界渡りの不確定な切り札 作:アルフレッド
第三者side
アークエンジェル内に設けられた居住区の一室で少年たちは不安げに肩を寄せ合っていた。
軍艦であるにもかかわらずこの艦の居住区部分は重力ブロックとなっている。
「俺たち……どうなるのかな……」
抑えきれないような不安がカズイの口からこぼれた。ヘリオポリスが崩壊するところを彼らも艦内モニターで目撃していた。
住み慣れたコロニーを失い、親や兄弟とは引き離され、その安否も知れない。こうして地球連合軍の戦艦に乗ってる以上、いつまた戦闘が始まるかもしれないのだ。
「ねえ……あの子……コーディネイターだったの?」
フレイはサイに尋ねた。彼女は寝棚で眠り込んでるキラを畏敬───というより薄気味悪がっているような目で見やった。カズイがぼそっと言う。
「……この状況で寝られるって言うのもすごいよな」
「疲れてるんだろ。あいつ、ずっと戦ってたんだから」
サイがそう言うと、フレイはもう一度キラを見る。
そう言われれば当然のことだった。
けれど――それでもフレイには、目の前で眠っている少年が昨日までと同じキラ・ヤマトだとは、どうしても思えなかった。
「キラは寝かせとこう」
「……ここで待ってても仕方ないだろ」
サイが提案をする。
「え?」
「艦橋に行ってみよう。何か俺たちにも手伝えることがあるかもしれない」
「手伝うって……軍艦だぞ?」
「だからって、何もしないで座ってるだけってのもな」
「俺も行く。人手が足りてないのは見れば分かるし」
トールもそれに便乗するように乗ってきた。
「ミリアリアは?」
「行くわ。できることがあるなら」
「フレイはここにいていいよ」
とサイは言うが。
「……私も行く」
「え?」
「だって……一人でここにいる方が嫌だもの」
「私も行くぞ」
「カガリも?」
「当たり前だ! こんなところでじっとしていられるか!」
「いや、君は何ができるの?」
どうやらキラはカガリの声で起きてしまったようだ。
「お前にだけは言われたくない!」
「なんでだよ!」
しかし少年たちが艦橋に着た瞬間。
『敵影確認!』
「キラ君!」
「……はい!」
キラは格納庫へ走っていった。
◇ ◇ ◇
「アスラン・ザラです。通告を受け出頭しました!」
隊長室に呼び出されしゃちほこばって敬礼するアスランを前に、ラウはゆったりと指を組み合わせた。
このように部下とのミーティングに使用されることを考慮に入れても部屋の主の匂いが感じられない。あくまで機能的で殺風景な部屋だ。
「きみと話すのがおくれてしまったな、呼ばれた理由はわかってるんだろう?」
「……ストライクのパイロットのことですね」
「そうだ。きみの知り合いだそうだな」
「はい。キラ・ヤマト。幼年学校時代の友人です」
「そして、コーディネイター」
「……はい」
「驚いたよ。まさか奪取できなかった最後の一機を、コーディネイターが動かしているとはね」
「……」
「しかも、きみの友人だという」
「キラは軍人ではありません!」
「ほう?」
「ヘリオポリスの学生です。あいつが地球軍に協力していたなんてことは――」
「私はまだ、彼が地球軍人だとは言っていないが?」
アスランは無意識にキラをかばってしまったようだった。
「……」
「責めているわけではないよ、アスラン」
「だが、彼が再びストライクに乗って我々の前に現れたなら――その時、きみはどうする?」
「……説得します」
「説得?」
