──極東の地にはタヌキの毛皮を纏った、タヌキのシスターがいるという──。




 (とある二次創作で使ったアイデアを改変してオリジナルものにしました)
 (その二次創作の原作様の固有設定を使った訳ではありません)


 (舞台・ジャンルは変わるかもしれません)

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タヌキのシスターさん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご案内ありがとうございました!」

 

 

 翠を揺らす、快活な声が響く。

 

 

「いえぇ、こんな美人さんを案内できたのはえれぇ嬉しいこっ()ですけえ」

 

「これから皆さんの事は頼りにさせてもらいますっ!その代わり皆さんもどうぞ私を頼りにしてくださいね?」

 

「おぉ、ありがてえこっです」

 

 

 とある村外れに建つ交差教(こうさきょう)の小ぢんまりとした教会。

 新任のシスターが早速村に馴染もうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてさて、あとは倉庫っと……」

 

 

 彼女は金髪を揺らしながら礼拝堂を清め、身の周りを整え、最後に小さな倉庫の様子を確認しに来た。

 

 

 

 

「ん?なんでしょうか、これは」

 

 

 

 

 その中で目につくものが有った。

 

 

「おっきいですねー、この模様はタヌキ、というやつでしょうか?」

 

 

 それは棚の上で折り畳まれていた人間程の大きさもある動物の全身全ての毛皮──黒い目の周りと先が丸く、太い尻尾が特徴のタヌキの毛皮だった。

 

 

「『まつりよう』……、お祭り用のが紛れ込んじゃったんでしょうか?」

 

 

 交差教の教会でこのような毛皮は必要無い。

 と、なるとさる伝道師が布教と救済の為この教会に建て直すまで、崩れて建て直しもままならなかったというこの村の集会場のものだったのだろうか。

 

 

「でもこれ何に使うんでしょう?ずいぶんきれいに貼り合わせてますし……」

 

 

 しかし挟み込んであった紙片の通りだったとしても、祭りのどの場面で使うのかが分からない。

 だいたいこういう毛皮はぺたんと切り開いてあるのが普通だ。

 剥製のように一見して切れ目が分からない程綺麗に繋ぎ合わせてあるが、中身も無くへたれては本物らしくも……。

 

 

「……!もしかしてこの毛皮、着てタヌキになりきる為のものでしょうか……⁉︎」

 

 

 ……ふと、シスターの脳裏に閃きが迸った。

 これは『衣装』なのではないかと。

 切れ目が分からない、という事は中に入ったもの──着た者を晒さない為の作りで、この毛皮は祭りで村人がタヌキになりきる為のものだったのではないかと。

 

 

「この柔らかさなら口から入れそうですし……!うん!」

 

 

 ……さて、この時代の交差教徒にとって地の果てとも言えるここ梓弓(あずみ)の島々の教会に派遣される交差教聖職者は二つに大別できる。

 信心深いか、

 

 

 

 

「──とっても楽しそうですね‼︎」

 

 

 ──好奇心旺盛かだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「しばし失礼致します……。よし、っと‼︎」

 

 

 この地に居てもおかしくない()()()()()()()への挨拶を終え、軽い格好になったシスターは毛皮を手に取る。

 

 

「よいしょー!」

 

 

 そうして毛皮に空いた開口部である顎をぐにーと広げ、足を突っ込んだ。

 

 

「よいしょ……、よいしょ!」

 

 

 突っ込んだ足をごそごそ探り、後脚の中に入れ、毛皮を引っ張り上げる。

 

 

「これでよさそうですねっ、……わあ!」

 

 

 するとシスターの腰から下は太い尻尾がゆらゆら揺れるタヌキのものに変わってしまった。

 腰を揺らせば尻尾の重みがゆらゆら伝わり、肉厚の足裏は床の踏み心地さえ変えてしまう。

 

 

「あとはっ、と」

 

 

 そして腰元で止まった口をぐにー、と広げ手指をねじ込み、前脚を手繰り寄せる。

 手首がすっぽりと、タヌキのものになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『もーいーよー』

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間。

 

