戦姫絶唱シンフォギア RE:EVOLT   作:どーべんうるふ

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第六話 前編

 

――守るための力、逃げるための力――

 

人は誰しも、何かを守るために力を求める。

 

大切な誰か。

 

譲れない信念。

 

叶えたい願い。

 

しかし。

 

時として人は、守りたいものを失う恐怖から力を求める。

 

失わないため。

 

奪われないため。

 

もう二度と傷つかないため。

 

その力は、盾になる。

 

同時に。

 

自分自身を閉じ込める檻にもなる。

 

⸻

 

夜の街。

 

雨が降っていた。

 

街灯の光を反射した水滴が、アスファルトの上で淡い光を作る。

 

人々は傘を差し、家路を急ぐ。

 

誰もが帰る場所を持っているように見えた。

 

だが。

 

その中に一人だけ。

 

帰る場所を失った少女がいた。

 

⸻

 

雪音クリス

 

少女は歩いていた。

 

雨音を遮るように、首元のヘッドホンから音楽が流れている。

 

淡い色の髪。

 

左右で結ったツインテール。

 

紫色の瞳。

 

小柄な体。

 

ダークグリーンのノースリーブ。

 

黒いショートパンツ。

 

歩きやすいブーツ。

 

戦場で見る姿とは違う。

 

そこにいるのは、兵器でも、装者でもない。

 

ただの少女だった。

 

……本来なら。

 

「……」

 

クリスは足を止める。

 

ショーウィンドウに映った自分を見る。

 

そこにいる少女は、どこか疲れていた。

 

「……何見てんだよ」

 

自分自身へ向けた言葉。

 

誰かに聞かせるためではない。

 

ただ、そう言わなければ崩れてしまいそうだった。

 

⸻

 

脳裏に浮かぶ。

 

炎。

 

瓦礫。

 

泣き叫ぶ声。

 

そして。

 

誰も助けてくれなかった記憶。

 

信じたものは消えた。

 

頼ったものは奪われた。

 

だから。

 

クリスは決めた。

 

二度と期待しない。

 

二度と誰かに縋らない。

 

力だけが、自分を守ってくれる。

 

そう信じるしかなかった。

 

⸻

 

特異災害対策機動部・二課

 

「雪音クリス……」

 

モニターに映る少女。

 

響は黙って画面を見る。

 

「また、戦うのかな……」

 

翼は答えなかった。

 

「響」

 

「はい」

 

「戦場で相手を見るな」

 

「見るべきものは、敵の動きだ」

 

厳しい言葉。

 

しかし翼自身、その言葉が完全ではないことを理解していた。

 

かつての自分なら。

 

迷わず斬っていた。

 

敵なら倒す。

 

それだけだった。

 

だが。

 

立花響という存在が現れてから。

 

少しずつ変化している。

 

「……あの少女は」

 

翼は小さく呟く。

 

「本当に敵なのか」

 

⸻

 

フィーネ

 

地下深く。

 

古代文明の資料。

 

聖遺物の研究記録。

 

月へ至るための計画。

 

その中心に、一人の女性がいた。

 

櫻井了子。

 

しかし。

 

その瞳に宿るものは、現代の人間ではない。

 

フィーネ。

 

幾千年もの時間を越えた意思。

 

人類の歴史を見続けた存在。

 

「クリス」

 

彼女は静かに呟く。

 

「あなたはまだ、世界を恐れている」

 

映像にはネフシュタンの鎧。

 

黒。

 

深紅。

 

蛇を思わせる装甲。

 

「だからこそ」

 

フィーネは微笑む。

 

「力が必要なのよ」

 

⸻

 

フィーネにとってクリスは道具ではない。

 

少なくとも。

 

彼女自身はそう思っている。

 

孤独だった少女。

 

誰にも理解されなかった少女。

 

だからこそ。

 

自分だけが理解者になる。

 

自分だけが必要とする。

 

それが一番効果的だと知っている。

 

⸻

 

「あなたを裏切る人間はいらない」

 

「あなたを必要とする存在だけがいればいい」

 

その言葉は。

 

クリスにとって救いだった。

 

同時に。

 

逃げ道でもあった。

 

⸻

 

赤い観測者

 

夜の高層ビル。

 

雨粒が赤い装甲を滑り落ちる。

 

そこに立つ影。

 

ブラッドスターク。

 

ワインレッドの装甲。

 

メタリックブルーのコブラ型バイザー。

 