「キラはコーディネイターです。地球軍にいる理由はありません。話せば分かるはずです」
「説得を受け入れないときは?」
「撃ちます」
◇ ◇ ◇
通路に出ると、そこにはニコルが立っていた。
いや――明らかに待っていた。
「ニコル?」
「……待ってました」
「何か用か?」
「いえ。ただ……少し心配だったので」
「俺を?」
「はい」
「俺なら大丈夫だ」
「……そうですか」
「ああ」
「なら、いいんですけど」
「…………」
「…………」
「ニコル」
「はい?」
「その顔はなんだ」
「いえ。大丈夫には見えないなって」
「……」
アスランは今回呼び出された理由と、キラとの関係を簡単に話した。
「そのキラという人……アスランにとって、大切な友達なんですね」
「……親友だった」
「だった、ですか?」
「今は敵だ」
「……無理はしないでくださいね」
艦内放送が流れる。
『アークエンジェルと思われる艦影を捕捉――』
二人の表情はもう軍人に戻っていた。
◇ ◇ ◇
キョウスケside
『アークエンジェル』艦橋に警報が鳴り響いた。
「大型の熱量を感知しました!戦艦のエンジンと思われます!距離200!進路ゼロシフトゼロ!」
「真横か!同方向に向かっている!」
気づかれたのか!皆一瞬ぞっとする。
「だが、それにしては大分遠い」
ナタルがつぶやく。敵艦はアークエンジェルの左舷方向を並行して航行していた。
「目標はかなりの高速で移動。横軸で本艦を追い抜きます。艦特定!ナスカ級です!」
ムウが唸る。
「……読まれてるぞ、先回りしてこちらの頭を押さえるつもりだ」
「ローラシア級は⁉」
ナタルが鋭く尋ねた。パルがあわてて計器を操作する。
「……本艦の後方300に熱源……!いつの間に……!」
「挟まれたな」
「冷静に言わないでくれる、ダーリン♡」
「慌てても位置は変わらん」
「そういうところよ♡」
二艦に挟まれた……。恐怖に満ちた沈黙が、しばし艦橋を支配する。その沈黙を破るようにムウが口を開いた。
「やられたな。このままではいずれローラシア級に追いつかれて見つかる。だがエンジンを使えば、あっという間にナスカ級に転進してくるってわけだ」
マリューもナタルも、言葉を失っていた。
「おい、二艦のデータと宙域図こちらにも出してくれ」
俺の言葉に、二人の女性士官は我に返る。
「な、何か策があるの?」
マリューの艦長らしからぬ言葉にムウがため息をつく。
「───それを今から考えるんだよ、な?」
「ああ」
◇ ◇ ◇
第三者side
アナウンスを聞いたキラはまだ迷っていた。
だが迷う余地などないのだ。自分が戦わなければ多分この艦は沈む。一応他にも機体とパイロットはいるが彼らはナチュラルだ。
仲間たちも、他の避難民も、クルーも死ぬ。
もちろん自分も。
戦ったからと言って勝てるとは限らないが、もし戦わなければその可能性は限りなくゼロに近づく。
なぜ自分なんだろう。戦いたくなんかない。僕が撃破したモビルスーツ、あれにも人が乗っていたのだ。
死にたくない、でも殺したくもない。どうして自分だけが手を汚さなければならないのか。
それに……。
「アスラン……」
その名をつぶやくと呼吸が苦しくなるような気がした。
次は彼と戦わなければならないかもしれない……。
彼はのろのろと艦橋へ向かっていた。一歩一歩進むごとに首にかかった縄が締められるように苦しさが増していく。
角を曲がったところで彼は立ち止った。向こうからやってくるのはカトウゼミの仲間たちだ。だが……?