 

 

 

「え?」

 

 

 シスター一人しかいないはずのこの空間に、のんびりとした声が──無論シスターの声ではない──響き渡る。

 

 

「きゃっ⁈」

 

 

 そして、毛皮の感触が変わった。

 生暖かく肉肉しいものへ、そして()()()()()()()()

 

 

「えっ⁉︎」

 

 

 見れば毛皮の頭──タヌキの頭がひとりでに動いてあぐあぐとシスターの体を包んで、──飲み込んでゆく。

 

 

「んぅ、っ!」

 

 

 驚いている内にシスターの豊かな双丘もあぐり、と飲み込まれ、毛皮を膨らませる。

 

 

「手が、勝手に……⁈」

 

 

 そうするとタヌキの前脚が勝手に動き、シスターの顔をタヌキの口へと押し込み──、

 ───ばくり、とタヌキはシスターを飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んむんむんむんむ」

 

 

 シスターを飲み込んだタヌキは、前脚で口を抑えたままもこもごと顎を動かす。

 ひらり、と『まつりよう』と書かれた紙片が舞い上がり、──()()()()()()()()()、タヌキの頭の上に乗る。

 

 

「……ぷはー、ごちそうさまでしたー」

 

「……わっ、えっ?」

 

 

 そうして前脚を下ろすと口を開け、その顎の奥にシスターの顔を出した。

 

 

「えっと……、……生きてたんですか⁉︎」

 

「そだよー」

 

 

 流れに飲み込まれ、タヌキに飲み込まれてしまったシスターの口の中からの第一声に答えたのは、タヌキの毛皮。

 

 

「ぼく化けダヌキでねー、毛皮に化けてたんだー」

 

「化けダヌキ⁈」

 

 

 ──否、タヌキの毛皮は仮の姿。

 その正体は種々の姿に化け、人を惑わすという化けダヌキであった。

 

 

「毛皮だと思って着た人間を飲み込んで乗っ取っちゃうんだってー。ほら、もうきみは僕の体だよー」

 

「あっ、わっ」

 

 

 如何にも人が着られそうな毛皮のふりをしてこの教会で待ち構えていたのだ。

 まんまと引っかかったシスターはタヌキの毛皮を着て動いているように見えるが、その実化けダヌキに飲み込まれてタヌキの体にされてしまい、タヌキの思うがままに動かされてしまっているだけだ。

 

 

「これからよろしくねー」

 

「ええーっ?」

 

 

 ──こうして極東の地で、交差教のとあるシスターはタヌキのシスターにされてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は経ち。

 

 

 

 

 

 

 

 

「シガシラ幼稚園のみんなー、たぬきのおねえさんですよー」

 

「「「「「わー‼︎」」」」」

 

 

 東弓(あずみ)列島の、交差教系法人の運営するとある幼稚園にて。

 タヌキの着ぐるみを着たお姉さんが園児達から大歓迎の歓声を受けていた。

 

 

「わー!「おしりー‼︎「しっぽー!」「おなかーっ‼︎「わたしもー!「おれもー!」

 

「あわてると危ないですよー?」

 

 

 そうして園児達はその背丈で飛び付きやすい、タヌキらしく膨らんだ着ぐるみの尻や腹や尻尾に突撃する。

 タヌキの着ぐるみの丸く()いた口から顔を出すお姉さんは慣れた仕草で、数十人規模のその突撃を着ぐるみを揺すって優しく受け止め、受け流す。

 

 

「なんできぐるみきてるのー?」「たべられちゃったのー?」

 

「たぬきのおねえさんだからですよー。それーっ」

 

「「わー!」」

 

 

 時にしゃがんで抱きしめ、時に抱えて抱き上げ。

 着ぐるみの中から優しいまなざしを注ぐ。

 

 

「さて、みんなそろそろおうたにしますかー?」

 

「「「「「するーっ‼︎」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ほんと助かりますよねー、このボランティア。どの人も手慣れてて」

