とある付与師の帰還録   作:さくさくの森

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かなりの魔改造が入りますのでご注意。
ただまあフラグの塊みたいな言動なので許してください。
内容的には結構なガチバトルです。


32.天空闘技場を舞台に踊る男達

 

(どうしてこうなったんだろう…)

 

 リールベルトさんから渡されたチケットを握り締め、出来るだけ実況からは離れるように最前列に座る。試合は開始直前と言ったところで、会場のボルテージは最高潮にまで届いていた。

 

 聞こえてくる下馬評や示されるオッズでは、6:4でヒソカが微有利……そう、微(・)有(・)利(・)程度でしかないのだ。私がここを離れて精々が三十日程度、彼はいったいその間に、観客に何を魅(・)せ(・)た(・)というのだろうか…?

 

時は昨日の昼前に巻き戻る。

 

▽ ▽ ▽

 

「リールベルトさん、お久しぶりです! ハンター試験合格したので帰ってきましたよ〜。」

「お前は随分と神出鬼没だな…まあ、おめでとうとは言っておくが…どうして帰ってきたんだ? もうここでは戦う気はないと聞いていたが…」

「あー確かに私は戦わないのですが実は…」

 

 祝福もそこそこに帰還理由を聞かれたので、フロアマスターにはなるつもりでいるヒソカの都合に合わせたと説明する。私はそこまで興味はないが、あと二勝で手に入る莫大な名声(正確にはその後に任意のフロアマスターにも勝つ必要がある)をわざわざ捨てるのが勿体ないというのは分かるし、彼の趣味を考えれば、名声以外にも実益を兼ねている話なのだから尚更捨てる理由がない。

 

 特定の住居を持たない私からしても、最短でも残り200日以上は追い出されないことが確定している仮の住居に戻れるというのも、結構都合が良かったりもする。

 

「…成程な。師と自分自身の都合とが合致したってことか。」

「ええ、そうですね。でも成り行きとはいえ帰ってきて、こうしてまた会えたんです! 話せてないことも沢山ありますし…お時間よろしければまた飲みながらでも」 スッ

 

「お話しませんか?」と言い切る前に、手で制されてしまった。魔法の話とかハンター試験の話とか…色々と共有しようと思ったのだが…。

 

「四大行に水見式…クーデリアがああしてちょくちょく情報を流してくれていなかったら、今の俺はいなかった」

 

 …なんか急に独白が始まったので黙って聞く。『練』も己の系統も知らずにただ独学で頑張るしかないのは、確かに大変過ぎるからね…これについては流石に情報格差が大き過ぎると不憫に思い、リールベルトさんには裏で色々と教えていたのだ。主にここの療養室にいた時点から…情報の流れを可視化すると、ヒソカ→私→リールベルトである。

 

「つい先週の試合にも勝ち、俺も今では『7勝2敗』だ。かなりのハイペースで試合しているし、実のところ先週の相手は、はっきりと格上の念使いだった」

「えっ!? そんなハイペースで試合を!? でも見るからに手傷も無いし…ただそうなると、格上相手に完勝したってことですか?」

「そういうことだ。俺の鞭を一切見(・)逃(・)さ(・)な(・)い(・)熟練のナイフ使いだったが…それでも俺は打ち破った。もう俺は、クーデリアが知る俺ではないぞ?」

 

 こ…心なしかリールベルトさんの姿が大きくなったように思える。それだけ、前回の勝利で自信が持てたのだろうということが察せられる。

 

(でも明確な格上に完勝ってどういうことだろう? 完全に戦闘に特化した発か、天空闘技場のルールにマッチした発でも、新たに開発したということだろうか?)

 

「まあ…次の試合で見せてやるさ。今の天空闘技場最強は、決してヒソカなどではない! このオレ、リールベルトだってことをな!!」

 

 そう言って勢いよく渡されたチケットをよくよく見ると…試合日程は明日、対戦相手は…

 

(えっ!? この人本気でヒソカとやるの? 仮に勝算あるにしてもやる意味無いでしょ…!?)

 

 流石に2か月以上も弟子やってるから分かるが、あの人は多分並のフロアマスターと比較しても明らかに強い。前回のバトルオリンピアの映像を観たうえでもそう判断する程なのだ…勿論フロアマスターもピンキリだろうが、ヒソカがピンの側の実力を持つことは疑いようもない。フロアマスターになる前段階で、何故わざわざ無意味に険しい道を? と聞きたくもなる。

 

(うーん。でも男って最強に憧れるっていうし…そういうものなのかな? ただの強さ比べに命をBETする感覚なんて分かりたくないな…)

 

 思えばこれはヒソカの蹴りを受けた直後に立ち上がってみせた己への盛大なブーメランだった訳だが…残念ながら忘れたいものは都合よく忘れる生物が人間なのである。

 

▽ ▽ ▽

 