「トール、カガリ……、みんなどうしたのその恰好?」
少年たちはみな地球連合軍の制服に身を包んでいた。
「ブリッジに入るなら軍服を着ろってさ」
カズイがさらっと言う。サイが几帳面に襟を直しながらなおも訳が分からない顔のキラに説明する。
「僕らも艦の仕事手伝おうと思って。人手不足だろ。普通の人よりは機械やコンピュータの扱いに慣れてるし」
「軍服はザフトの方がかっこいいよな。階級章もないからなんかマヌケ」
トールがおどけながらまぜっかえすと、付き添っていたチャンドラ伍長が「生意気いうな」と、しかりつけた。
キラはまだ呆然としている。その彼に向ってトールはニヤッとした。
「お前にばっか戦わせて、守ってもらってばっかじゃな。……俺たちもやるよ」
ミリアリアも言う。
「こういう状況なんだもの。私たちだってできることして……」
「───みんな……」
キラは言葉に詰まった。仲間たちの気持ちが胸に熱かった。
───僕は、一人じゃない。
◇ ◇ ◇
格納庫にキラがパイロットスーツを着て現れると、ムウがからかうような口調で言った。
「やっとやる気になったってことか、その恰好は」
キラはきまりが悪そうに口をとがらせて答える。
「大尉が言ったんでしょう。今この艦を守れるのは僕たちだけだって。……戦いたいわけじゃないけど、この艦は守りたい。みんなが乗ってるんですから」
「俺たちだってそうさ」ムウは応じた「意味もなく戦いたがる奴なんてそうそういない。戦わなければ守れないから戦うんだ」
キラは改めてこの男を見直した。そうか、と思う。軍人なんて自分とは遠いものと思っていたが、根本にある気持ちは同じなのだ。
なんとなく照れ臭くなって話をそらすようにキラは、
「このパイロットスーツ大きいです」
「お前が規格外なだけだ、やせっぽち」
「準備はできたか?」
「はい」
「そうか」
ムウがキョウスケを見る。
「あんたはサイズぴったりそうで羨ましいねぇ」
「俺のだからな」
「……そういやそうだった」
「キラ君、育ち盛りなんだからいっぱい食べないとダメよ♡」
「だから僕、そんなに子供じゃ……」
「学生だろう」
「キョウスケさんまで!」
あわただしくブリーフィングを終え、キラはストライクに、キョウスケはゴールドフレームに、エクセレンはミラージュフレームに、そしてムウはゼロに搭乗した。
『ローラシア級、後方90に接近』
『艦長、そろそろタイムアウトだ。出るぞ』
『ハイ、お願いします』
艦橋にいるマリューと、ムウのやり取りが通信回線から流れてくる。
『坊主にも作戦は説明した』
それは、キョウスケとキラがアークエンジェルを守りその間にムウと姿を消せるミラージュを駆るエクセレンが前方のナスカ級を叩くというものだった。
『この作戦はタイミングが命だからな、あとはよろしく頼む』
『ムウ・ラ・フラガ出る!───戻ってくるまでに沈むなよ!』
『不吉なこと言わないでよねぇ。───エクセレンいっきマース♡』
『俺がいるから大丈夫だ。───キョウスケ・ナンブ出る!』
───僕は一人じゃない。
『キラ・ヤマト出ます』
◇ ◇ ◇
キョウスケside
宇宙へ飛び出すと、レーダーに複数の光点が現れた。
前方にはナスカ級。
後方にはローラシア級。
そして、その双方からこちらへ向かってくる機影。
……歓迎されているらしい。
『ダーリン、こっちは予定通り行くわよ♡』
「ああ。任せる」
『そっちもキラ君をよろしくね』
「分かっている」
後方から二機接近してきている。
「来たか」
『イージスとデュエルです!』
ミリアリアがオペレーターに入ったようだな。
赤い機体。
ヘリオポリスでストライクと戦っていた、奪われた四機の一つ――イージス。
「キラ、赤い奴が来るぞ」
『え?』
『キラ!』
