アキラは指定された六分街の交差点へ向かっていた。
リンやFairyと通信を繋ぎながら、依頼人を探す。
そこにいたのは、一人の大柄な男だった。
しかし、その様子は少し変わっていた。
何かを覚悟するように独り言を呟き、拳を握り締めている。
その姿を見たリンは、不審に思う。
Fairyも「怪しい人物」「独り言」という情報から検索を開始するが、なぜか旧文明のホラー映画に登場する人物像と一致すると報告。
アキラたちは困惑しながらも、慎重に男へ近づいた。
すると。
男はアキラに気付き、明るい声で話しかけてきた。
その人物は。
昨日、テレビ番組『ボンプは知っている』に出演していた白祇重工の社員――アンドーだった。
アンドーは、自分が依頼人であることを明かす。
そして。
白祇重工が現在、大きな問題を抱えていることを説明した。
地下鉄改修プロジェクト。
ヴィジョンとの競争の末、白祇重工が勝ち取った重要な案件。
しかし、その裏では会社の未来を左右するほどの危機が迫っていた。
そのため、詳しい事情を外部へ漏らすことはできない。
そこでアンドーは、パエトーンの正体を知る代わりに、自分たちの秘密も共有することで互いに信用を作ろうとしていた。
アキラは依頼を受ける前に、一つ質問する。
「なぜ、このアカウントがパエトーンだと分かったのか」
アンドーは情報源について詳しくは語らなかった。
ただ、その人物がパエトーンについて「腕前だけではなく、人間としても信頼できる存在だ」と保証していたことを話す。
その言葉を聞いたリンは、すぐに気付く。
その情報を渡したのは、邪兎屋のニコではないかと。
アンドーは驚き、なぜ分かったのかと尋ねるが、
「どうせ、情報の見返りになんかあげたんでしょ。」
あっさり見抜いていた。
そして。
「詳しい話は、社長本人から説明する。」
と言われ、社長自ら依頼について説明するので、黒街跡地まで来てくれとのこと…
その話を、リンの通信越しに聞いていたレイは静かに考え込んでいた。
「……黒街跡地。」
小さく、その名前を繰り返す。
地下鉄改修プロジェクト。
白祇重工。
そして、会社の未来を左右するほどの危機。
話を聞く限り、ただの依頼ではないことだけは理解できた。
レイはゆっくりと立ち上がる。
「リンさん。」
「え?」
「私も黒街跡地へ向かいます。」
リンは目を丸くした。
「えっ、ちょっと待って!」
「お兄ちゃんたちはまだ準備もあるし、勝手に行っちゃ――」
最後まで言い終わる前に。
レイは店の入口へ向かって歩き出していた。
「もし危険な場所なら。」
「私もいた方が力になれます。」
「レイちゃん!」
リンが慌てて呼び止める。
しかし。
レイは振り返ることなく店の外へ出ると、純白の翼を大きく広げた。
ふわり、と風が舞う。
次の瞬間。
白い翼が力強く羽ばたき、レイの身体は一気に空へ舞い上がる。
「あっ……!」
リンは思わず店の外へ飛び出した。
だが、その頃にはレイはもう六分街の建物を越え、黒街跡地の方角へ一直線に飛び去っていた。
「もう……!」
「勝手に行っちゃった!」
リンは困ったように額へ手を当て、大きくため息をつく。
「お兄ちゃん。」
「レイちゃん、そっちに向かっちゃったから!」
通信越しにそう告げると、リンは空の彼方へ消えていった白い翼を見上げるのだった。
◇
その頃。
上空では、レイがスマートフォンの地図を頼りに黒街跡地へ向かっていた。
画面と地上を何度も見比べながら飛行を続ける。
やがて。
目的地と思われる工事現場が視界へ入った。
「……。」
その瞬間だった。
レイの視線が止まる。
工事現場の入口。
そこでは一機の四足歩行型重機が暴走し、一人の少年へ向かって一直線に突っ込んでいた。
「アキラさん……!」
レイの表情が僅かに険しくなる。
すぐさま純白の翼が展開。
翼の装置から二挺のツインバスターライフルがせり出した。
レイは急降下を開始する。
風を切り裂き、一気に高度を下げる。
そして。
地上へ到達する直前。
ぴたりと空中で静止した。
両手に構えたツインバスターライフルの照準が、暴走する重機を捉える。
視界に照準情報が流れ込む。
《目標固定》
《周辺民間人確認》
《推奨出力……》
レイは静かに呟いた。
「出力五パーセント。」
「最小火力。」
「周囲を巻き込まないように……撃ち抜きます。」
指が引き金へ掛かった。
◇
――時は少し遡る。
黒街跡地。
アキラはアンドーの案内で工事現場へ向かっていた。
「もう着くぜ。」
アンドーは親指で前方を指す。
「社長はすぐそこだ。」
「まだ若えが、百獣の王って感じだからな。」
「存分に緊張しな!」
アキラは苦笑する。
「普通は緊張をほぐすんじゃ?」
二人が工事現場の入口へ目を向けた、その時だった。
――ドォンッ!!
