羽澄にはずっと消えないものがあった。
心の奥に沈んだままの『後悔』だ。
羽澄の周りには常に嵐が吹き荒れていた。
母と父が喧嘩した時。
父が出ていった時。
母が自分に暴力を振るうようになった時。
羽澄はずっと震えて縮こまっていた。
縮こまって、待っていた。
元の日常が帰ってくる時を待っていた。
だが、嵐が過ぎるのを待つうちに、大事なものは波風に攫われるように次々と失われていった。
羽澄はそれをずっと『後悔』していた。
もしあの時、自分が仲裁に入っていれば止められた喧嘩もあったんじゃないか。
もしあの時、父の手に縋っていたら家族はバラバラにならなかったんじゃないか。
もしあの時、自分が声をあげていれば、こんなことにはならなかったんじゃないか。
あの嵐に立ち向かっていれば、『今』はもっと違うものになっていたのではないだろうか。
そんなものを夢見るたびに何もしてこなかった自分という人間が浮き彫りになる。
怪我を負うのはすぐに慣れた。
火傷の痛みは次第に鈍くなった。
熱に犯された身体を動かすコツもわかった。
だけど、心の痛みを誤魔化す方法はいつまでたってもわからなかった
何かを変えたくて母と同じゲームを始めた
母のことを知りたくて配信を何度も見た
理想の姿を突き詰めて、一つのキャラクターを作り上げた
だけどそれも全ては『同じ家に住む母』から逃げていただけだったのだ。
だから、変わろうとした。
だから、もう逃げたくなかった。
だから、戦うことを選んだのだ。
もう『後悔』したくなかったからここに来たのだ
誰かに任せて、自分の手の届かないところで何もかも終わってしまうことだけはもう嫌だった。
なのに、やっぱり自分はあの頃と何も変わっていない。
膝を抱えて、縮こまって、何も守ることのできないままだった
伸ばした手が幾度も空を掻く
届かないとわかっていても必死に追いすがる。
それでも目の前の現実はそんな私を冷たく突き放す。
また……何もできない……
頭の中に様々な顔が現れては消えていく。
お父さん、お母さん……
2人は私から顔を背け、霞のように消えていく。
ウェン、ゴツモン……
2人の姿が目の前で私から遠ざかっていく。
伸ばした手は空を切るばかり
嫌だ。嫌だ。嫌だ。
力が足りない
手が届かない
何もできない
自分一人の力では何も変えられない。
誰か……誰か……
『羽澄さん!私があなたの力になります!』
力を貸して
「……ファンビーモォォン!!!!!」
その願いが光となって夕闇を切り裂いた。
【ファンビーモン………進化ァァァァアアアアアア!】