世界には。
表に出る者と。
裏で動かす者がいる。
シンフォギア装者。
ノイズ。
特異災害対策機動部。
そして。
それら全てを静かに眺める存在。
ブラッドスターク。
かつて世界を滅ぼした怪物。
エボルト。
彼は今。
この世界の物語を楽しんでいた。
⸻
「いやぁ。」
カフェnascita。
石動惣一はカウンターを拭きながら、テレビに映るニュースを見る。
表向きは。
ただの喫茶店のマスター。
誰とでも気軽に話す気さくな男。
しかし。
その裏では。
世界中の情報を整理している。
「装者が増えて。」
「敵も動き始めて。」
「いやぁ、賑やかになってきたねぇ。」
笑う。
以前なら。
この状況ならすぐに支配へ動いた。
力を集め。
敵を利用し。
最後には全てを奪う。
それがエボルトのやり方だった。
しかし。
今は違う。
「勝つだけなら簡単なんだけどねぇ。」
コーヒーを飲む。
「それじゃあ、つまらない。」
勝利だけを求めるゲームは。
もう経験している。
一度目のシンフォギア世界。
完全な勝利。
全てを掌握した結末。
だからこそ。
今は過程を楽しむ。
⸻
夜。
ブラッドスターク。
街の屋上。
視線の先には。
一人の少女。
風鳴翼。
天羽々斬の装者。
孤高の戦士。
「へぇ。」
スタークは興味深そうに見る。
「響とは真逆のタイプだねぇ。」
響は。
誰かと繋がることで強くなる。
翼は。
背負うことで強くなろうとする。
どちらも違う。
だから面白い。
⸻
翼はノイズとの戦闘を終えた後。
一人、夜の街を歩いていた。
「……。」
その前に。
黒い影が現れる。
「こんばんは。」
ブラッドスターク。
翼は即座に刀へ手を伸ばす。
「何者だ。」
「怖いねぇ。」
スタークは笑う。
「初対面でその警戒心。」
「悪くない。」
「質問に答えろ。」
翼の声は鋭い。
スタークは肩をすくめる。
「俺はただの観客。」
「……。」
「でも。」
一歩近づく。
「君には少し興味がある。」
⸻
「興味?」
「そう。」
スタークは翼を見る。
「君さ。」
「強いよね。」
「力もある。」
「技術もある。」
「覚悟もある。」
しかし。
「一つ足りない。」
翼の表情が変わる。
「何だ。」
「余裕。」
⸻
翼は黙る。
スタークは続ける。
「君は全部背負おうとしてる。」
「自分がやらなきゃ。」
「自分が守らなきゃ。」
「そう思ってる。」
図星。
翼の目が細くなる。
「……貴様。」
「俺はさ。」
スタークは笑う。
「そういう人間が。」
「どこまで無理できるのか見るのが好きなんだよねぇ。」
⸻
挑発。
しかし。
翼は斬りかからない。
怒りで動けば。
相手の思う壺。
そう理解している。
「なるほど。」
スタークは笑う。
「ちゃんと考えるタイプか。」
「ただの挑発ではないようだな。」
「さぁ?」
スタークは答えを濁す。
「自分で考えてみなよ。」
⸻
その頃。
別の場所。
フィーネは報告を受けていた。
「ブラッドスターク……。」
資料を見る。
「装者への接触。」
「敵対行動なし。」
「しかし目的不明。」
フィーネは考える。
「まるで。」
「こちらを試しているようね。」
⸻
正解だった。
エボルトは。
誰か一人を見ているわけではない。
響。
翼。
フィーネ。
全て。
それぞれの選択を見ている。
⸻
翌日。
nascita。
石動惣一として。
響が店に訪れる。
「マスター。」
「おや、響ちゃん。」
いつもの笑顔。
響は少し安心する。
この人は普通だ。
そう思える。
だが。
その裏に。
ブラッドスタークがいることを。
彼女は知らない。
「最近、大変そうだねぇ。」
「え?」
「いや。」
石動は笑う。
「若い子が悩んでる顔してたから。」
響は少し驚く。
「分かるんですか?」
「そりゃあね。」
エボルトは。
人間の感情を理解している。
だから。
今の響の迷いも分かる。
「無理して答え出さなくてもいいんじゃない?」
その言葉。
響は少しだけ救われる。
⸻
夜。
石動惣一は一人になる。
そして。
ブラッドスタークへ戻る。
「さて。」
「一人目は響。」
「二人目は翼。」
「次は……。」
笑う。
「どんな答えを見せてくれるかな。」
⸻
怪物は。
もう世界を壊すためだけに動いてはいない。
人間を理解したから。
感情を得たから。
そして。
自分自身が。
その変化を楽しんでいるから。
「ゲームは。」
「勝つだけじゃ面白くない。」
暗闇へ消える。
「盛り上がってこそだよねぇ。」
⸻