 

「情けない話だけど、先生(私達)の負担が上がる一方だから変わらずいてくれるのは助かるわ」

 

 

 ──東弓の交差教系幼稚園では数十年に渡って見られる、定例行事の光景である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと、鍵鍵」

 

 

 東弓のとある郊外のマンションで。

 金髪を揺らす中白系の若い女性が鍵を開けて自室に入る。

 

 バタン、とドアが閉まると共に、

 どろん、と煙が上がる。

 

 

「──もー、まだ靴脱いでないんですよー?」

 

「──つねづね思うけどきみもうすっかり東弓人だねー」

 

 

 東弓式の靴を脱ぐ玄関には家主の女性がタヌキの着ぐるみを着て立っていた。

 ──否、交差教のシスターである彼女は五百年前と変わらず、今は着ぐるみに化けている化けダヌキに飲み込まれ、包み込まれていた。

 

 

「それはまあ、人生の六分の一くらいはここにいましたし」

 

「長いもんだよねー」

 

 

 しかし座り込んで大判のウェットティッシュでごしごしタヌキの足の裏を拭くその動きは身を包むタヌキではなく中身であるシスターによるものだ。

 かと言ってタヌキの意思が無くなった訳ではなく、おしゃべりしながら耳や尻尾がぱたぱた動く。

 

 

「それよりたまには貴方が動かないと鈍りますよー?またお肉が付いて来たんじゃないですか?」

 

「えー、でもぼく着てると気持ちいーでしょー?」

 

「それとこれとは別ですっ。気持ちいーですけど」

 

 

 足の裏を拭き終わり、ぽよぽよの着ぐるみの身体を揺らしながらリビングへと歩くのはシスターの意思によるもの。

 タヌキは着ぐるみとして、着られるがままにその身を任せていた。

 

 ──七百年前にとある妖獣が考案した『人間に侵略する為の仕組み』の中に有って、この二者は『たぬきのお姉さん』と『たぬきのお姉さんの着ぐるみ』として仲良くやれてる二心同体の間柄だった。

 

 

「はー、やっぱりきみって年上なんだねぇ〜」

 

「それはもう」

 

 

 それが成立した要因の一つは着ぐるみの口の中でドヤ顔をするシスターが、タヌキより年上だったからだろう。

 毛皮に化けた妖獣を着てしまったのが見目通りの若い女であれば、術に縛られ脱ぐ事も叶わずに数日で意識は落ち、人生の全てを妖獣に乗っ取られていただろう。

 

 もっともあの時点でタヌキは三百年は生きていた。

 それは一端の妖獣としては十分な格と言える。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──なにせ三千年生きてますので」

 

「……やっぱり想像もつかないやー」

 

 

 ──しかしシスターを相手取るには些かのんびり生き過ぎていた。

 

 否、交差教の若手シスターは世を忍ぶ顔。

 その正体は二千年前、かの交世主(こうせいしゅ)がこの世を離れるのを唯一見届け、その軀を葬った使徒たる『花葬(かそう)の聖女』──あるいは幾多の権力と弾圧と迫害をするりと逃げ延びた『天罰の大聖女』。

 ……かの交世主と知己を得た時点で既に千年生きていた事実が教会の頭を悩ませる、この世に僅かしか居ない“不死者”と呼ばれる長命の者である。

 ……実の所彼女はタヌキに劣らずのんびり気楽にかつ時折飛び出す好奇心のまま生きていたのだが、同じ生き方でも年期の差があった。

 

 もしシスターが殺傷に積極的であれば、正体を晒した瞬間に敢えなく命を散らしていただろう。

 

 

 

 

「いただきまーす「いただくよ〜」んむんむんむんむ……」

 

 

 

 

 ……だがそうはならなかった。

 

 

 

 

「やっぱりパンっておいしいねぇ〜」

 

「そうですねー、いい時代になったものです」

 

 