「……知り合いか」
『アスラン……』
「やはりか」
『キラ! 話を聞け!』
『今は戦闘中だろ!』
『だから俺は戦いたくないと言ってる!』
『僕だって戦いたくないよ!』
『ならストライクから降りろ!』
『そんなことできるわけないだろ!』
こちらにはデュエルがきている。
『貴様があの金色か!』
「……俺を知っているのか?」
『ヘリオポリスで隊長と戦っていた機体だろう!』
「そうか」
『その余裕がいつまで続くか――!』
デュエルがビームライフルを撃つ。
ゴールドを滑らせるように動かし、射線から外れる。
……速い。
それに前に戦った連中と比べても動きがいい。
「腕は悪くないな」
『上から評価するなぁっ!』
「褒めたんだが」
『馬鹿にしているのか貴様ぁっ!』
「……面倒な奴だな」
……違う。
思った通りに機体が動く。
今までは入力してから、ほんのわずかに機体が遅れてついてくる感覚があった。
それがない。
「なるほど」
『何がなるほどだ!』
「いや、こっちの話だ」
俺がデュエルを相手にしている間も離れた場所で痴話げんか……いや、MSの口喧嘩が続いている。
『キラ! お前はコーディネイターなんだぞ!』
『それがなんだよ!』
『なぜナチュラルのために戦う!』
『ナチュラルだから守ってるんじゃない!』
まああっちはあっちで任せよう。今のキラなら大丈夫だ。
『ならなぜ地球軍のMSに乗っている!』
『それで俺たちを撃つのか!? 同じコーディネイターを!』
『……っ!』
『キラ! お前が戦う必要なんてない! こっちへ来い!』
『できない!』
『なぜだ!』
『みんながいるんだ! 僕の友達が、この艦に乗ってる!』
『だったらそいつらを降ろせばいい!』
『そんな簡単に――!』
『簡単なことだ! お前が地球軍のために同胞を撃つ理由なんてない!』
『…………!』
ん、ちょっと精神ダメージが入ったか。
『よそ見をするなぁっ!』
「していない」
デュエルが斬りこんでくる。こいつはこいつで面倒くさいやつだ。
『貴様ぁぁっ!』
「声が大きい」
『誰のせいだと思っている!』
「知らん」
やはり動きが滑らかになっているな。あとでまたキラに礼を言っておこう。
『……僕は……』
『キラ!』
ストライクの動きが鈍った。
……何を言われた?
『よそ見をするなぁぁっ!』
ホントにめんどくさいやつだな。
「!」
イージスが隙を付こうとしたがライフルを撃って機先を制する。
「キラ!」
『っ!』
ストライクが反応する。
間に合ったか。
「考えるのは後にしろ。今は生き残れ」
『……はい!』
『お前は――!』
「話し合うなら戦闘が終わってからにしろ」
『これは俺とキラの問題だ!』
「ならキラを殺しかけるな」
『……っ!』
『貴様ぁぁぁぁっ!!』
「……」
デュエルがまた来た。
本当に面倒くさい奴だ。
「ちゃんとお前の相手もしてやるからおとなしく待ってろ」
◇ ◇ ◇
『ダーリン、ちょっといい?♡』
「今度はなんだ」
『こっちの敵、一機消えちゃった♡』
相手の説明聞いてなかったのか。
「ミラージュフレームと同じ『ミラージュコロイドステルス』持ちのブリッツだろ」
『それは聞いてたわよ♡』
「なら何だ」
『消えたのに――見えるのよね♡』
「……センサーか」
『正解♡』
『姿は見えないんだけどね。そこに何かいるのは分かるの♡』
『……!?』
ブリッツが急激に進路を変えた。
『ダーリン、この子気づいたみたい』
「何にだ?」
『私がこの子を見つけてること♡』
「大体なんでお前もミラージュコロイドシステム使って姿を消してないんだ?」
『だってぇ、二人とも消えちゃったら読者に何やってるか分からないじゃない♡』
「誰に言ってる」
『冗談よ♡ ミラージュコロイド使ったらバッテリー食うじゃない』
