戦姫絶唱シンフォギア RE:EVOLT   作:どーべんうるふ

2 / 21
第一話 「残された怪物」中編

 

 

 身体というものは便利だ。

 

 エボルトは、そう思った。

 

 肉体。

 

 声。

 

 表情。

 

 それらがあるだけで、できることが一気に増える。

 

 しかし。

 

「……。」

 

 鏡に映る自分を見る。

 

 今の姿は、借り物。

 

 ただの器。

 

 エボルト本来の力を引き出すには、あまりにも弱い。

 

「いやぁ。」

 

 口元を歪める。

 

「随分と落ちたもんだねぇ。」

 

 かつては星を喰らう存在だった。

 

 仮面ライダーたちを圧倒し。

 

 地球そのものを利用し。

 

 勝利を掴んだ。

 

 それが今では。

 

 人間一人の身体を借りなければ存在すら維持できない。

 

 普通なら。

 

 屈辱を感じるところだろう。

 

 だが。

 

「まあ、こういう展開も悪くないか。」

 

 エボルトは笑う。

 

「最初から無双するゲームなんて、すぐ飽きるしねぇ。」

 

 

 借りた身体で街を歩く。

 

 情報収集。

 

 まず必要なのはそれだった。

 

 この世界がどういう構造なのか。

 

 何が存在するのか。

 

 そして。

 

 自分が知っている未来と、どこまで同じなのか。

 

 人々の会話。

 

 ニュース。

 

 ネットワーク。

 

 断片的な情報を拾っていく。

 

「歌で戦う少女たち、ねぇ。」

 

 その単語に興味を持つ。

 

 シンフォギア。

 

 聖遺物。

 

 ノイズ。

 

 一度目の世界で知っている。

 

 だが。

 

 今はまだ。

 

 何も始まっていない。

 

「なるほど。」

 

 エボルトは歩きながら考える。

 

「前回とは違って、まだ盤面が綺麗な状態ってわけか。」

 

 これは好都合だった。

 

 敵も。

 

 味方も。

 

 まだ配置されていない。

 

 なら。

 

 自分が少し手を加えるだけで。

 

 展開は変化する。

 

 

 数日後。

 

 エボルトは一人の人間を観察していた。

 

 普通の人間。

 

 特別な力もない。

 

 だが。

 

 妙なものを感じる。

 

 困っている誰かを助ける。

 

 自分が損をしても気にしない。

 

「……。」

 

 その姿に。

 

 一瞬だけ。

 

 別の男が重なる。

 

「万丈……。」

 

 無意識に名前が出そうになる。

 

 エボルトは止める。

 

「……。」

 

「いやいや。」

 

「まさかねぇ。」

 

 苦笑する。

 

「この世界でも似たようなのを見るとは。」

 

 馬鹿みたいに真っ直ぐ。

 

 理屈じゃなく動く。

 

 以前なら理解できなかった。

 

 だが。

 

 今なら。

 

 少しだけ分かる気がする。

 

「本当に人間って面倒だよねぇ。」

 

 そう言いながら。

 

 声はどこか楽しそうだった。

 

 

 しかし。

 

 エボルトは忘れていない。

 

 自分が何者なのか。

 

 そして。

 

 なぜこの世界へ来たのか。

 

「さて。」

 

 夜。

 

 誰もいない場所で。

 

 エボルトは自身の状態を確認する。

 

 まだブラッドスタークの力には届かない。

 

 だが。

 

 分体は少しずつ安定している。

 

 細胞。

 

 遺伝子。

 

 存在情報。

 

 時間をかければ。

 

 再構築できる。

 

「エボルドライバー。」

 

「パンドラボックス。」

 

 失われた力。

 

 それらを取り戻す必要がある。

 

 だが。

 

 焦らない。

 

「急いで取り戻して。」

 

「また同じことをするなんて、芸がないからねぇ。」

 

 エボルトは笑う。

 

 一度目の世界。

 

 自分は力で全てを奪った。

 

 結果。

 

 勝った。

 

 しかし。

 

 最後には。

 

 盤面そのものをひっくり返された。

 

「今回は違う。」

 

 小さく呟く。

 

「もう少し、人間ってやつを見てみるか。」

 

 

 その頃。

 

 まだ誰も知らない。

 

 未来の英雄となる少女。

 

 立花響。

 

 彼女が。

 

 やがてガングニールを手にすることを。

 

 そして。

 

 その少女を。

 

 かつて世界を滅ぼした怪物が。

 

 もう一度観察することになることを。

 

 

 数週間後。

 

 小さな喫茶店の前。

 

 エボルトは立っていた。

 

 店内を見る。

 

 落ち着いた雰囲気。

 

 人が集まる場所。

 

 情報も集まる。

 

「……。」

 

 悪くない。

 

 人間社会に溶け込むなら。

 

 こういう場所がいい。

 

 そして。

 

 自分が使う姿も決める。

 

「石動惣一。」

 

 名前を口にする。

 

「悪くないねぇ。」

 

 過去に使った顔。

 

 人間たちが警戒しない顔。

 

 気さくなマスター。

 

 その裏に。

 

 宇宙生命体を隠す。

 

「喫茶店のマスターか。」

 

 エボルトは笑う。

 

「まさか俺が、こんな役をやる日が来るとはねぇ。」

 

 扉を開ける。

 

 新しい人生。

 

 二度目の世界。

 

 その始まりだった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。