「満員御礼狂騒乱舞!私たちの天空闘技場200階が帰ってきたっ!! 帰還したるは無敗の奇術師、悪夢のピエロ!! 我らがアイドル『紫華の付与師』を打ち破った唯一の存在にして、師匠を名乗る不届きもの!! 一昨日の夜に超限定ディレクターズカット版買ってたの知ってんだぞ!? 天空闘技場最強はやはりこの男なのか!? 誰かこの変態を止めてくれ!! ヒソカァァァアアア・モロォオオオオオオオオオオオウ!!!」

 

(なんかもう半分くらい罵倒な気がするけど許されるのだろうか…? あとやっぱり買ったんだ…。)

 

「天空闘技場最強はヒソカではない!この俺だ!! そう声高に叫べる益荒男が一体どれだけいるでしょうか!? 対戦相手の致死率なんざ知ったことか! これからは俺の名前こそが最強の代名詞!!名乗り上げるは連勝街道爆走中!クー子様のむっつりファンって知ってるからこそ応援してやる!!無敵の鞭捌きが更に進化し、固定砲台にまで昇華させた新たな最強候補!! その名はぁああああああああああ!!

リィィーーールベルトォォオオオオ!!!」

 

 地鳴りのような声援が鳴り響く。その大半は言葉にするのも憚られる、かなり物騒なものであったが…言い換えれば、それだけリールベルトさんが期待されているということ。…因みにコートは私が渡したものを改造したものだった。地味に嬉しい。

 

(…固定砲台と、確かにそう言った。

恐らくはこれがリールベルトさんの自信の源…新たな発のことのはず)

 

 

「――試合開始っ!!」

 

 審判が試合開始を宣言した直後、リールベルトさんは『爆発的推進力(オーラバースト)』により即座に闘技場の中央に陣取る。対してヒソカは静観…きっとここまで期待されている相手の手の内を見たいがために敢えて泳がせたのだろう。

 

「知ってんだよ!てめえのそういう性格もなあっ!!」

 

『双頭の蛇による固定砲台(ソングオブオフェンス)』

 

 妨害もなく中央に到達したリールベルトが取り出したるは、いつもの双頭の蛇の電気鞭。強力な武器であることは間違いないが…リーチ自体はそこまで長いものではない。中央で振り回したところでヒソカに届く訳もないのだが…

 

バッアアアン!!バッアアン!!

 

 空気が破裂したような轟音が観客席まで鳴り響き、思わず反射的に耳を塞いでしまう。熟練の鞭使いの鞭の先端速度は音速を超えると聞くが…これはそういうことだろうか? 結界を構築するように振り回すのでなく、速度重視で全力で振るった結果だとしてもこれ程の音が鳴るからには、音速の壁など軽く数倍は超過しているだろう。

 

 しかし真に驚くべきは音などではなかった。

 何故なら、観客の視線の先にリールベルトはいないのだから。

 

「嘘…あの師匠(ヒソカ)が全く反応出来ていなかった!? それどころか、闘技場の端まで弾かれてる…」

 

 ヒソカの口からは少量とはいえ血が流れていた…。格下相手によく見せる、愛でるような笑みは消え、明らかに警戒を強めているのが表情からもオーラからも見て取れる。

 

「クリーンヒットォ!『1-0』!!」

 

「霹靂一閃!!リールベルト選手の『双頭の蛇による固定砲台(ソングオブオフェンス)』が決まったあああああ!! 前回のナイフ使いはこれに為す術もなく沈みました! 音速を超える鞭の一撃は、衝撃波までが音速超えか!? 人間の反応速度を超えた一撃はまさに雷鳴の如し!! 仮に見えても避けることなど絶対不可能! これぞまさしく不(・)可(・)避(・)の(・)速(・)攻(・)ぅ!!!」

 

「お前は踊り狂って負ける。俺の『双頭の蛇による固定砲台(ソングオブオフェンス)』でな!」

 

▽ ▽ ▽

 

バアン!!バッアアン!!パアン!バッッアアアアアン!!!

 

 実況の例えにも負けず、まるで雷鳴のような轟音が何度も響くたび、ヒソカはその身を強制的に踊り狂わせる。人類の反応速度を遥かに超える速度の連撃…それも鞭本体ではなく鞭から飛び出る鞭状の念弾であるため、ヒソカの『伸縮自在の愛(バンジーガム)』もまた役に立っていないように見える。

 

「クリーンヒット×4!『5-0』!!」

 

(か…完全なワンサイドゲーム。リールベルトさんは『爆発的推進力(オーラバースト)』で分かる通りに、放出系の能力者。固定砲台とはよく言ったものだ。使い込んだ鞭を振ること…そして恐らく移動を封じることを制約にして、念弾の威力と速度を跳ね上げている。ヒソカの『堅』を貫通してダメージを与える火力の、音速を超える念弾の連撃…! そりゃあこんなことされたら格上でも負けるよ!)