「……それが本音か」
『それに、向こうが私を見えてる方が都合がいいのよ♡』
「囮か」
『せいかーい♡』
『それにねダーリン』
「なんだ」
『同じことができる相手に、同じことして勝っても面白くないじゃない♡』
「……遊ぶな」
『遊んでないわよぉ♡』
『ちなみにぃ、この会話の間にもブリッツくん一生懸命かくれんぼしてるのよ?』
『……あら?』
「どうした」
『動きが変わったわ』
「気づいたか?」
『たぶんね♡』
◇ ◇ ◇
ニコルside
『ニコルどうした!ステルスは効いてるみたいだぞ!』
「ディアッカくん、残念ながらあちらのMSには僕がどこにいるのかわかってるみたいだ」
その証拠に動きに合わせて長銃身のライフルの先が動いている。
バスターの砲撃もきれいにかわしながらこれをやるんだから本当に相手はナチュラルなんだろうか。
試しに進路を大きく変える。
ミラージュフレームの銃口がついてくる。
急制動。
また銃口が止まる。
「……やっぱり」
『何がだ?』
「偶然じゃありません。あの機体は僕を見つけています」
『マジかよ!? ミラージュコロイドだぞ!?』
「おそらく、こちらと同じシステムを搭載しているからでしょう」
『だったらどうする?』
「――相手をしません」
メビウス・ゼロがヴェサリウスへ向かっている。
あの金髪の女性は僕を見つけている。
けれど攻め込んでこない。
こちらの動きを抑えながら、もう一機を通そうとしている。
「……そういうことですか」
『ニコル?』
「僕たちを引きつけてるんです。あの機体は囮です!」
『なに!?』
「ディアッカくん、あの機体をお願いします!」
『おい、ニコル!?』
「僕はメビウス・ゼロを止めます!」
◇ ◇ ◇
キョウスケside
『あら?』
「どうした」
『かくれんぼやめちゃった♡』
「気づかれたか」
『みたいねぇ。あの子、思ってたよりずっと頭いいわ♡』
『でも……そっちはダメ♡』
ミラージュフレームの放った一射がブリッツの進路を塞ぎ、その足を止めた。
『くそっ、最初から俺たちを引きつけるつもりだったのか!』
「そうみたいです!」
『だったら俺があいつを抑える! ニコル、お前はゼロを追え!』
「はい!」
『おっと、透明野郎がこっちに来たか!』
『ムウさん、見えてないんだから気をつけて♡』
『見えてない奴に気をつけろって簡単に言うな!』
『───まあもう遅いがな』
◇ ◇ ◇
第三者side
突然ラウははっと頭を起こした。ぞわりと肌を伝うようなこの感覚。───すっかりなじみとなった彼の身の内に憎悪と、愉悦にも似た戦慄を呼び覚まさずにはいられないこの感覚は───。
「アデス!機関最大!艦首を下げろ!ピッチ角60!」
唐突に彼の口から命令が飛び出した。アデスは虚を突かれ、ただ彼の顔を見るばかりだ。
「何をしている、アデス! 早くしろ!」
「は、はい! 機関最大! 艦首下げ! ピッチ角60!」
「しかし、敵機はまだ――」
「来るぞ!」
その言葉とほぼ同時だった。
ヴェサリウスのいた空間を、光条が貫いた。
「な……!」
アデスも何が起こったのかはじめてわかったようだった。だが。
「うおりゃぁ!」
ムウが声を上げながら最大加速でヴェサリウスに迫る。
寸前でヴェサリウスのエンジンが轟音を立て、スラスターを噴射したが間に合わない。
『ゼロ』は自動防御装置の迎撃をすいすいとかわし、ガンバレルを展開させた。
目標は唸りを上げる巨大な機関部。ムウはリニアガンを連射しありったけの火力をぶち込む。
すれ違いざま機関部が火を上げるのを見て「おっしゃぁ!」とガッツポーズをムウはあげる。
とガッツポーズした瞬間、見えない攻撃がゼロを襲う。
ムウが反射的に機体をひねって躱す
『うおっ!?』
そこでようやくニコルが追いつく。