轟音とともに入口のゲートが内側から吹き飛ぶ。
破壊されたゲートを突き破り、一機の四足歩行型重機が猛スピードで飛び出してきた。
しかも。
その背には一人の女性が乗っている。
「どいてーーー!」
女性――グレースの叫び声が響く。
暴走する重機は、そのままアキラたちへ一直線に突っ込んできた。
「走れ!」
アンドーは咄嗟にアキラを走らせ、自らは正面へ飛び出す。
ドゴォンッ!!
全身で重機を受け止める。
両腕に力を込め、押し返そうとするが、相手は数トンはある巨大な重機。
力は完全に拮抗していた。
「ぐっ……!」
その間も。
重機の上ではグレースが慌てる様子もなくタブレットを操作している。
「君か、アンドー!」
「絶賛点検中だよ!」
「そのまま待ってて!」
「ぐっ……!」
アンドーは歯を食いしばりながら踏ん張る。
グレースは重機へ向かって声を掛け続ける。
「怖がらないで。」
「ただのファイアウォールだから。」
「ぜーんぜん痛くない……」
そう言ってボタンへ手を伸ばした、その瞬間。
「うわぁぁぁぁぁ!」
重機が激しく暴れた。
グレースの身体が大きく宙へ放り出される。
「やべぇ!」
アンドーは反射的に重機から手を離し、飛ばされたグレースを受け止めるため駆け出した。
自由になった重機は、そのまま工事現場の奥へ暴走する。
巨大な鉄骨へ一直線。
激突まで、あと数メートル。
誰もがそう思った、その時だった。
――キィィィィン。
上空から、一筋の黄金色の閃光が走る。
次の瞬間。
轟音とともに放たれたビームが重機の中央部を正確に貫いた。
爆発は起きない。
必要最小限の熱量だけが内部機構を焼き切る。
重機は火花を散らしながら、その場で完全に停止した。
静寂。
誰もが呆然と空を見上げる。
そこには。
四枚の純白の翼を広げ、二挺のツインバスターライフルを構えた少女――レイが、静かに空中へ佇んでいた。
◇
「…………。」
誰も言葉を発せなかった。
暴走していた重機は完全に沈黙し、立ち上る白い煙だけが静かに揺れている。
やがて。
最初に口を開いたのはアンドーだった。
「……な。」
「なんだありゃあ……。」
空を見上げたまま目を丸くする。
グレースもアンドーの腕から降りると、興味津々といった様子で空を見上げた。
「わぁ……。」
「飛んでる。」
「それにあの銃に、翼についてる装置!」
レイはゆっくりと地上へ降下する。
純白の翼を大きく広げたまま、ふわりと着地した。
着地と同時に、ツインバスターライフルは静かな駆動音を響かせながら翼の装置へ収納されていく。
カチリ。
まるで何事もなかったかのようにレイはアキラへ歩み寄った。
「アキラさん。」
「お怪我はありませんか。」
アキラは苦笑しながら頷く。
「ああ。」
「レイのおかげで助かったよ。」
その言葉を聞くと、レイは小さく胸をなで下ろす。
「……よかったです。」
一方。
アンドーはレイを見つめたまま固まっていた。
「お、おいパエトーン。」
「この嬢ちゃん……。」
「まさか空飛んできたのか?」
アキラは曖昧に笑う。
「まあ……そんなところ。」
「そんなところで済ませる話かよ!」
アンドーは思わず声を上げた。
「翼まで生えてるし!」
「空からビーム撃つし!」
「どうなってんだ!」
レイは首を傾げる。
「飛ぶのは。」
「そんなに珍しいことでしょうか。」
「珍しいわ!」
アンドーは即座に突っ込む。
そのやり取りを見ていたグレースが、目を輝かせながらレイへ近付いてきた。
「ねえねえ。」