 

「ふふふふ…なんだい、ちゃんと強いじゃないか君…♥ いや、強くなった…が正しいかな?」

「いつまで格上のつもりだ? お前の能力は既に察しがついてんだよ!」

 

 またも破裂音が鳴り響き、念弾がヒソカを直撃するが、これをヒソカは巧みな攻防力移動でなんとかガード。即座にオーラを伸ばすことで、振り切った後の鞭本体にガムを接着させることに成功する。

 

「君の素の筋力はどうかな? 武器を奪えば…!?」

「察しがついてるってんだろうが!!」

 

 一際大きな轟音が会場を揺らし、観客の鼓膜に被害を与える。リールベルトのもう一方の鞭から放たれた最大級の一撃がヒソカを大きく吹き飛ばし、場外の観客席の壁面にまで衝突させたのだ。私が『凝』で追っても視認が難しい程の圧倒的な速度の攻撃…流石に今の攻撃をまともに喰らっては、ヒソカといえども軽傷では済まないだろう。

 

「ク…クリティカルヒット&ダウン!!『8-0』!!」

 

 壁面が崩れ、粉塵がもうもうと舞う中…ヒソカは審判の宣告通り、暫くのダウンが続いていた。

 

 このあまりに一方的な展開に私の近くの観客からも

 

「なあこれって……」

「ああ リールベルトの勝ちだ」

 

 なんてやり取りまで聞こえてくるのだから大したものである。

 

 

▽ ▽ ▽

 

 

『双頭の蛇による固定砲台(ソングオブオフェンス)』放出系能力

 

 制約として己の位置を完全に固定化することで初めて発動可能な能力。実質的に『爆発的推進力(オーラバースト)』の使用を封じる代わりに、音速を超える鞭の一撃一撃が、強力な鞭状の念弾に変換されて射出される。念弾の射出速度は鞭の先端速度と同速である。

 

 リールベルトの鞭は、特注して素材の限界まで頑丈になった車椅子と一体化させており、手元から離れても半径二メートルより離れた相手に完全に奪われることはない。また制約により位置が固(・)定(・)化(・)されているため、尋常でない怪力により車椅子ごと引っ張られるようなことも防止している。

 

 本来デメリットである制約を利用したメリットへの変換であるが、今回ヒソカは完全にそれを見誤った。その結果が『8-0』という絶望的なスコア差…そして色濃く残る身体へのダメージとして明確に示される…は(・)ず(・)だ(・)っ(・)た(・)。

 

「イイ…♥ いいよ君♥ リールベルトだったね、覚えたよ♥」

「なっ!? ば…バカな…無傷!?」

 

 崩れた壁面から復帰したヒソカには…驚くべきことに一切の傷が残っていなかった。口から零れる血は拭えばいいかもしれないが…それを拭った跡すらなく、打撃痕まで無くなるのはどう考えても不自然だ。

 

「な、な、な…なんとぉおおおお!!ヒソカ選手、無傷!無傷です!!これは一体どーいうことだぁぁああ!? つい先程まで、確かに完膚なきまでボコられていたはずの奇術師がまさかのノンダメージ!? まさか私たちは全員、彼の奇術に魅せられていたというのかぁああああああ!!?」

 

(……違う。ダメージは本物。その証拠に動きが少し、精彩を欠いている)

 

 離れた位置で冷静に観戦ができている私には解る…。しかし対戦相手にまでそれを理解しろというのは酷な話だ。現にリールベルトさんは、圧倒的有利であるはずなのに狼狽してしまっている。

 

「君の能力は大体理解した♣ 制約まで利用した非常に良い能力だ♥ 大切にしなよ?」

「くっ…黙れぇ!!この上から目線野郎が!!」

 

 リールベルトさんがまたも鞭を振るおうとしたその刹那。大小様々な大量の瓦礫が彼に襲い掛かる。それを反射的に発動した『練』で受けきったリールベルトさんだが、その直後には蹴り飛ばされた闘技場の石畳が目の前まで迫っていた。

 

 それにも焦らず『双頭の蛇による固定砲台(ソングオブオフェンス)』の一撃で冷静に砕いてみせたリールベルトさんは流石であったが…その頃には既に、死神の鎌が彼の首元に届いていた。

 

「う…腕が…しまっ…」

「大きな障害物に気を取られて、小さなカードは見落としてしまったようだね♥ その腕では、もうその鞭は振るえない♣」

 

(場外に飛ばされた後に仕込んでいたガムを一斉に解除して攻撃…その直後に更に即席の飛び道具で攻撃して相手の対処を強要させる。そこに紛れてオーラで強化したカードで攻防の要である腕を狙う…か。もし仮にリールベルトさんに一切の狼狽が無ければ、少なくともヒソカの策が全て通る前に、残り2ポイント程度は稼げたはず…。これはヒソカが戦闘巧者だと褒めるしかない…無傷のように見えるのは多分、宴会の時に言ってた、趣(・)味(・)で作った能力だろうね)

 

 ヒソカはそのまま首元に手刀を叩きつけ、リールベルトさんを気絶させた。

 

「殴るより楽に気絶させれて便利だねこれ♦ 練習しといてよかったよ♥」

 

 

『試合時間 4分18秒 TKO WINNER ヒソカ』

 

――リールベルト『7勝3敗』

――ヒソカ『9勝2敗』

 





不可避の速攻で察すると思いますが、劣化ネテロです。
つまり滅茶苦茶強いってことですね…負けましたが。

Q:結局なんでヒソカに挑んだの?
A:意地があんだよ、男の子にはなぁ!
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