは会議をするまでもなく必然的に一つの答えを指示しているんだよな。
「……民間人です」
「分かってる」
「しかも、まだ学生なんですよ」
「それも分かってるさ」
「なら――」
「じゃあ他に誰がいる?」
「結局、キラ君に頼むしかないということか」
マリューが小さく呟く。
「現状じゃな」
ムウも苦い顔をしている。
「…………」
「キョウスケ?」
「本人には聞いたのか?」
「え?」
「キラ本人にだ」
「それは……」
「乗れる人間が一人しかいない。だから乗せる。それじゃ徴兵と変わらん」
「…………」
「必要なら頼めばいい。ただし、決めるのは本人だ」
「なあキラ君どうする?」
すぐそばで聞いていたキラに問いかける。
「……僕、乗ります」
「キラ君……」
マリューが悲しそうな目で見つめている。
「僕ならストライクを動かせます。それに……」
キラは少しだけ視線を落とした。
「みんなも、この艦にいるから」
「…………」
「だから、必要なら僕が乗ります」
「そうか」
それ以上は何も言わなかった。
俺が決めることじゃない。
こいつが自分で決めたのなら、それでいい。
「申し訳ないけどお願いね」
マリューも苦しそうだった。
俺は自分で決めたのなら尊重する。
だが――こんな選択を子供にさせている状況そのものが、まともだとは思えなかった。
「……決まり、か」
「フラガ大尉」
「俺だって好きでガキを戦わせたいわけじゃないさ」
「…………」
「だが、生き残らなきゃ降ろしてやることもできない」
「そうだな。そこが俺たち大人の義務だ」
「第8話 フレイ・アルスター END」