『それ以上はやらせません!』
「ちっ、追いついてきたか!」
「でも言ったろ、もう遅いって。」
そのままの速度でヴェサリウスにワイヤーを撃ちこみ、振り子のように慣性で方向転換した後、
ムウはワイヤーを切り離し素早くその宙域を脱出した。
『待ってください!』
「悪いな坊主! 見えない奴と鬼ごっこする趣味はないんでね!」
◇ ◇ ◇
「フラガ大尉よりレーザー通信!『作戦成功!これより帰投する』!」
アークエンジェルの艦橋に歓声が上がる。トールたちが思わず顔を見合わせほっと胸をなでおろした。
マリューは握りしめたこぶしをやっとほどいたが、すぐにシャンと背筋を伸ばした。
「この機を逃さず前方ナスカ級を撃ちます!」
クルーの間に緊張が再び戻る。
「了解!ローエングリン、一番、二番、発射準備!」
アークエンジェルの両舷艦首にあるローエングリン発射口が開く。
「――てぇっ!」
ナタルの号令と同時に、特装砲ローエングリンが火を噴いた。その圧倒的な火力。
プラズマの渦が宇宙空間を貫く!それは傷ついたエンジンで必死に回避行動をするヴェサリウスの右舷をかすった。すさまじい衝撃が艦を襲う。
ヴェサリウスは戦闘能力を失い完全に戦線を離脱するしかなかった。
◇ ◇ ◇
キョウスケside
「――アークエンジェル、機関最大! アルテミスへ向かいます!」
「聞いたな、キラ」
『はい!』
「後退する。艦から離れるな」
『了解!』
『待て、キラ!』
アスランの声が割り込んだ。
『まだ話は――』
「アスラン!」
キラは一瞬だけ言葉を詰まらせた。
『……僕は行く』
『キラ!』
『今は、みんなを守る!』
それだけ告げ、ストライクはアークエンジェルへ機首を向けた。
『逃がすかぁぁぁ!!』
デュエルがゴールドへ突っ込んでくる。
「……まだ来るのか」
『貴様だけはここで落とす!』
「母艦を見ろ」
『何!?』
「戦闘を続けている場合か?」
『…………!』
『くそっ!名前を教えろ!おまえを倒すのは俺だ!それまで誰にも倒されるな!』
「キョウスケ・ナンブだ。事前予約を頼む」
『イザーク! ヴェサリウスの援護に戻ります!』
『分かっている!』
デュエルが反転する。
『キョウスケ・ナンブ! 覚えていろ!』
「予約は受け付けた」
『ダーリン大人気ね♡ 次のご予約は三か月後になりまーす♡』
「勝手に増やすな」
『貴様らぁぁぁぁぁ!!』
通信が切れた。
「……最後まで声の大きい奴だったな」
◇ ◇ ◇
「というわけで、提案がある」
「?」
「俺たちは地球軍の所属じゃない。ゴールドとミラージュも同じだ」
「おそらくは……いや確実に無駄な摩擦を生む。その前に一旦途中下車して岩塊に隠れていることにする。幸いさっきの戦闘でも大した故障はないしな」
ナタルは渋い顔をしているが、マリューは苦笑しながら。
「仕方ないわね。補給して出てきたらちゃんと戻ってきてね?」
「美味しい料理を準備して待っていてくれると個人的にはうれしいがね」
『大丈夫よマリューさん♡ ダーリンがどこかへ行っちゃっても、私が首根っこ掴んで連れてくるから♡』
「頼んだわ、エクセレンさん」
「俺の意思はどうなってる」
『ないわ♡』
「そうか」
「艦長。本当に許可するのですか?」
「ええ。キョウスケさんの言うことにも一理あるわ」
「しかし……」
「心配するな。アルテミスに危害を加えるつもりはない」
「あなたの場合、その言葉をそのまま信用してよいのか判断に困るのですが」
「もっともだ」
「そこで納得しないでください!」
「じゃあ、俺たちはここまでだ」
「しばらくお別れね、マリューさん♡」
「ええ。何事もなければ、また後で」
「ああ」
そして俺たちがハッチから出て岩塊に隠れた後。
アークエンジェルはアルテミスに入港した。