 そうなった理由は脱ごうと思えばすぐ脱げたからなど色々ある。

 が、結局のところタヌキとシスターの気が合ったからというのが一番大きい。

 そして五百年の時はその関係を円熟にしていた。

 着ぐるみの両手でパンを持ち、着ぐるみの口から出た顔でもぐもぐ食べるその姿は、巨大なタヌキが食事をしているようにも見える最早慣れ切った姿だ。

 

 

 

 

「麦つながりで明日はラーメンにしましょっか?」

 

「いいね〜、賛せ〜い」

 

 

 

 極東の地で、交差教のとあるシスターは今もタヌキのシスターをやっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・おまけ

 

 

 

 

──……うぅん。

 

 

「──目、覚めましたかー?」

 

 

──んんっ、……?

 

 

 タヌ、キ……?

 

 

「道端で倒れてたんですよー、ワケアリそうだったので私のうちに運んだんです」

 

 

 

 

 ‼︎

 

 

 

 

「大丈夫ですよー?」

 

 

 

 

 ……。

 

 着ぐ、るみ……?

 

 

 

 

 ……タヌキかと思って焦ったけど、タヌキの着ぐるみ、顔出し着ぐるみを着た外国人のお姉さんだった。

 

 ……いや、それはそれでなんで着ぐるみを着てんのかって疑問があるけど。

 趣味?

 

 

──……、!

 

「おっと」

 

 

 フラついた所をお姉さんに支えられる。

 

 

 

 

「生気が無いですよ、大丈夫ですか?」

 

 

 

──。

 

 

──大、丈夫、ですっ。ありがとうっ、ございます。

 

 

 そして、とんでもない事実が分かる。

 このお姉さん着ぐるみ越しにも分かるくらい、

 

 

 

 

 巨乳だ。

 

 

 

 

「ここは安全ですから、休んでっていいですよー」

 

──……お言葉に甘えて。

 

 

 ……うん、巨乳だ。

 着ぐるみが押し上げられて、胸元がはっきり丸く膨らむくらいの巨乳だ。

 ……タヌキらしくお腹や尻尾もぽっこり膨らんでるから一見して気付かなかったけど。

 

 …………。

 

 ……え、お腹と、あと、お尻は着ぐるみ、だよね……?

 

 

 

 

「それじゃあごはんにしましょっか」

 

──あのっ!……すいません。

 

 

 思わず、声を出していた。

 

 

「?なんですかー?」

 

 

 

 

──……膝枕、してもらえませんか?

 

 

 

 

 

 

 

 

──はぁ〜〜〜〜……!

 

 

 二分後。

 

 

「ふふっ、気持ちいいですか?」

 

──気持ちいいれふ……。

 

 

 膝枕は「お尻と尻尾で角度が急になっちゃうんですよ」と断られてしまった。

 けど、その代わりにと言ってお姉さんが提供してくれたのが、

 

 

 腹枕だった。

 

 

 寝転んだお姉さんの着ぐるみのお腹を枕にする。

 ……それだけだけど、着ぐるみが、ふかふかのぽよぽよで、気持ちいい……っ……!

 

 

 

 

「二度寝、しちゃいましょっか?」

 

──はひ……。

 

 

 

 

 さらに着ぐるみのおててでぽん、ぽん、と優しく叩かれては。

 心地良さに抗えるわけもなく。

 

 

 私は眠りに落ちていった。

 

 

 

 

 おまけ『着ぐるみお姉さんの腹枕』

 

 

 

 

 

 

 

 






シスターさん
 約三千歳。
 今のところ不老不死。
 『楽園は人の世と交差していて既にここにある。苦しく辛いのはそれに気付かず、至ってないだけ』と説く大宗教・交差教の若手シスター──の振りをした交差教の創始者・交世主の亡骸を葬ったガチモンの聖人。
 巨乳。
 金髪。

化けダヌキ
 約八百歳。
 人類と同等の知能を備え、術を扱う動物・妖獣の一体。
 「狩られるのはやだなぁ」と人を乗っ取る為の術でタヌキの毛皮に化けていたが、特に人間への悪意・敵意は無い。

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