人間というものは。
本当に面白い。
石動惣一は、カウンター越しに客の姿を眺めながらそう思っていた。
「ありがとうございましたー。」
笑顔で客を送り出す。
軽い冗談。
気さくな態度。
誰も疑わない。
この店のマスターが。
かつて幾つもの世界を弄び。
地球を滅ぼした怪物だとは。
「いやぁ。」
コーヒーカップを洗いながら笑う。
「昔の俺が見たら、今の俺ってどう思うかねぇ。」
答える者はいない。
だが。
エボルト自身には分かっていた。
昔の自分なら。
こんな時間に意味など感じなかった。
人間の会話。
くだらない日常。
誰かを心配する感情。
全て。
効率の悪いものとして切り捨てていた。
しかし。
桐生戦兎のジーニアスフォーム。
あの力によって。
自分の中に存在していたものを理解した。
怒り。
楽しさ。
興味。
執着。
そして。
面白いと思う感情。
「……。」
エボルトは笑う。
「まったく。」
「余計なものを植え付けてくれたよねぇ。」
だが。
嫌いではなかった。
むしろ。
今では、この感情すら楽しんでいる。
⸻
夜。
ブラッドスターク。
その姿で街を歩く。
かつてなら。
自分が全てを動かしていた。
だが。
今は違う。
力が戻り切っていない。
だからこそ。
頭を使う。
「力がないなら。」
「状況を作ればいい。」
それがエボルトのやり方だった。
⸻
街では。
少しずつ異変が起き始めていた。
ノイズ。
シンフォギア。
そして。
それを巡る人間たち。
エボルトは遠くから状況を把握する。
「なるほどねぇ。」
情報を整理する。
フィーネ。
聖遺物。
装者。
一度目の世界で経験した流れ。
しかし。
「同じ盤面だからって。」
「同じゲームになるとは限らない。」
エボルトは笑う。
未来を知っている。
それは大きな武器だ。
だが。
それに頼りすぎれば。
相手の変化を見落とす。
戦兎との戦いで。
それは嫌というほど理解した。
⸻
ライブ会場。
ノイズの襲撃。
逃げ惑う人々。
そして。
一人の少女が立ち止まる。
立花響。
普通の少女。
しかし。
エボルトはその瞬間に理解した。
「……。」
この子は。
逃げない。
怖くても。
震えていても。
誰かを助けるために動く。
「なるほど。」
スタークは小さく笑う。
「そういうタイプか。」
人間の心理は分かる。
もう昔とは違う。
だからこそ。
響が何を考えているのか。
何を恐れているのか。
何を望んでいるのか。
ある程度読むことができる。
「でも。」
呟く。
「分かるからって、操れるとは限らないんだよねぇ。」
一瞬。
過去の経験が頭を過る。
自分の計算を超えて動いた人間たち。
だが。
すぐに視線を戻す。
今見るべきは。
この少女だ。
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ガングニールの力が響に宿る。
歌が響く。
力が形になる。
シンフォギア装者。
その誕生。
エボルトは静かに見守る。
助けることもできる。
敵を排除することもできる。
だが。
それでは意味がない。
「人間ってのはさ。」
スタークは呟く。
「自分で選んだ時に、一番面白い顔をするんだよ。」
かつて。
戦兎も。
万丈も。
そうだった。
与えられた答えじゃなく。
自分自身で選択した瞬間。
人間は予想外の力を見せる。
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響の戦いは未熟だった。
当然だ。
力を手にしたばかり。
恐怖もある。
迷いもある。
それでも。
彼女は前へ出る。
「……。」
スタークは目を細める。
「へぇ。」
計算外。
ほんの少し。
楽しいと思った。
「面白いねぇ。」
⸻
戦闘終了。
響は勝った。
しかし。
まだ始まったばかり。
力の意味も。
戦う理由も。
何も分かっていない。
それでも。
彼女は立った。
ブラッドスタークはその姿を見る。
「さて。」
「この子はどこまで行くかな。」
以前なら。
興味など持たなかった。
強いか。
弱いか。
利用できるか。
それだけだった。
だが今は。
違う。
「楽しませてくれるなら。」
「少しくらい付き合ってあげるよ。」
闇へ消える。
怪物は。
世界を壊すためではなく。
新しい物語を楽しむために。
もう一度。
舞台裏へ立っていた。
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