身体というものは便利だ。
エボルトは、そう思った。
肉体。
声。
表情。
それらがあるだけで、できることが一気に増える。
しかし。
「……。」
鏡に映る自分を見る。
今の姿は、借り物。
ただの器。
エボルト本来の力を引き出すには、あまりにも弱い。
「いやぁ。」
口元を歪める。
「随分と落ちたもんだねぇ。」
かつては星を喰らう存在だった。
仮面ライダーたちを圧倒し。
地球そのものを利用し。
勝利を掴んだ。
それが今では。
人間一人の身体を借りなければ存在すら維持できない。
普通なら。
屈辱を感じるところだろう。
だが。
「まあ、こういう展開も悪くないか。」
エボルトは笑う。
「最初から無双するゲームなんて、すぐ飽きるしねぇ。」
⸻
借りた身体で街を歩く。
情報収集。
まず必要なのはそれだった。
この世界がどういう構造なのか。
何が存在するのか。
そして。
自分が知っている未来と、どこまで同じなのか。
人々の会話。
ニュース。
ネットワーク。
断片的な情報を拾っていく。
「歌で戦う少女たち、ねぇ。」
その単語に興味を持つ。
シンフォギア。
聖遺物。
ノイズ。
一度目の世界で知っている。
だが。
今はまだ。
何も始まっていない。
「なるほど。」
エボルトは歩きながら考える。
「前回とは違って、まだ盤面が綺麗な状態ってわけか。」
これは好都合だった。
敵も。
味方も。
まだ配置されていない。
なら。
自分が少し手を加えるだけで。
展開は変化する。
⸻
数日後。
エボルトは一人の人間を観察していた。
普通の人間。
特別な力もない。
だが。
妙なものを感じる。
困っている誰かを助ける。
自分が損をしても気にしない。
「……。」
その姿に。
一瞬だけ。
別の男が重なる。
「万丈……。」
無意識に名前が出そうになる。
エボルトは止める。
「……。」
「いやいや。」
「まさかねぇ。」
苦笑する。
「この世界でも似たようなのを見るとは。」
馬鹿みたいに真っ直ぐ。
理屈じゃなく動く。
以前なら理解できなかった。
だが。
今なら。
少しだけ分かる気がする。
「本当に人間って面倒だよねぇ。」
そう言いながら。
声はどこか楽しそうだった。
⸻
しかし。
エボルトは忘れていない。
自分が何者なのか。
そして。
なぜこの世界へ来たのか。
「さて。」
夜。
誰もいない場所で。
エボルトは自身の状態を確認する。
まだブラッドスタークの力には届かない。
だが。
分体は少しずつ安定している。
細胞。
遺伝子。
存在情報。
時間をかければ。
再構築できる。
「エボルドライバー。」
「パンドラボックス。」
失われた力。
それらを取り戻す必要がある。
だが。
焦らない。
「急いで取り戻して。」
「また同じことをするなんて、芸がないからねぇ。」
エボルトは笑う。
一度目の世界。
自分は力で全てを奪った。
結果。
勝った。
しかし。
最後には。
盤面そのものをひっくり返された。
「今回は違う。」
小さく呟く。
「もう少し、人間ってやつを見てみるか。」
⸻
その頃。
まだ誰も知らない。
未来の英雄となる少女。
立花響。
彼女が。
やがてガングニールを手にすることを。
そして。
その少女を。
かつて世界を滅ぼした怪物が。
もう一度観察することになることを。
⸻
数週間後。
小さな喫茶店の前。
エボルトは立っていた。
店内を見る。
落ち着いた雰囲気。
人が集まる場所。
情報も集まる。
「……。」
悪くない。
人間社会に溶け込むなら。
こういう場所がいい。
そして。
自分が使う姿も決める。
「石動惣一。」
名前を口にする。
「悪くないねぇ。」
過去に使った顔。
人間たちが警戒しない顔。
気さくなマスター。
その裏に。
宇宙生命体を隠す。
「喫茶店のマスターか。」
エボルトは笑う。
「まさか俺が、こんな役をやる日が来るとはねぇ。」
扉を開ける。
新しい人生。
二度目の世界。
その始まりだった。
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