「ちょっと見せてもらってもいい?」
「その翼の装置。」
「どういう構造?」
「推進機関は?」
「さっきの武器は収納式?」
「エネルギー供給は?」
質問が一気に飛んでくる。
レイは少し困ったように瞬きをした。
「……。」
「分かりません。」
「え?」
「身体が覚えています。」
「ですが。」
「構造は知りません。」
グレースの瞳がさらに輝いた。
「最高じゃん!」
「分からないってことは調べる楽しみがあるってことだよ!」
「解剖……じゃなくて分解……でもなくて、検査させて!」
レイは一歩後ろへ下がる。
「……検査。」
「痛いですか?」
「できるだけ痛くないようにはするよ!」
「痛いのですね。」
レイは即座に翼を少し広げ、警戒態勢を取る。
「遠慮します。」
「えぇー!」
グレースが心底残念そうな声を上げる。
その様子を見たアンドーは額へ手を当て、大きくため息をついた。
「グレース。」
「初対面で研究対象を見る目ぇすんな。」
「せっかく助けてもらったんだからよ。」
グレースは「あっ」と声を漏らす。
「あ、そうだった。」
そしてレイへ向き直り、にこりと笑った。
「助けてくれてありがとう。」
「私、白祇重工技術主任。」
「グレース・ハワード。」
「今のはちょっとした事故だったんだ。」
レイは静かに頭を下げる。
「レイです。」
「ご無事で何よりです。」
その様子を見ていたアキラは、ようやく張り詰めていた空気が和らいだことに小さく息を吐いた。
しかし。
工事現場の奥からは、重々しい足音がゆっくりと近付いてきていた。
「……騒がしいと思えば。」
低く落ち着いた男性の声が現場に響く。
全員の視線が、その声の主へと向けられた。
「悪い。」
「遅くなった。」
工事現場の奥から姿を現したのは、大柄な熊のシリオンだった。
作業着に身を包み、その落ち着いた佇まきには、歴戦の現場責任者らしい貫禄がある。
アキラは思わず小さく息を呑んだ。
(この人が……。)
(百獣の王――白祇重工のボス?)
姿勢を正し、軽く咳払いをする。
「コホン……。」
「こんにちは。」
熊のシリオンは穏やかに頷いた。
「ああ。」
「これはこれは、プロキシさん。」
「着いて早々、申し訳ない。」
「社長と共に、お待ちしていた。」
アキラは一瞬きょとんとする。
「え?」
「じゃあ……あなたは……?」
その時だった。
「何すんだグレース!」
「降ろせ!」
元気な少女の叫び声が響く。
全員が声のした方を見る。
そこでは。
グレースが、小柄な赤髪の少女を腰の辺りで軽々と持ち上げていた。
少女は足をばたつかせながら必死にもがく。
熊のシリオン――ベンは、まるで見慣れた光景だと言わんばかりに淡々と紹介した。
「こちらが。」
「我が社の社長だ。」
グレースに掲げられたまま、赤髪の少女は勢いよく叫ぶ。
「降ろせっつってんだろ!」
しかし目の前にレイとアキラがいることに気が付くと、そのままの状態で胸を張り、自信満々に名乗った。
「白祇重工社長。」
「クレタ・ベロボーグだ!」
現場の空気が一変する。
白祇重工を率いる若き社長――クレタ・ベロボーグ。
アキラとレイは、その小さな社長を静かに見つめていた。
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この作品とは別世界線のゼンレスゾーンゼロ×機動戦士ガンダムSEEDの小説を書いています、良ければそっちも見てみてください。
「終末世界でSEEDは割れるのか?」