戦姫絶唱シンフォギア RE:EVOLT   作:どーべんうるふ

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第二話「歌う戦士の始まり」前編

 

 

 人間というものは。

 

 本当に面白い。

 

 石動惣一は、カウンター越しに客の姿を眺めながらそう思っていた。

 

「ありがとうございましたー。」

 

 笑顔で客を送り出す。

 

 軽い冗談。

 

 気さくな態度。

 

 誰も疑わない。

 

 この店のマスターが。

 

 かつて幾つもの世界を弄び。

 

 地球を滅ぼした怪物だとは。

 

「いやぁ。」

 

 コーヒーカップを洗いながら笑う。

 

「昔の俺が見たら、今の俺ってどう思うかねぇ。」

 

 答える者はいない。

 

 だが。

 

 エボルト自身には分かっていた。

 

 昔の自分なら。

 

 こんな時間に意味など感じなかった。

 

 人間の会話。

 

 くだらない日常。

 

 誰かを心配する感情。

 

 全て。

 

 効率の悪いものとして切り捨てていた。

 

 しかし。

 

 桐生戦兎のジーニアスフォーム。

 

 あの力によって。

 

 自分の中に存在していたものを理解した。

 

 怒り。

 

 楽しさ。

 

 興味。

 

 執着。

 

 そして。

 

 面白いと思う感情。

 

「……。」

 

 エボルトは笑う。

 

「まったく。」

 

「余計なものを植え付けてくれたよねぇ。」

 

 だが。

 

 嫌いではなかった。

 

 むしろ。

 

 今では、この感情すら楽しんでいる。

 

 

 夜。

 

 ブラッドスターク。

 

 その姿で街を歩く。

 

 かつてなら。

 

 自分が全てを動かしていた。

 

 だが。

 

 今は違う。

 

 力が戻り切っていない。

 

 だからこそ。

 

 頭を使う。

 

「力がないなら。」

 

「状況を作ればいい。」

 

 それがエボルトのやり方だった。

 

 

 街では。

 

 少しずつ異変が起き始めていた。

 

 ノイズ。

 

 シンフォギア。

 

 そして。

 

 それを巡る人間たち。

 

 エボルトは遠くから状況を把握する。

 

「なるほどねぇ。」

 

 情報を整理する。

 

 フィーネ。

 

 聖遺物。

 

 装者。

 

 一度目の世界で経験した流れ。

 

 しかし。

 

「同じ盤面だからって。」

 

「同じゲームになるとは限らない。」

 

 エボルトは笑う。

 

 未来を知っている。

 

 それは大きな武器だ。

 

 だが。

 

 それに頼りすぎれば。

 

 相手の変化を見落とす。

 

 戦兎との戦いで。

 

 それは嫌というほど理解した。

 

 

 ライブ会場。

 

 ノイズの襲撃。

 

 逃げ惑う人々。

 

 そして。

 

 一人の少女が立ち止まる。

 

 立花響。

 

 普通の少女。

 

 しかし。

 

 エボルトはその瞬間に理解した。

 

「……。」

 

 この子は。

 

 逃げない。

 

 怖くても。

 

 震えていても。

 

 誰かを助けるために動く。

 

「なるほど。」

 

 スタークは小さく笑う。

 

「そういうタイプか。」

 

 人間の心理は分かる。

 

 もう昔とは違う。

 

 だからこそ。

 

 響が何を考えているのか。

 

 何を恐れているのか。

 

 何を望んでいるのか。

 

 ある程度読むことができる。

 

「でも。」

 

 呟く。

 

「分かるからって、操れるとは限らないんだよねぇ。」

 

 一瞬。

 

 過去の経験が頭を過る。

 

 自分の計算を超えて動いた人間たち。

 

 だが。

 

 すぐに視線を戻す。

 

 今見るべきは。

 

 この少女だ。

 

 

 ガングニールの力が響に宿る。

 

 歌が響く。

 

 力が形になる。

 

 シンフォギア装者。

 

 その誕生。

 

 エボルトは静かに見守る。

 

 助けることもできる。

 

 敵を排除することもできる。

 

 だが。

 

 それでは意味がない。

 

「人間ってのはさ。」

 

 スタークは呟く。

 

「自分で選んだ時に、一番面白い顔をするんだよ。」

 

 かつて。

 

 戦兎も。

 

 万丈も。

 

 そうだった。

 

 与えられた答えじゃなく。

 

 自分自身で選択した瞬間。

 

 人間は予想外の力を見せる。

 

 

 響の戦いは未熟だった。

 

 当然だ。

 

 力を手にしたばかり。

 

 恐怖もある。

 

 迷いもある。

 

 それでも。

 

 彼女は前へ出る。

 

「……。」

 

 スタークは目を細める。

 

「へぇ。」

 

 計算外。

 

 ほんの少し。

 

 楽しいと思った。

 

「面白いねぇ。」

 

 

 戦闘終了。

 

 響は勝った。

 

 しかし。

 

 まだ始まったばかり。

 

 力の意味も。

 

 戦う理由も。

 

 何も分かっていない。

 

 それでも。

 

 彼女は立った。

 

 ブラッドスタークはその姿を見る。

 

「さて。」

 

「この子はどこまで行くかな。」

 

 以前なら。

 

 興味など持たなかった。

 

 強いか。

 

 弱いか。

 

 利用できるか。

 

 それだけだった。

 

 だが今は。

 

 違う。

 

「楽しませてくれるなら。」

 

「少しくらい付き合ってあげるよ。」

 

 闇へ消える。

 

 怪物は。

 

 世界を壊すためではなく。

 

 新しい物語を楽しむために。

 

 もう一度。

 

 舞台裏へ立っていた。

 

 

 

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