夜の街。
人の気配が消えた路地裏に。
少女の歌声が響く。
立花響。
まだ戦い方も分からない。
まだ自分が何を背負ったのかも理解しきれていない。
それでも。
彼女は歌う。
誰かを守るために。
⸻
「……。」
ビルの屋上。
その姿を見下ろす影があった。
ブラッドスターク。
「いやぁ。」
「頑張ってるねぇ。」
軽い口調。
まるで知り合いの成長を眺めるような声。
しかし。
その瞳は冷静に響を分析していた。
動き。
判断。
精神状態。
全て。
「まだまだ荒い。」
「力任せ。」
「自分が傷つくことを考えてない。」
だが。
それだけではない。
「でも。」
スタークは笑う。
「逃げるって選択肢を最初から捨ててる。」
そこが厄介だった。
恐怖を感じないわけではない。
怖い。
辛い。
苦しい。
それでも。
誰かのために動く。
そういう人間。
「ほんと。」
「人間って面倒だよねぇ。」
呟く。
だが。
その声に以前ほどの冷たさはなかった。
⸻
戦闘が終わる。
響は息を切らしながら立っていた。
「……。」
スタークは姿を消そうとする。
しかし。
「そこにいるの、誰?」
響が振り返った。
「おっと。」
気付かれた。
スタークはゆっくり姿を現す。
「おやおや。」
「意外と勘がいいじゃない。」
響は警戒する。
「あなた……。」
「シンフォギアじゃない。」
「でも、力を持ってる。」
スタークは笑う。
「よく見てるねぇ。」
「褒めてあげるよ。」
「でもさ。」
一歩近付く。
「その力。」
「本当に君が使う覚悟、あるの?」
響の表情が変わる。
⸻
エボルトは分かっていた。
この問いが。
この少女に必要だと。
力を持った者は。
必ず一度は考える。
なぜ自分なのか。
本当に戦えるのか。
その答えを。
誰かに与えられてはいけない。
「俺さぁ。」
スタークは軽く腕を組む。
「力を持った奴ってのを、たくさん見てきたんだよねぇ。」
「強い力を持った瞬間。」
「勘違いする奴。」
「自分なら何でもできるって思う奴。」
「逆に。」
「力を持つ資格がないって、自分を否定する奴。」
響を見る。
「君はどっちかな?」
響は黙る。
⸻
エボルトは試していた。
戦闘能力ではない。
精神。
選択。
この少女が。
どんな答えを出す人間なのか。
それを見たかった。
「……。」
一瞬だけ。
過去の記憶がよぎる。
力を手にした人間。
その力で苦しんだ者。
それでも前へ進んだ者。
だが。
エボルトはすぐに意識を戻す。
今見ているのは。
立花響だ。
過去の誰かではない。
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「私は……。」
響は拳を握る。
「怖いよ。」
正直な言葉。
「戦うのも。」
「傷つくのも。」
「間違えるのも怖い。」
スタークは黙って聞く。
「でも。」
「誰かが傷つくのを見て。」
「何もしない方が、もっと嫌なんだ。」
その答え。
エボルトは少し笑う。
「なるほど。」
「そう来るか。」
⸻
普通なら。
ここで利用価値を判断する。
危険なら潰す。
使えるなら利用する。
それが以前までのエボルトだった。
しかし。
今は違う。
感情を知った。
だから。
人間の選択を見ること自体を楽しめる。
「まあ。」
スタークは背を向ける。
「合格かな。」
「え?」
「いや。」
振り返る。
「こっちの話。」
「でもさ。」
少し声を低くする。
「その甘さ。」
「いつまで持つかねぇ。」
挑発。
警告。
そして。
興味。
それらを混ぜた言葉。
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スタークが消えた後。
響は考える。
「あの人……。」
敵なのか。
味方なのか。
分からない。
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その頃。
フィーネもまた。
ブラッドスタークについて調査していた。
「未知の戦闘能力。」
「シンフォギアとは異なる技術。」
「目的不明。」
資料を見る。
「危険な存在ね。」
しかし。
彼女は知らない。
その存在が。
自分より遥かに長い時間。
他者を利用してきた怪物だということを。
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nascita。
閉店後。
石動惣一はコーヒーを淹れる。
「いやぁ。」
「若いっていいねぇ。」
誰もいない店内。
その声は。
少しだけ本音だった。
「自分の答えを探して。」
「迷って。」
「それでも進む。」
カップを眺める。
「昔は。」
一瞬。
言葉が止まる。
しかし。
「……まあ。」
すぐに笑う。
「今さら昔話って柄でもないか。」
コーヒーを飲む。
「さて。」
「次はどう転ぶかな。」
怪物は笑う。
世界を壊すためではなく。
自分でも気付かないほど。
少しずつ変化していく物語を。
楽しむために。
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