蛇腹状のフード。

 

緑色に光る複眼。

 

胸部には複雑なパイプライン。

 

蒸気がゆっくりと噴き出す。

 

その姿は。

 

怪物というより。

 

獲物を観察する捕食者だった。

 

「なるほどねぇ」

 

スタークは呟く。

 

視線の先。

 

クリス。

 

「鎧を欲しがってるんじゃない」

 

「安心できる場所が欲しいだけか」

 

⸻

 

右手。

 

トランスチームガン。

 

小さな機械音。

 

コブラフルボトルが輝く。

 

「人間って面白いよねぇ」

 

「力を手に入れた瞬間、力に縛られる」

 

⸻

 

「あなた」

 

声。

 

フィーネ。

 

スタークは振り返る。

 

「また会ったね」

 

「あなたの力……」

 

フィーネは警戒する。

 

「聖遺物ではない」

 

「しかし、人間の可能性を変える技術」

 

スタークは笑う。

 

「さすが」

 

「何千年も研究してる人は違う」

 

フィーネの目が細まる。

 

「あなたは何者?」

 

「ただの研究者」

 

即答。

 

しかし。

 

フィーネは理解していた。

 

嘘だ。

 

だが。

 

正体へ届かない。

 

⸻

 

接触

 

ノイズ反応。

 

夜の街。

 

響と翼が到着する。

 

そして。

 

少女が立っていた。

 

黒と深紅の鎧。

 

ネフシュタン。

 

「……来たか」

 

クリス。

 

響は一歩前へ出る。

 

「クリスちゃん」

 

「その呼び方……!」

 

クリスの表情が歪む。

 

「やめろ」

 

「私はお前らの仲間じゃない」

 

響は首を振る。

 

「でも」

 

「私はクリスちゃんのこと、何も知らない」

 

「だから知りたい」

 

「どうしてそんなに苦しそうなのか」

 

⸻

 

一瞬。

 

クリスの動きが止まる。

 

だが。

 

すぐに怒りが勝つ。

 

「うるせぇ!」

 

ネフシュタンの鞭が放たれる。

 

大地が裂ける。

 

⸻

 

翼が前へ出る。

 

「響!」

 

「はい!」

 

二人の歌声。

 

ガングニール。

 

天羽々斬。

 

戦場が震える。

 

⸻

 

そして。

 

第三者。

 

蒸気。

 

白い煙。

 

「……?」

 

響が振り返る。

 

煙の中から現れる赤い影。

 

ブラッドスターク。

 

⸻

 

「三つの力」

 

「三つの心」

 

スタークは笑う。

 

「どれも違う」

 

右腕。

 

装甲展開。

 

スティングヴァイパー。

 

蛇の針が伸びる。

 

クリスが反応する。

 

鞭で防ぐ。

 

しかし。

 

スタークは真正面から攻めない。

 

煙。

 

消失。

 

⸻

 

「どこ……?」

 

響が周囲を見る。

 

声。

 

背後。

 

「相手を見る時はね」

 

「武器だけじゃなく、考え方を見るんだよ」

 

振り返る。

 

しかし。

 

そこには誰もいない。

 

⸻

 

クリスは歯を食いしばる。

 

「……なんなんだよ」

 

あの男。

 

戦い方が読めない。

 

力ではない。

 

技術でもない。

 

まるで。

 

自分たちの心を見透かしている。

 

⸻

 

夜明け前

 

ブラッドスタークは屋上に立っていた。

 

トランスチームガンを回す。

 

「ガングニール」

 

「天羽々斬」

 

「ネフシュタン」

 

「そしてフィーネ」

 

赤い複眼が光る。

 

「この世界」

 

「まだまだ面白くなりそうだ」

 

⸻

 

一方。

 

クリスは一人、暗闇の中にいた。

 

鎧を解除する。

 

小さな手を見る。

 

力はある。

 

守る力はある。

 

なのに。

 

なぜ。

 

胸の奥がこんなにも寒いのか。

 

⸻

 

響はまだ知らない。

 

クリスが本当に求めているものを。

 

翼はまだ知らない。

 

自分が変わり始めていることを。

 

フィーネはまだ知らない。

 

ブラッドスタークという存在の本当の正体を。

 

そして。

 

エボルトもまだ知らない。

 

この世界で最も予測不能な存在が。

 

破壊ではなく――

 

「誰かを救いたい」

 

という少女の想いであること

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