戦姫絶唱シンフォギア RE:EVOLT   作:どーべんうるふ

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第一話「残された怪物」後編

 

 

 カラン、と。

 

 店の扉についたベルが鳴る。

 

「いらっしゃいませ……って言っても、まだ準備中だけどねぇ。」

 

 石動惣一は店内を見回しながら、のんびりと呟いた。

 

 カフェ。

 

 人が集まる場所。

 

 何気ない会話が生まれる場所。

 

 情報が自然と流れ込む場所。

 

 そして何より。

 

 誰も、この場所の店主が何者なのか疑わない。

 

「いやぁ。」

 

 カウンターを拭きながら笑う。

 

「我ながらいい選択したんじゃない?」

 

 かつて。

 

 ブラッドスタークとして人間社会へ入り込んだ時もそうだった。

 

 正面から支配するより。

 

 相手の懐へ入り込み。

 

 相手自身に気付かせないまま盤面を動かす。

 

 それがエボルトのやり方だった。

 

「まあ……。」

 

 少し間を置く。

 

「前はちょっと派手にやりすぎたけどねぇ。」

 

 桐生戦兎。

 

 万丈龍我。

 

 氷室幻徳。

 

 葛城巧。

 

 そして。

 

 自分に関わった数多くの人間。

 

 思い出が一瞬だけ過る。

 

「……。」

 

 しかし。

 

 すぐに頭を切り替える。

 

「今はこっちのゲームだ。」

 

 そう呟いた。

 

 

 石動惣一という人間は、すでに存在していた。

 

 戸籍。

 

 経歴。

 

 過去の記録。

 

 人間関係。

 

 全て。

 

 完璧に整えられている。

 

 当然だ。

 

 エボルトがその程度の準備を怠るはずがない。

 

「俺って意外と真面目だからねぇ。」

 

 鏡に映る自分へ笑いかける。

 

「こういう下準備はちゃんとするタイプなんだよ。」

 

 もちろん。

 

 本当の意味で真面目なわけではない。

 

 ただ。

 

 ゲームをするなら。

 

 ルールと盤面は整っていた方が面白い。

 

 それだけだった。

 

 

 数日後。

 

 カフェnascitaは静かに営業を始めた。

 

「ありがとうございましたー。」

 

 客を送り出す。

 

 その姿だけを見れば。

 

 ただの気さくな店主。

 

 軽い冗談を言う。

 

 コーヒーを淹れる。

 

 客の話を聞く。

 

 そんな普通の人間。

 

 だが。

 

 その瞳の奥には。

 

 別の存在がいる。

 

「最近、この街も物騒だねぇ。」

 

 客の会話から情報を拾う。

 

 奇妙な事件。

 

 謎の怪物。

 

 不可解な現象。

 

 まだ表には出ていない。

 

 しかし。

 

 エボルトには分かっていた。

 

 この世界も。

 

 もうすぐ始まる。

 

「ノイズ。」

 

 小さく呟く。

 

「そして、シンフォギア。」

 

 未来の情報。

 

 一度目の経験。

 

 それらが頭の中にある。

 

 しかし。

 

「さて。」

 

 エボルトは笑う。

 

「今回はどう転ぶかな。」

 

 一度目と同じなら。

 

 つまらない。

 

 違うなら。

 

 面白い。

 

 

 夜。

 

 誰もいない場所。

 

 石動惣一の姿が変わる。

 

 黒い影。

 

 身体を覆う異形の装甲。

 

「久しぶりだねぇ。」

 

 ブラッドスターク。

 

 完全な力ではない。

 

 だが。

 

 今のエボルトが使える、唯一の戦闘形態。

 

「やっぱりこっちの方が落ち着くなぁ。」

 

 軽く身体を動かす。

 

「まだ本調子じゃないけど。」

 

「まあ、贅沢は言えないか。」

 

 その時。

 

 遠くから気配を感じる。

 

 人間ではない。

 

 特殊な力。

 

「へぇ。」

 

 スタークは笑う。

 

「もう動いてる連中がいるんだ。」

 

 

 暗い研究施設。

 

 一人の女性が資料を見ている。

 

 フィーネ。

 

 長い時を生き。

 

 ある目的のため暗躍する存在。

 

 彼女はまだ知らない。

 

 自分を観察する存在がいることを。

 

「……。」

 

 ブラッドスタークは影から眺める。

 

「なるほどねぇ。」

 

「この世界にもいるじゃない。」

 

「自分の目的のためなら、何でも利用するタイプ。」

 

 かつて。

 

 自分もそうだった。

 

 だから分かる。

 

「でも。」

 

 笑う。

 

「ちょっと違うかな。」

 

 フィーネは過去に縛られている。

 

 エボルトは未来を弄ぶ。

 

 似ているようで違う。

 

「さて。」

 

 スタークは姿を消す。

 

「ちょっとだけ、刺激してみるか。」

 

 

 翌日。

 

 フィーネの元へ。

 

 一つの情報が届く。

 

 未知の存在。

 

 未知の技術。

 

 そして。

 

 シンフォギアに関する僅かな手掛かり。

 

 しかし。

 

 送り主の名前はない。

 

 ただ。

 

 一言だけ。

 

『面白そうな玩具、見つけたんでねぇ』

 

 と書かれていた。

 

 

「……。」

 

 フィーネは警戒する。

 

「何者……?」

 

 答える者はいない。

 

 

 その頃。

 

 nascita。

 

 石動惣一はいつものようにコーヒーを淹れていた。

 

「いやぁ。」

 

「やっぱり人間社会って便利だねぇ。」

 

 誰も疑わない。

 

 誰も気付かない。

 

 自分が。

 

 一度世界を滅ぼした存在だとは。

 

 その時。

 

 テレビからニュースが流れる。

 

 少女たちの話題。

 

 まだ小さな事件。

 

 まだ誰も知らない未来。

 

 しかし。

 

 エボルトだけは知っている。

 

 この先。

 

 この世界を変える少女。

 

 立花響。

 

「……。」

 

 一瞬。

 

 戦兎の姿が浮かぶ。

 

 万丈の姿が浮かぶ。

 

 そして。

 

 今目の前にいる、まだ何者でもない少女。

 

「……。」

 

 エボルトは小さく笑う。

 

「さてさて。」

 

「今回は、どんな答えを見せてくれるのかな。」

 

 悪意。

 

 好奇心。

 

 そして。

 

 ほんの僅かな期待。

 

 それらを抱えながら。

 

 怪物は静かに日常へ溶け込んでいく。

 

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